3.消してしまいましょう
カイは自己犠牲が強く、アランは決して自分を見せず、マテオは自己中心的。
そしてエイダンは何よりも人が嫌がることが好き。
魔法使いたちは皆、一癖も二癖もある性格だ。
そんな彼らの中からエイダンを好きになってしまった。
理由はわからない。
だけどある日突然彼のことが好きだと気づいてしまった。
エイダンに気持ちがバレてから、エイダンは私に会う度に私に近づき「気持ち悪い」と、時には満足げに、時には不愉快そうに言っていた。
エイダンが何を考えているのかわからない。
気持ち悪いのなら放っておいて欲しいのに彼は放っておいてくれない。
もう私の気持ちは消えたのかと試すように近づき、苦しそうな私を見て楽しみ、そしてまだ消えていない恋心に心底不愉快そうにする。
そんな状況が何度も何度も繰り返され、ついに私は限界を迎えてしまった。
私は1人、深夜にただただ胸が苦しくて自分の部屋で泣いていた。
「う、うゔ…っ」
こんな気持ち消してしまいたい。
エイダンを不快に思わせる私の想いなんて…。
どのくらい泣き続けたのだろうか。
自分でもよくわからないほど泣いていると、控えめに私の部屋の扉がノックされた。
「…ラナ、入るよ」
私の部屋の扉を開けたのはカイだった。
その後ろにはアランもいる。
「泣かないで、ラナ」
心配そうにカイが微笑んで私の涙を指で拭う。
「カ、カイ…、あ、ありがとうございます」
何とか涙を止めたいのだが止まらない。
今まで我慢してきた分、ストッパーが外れたみたいに溢れてくる。
カイたちもいるので、もう泣き止みたいのに。
そんななかなか涙が止まらない私にカイはゆっくりと顔を近づけ、涙の溢れる私の目元にそっと唇を寄せた。
そしてチュッ、チュッと音を立てながら何度も私の涙を吸い取った。
「無理を言ってごめんね。泣いてもいいよ。ラナの涙は俺が全部吸い取るからね」
「うっ、あ…」
甘い笑顔を向けられてそんなことをされると流石に涙が引っ込んだ。
心臓に悪い美少年だ。
「よしよし。泣き止んでよかった」
泣き止んだ私をカイが抱き寄せてポンポンと優しく背中を叩く。
カイの規則正しい心臓の音が私を落ち着かせていく。
そのまま私は数分、数十分と、ずっとカイの胸の中にいた。
*****
やっと落ち着いた私は急にやってきたカイとアランと向き合っていた。
「急にどうしたんですか?こんな時間に」
「ごめんなさいね、こんな時間に。だけどもう私たちが耐えられなくて」
「え」
アランがどこか辛そうに私を見つめる。
一体何が耐えられないのだろうか。
もし、アランたちのような魔法使いでも耐えられないことがあるのなら微力ながら力になりたい。
「エイダンなんて忘れなさい。今のアナタは見ていられないわ」
「…俺もそう思う。アランから話は聞いたよ。勝手に聞いてごめんね。だけどラナ、どんどんやつれていくし、元気もなくなっていくし、心配で…」
「…」
そんなことか。
2人は私のことが心配だったのか。
「忘れられるものなら忘れたいです。間違えてしまったって私自身もわかっています。それでも好きなんです。どうしようもないんです。どうすればっ、私はっ!」
また涙が溢れた。
先ほどせっかく止めたはずのものが。
好きな気持ちは簡単に消えはしない。
簡単に消えてしまえばこんな苦労なんてしない。
だから苦しくて仕方ないのに。
「大丈夫よ、ラナ。私たちを誰だと思っているの?世にも恐ろしいこの国に選ばれた最高階級の魔法使いよ?できないことなんてないわ」
「え」
「ちょっと難しいだけど俺とアランが力を合わせればラナのその恋心を消すことは可能なんだよ」
「そう。私たちがアナタのその要らない恋心を消してあげる。だからどう?その恋心捨ててみない?」
2人の美しい魔法使いが月明かりを受けながら鮮やかに笑っている。
あまりにも美しく、怪しい、まさに世が恐れている魔法使いのようだ。
この恋心を消してしまえば、きっとエイダンに気持ち悪いと言われることもなくなる。エイダンを不快にさせることもなくなるだろう。
そして私もエイダンのそんな姿を見て、何度も何度も傷つかずに済む。
「…本当に消えるんですか」
「ええ。消えるわ。どんなに探してももう見つからないほど完全にね」
「…」
消してしまおう。
その方がきっといい。
私はそう思った。
「アラン、カイ、お願いします。私の恋心を消してください」
胸が締め付けられるほど痛い。
だからこそ消してもらおうとすぐに決められた。
もう楽になりたくて。
決意を固めた私を見て2人は不敵に笑う。
「わかったわ。綺麗に消してあげる」
「うん。もう大丈夫だよ、ラナ」
悪い魔法使いが私にもう一度微笑んだ。