1.隠していた恋心
5万文字くらいの中編です!好きに書いてます!
よろしくお願いします!
彼が好き。
気がつけばそう思っていて誰よりも特別だった。
「何、その目、気持ち悪い」
私がいけなかった。
彼に〝そういう目〟を向けてしまった。
いつも不敵に笑っている美しいアメジストの彼の瞳が不快感で歪んでいる。
私が今向けてしまった恋心に気づいたからだ。
「ご、ごめんなさい…。わ、私…」
「…何も聞きたくない。もう二度とそんな目で俺を見ないで」
何とか弁明しようとしたが、彼は不愉快そうにそう言うと魔法でその場から姿を消した。
それは一瞬の出来事で私は何もできなかった。
ああ、どうしよう。
今まで上手くやっていたのに。
エイダンに私の想いがバレてしまった。
そしてそれを拒否されてしまった。
「…ああ」
その場にしゃがみ込んで頭を抱える。
それからゆっくりと涙が溢れた。
胸が痛い。
*****
ここは我が国を守り、支える最高階級の魔法使いたちが暮らしている離宮。
ここには10人の魔法使いたちが暮らしており、私はその魔法使いたちを支える秘書官の仕事をしている。
10代後半の頃から働き始め、もうすぐ5年。
魔法使いたちとは良き友となり、苦楽を共にしてきた。
魔法使いは人間と比べて恐ろしいほど長寿だ。
100年そこらしか生きられない人間とは違い、何千年もの時間を魔法使いは生きる。
だからなのか魔法使いと呼ばれる者は皆、人間離れした不思議な雰囲気を持っており、変わり者が多かった。
裏では何を考えているのかわからない者、いつも人間を馬鹿にしている者、楽しければ何でもいい者、親切すぎる者…など、本当にいろいろな性格の者がおり、全員が人間から見て普通ではない。価値観さえもまるで違う。
そんな彼らと共に過ごすことは普通の人間ではなかなか難しく、この私が続けている彼らの秘書官という仕事も、私が彼らの秘書官になるまでは、長くても半年ほどしか続けられる者がいなかったそうだ。
私のように何年も勤めていた人間はいないらしい。
だが、上手くやっていたのに私はついに失敗をしてしまった。
「ラナ?どうしたの?」
秘書室で肩を落としているとたまたまこの部屋にやって来ていたカイに話しかけられた。
ふわふわのルビーのような真紅の髪と真っ青な美しい瞳。
カイは少し幼く見えるが、これでも魔法使いなので当然私よりもうんと年上だ。
そんな幼い顔をしたカイが心配そうに私を見つめている。
それが私の胸を締め付けた。
悪いのは私で、心配されるような立場ではないのに。
「…何でもありません」
「本当に?そんな顔で言われても信じられないよ?」
「本当に、何でもないんです…」
彼は曲者だらけのこの離宮の中でもとにかく優しい存在だ。
むしろ優しすぎて相手を優先し、自分を犠牲にしてしまう悪い癖がある。そんな彼に好意を持つ人も多いが、あまりにも自己犠牲的なので、彼に近ければ近いほどその性格は嫌がられる傾向にあった。
自分を大切にしない彼を近くで見続けるのはあまりにも辛いからだ。
そんなカイに今の状況を言ってしまうとどうなるのだろうか。
自己犠牲の強いカイなら私を悲しませた彼に命懸けの決闘とかを申し込みかねない。
それだけはダメだ。
そもそも私が悪いのに命懸けの決闘を申し込まれるとか〝彼〟があまりにも不憫すぎる。
「辛いことがあれば何でも言ってね?ラナは僕の大切な友だちなんだから」
「ありがとうございます、カイ」
私の手をそっと両手で握りしめるカイに私は何とかにっこりと笑った。
カイの優しさが嬉しかったが、同時にやはり罪悪感が私の胸を締め付けた。
*****
「最近エイダンの機嫌がいいのよね」
「え」
彼、エイダンに気持ちがバレてしまった数日後。
いつものように秘書室で仕事をしているとアランが現れて、そんなことを不思議そうに言い始めた。
アランの見た目は桃色の肩まである真っ直ぐな髪に薄緑の瞳でとても中性的だ。
女性に見える顔立ちだが、性別は男性で、こんな喋り方をしているが、心も立派な男性だった。
最初、アランに会った時、心は女性かと思っていろいろ配慮したが、普通に男だから気にするな、と苦笑いをされたこともある。
こんな見た目であんな喋り方だと誰もが勘違いすると思うのだが、アラン曰くこの喋り方は美しいからしているだけらしい。
「アイツ、人様が嫌がることが心底好きじゃない?だから国からの任務も基本嫌がるのに最近それがないのよね。進んで任務を遂行するし、急に楽しげに笑い出すし」
「…そ、そうなんですか」
おかしい。
私の思いに気づいてあんなにも不愉快そうにしていたのにどうして機嫌がいいのだろうか。
…いや、待って?
あれから私は気まずすぎて、エイダンを避け続けているので今のエイダンの様子を見ていない。だからはっきりしたことはわからないけどもしかしたら…。
「愉快なのかも」
「え?」
「…あ、いや」
つい、考えが口から出てしまった。
突然言葉を発した私をアランが不思議そうに見ている。
「何でもな…」
「あら?そんな嘘が私に通用するとでも?」
「…」
「無理矢理魔法で言わせてもいいのよ?アナタが相手にしているのは世にも恐ろしくて変わり者のあの魔法使いだということをお忘れで?」
「…言います」
どうせバレるのなら自分の口で伝えた方がまだマシだ。
だから私は早々に隠すことを諦めて、つい数日前に起きてしまったことをアランに伝えた。
「アナタがエイダンを好き?嘘でしょ?私でもわからなかったわよ…?」
「これでも上手く隠していたつもりなんですよ」
「上手すぎるわ。アイツがアナタの特別だったなんてきっと誰も気づいていないはずよ。何人かの魔法使いはアナタの気持ちを聞いて嫉妬で暴れたり、何十年も泣き続けるでしょうね。町一つ…いえ、国一つだって滅ぼしかねないわ」
「そ、それは大袈裟では…」
「アナタ自分がどれだけ愛されているかまだまだわかっていないみたいね」
はぁー、と呆れたようにため息をつくアランに私は苦笑いを浮かべる。
そう言われましても。
好かれていることは十分わかっているけど、そこまでとは思っていないよ。
「自覚が足りない。危ない子うさぎちゃんだわ」
私の様子を見てアランがまた大きなため息をつく。
そして私との距離を詰めてクイッと私の顎を少しだけ上に向けた。
「私だってアナタのことが大切なのよ?今ここでこの可愛らしい唇を奪いたいくらいには」
「…はぁ」
「毒されているわね、本当」
美しいアランに甘い声で囁かれても私の心が揺れることはない。
まさに毒されている。
ここにいるいろいろな魔法使いたちにこんな少しだけ過激なスキンシップはされすぎていたのでもう慣れた。
でもきっとエイダンからのこれには慣れることはないだろう。
「嫌な顔。誰のことを思ってそんなかわいい顔をしているのかしら」
少しだけ悔しそうに笑うとアランは予告通り私の唇にキスをした。
「…っ!アラン!」
「ふふ、今度は私のせいね」
楽しそうに笑うアランを睨み付けるが、それでもアランは嬉しそうだ。
魔法使いは変わり者。
アランもカイもそしてエイダンも。
みんな何を考えているのかわからない。