お祝いの都のサルがくれたプレゼント
旅人シリーズ記念すべき?第10話
僕はずっと忘れていた。その都にたどり着くまで。
キラキラとしたひも状のカーテンが風でなびくその都はある条件を充たさなければ見る事も出来ないらしい。
どうやら僕は今回その条件を充たしているようで、吸い込まれるようにカーテンを潜り抜けたその瞬間。
『パーン』『パーン』と沢山のクラッカーが鳴り響き僕はビックリしながらクラッカーの中から出てきたキラキラと光る紙やリボンに見とれていた。
何万人で何か無料みたいなアレかな?と思った僕にクラッカーを鳴らしたサルたちが現れてこう告げた。
「お誕生日おめでとうございます旅人さん」
そうか、今日は僕の誕生日だったんだ。
でも、僕はあんまり誕生日が好きじゃないからな。
「ありがとうございます」と儀礼だけの言葉を返した。
空を見上げると色とりどりの風船が空を埋め尽くすように浮いている。
飛んで行かない丁度いい浮き加減なんだなと不思議に思っていた。
「旅人さん今日はあなたが主役です。どうぞこのレッドカーペットの上をお進みくださいませ」とサルが話しかけてくれた。
主役か。僕なんてきっと誰かの物語の脇役でしかないと思ってたから、役者不足だなぁと思ったけど、言われるがままレッドカーペットを進むことにした。
一歩一歩進み続けると風船をいくつも持ったサルが現れた。
「最初のお誕生日プレゼントですぁ。どうぞこの中から一つ選んでくだせぇ」
そう言われて、赤、黒、金、青、紫の風船から何となく青の風船を選んだ途端
風船はパーン!と弾けて僕の手の平には『ハッピーバースデー』の文字が入ったクッキーが乗っていた。
「クッキーにゃ『あなたと友達で居たい』って意味があるって知ってやしたか?」と少し照れたようなサルは僕に握手を求めたので、
「嬉しいよありがとう」と握手をしたが、僕は友達を大事にできるだろうかと不安の方が大きくなった。他の色の風船を選んでいたらどうだったのだろう?
握手をしたサルはどうやら既に僕を友達と認識したようでそこから一緒にレッドカーペットを共に歩くので、何も話さないのも何かなと思い、いつも聞かれる旅の話をしてみた。
「色んな場所がこの世界にはあるんですなぁ、あっしも行ってみたいもんですぁ」と言うので、
「君はこの都から出たことがないの?」と聞くと、
「そうなんですぁ、あっしらはお誕生日だけじゃなく、色んな記念日のお客様をおもてなしするためにここに生まれやしたからねぇ。ただ出られねぇのとはちげぇんですぜ」と言う。
「出られないんじゃないなら出たくないってこと?」と問うと、
「あっしらは祭りごとが大好きなんですぁ!でも、前に『旅は道連れ世は情け』とか言ってお客さまと出かけたやつもいるにはいるんですぁ」と答えてくれた。
そうかここで友達になったサルと共に歩む旅人もいるんだなぁとただ思った。
「君は僕の友達になったけど、この都を出て一緒に旅をする?」とちょっと勇気を出して聞いてみた。
「旅人さんがこの都を出るまでに気持ちが変わりゃそれも悪くねぇっすね」
誰の気持ちが変わるんだろうなと思いながら進み続けるとサルはぴょんぴょんと木を駆け登り、今度はプレゼントの包みを三つ持ってきた。どれも小さな箱だったが茶色の箱、白い箱、鼠色の箱。
「これは今ちょうど旅人さんにピッタリなものが入ってると思うんでどれか一つと言わず好きなだけ貰ってくだせぇ」とニコニコとサルは言う。
好きなだけか、全部貰っていいのだろうか?さっきの風船は一つ選んだのに。
でも、中身が気になるのも事実だ。ちょっと欲張ってしまおうかな?誕生日だもんな。と三つ全部を受け取った。
サルはとっても喜んですぐ開けてみてくれと飛び跳ねる。
茶色の箱からまずは開けてみた。出てきたのは保温が出来るタンブラーだった。
「のんびりしたい時や一息つきたい時に是非あったけぇコーヒーでも入れて飲んでくだせぇ」とサルはウキウキだった。
白い箱から出てきたのは、方位磁針だった。
「色んな事に迷った時にこの方位磁針は役立ちやすぜ、道だけじゃなく悩み事にも使えやすんで」とこれまたウッキウキだった。
最期の鼠色の箱から出てきたのは、なにやらマントの様だった。
「これは透明マントって言うレアもんですぜ、目立ちたくねぇ隠れてぇそんな時がありゃ是非騙されたと思って頭から被ってみてくだせぇ。誰にでもそんな時は幾度とありやすから」
なんだか特別な魔法のようなプレゼントに僕の心は少しワクワクし始めていた。
「ありがとう!すごく嬉しいよ!ところで君の名前は?」と聞くと、
「あっしの名前はねぇんですぁ」と言われて何て呼んでいいか分からないまま、サルと呼ぶのも偉そうで嫌だしどうしようと悩んでいると、
「名前はどんなものよりも大切な贈り物ですぁ、まだあっしは貰ったことがねぇだけですんで気にせずサルとでも呼んでくだせぇ」と言われた。
そうか、そういえば僕の名前って?
