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43.どうする?

 ルドヴィスの足取りを追うのは難しくない。騒ぎが大きい方に向かえば良いからね。僕らが駆け付けたとき、ルドヴィスは街の中心部で暴れ回っているところだった。


 その姿はすでに人とは呼べない。二メートルを優に超える巨躯。その姿はワーウルフに近い。だけど、その輪郭はゆらゆらと蠢きはっきりとしなかった。凝縮された闇が人狼の姿を模したようにも見える。


 それでも実体はあるみたいで、ルドヴィスが巨腕を振るうたびに粘土細工のように建物が吹き飛んでいった。何が気にくわないのか、苛立ったように建物を破壊している。


「何故だ! 祈石はたしかに破壊した! 何故、忌々しい雨が降る! 何故、疫呪が無効化されるのだ!」


 あ、これ僕のせいですか?

 いやいや、悪いのはどう考えてもルドヴィスだ。八つ当たりとか最低だよ。


「やめろ、ルドヴィス!」


 レイが叫ぶ。その声に気付いたルドヴィスが、ゆっくりとこちらを振り返った。


「そうか。お前らか! どこまでも私を邪魔する奴らめ! だが、ちょうどいい。巫女も、そのガキも、まとめてガルナラーヴァ様への贄としてやろう!」


 ガルナラーヴァ。邪呪神だね。ルドヴィスはその信徒だったのか。疫呪の黒狼を解き放ったのも、世界に破壊をもたらすためってことかな。本当に迷惑な奴だね。


 ともかく、作戦を決行しよう。


「ハルファ!」

「うん!」


 まずは、何はなくとも、〈鎮めのうた〉だ。奴がどれくらい力を取り戻したのかはわからないけど、〈鎮めのうた〉があれば奴の力を弱めることができる。


「ぐぅ……忌々しい歌だ! だが、私はガルナラーヴァ様の眷属。このような歌など、何ほどのことでもないわ!」


 〈鎮めのうた〉は確かに効果を発揮した。だけど、ルドヴィスの言葉が真実ならそれほど影響がないみたいだ。


「シロル、どう思う?」

『人と同化したことで、呪としての性質が弱まったのは確かだと思うぞ。でも、半分くらいは強がりじゃないか?』


 そういうことか。人としての性質を手に入れたので、〈鎮めのうた〉の効果が半減くらいにはなったのかもしれない。だからといって、その影響は軽いものではないようだ。


 実際に、先ほどに比べると威圧するような禍々しいオーラが消え、動きにも精彩を欠いているように見える。


 まあ、少しでも効果があるならそれでいい。最悪、効果がなかったとしても、作戦は継続するつもりだったんだから。


「ギルドマスター、頼みます」

「わかった」


 ギルドマスターには、とある役割を担って貰う。本当は僕がやるつもりだったんだけど、ギルドマスターが代わりにやってくれることになった。タフさが重要な役回りだったので、本当に助かる。


 今、前衛としてルドヴィスに立ちふさがっているのは、レイ、ミル、ドルガさんの三人。その後方でサリィとシロルが控えている。その更に後方にいるのが、僕とハルファ、ギルドマスターだ。


 前衛組の役割はルドヴィスたちの攻撃を受け止めること。基本的に前衛組からルドヴィスへは攻撃はしない。だけど、攻撃するそぶりを見せないと不審に思われるだろうから、ある程度は攻撃してもらう必要がある。さじ加減が大事だ。


 とはいえ、〈鎮めのうた〉の弱体効果が軽減しているせいか、ルドヴィスの戦闘力はレイたちを圧倒している。演技とかではなく、本当に攻撃の隙を見出せていないみたいだ。防戦一方という状況になっている。


 そして、ついにルドヴィスの右腕がミルを捉えた。鋭い爪の一撃が、咄嗟にガードしたミルの両腕を切り裂く。


「な、なんだ、どうなっている!?」


 しかし、動揺の声を上げたのはルドヴィスだ。ルドヴィスとしては十分に手応えのある一撃だったのだろう。しかし、ミルの両腕には傷ひとつない。


「ぐっ……!」


 代わりに、ギルドマスターの両腕から血が噴き出した。


 ギルドマスターには闇市のおじさんから貰った護衛者の呪符を発動して貰っているんだ。護衛者の呪符は周囲で発生したすべてのダメージを使用者が引き受けるという効果のアイテム。ギルドマスターの負傷は、本来はミルが負うはずだった傷を受け持った結果だ。


 このままの状況が続けばギルドマスターが傷だらけになってしまうけど、もちろん対策している。ギルドマスターには事前に生命の霊酒を飲んでもらったんだ。これによってギルドマスターの生命力と回復力は一時的とはいえ飛躍的に増大している。さっきの傷もほんの数秒で回復したみたいだ。


 これなら、ポーションなしで十分に回復が間に合いそうだね。いざというときは収納リングに確保してあるポーションを使うつもりだったけど、必要ないみたい。


「なぜだ! なぜ効かない!」


 ルドヴィスが、今度はレイの脇腹近くを切り裂いた。だけど、やっぱりレイには何のダメージも与えられない。もちろん、代わりにギルドマスターが傷を負っているわけだけど、ルドヴィスからは距離があるので気付かれていないようだ。


 狙い通りだね。


 ルドヴィスから見れば、攻撃をことごとく無効化されているように見えるだろう。原因がわからず、ひどく混乱している。


『トルト! サリィの詠唱が終わったぞ』

「わかった。それじゃあ、カウントダウン後に発動して。前衛の三人にも退くように伝えてね」

『了解だぞ!』


 絆の腕輪のおかげか、僕とシロルは距離が離れていても思念のやり取りが可能だ。だから、こんな風に離れた場所にいてもタイミングを合わせることができる。


『3……2……1……』

「呪符を収納します!」

「わかった!」


 シロルのカウントダウンに合わせて、ギルドマスターが護衛者の呪符を強制的に収納する。ほぼ同時に、サリィの放った〈アイスコフィン〉がルドヴィスを氷の棺に閉じ込めた。


 護衛者の呪符は一度発動すると、効果が切れるまで発動者の手元から離れなくなる。本来ならば。


 これも昨日検証していて気が付いたんだけど、収納リングの機能を使うと、無理やり引きはがすことができちゃうんだよね。しかも、この状態だと発動者が不在という扱いになるのか、護衛者の呪符を一時的に無効化できる。つまり、攻撃のときだけ手元から離すことで、こちらの攻撃を通すことができるんだ。ゲームなんかと違って交互に攻撃するわけじゃないから、タイミング取りが難しいけどね。


「ぐぬぅわぁぁ! こんなもの! こんなもの効かんわ!」


 氷の棺がルドヴィスの動きを封じたのは一瞬だった。魔法への抵抗力が高いのか、それとも驚異的な膂力にものを言わせたのか、ルドヴィスは内部から棺を引き裂いたんだ。ズタズタにされた氷の棺は、役割を果たしたかのように粉々になって崩れ去った。


 とはいえ、全くダメージを与えていないということはないだろう。それはルドヴィスの苛立ちからも見て取れる。


 こっちは一見するとノーダメージだ。ルドヴィスからすると、一方的にダメージを受けているような状況。たぶん、内心は焦ってるんじゃないかな。


 さて、ルドヴィスはどうする?


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