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81.地下水路探索

 地下水路はイメージしていたよりもずっと巨大でしっかりとした造りだった。天井が高く閉塞感も小さい。何より意外だったのが嫌な匂いが全くしなかったことだ。汚水も一見すれば綺麗な水に見える。それもそのはずで、地下水路を流れる汚水はクリーンの魔法で浄化されているんだ。幾つかの区画に自動でクリーンを発動する魔道具が設置されていて、地上から流入した汚水はそれらの区画を通るたびに何段階かに分けて綺麗にされていくんだって。魔法がある世界ならではの仕組みだよね。


 神託を受けたハルファにはダンジョン深部に繋がる区画が分かるみたいだ。なので、『栄光の階』が先導して、そのあとにゼフィルたちが続き、最後に『破邪の剣』という隊列で進んでいる。


 道行きは順調。だけど、それも途中までだった。


 不意に、僕たちの背後でザバンと水音が上がる。ダンジョン化が進んでいる地下水路で水中から現れる存在。魔物だとしか考えられない。


 とっさに振り返れば、視界に入ったのは数体のリザードマンだ。リザードマンが出ることは予想がついていたのに、完全に油断していた。こいつらは湿原や湖を根城にする魔物。当然、水中移動することはわかっていたのに。


 とはいえ、同行してくれている冒険者のパーティー『破邪の剣』に油断はなかった。リーダーのレッセルが全てのリザードマンは切り捨てて、消滅させたんだ。僕たちが動く間もなかった。さすがはBランクの冒険者だ。


 だけど、襲撃はそれで終わりじゃない。水中から次々とリザードマンが現れる。いや、リザードマンだけじゃない。ソルジャーやシャーマンといった上位種も混じっているようだ。しかも、後方だけじゃなくて進行方向も魔物に塞がれてしまった。こいつらを殲滅しなくては先に進めない。


「こちらは俺たちで対処する。お前たちは前を頼む」


 レッセルの指示が飛ぶ。僕らが前方、『破邪の剣』がそのまま後方を担当するという形だ。


 通路から向かってくるリザードマンの対処は容易い。それほど広くもない通路でゼフィルが器用に大剣を振り回すと、間合いにいたリザードマンはそれだけで消滅する。ソルジャーになると一撃は耐えるけど、それでも大差はない。間断なく襲い来る大剣の横薙ぎにリザードマンたちには為す術がなかった。


 通路はゼフィル一人で対処できているけど、水中から直接飛びかかってくる奴らが問題だ。近接攻撃が苦手なハルファとエイナを的確に狙ってくるから質が悪い。彼女たちを守るのが僕とローウェルの役目だ。


 ローウェルの雷を宿した一閃は威力も十分。ソルジャーだろうと一撃で屠っている。僕はというと、ソルジャーは少し厳しい。不意打ちと奇襲が基本スタイルだから、こういう迎撃は苦手なんだよね。


 なので、迎撃はローウェルに任せて、僕は対岸のシャーマンが飛ばしてくる魔法に対処する。ルーンブレイカーでタイミングよく斬れば投射系の魔法は消滅させることができるんだ。その間にエイナとハルファがシャーマンたちを攻撃する。とにかく、シャーマンの魔法攻撃が邪魔くさいから数を減らさないと。


 戦況は僕たちが優位に進めているはずだけど、リザードマンは次々と現れてくるので決着がつかない。それは『破邪の剣』でさえ、そうみたいだ。


 その膠着状態を打破したのがシロルだ。さっきから大人しいなと思ったら、どうも大技の準備をしていたみたい。雷を纏った状態でしゃがみ込んでいたシロルが、急に立ち上がり「わふ!」と吠えた。その瞬間、シロルの角からバリバリと音を立てて稲妻が迸る。向かう先は水路の汚水。よほどの高出力だったのか、汚水を伝って広範囲に雷撃が波及したみたい。水中に潜んでいたリザードマンたちがプカリと浮かんでは消えていった。一網打尽だ。


「すごいよ、シロル!」

「わふ!」


 僕が褒めると、シロルは嬉しそうにしっぽを振った。一応、『破邪の剣』がいるので思念は飛ばしていないみたい。だけど、咄嗟の時には思念伝達を使うことになるだろうから、あらかじめ伝えておいた方がいいかもね。後で説明しておこう。


「よし、追加がなくなったぜ!」

「ああ。後は残りを倒せば終わりだ」


 全滅か退却したのかわからないけど、シロルの雷撃以降、新手のリザードマンは現れていない。そうとなれば、決着がつくのも時間の問題だった。


「おう、お疲れ。お前もなかなかやるな」


 最後のシャーマンを片付けたところで、レッセルが声をかけてきた。ローウェルとゼフィル、エイナとは知り合いみたいだけど、僕はほとんど初対面。まともに話したのは、今回が初めてだ。


「一応、Cランクだから」

「そうみたいだな。さっきの従魔もすごかったな。あれは正直助かった」


 レッセルから見ても、シロルの雷撃は評価に値するものだったみたい。せっかくだから、シロルのことを紹介しておこう。


「この子はシロルだよ。驚かないで欲しいんだけど……聖獣なんだ」

「……はぁ。え? 聖獣」

『なんだ? 話していいのか? 僕は聖獣のシロルだ! よろしくな!』

「はぁ!?」


 レッセルだけじゃなく『破邪の剣』の他のメンバーも驚いていたけど、意外とすんなりと受け入れてもらえた。というのも、顔合わせの時にミルダスがハルファのことを運命神様の巫女と紹介したからだろうね。巫女がいるなら運命神様の眷属たる聖獣が一緒にいてもおかしくはないという形で納得できるみたい。


 僕たちはダンジョンの深部を目指しながら、改めて今回の経緯を説明した。なにしろ、時間がないからって、簡単な説明しかしないまま、地下水路に突入したからね。邪教徒の暗躍と、ダンジョン崩壊の危険性、対処するためのアイテムについて話していると、不意にハルファが声を上げた。


「あった! この先だよ」


 深部へと繋がる入り口までたどり着いたみたいだ。地下水路の壁に大穴が空いて、その先にはさらに下へと降りる階段となっている。


 この先で邪教徒が何かを仕掛けているはずだ。

 絶対に阻止しないと……!


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