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だからこの恋心は消すことにした。  作者: 朝比奈未涼


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16/19

16.満たされない

sideエイダンです。





白、白、白。

どこを見ても白いこの世界で、1人だけ色のある彼女は珍しく嬉しそうにはしゃいでいた。




「エイダン!見てください!やっとここまで大きくなりました!」




そこら中の雪をかき集めて、小さな山を作っているラナがその雪山の前で誇らしげに笑っている。


ここは俺の拠点である家の前にある小さな開けた場所だ。

そこで俺とラナはラナの提案により、雪遊びをしていた。




「お前、さっきからそれしかしていないよね?それでこの大きさなの?他のことしてたんじゃないの?」




あまりにも進まないラナの作業に呆れて鼻で笑う。するとラナは頬を膨らませながらこちらを睨んできた。

…だが、その鼻の先は赤く、いまいち迫力に欠ける。




「…これが私の全力なんです。見ていてください。もっと大きな山を作って、エイダンも入れるようなかまくらを作りますから!」


「俺も入れるねぇ。きっと日が暮れるだろうね。何日作業になるかな」


「そ、そんなにかかりません!今に見ててください!」




揶揄うようにラナを見れば、ラナがプイッとこちらから勢いよく視線を逸らし、そのまま手に持っていた大きなスコップを雪へと刺す。

それからグイッとスコップいっぱいに雪を乗せて、雪山目掛けて思いっきり投げた。

先ほどからずっと見ていたラナの行動の再開だ。




「…仕方ないね」




このままでは今日は一日中、ラナのこの作業を見続けることになる。

最初は雪の重さに苦しんでいるラナを見ることを楽しんでいたが、それもそろそろ飽きてきた。


だから俺は魔法を使うことにした。


適当なその辺の雪を見ながら魔法を使う。

するとその雪たちは魔法によって、ラナの作った雪山へと集まり始めた。

そしてものの数秒で、小さな雪山は大きな雪山へと姿を変えた。




「…さ、さすがですね」




一瞬で大きくなった雪山を感心したようにラナが見上げている。




「それで?あとは中をくり抜くんだっけ?」


「そ、そうです。あ、でもそれは私が…」




ラナがそう言った時にはもう遅かった。

雪山の中にはぽっかりと大きな穴が空き、広い空間ができていたからだ。

もちろん俺の魔法によって。


見事な空間のできた雪山を見てラナが「ああ~。1番の醍醐味が…」と残念そうしていたので、俺はすぐに穴の表だけ雪で塞いだ。

これで少し掘れば空間が出るだろう。




「ほら、これで掘れるでしょ」


「はい!ありがとうございます!」




何故、苦労してまで自分で掘りたいのかよくわからないが、ラナは嬉しそうに返事をして意気揚々と雪山にスコップを突っ込んだ。




*****




ラナをここへ連れ去ってもうすぐ1ヶ月。

あたり一面雪で覆われ、軽装の人間が気軽に逃げられるような場所ではないここで、ラナは案外平気そうに、ラナなりに楽しんで生活しているようだった。


先ほどのように雪で遊ぶこともよくやっていることだ。




「…んー。どうしよう」




キッチンにある食料庫の中身を見て、うんうんと唸っているラナの後ろ姿をダイニングチェアに座りながら何となく見つめる。

ラナはどうやら本日の夕飯のメニューを何にするか迷っているようだ。


あの食料庫には、食材の新鮮さを保つ魔法がかかっているので、様々な食材が入っている。

南国の野菜やくだもの、山の幸や海の幸、肉類も豊富だ。何か足りないものがあるのなら、俺が魔法で取りに行くなり、ここに出現させるなりすればいい。




「何、悩んでるの」




ラナの悩みを解決しようとラナの元へ向かう。

するとラナは食料庫から俺へと視線を向けた。




「…エイダンはビーフシチューとクリームシチューどちらが食べたいですか?」




困ったようにそう言ってこちらを見つめるラナ。

その姿はとても愛らしく、まるでラナを自分の妻にしているような気分になった。




「茶色いのと白いのでしょ。別にお前が作るものなら何でも…」


「もう!またそれですか!それが一番困ります!」




俺の言葉を遮って、頬を膨らませるラナがあまりにも愛らしくて自身の腕の中に閉じ込めてしまいたくなる。


何て愛らしい存在なのだろうか。

この存在はもう俺だけのもの。誰の目にも触れることはない。


そう思うと俺は満たされた。



ラナは何も変わらない。