結局サルと呼ぶのも忍びなく、「ねぇ」などと呼びながら話をし続け都のレッドカーペットを進み続けると、
「そろそろ腹が減った頃じゃねぇですかい?」とサルが言う。確かにお腹が空いてきた。
「そいじゃ、宴の席に行きやしょう」と僕の手を引きあるお店に連れて行ってくれた。
「おお!今日の主役が来たぞ!」「宴だ!」「ご馳走をお出ししろ」と賑やかにパーティが始まった。
「僕はこんなに盛大なお祝いをしてもらったのは初めてだよ」とビックリしていると、サルたちが代わる代わる僕にグラスを持って来ては、
「お誕生日おめでとうございます」と乾杯をしてくれる。
大きなケーキが運ばれてきて、友達サルが何色のキャンドルを点けるかと聞いてきたから、何色もあるキャンドルの中から
オレンジ色と黄色と黒色の三本を選んだ。
『ハッピーバースデートゥユー』と歌われながら灯したキャンドルの火を吹き消した。
「きっと願い事は叶いやすぜ」とウッキウキな友達サルを見て、お祝いのお返しをしたくなった。
「ねぇ、僕に君の名前を付けさせてくれないかな?」そう言うと、友達サルは飛び跳ねて大喜びしてくれた。
「本当ですかい?そりゃすごい贈り物になっちまいやすぜ」とウッキッキーと喜んで居る。
と言い出したはいいが、誰かに名前を付けるなんて僕はやったことがないから何て名前にしたら喜ぶだろうか?長い名前は呼びづらいだろうし、難しい名前は覚えにくいだろうし、よくある名前は誰かと被ってしまいそうだし、
サルから連想していくとよくある名前になりそうだから、一旦サルから離れよう。
友達……と言えば思い出すのはもう居ないリス。リスにも名前なんて聞きもしなかったし、尽くしてくれたのに素っ気ない態度ばかりだった僕に色々くれた。
「旅人さんは友達が沢山いるんですかい?」とふと友達サルが問いかけてきた。
「大事にしてもらったのに、大事にしてあげられなかった友達が居たんだ」
「そら、その友達さんから旅人さんは『大事にするって事』を教えてもらったんじゃねぇっすか?」と友達サルの言葉に少しハッとした。
「友達ってぇのは一生一緒にいるもんじゃねぇっす。お互いに何かを与えあえる時間を一時共にするもんですぁ。一回離れてもまた巡り合う縁がありゃまた友達でいられるってあっしは思いやすぜ」
「めぐる、君とはまた巡り合いたい。だから君の名前は『めぐる』でどうだい?」と友達サルに言うと、友達サルは急に下を向いてしまった。気に入らなかったのか、旅の友にする名前の方が良かったのだろうか。
「『めぐる』ですかい!なんていい名前を……ありがてぇありがてぇ」と泣いていた。
泣くほど喜んでもらえるとは思わなかった僕は何を言ったらいいか分からなかったけど、めぐるからの最後のプレゼントに心打たれてしまった。
「旅人さん、あんたが産まれて来てくれてなかったら、きっとあっしはこれからもずっと名無しのサルでしたわ。本当に本当に産まれて来てくれてありがとうござんした!これでこれから先離れていたってあっしらは友達ですぁ」
その贈られた言葉と共に手渡されたのは銀のスプーンだった。
そうか、僕が産まれた事に何の意味もなかったわけじゃないんだ。
都の出口は虹色のバラが沢山刺してあって門のようになっていた。
僕もそっと持っていた虹色のバラをそこに刺して、めぐるに手を振った。
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ある場所に条件を充たした者だけが入れる都があるらしい
「おお!そこのご両人!結婚記念日ですかい?おめでとうございやす!あっしは『めぐる』と言いやす、是非ご両人のお祝いをさせてくだせぇ!」とニコニコと笑顔なサルが迎えてくれるその都は『お祝いの都』と呼ばれているらしい。
おしまい
お誕生日おめでとうございます。産まれて来てくれてこれを読んでくれて本当にありがとうございます。