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77.仕事が早い

 僕たちからすれば降って湧いたようなハンバーガー店開業の話だけど、何故かすでに店長候補の目星はついているらしい。


「ハンバーガーという有望な商品があるのに、トルト様たちはあくまで冒険者としての活動を望まれているようでしたので」


 というのがルランナさんの言い分だった。たしかに、以前、本格的に商人としてやっていかないかと言われたことがあったんだ。冗談だと思ったけど、本気だったみたい。


 だとしても、まだ冒険者を止めるつもりはないけどね。料理屋さんを始めるにしても、冒険者を引退してからかな。今はまだ、ハルファやシロルと旅をして世界を見て回りたい。


 お店を委託するのは構わない。料理には興味があるけど、さすがにそれに手一杯になって冒険者活動ができないのはどうかなって思い始めたところだったから。ハルファも冒険者を止めて本格的にお店を開くつもりはないみたいだし。


 気がかりなのは、翼人に関する情報を集めるという目的のこと。まあ、運命神様を頼りにできるとわかったから、以前ほど重要性は高くないけど。とはいえ、最初はそのために屋台をはじめようと思ったわけだから、一応は気にしておきたい。


 というわけで、情報収集についてもお願いできるか聞いてみると――


「なるほど、そういうことでしたか。だったら、お店の方でお手伝いできると思いますよ」


 と請け負ってくれた。ルランナさんの考えはこうだ。


 まず、お店の看板を翼人がモチーフのデザインにする。ロゴみたいなものだね。ハンバーガーは翼人の郷で食べられる料理だから、これはもともと考えていたプランらしい。そうなれば翼人からの接触があるかもしれないし、店内で翼人の話題も振りやすい。商業ギルドを介して、そうして集めた情報を僕たちに伝えてくれるというのだ。今はガロンドに一店舗しかないけど、将来的に他の都市にも出店するかもしれないなんてことも言っていた。


 ずいぶんと大きな話になったけど、たしかに僕たちだけで情報収集するよりは効率がよさそうだ。だとすれば、僕たちの懸念点も払拭されたと言っていい。というわけで、僕たちはお店を開くという提案に乗ることにした。


 それからも話は早かった。というか根回しも終わっていたみたい。ルランナさんの指示で店長候補のガウラさんが呼び出され、その場で正式に引き受けて貰った。


「いや、まさかこんなチャンスをいただけるとは! ありがたい限りです!」


 ガウラさんは活力に満ちたおじさんだ。元々は料理人で王都の人気食堂を経営していたんだって。だけど、雇っていた店員にお金を持ち出しされて店を畳むことになったみたい。そこをルランナさんに拾われたようだ。


「大丈夫です。お金の管理はきっちりやらせますから」

「はは……。ええ、今度は私自身でしっかりと確認しますので……」


 不安点があるとすればお金を持ち逃げされたってところ。もちろん、悪いのは持ち逃げした人だけどね。それでも、管理がしっかりとされているかという点では不安が残る。


 だけど、ルランナさんがしっかりと釘を刺しているから、問題はないだろう。一応、ガウラさんが店長だけど、ルランナさんも相談役という立場で口を出すつもりみたいだし。


 それにしても、ザルダン親方といい、ガウラさんといい、ルランナさんの周りにはお金の管理がいい加減な人が多いなあ。


 そういう僕たちも人のことを言えないんだけどね。レイと一緒に行動していたときは報酬もきっちりと分けていた。でも、僕とハルファ、シロルだけになってからは、ほとんど共有資金として収納リングに突っ込んでいるんだよね。


 ハンバーガー店の利益に関しても『栄光の階』の共有資金として管理することになっている。屋台の成功にはハルファやローウェルの協力は大きいし、実質、冒険者活動を休業しているようなものだからね。これもみんなに分配した方がいいんだろうけど、貢献度がどうとかでどう分配するかって話がまとまってないから、面倒くさくなって共有資金になりそうな予感……。


 というわけで、個人資金の管理が適当なんだよ。お金に余裕があるから、管理が雑になっている気がする。よくないことだとは思ってるんだけどね……。


「店舗の候補も絞ってあります」


 ルランナさんがそう言って幾つかのお店の候補を見せてくれた。意見を求められたけど、どの建物も立地条件は悪くなさそうだ。


「あっ、できれば職人街の近くがいいかも? 鉱人のお客さんが多いから」

「ああ、たしかに」


 ハルファの意見はもっともだ。鉱人の働き先は工房が圧倒的に多いからね。テリヤキバーガーの売り上げを考えるなら、職人街に近い方が有利だ。


 それに、買えなかったときの落胆が大きいのも鉱人のお客さんなんだよね。テリヤキバーガーは鉱人職人の燃料だなんて冗談もちらほらと聞こえてくるくらいだ。もし、遠くに店舗を作って職人街への燃料補給が滞ってしまったら、工房の稼働率が大きく下がってしまうかもしれない。そこまで言うとさすがに大袈裟なんだろうけど、もしかしたらという一抹の不安もあるんだよね。


「噂には聞いていますが、そこまでですか?」

「鉱人の職人さんたちはなんと言うか……熱狂的ですね」

「ほほう。熱烈なリピーターは商売を考えるとありがたいですな」


 ガウラさんも鉱人のテリヤキハンバーガーに対する情熱は聞いてるみたいだけど……あれは対面してみないとわからないからなぁ。ギラギラした目で屋台に押しかけてくるからちょっと怖いんだよね。マナーが悪かったりするわけじゃないから、問題はないけど。


 実際にお店を担当するガウラさんからも反対はなかったので、場所も本決まりになった。もちろん、店舗向けの改装があったりとすぐに開店とはいかないけど。


 まあ、改装の間にもやることはある。店長はガウラさんだけど、本格的にお店をやるなら他にも従業員が必要だ。ミンサーがあれば調理自体は簡単だけど、材料管理のスケジュールも建てないと駄目だしね。その辺りの初期計画はルランナさんがやってくれるみたい。ありがたいことだね。


 基本的に開店準備に関して僕たちはノータッチ。醤油づくりに関してもルランナさんが担当するみたいだから、僕の出番はない。ガウラさんへの調理指導と屋台のお客さんにお店の宣伝をすればいいだけだ。


 そして、一週間後。職人街に程近い場所にハンバーガー店がオープンした。

いくら何でも早すぎない!?

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