ここに無理やり閉じ込められているはずなのに、俺に憎悪の気持ち一つ向けやしない。


離宮で過ごしていた時と変わらず…いや、その瞳には確かな恋心を宿して俺に接する。

だが、その甘い瞳はきっとここから逃れる為の賢い秘書官様の策略なのだろう。

変わらない様子も、明るい姿も、きっとそう。

俺を油断させたいのだ。




「お前って本当すごいね。さすが世にも恐ろしい魔法使いたちのお気に入りだ」


「え?」




はは、と皮肉げに笑う俺にラナがきょとんとした顔になる。




「俺が怖くて仕方ないでしょ?こんなところに無理やり閉じ込められて。何もできない無力な人間なのによくその気持ちを隠せるね?すごいよ、秘書官様」




ラナに甘く微笑んで、その愛らしく柔らかい頬に触れる。俺に触れられたラナの頬はそこから熱を帯び始め、ラナの瞳を潤ませた。


ああ、ラナはまた偽りの甘い瞳を浮かべるのか。

全ては俺を絆すために。




「…私はエイダンの言う通り無力な人間です。ですから優秀な魔法使いのアナタに気持ちなんて隠せないんです。エイダンの目の前にいる私に嘘偽りはありません」




ラナの頬に触れる俺の右手にラナが自身の頬を寄せ、頬擦りをする。

嬉しそうに、幸せそうに、だが、どこか恥ずかしそうに瞼を伏せるラナに俺の心臓は大きく跳ねた。


何て愛らしいのか。

例え嘘だとわかっていてもこんなにも心臓を鷲掴みにされるとは。




「お前はバカだ」




俺はそれだけ言うと、ラナにそっとキスをした。

唇と唇が触れるだけの優しいキス。

ラナの顔を見ていたくて、ずっとラナを見ていたが、ラナはそれはそれはもう顔を真っ赤にして、驚いたように俺を見つめていた。


…可愛い。誰にも見せたくない顔だ。




「…ねぇ、もう一回」


「…」




小さくそう囁けば恥ずかしそうにラナが頷いて、瞳を閉じる。

俺からのキスを待つラナは何よりも愛らしく、俺の心臓をさらに加速させた。



お前の心は手に入らなくても、それ以外を全て手に入れられた。

こんなにも甘くて優しい生活がずっと続くなんて何て俺は幸せなのだろう。



…そう俺は幸せなはずなのだ。


また軽くラナの唇に自身の唇を触れさせる。

それからもっと欲しくなってラナの唇を舐めた。




「口開けて、ラナ」


「…は、はい」




真っ赤になって返事をしたラナの口内へ舌を入れる。

ゆっくり、ゆっくりと、全てを味わい尽くすように、ラナの口内を俺の舌が動く。ラナはもうされるがままだ。




「…んっあ、は」




ラナから時々甘い吐息が漏れる。


たまに苦しそうに瞼を上げるラナの瞳は甘く、間違いなく、そこには恋心があった。

それに気づく度に俺の中の何が煽られ、もっともっと欲しくなった。


夢中になってラナに貪りつく。

ラナを離そうなんて微塵も思えない。


だけどふとこんな時に頭の中をあることが過ぎるのだ。


ラナは俺を愛していない、と。


俺を愛おしげに見つめる瞳も、すぐに紅潮する頬も、甘い言葉さえも全部、俺を満足させる為の嘘。

俺を油断させる為の嘘。俺を絆していつかここから逃げる為の嘘。


全部、目の前にある全てが嘘なのだ。


そう思うと、苦しくなった。


ラナの全てを手に入れているはずなのに。

満たされない。乾いて乾いて仕方ない。



ーーーやっぱり同じがいい。





*****




そして俺はそんな想いを募らせて、ついに限界を迎えた。


穏やかで甘い日々を過ごしていたある日。

いつも楽しそうに過ごしていたラナが初めて窓の外を恋しそうに見つめていたのだ。


ラナがここへ来て以来、ラナは本当に楽しそうに、そして何より幸せそうに俺とここで過ごしていた。

一度だってここから逃げたいという感情を俺には見せなかった。


なのにこの日のラナは違った。

その瞳には間違いなく、外に焦がれる思いが宿されていた。



じっと窓の外を見つめるラナを見て沸々と怒りが湧く。



やっぱり、お前はここから逃げたいんだ。

俺と幸せに過ごしているフリをして、いつかここから逃げ出そうとしているんだ。

それを巧妙に俺から隠し通せると思っていたんだ。


ラナの心以外全てを俺は手に入れた。

もうそれで十分なはずだった。

だけどやはりそれではダメらしい。


ラナの心が偽りであると思い知る度に心が重くなっていく。

自分のものではないかのように暗く沈んでいく。

最悪の気分になる。



ああ、もう我慢の限界だ。



俺はそう思うと同時に魔法を使い、自身の手の中に小さな小瓶を出現させた。


これでもうおしまい。

ラナの全部を手に入れよう。

心も全部。






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