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79.身に覚えがある

 魔物が死骸と残さずに消えたってことは、第一に考えられるのはやっぱりダンジョンの存在。王都内にダンジョンがあるなんてことは聞いたことがないから、もしそうだとしたら未探索ダンジョン――おそらく新しくできたダンジョンだろうね。


 なんだか、最近やたらと多いよね。今回は僕たちが発見したわけじゃないけど……。


「地下水路がダンジョン化したと?」

「もしそうなら状況は最悪だな。だが、おそらく地下水路にダンジョンが繋がったか、もしくはごく一部だけがダンジョン化したと考えている」


 ローウェルが問いに、ミルダスさんはかぶりを振った。


 その根拠は地下水路で遭遇した魔物の数だという。見張りをしていた駆け出しも、その後討伐を請け負った中堅冒険者も、遭遇した魔物はリザードソルジャーが一体だけ。もし、全域がダンジョン化していたら、おそらくもっとたくさんの魔物が出現していただろう。もちろん、魔物の出現率が低いダンジョンの可能性もあるけどね。


 もし、地下水路全域がダンジョン化して、魔物の出現率も高いようだと大変なことになっていたね。魔物が多ければ、それだけダンジョンから迷い出てくる魔物の数も増えるだろう。すぐ側には人々が暮らす区画がある。安全を確保するにはダンジョンを壊したいところだ。


 しかし、ダンジョンを壊した場合、地下水路がどうなるかわからない。最悪の場合、都市ごと崩落するかもしれない。そうでなくても、遺跡ダンジョンを考えるとダンジョン消滅に伴って地下水路が跡形もなく消えてしまう可能性がある。リスクを考えると迂闊に壊すこともできないよね。


「一部だけなら潰してしまったほうが良さそうだな」

「本当に影響が一部に留まるのなら、そうだな。ただそれは人の身である我々では知ることはできん」


 影響が限定的ならゼフィルの言うとおりダンジョンは崩壊させたほうが王都の安全は確保できる。それでもミルダスさんが判断しかねているのは、前例が少なすぎて確証が持てないからだ。


 もし、予想に反して地下水路が消えてしまったら、王都は大混乱に陥る。いきなり下水が使えなくなるわけだからね。それくらいならば、多少の危険は許容してダンジョンは放置した方がいい。今のところ、魔物の出現率は低いんだから。


 とはいえ、それもそれで得体の知れない爆弾を内に抱えているようなもの。不安要素は残る。というわけで、ミルダスさんは判断に困っているんだ。僕たちから話を聞いたのも判断要素を少しでも増やそうとしたんだろうね。


 ……ところで、さっきからミルダスさんが僕のことをちらちらと窺ってるんだけど、どういうことだろうか。


 そういえば、マドルスさんに話を聞いたって言ってたよね。もしかして、僕が運命神様の使徒だとかなんとかの話も吹き込まれていたりするのかな?


 いや、使徒と思われるのはもうどうでもいいんだけどね。使徒という立場かどうかわからないけど、ハルファとシロルを含めて関係者である気はするので否定しても仕方がない気がする。ただ、変に崇められたりされるのはちょっと困るんだけどさ。


 まあ、知っている情報は開示した方がいいのかも。といっても、まだ話していないのはガルナラーヴァ関連の情報くらいだ。


 ダンジョンの魔物はガルナラーヴァが統べる邪気という力によって生み出されるという。これは運命神様の手紙に書いてあった情報なので一般的には知られていないんだ。情報の出所について説明するのが難しいからギルドにも報告していなかったけど、僕のことを使徒だと思っているのなら話してもいいか。


 そう判断して、僕は運命神様からの手紙をミルダスさんに見せ――ようとして思いとどまった。いや、さすがに『転生したら云々』を見せるのはまずいかな。なんていうか神様のありがたみが暴落する気がする。というか、敬虔な人からすれば受け入れがたいことだと思うし、手紙も偽物だと判断するだろう。


 仕方なく手紙の存在を伏せたまま説明することにした。運命神様からの情報だと伝えたのに、ミルダスさんはあっさりと信じてくれたみたい。やっぱり、僕は運命神様の使徒という認識っぽいなぁ。まあ、マドルスさんと違って、普通に接してくれるから問題ないかな。


「だとすると、地下水路も、そして各地で発見されているダンジョンも、ガルナラーヴァの力の影響を受けているということか」

「各地? 俺たちの他にも未探索ダンジョンを見つけた奴がいるのか?」

「ああ。何件か報告がある。いずれも規模は小さく、幾つかはすでに崩壊しているがね」


 どうやら、僕たちがハンバーガーを作っている間に未探索ダンジョンが次々と見つかっていたらしい。どんなダンジョンだったんだろう。ちょっと気になるよね。


「そうだったのか。俺たちが見つけたダンジョンくらい有望なダンジョンはあったのか?」

「いや、君たちに報告してもらったダンジョンほど稼げそうな場所はなかった。もっとも、そんなダンジョンが見つかったとしても、しばらくは独占しようと考える者がいてもおかしくはない。確かだとは言えんが」

「まあ、そりゃそうか」


 未探索ダンジョンを発見した場合、報告するのは一応冒険者としての義務なんだけどね。ライバルが多ければ稼ぎも減ると言うことで、ダンジョンの情報を秘密にする人たちがいてもおかしくはない。基本的に換金などは冒険者ギルドでやるから、そんなに長いこと秘密にはできないだろうけど。短い間でも独占すれば旨味があると考える人はいるだろうね。


「一応、宝箱の出現率が高いダンジョンはあったが、外れアイテムばかりで稼ぎにはならないらしい」

「ああ、それはトルトが発見したと言っていたダンジョンですね」

「なんだ、そうなのか?」

「キグニルからの街道を少し外れた場所にあるダンジョンならそうですね」

「ああ、それだな」


 どこだろうと思ったら、知ってるダンジョンだった。報告者が僕だってことは知らなかったみたいだけど。まぁ、外れダンジョンだものね。興味がなくて当然かも。


「そういえば、あれはダンジョン崩壊の報告書だったか」

「えぇ!? あのダンジョン、崩壊しちゃったんですか?」

「そ、そうだな。そういう報告だったと思うぞ。確か……ああ、これだな」


 ミルダスさんの語ってくれた顛末によると、そのダンジョンを探索した冒険者たちは、最深部で飾り立てられた宝箱を見つけたそうだ。道中の宝箱は外ればかりだったけど、最深部の宝箱は外観からして他の宝箱とは様子が違ったので冒険者たちの期待は高まった。けれども……その期待を裏切るように、中身はやっぱり外れアイテムだったんだって。


 それまで慎重に行動していた冒険者たちも、さすがに苛立ちを覚えた。メンバーの一人が、怒りを近くの壁にぶつけたんだけど……そこがちょうどダンジョンの核だったみたい。ダンジョンの崩壊が始まって、冒険者たちは慌てて脱出したんだそうだ。


 外れダンジョンで一つだけ種類の違う宝箱……?


 あれぇ、何となく覚えがあるぞ。もしかして、気まぐれダイスで振ってきた、あの宝箱かな?


 そうかぁ。変に期待させちゃったのか。それは悪いことをしてしまったかも。


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