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第15話「守れなかった約束」

「俺は?俺は誰だ?」


 木炭画を見ながら、心に懐かしくて切ない気持ちが流れてきた。


「あ、そうだった。オレは芸術家だった。妻を亡くしたオレは、息子、テオと一緒に旅をして、絵を描いて売っていたんだ。」


 夢の中にいるみたいに、過去の景色が次々と浮かんでくる。


「二人でこの町に来て、わりとうまく稼げたなぁ。この町は活気に溢れていて、商人もいっぱい出入りしてる。よく『自分の絵を地方の家族に送りたいんですけど。』ってお願いしてくるんだよな。浮いた金で少し趣味の絵も描けたりしてた。


 労働職じゃねぇが、一日ずっと座って絵を描いたり、お客様対応に疲れて息子と二人で泊まっている宿に戻って、今度は息子と絵を描いたり、一緒に過ごしました。宿屋の親父さんまで『お客さん親子、毎日賑やかでいいねぇ。絵の具の匂いが飯の匂いより強いぜ』ってからかってきたっけ。あの頃は本当に楽しかった。」


 町の市場はいつも人でごった返していた。オレは広場の端っこに小さなキャンバスを並べて、通行人に声をかけた。


「どうです? 家族の肖像画、旅の記念に一枚! 安くしますよ!」


 商人のおっさんが寄ってきて、


「お見合い用に、一つお願いね!ちゃんとワイをカッコ良く描いてね!」


「わかりました! 心配せずに、ありのままのカッコ良さが伝わるね!」って笑って筆を走らせた。


 息子は隣でオレの真似をして羽根ペンで小さな紙に描いてたけど、時々インクをこぼして

「わー! パパの靴が青くなった!」

 って泣きそうな顔になってた。


 オレは「いいんだよ、それも芸術だ」って頭を撫でてやった。いつか、テオも立派な芸術家になるでしょう。オレの後を続いてくれると嬉しいが、女房は息子にはちゃんとした教育も願ってたから昼過ぎには教会の方に行かせた。本当はあの羽根ペンと紙は、テオが字の練習をするために、教会が宿題用として渡したものだ。


 宿屋は安いところだった。部屋は狭いけど窓から町の灯りが見えて気に入ってた。そこから町と風景の絵も描くのが好きだった。宿屋の親父さんは気難しいけど、実は優しいじいさんで、


「おい!飯の支度できたぞ!息子さんの分も多めにしといたんだから!」

 って毎晩言ってくれた。宿の前の道で夜まで教会で出会った近所の子供とよく遊んでいたから、外に出て夕食のために呼び戻したりした。


「宿のおじさんのシチューは美味しいけどよく冷めている。」


「もうちょっと早めに帰ったら温かく飲めるよ!」


 そんな日常だったから、あの夜もうテオが帰ったと思わなかった...


 昼頃から息子は教会に行ったから市場は一人で日が暮れたまで仕事を頑張ってた。綺麗な黄昏の町の絵も描いてた。だが、今日一番自慢したかったのが朝描いたテオの木炭画。表情が完璧に再現できて、女房が生きていたらプレゼントとして送りたい。


 宿の前に異変を感じた。

「ん? なんだこの匂い……」


 ドアを開けたら、煙が凄かった!煙はすごくて殆ど何も見えないから下がりながら、煙の中を覗き込んだ。そこで厨房への通路に宿主が倒れた。


「おい!大丈夫?!」

 オレが叫んで、彼の元に行った。返事は来なかったが、彼を運んで宿の外に置いた。もう宿の屋根からでも火が出てるのが見える。外の空気を吸うと宿主は気が付いて、咳し始めた。


「気が付いたか?中はどうなのか分かる?まだ宿にいる人がいる?」


 宿のおじさんは咳で言葉がまだ出ないらしくって、オレが持ってた息子の絵に指をさしただけ。


 全身に電気が走ったような衝撃。考えもせずに宿の中に走り出した。


 煙がどんどん濃くなって、視界が悪い。通路を走る途中、梁が燃え落ちてきて危うく頭をぶつけそうになった。


 部屋のドアを蹴破って中に入った。息子はベッドで眠ってるようで、動いてない。煙を吸って咳き込みながら、抱き上げた。


「起きろ! 逃げるぞ!」


 煙で気絶しているか、テオは動きそうにもない。ドアの方に目を移ったら火が廊下に回ってきて、出口が炎の壁だ。どうしよう……このままじゃ二人とも……

 窓の方には盗賊が入れないように窓格子が付いてるから、窓から逃げるのが無理。


「仕方がない!」

 息子を抱きしめて、廊下の方に走り出した。


 煙で前も見えず、息もろくにできなかった。頭が回らない。

 落ちてきた梁のところでコケって、そのまま倒れた。落ち始めた時、体勢を直すより、テオの安全を思って燃えている廊下に向かって思いっきり息子を投げ出した。

 テオは廊下の床に転がった。まだ炎が届いてないところだ。


「テオ……誰か……テオを……助けてくれ……」


 オレ自身はもう一歩も動けなかった。煙が肺にどっと入り込んで、息ができない。廊下に倒れた息子を見つめるだけ。


 息子は……動かない。目が閉じたまま、ぴくりともしない。


「息子……動け……頼む……」


 後悔が胸を締め付けた。妻を亡くした時、テオを守るって誓ったのに。もうこの町にでも家を買って二人で幸せに生きるって計画し始めてた。最後に守れなかった。


「すまない……パパが、もっと強かったら……」


 怨念が増していた。

第15話、いかがでしたか?


今回は少しダークな展開でした。次回は悠真とリアナに頑張ってもらいたいですね!


応援よろしくお願いします!


感想・誤字・変な日本語、なんでもコメントください~!

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