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4.そういうことは言っておいて!

 ナイフは腰紐に引っ掛けた。収納リングはボロ布を巻きつけて隠してある。必要はないけど、ズタ袋を背負っておこう。手ぶらだと怪しまれるかもしれないからね。貴重品は収納リングの中なので、ズタ袋には今のところ何も入っていないけど。


 森を出る方向はだいたい見当がついている。そもそも僕は馬車に乗せられてここまで来たわけだからね。当然馬車が通れる道があるはず。まあ、道といっても整備されているわけじゃないし、下草で隠されてるから、はっきりとはわからないんだけど。それでも、しっかりと探せば所々に馬車の轍が残されている。それを手掛かりにすればいい。


 森を歩きながら、珍しいものを見つけたら鑑定ルーペで確認しておく。薬草分類の草花が幾つかあったので採取した。一部は収納リングに収めて、残りはズタ袋に入れておこう。何も入ってないのはさすがに不自然だからね。


 二時間か三時間か。それくらい歩いたところで視界が開けた。森を抜けたみたいだ。


 運がいいことに、すぐ近くに道が見える。馬車が通った後を辿ってるわけだから、あたり前かもしれないけど。


 馬車で運ばれていたときの感覚から、割と近くに街があると思う。問題はどっちに進めばいいのか、わからないことだよね。近いか遠いかの違いで、どちらに進んでも最終的にはどこかの街に辿り着くとは思うけど。


 考えても仕方がないから適当に右の道を選んだ。道なりに進んで約二時間位で街が見えてくる。距離から考えて、僕が奴隷として過ごしていた街だろう。


 よく考えたら僕を売った奴隷商とか、囮に使った冒険者たちがあの街にいるかもしれないんだよね。すでに解放されたとはいえ変な因縁つけられたりしないといいけど。


 街の入口では衛兵さんが見張っている。でも、出入り自体は自由みたいだ。それなりに多くの人が行き交っているのは、近くにダンジョンがあるからだろう。見かける人はだいたい冒険者だ。格好でわかる。


 冒険者たちに紛れるように、僕も街の門をくぐる。特に止められることなく、無事に街に入ることができた。


 街並みには見覚えがある。やっぱり、この前までいた街だね。たしか、キグニルという街だったはず。


 さて、これからどうしようか。まずは、何はなくとも仕事を探さないと。生きていくにはお金が必要だからね。


 幸い僕には元ご主人が用意してくれた銀貨20枚がある。だけど、どのくらいの価値なのか、よくわかってないんだよね。


 いや、だって僕はまだ12歳だよ。奴隷になるまで生まれた村を出ることもなかったし。そもそも、田舎の寒村だと貨幣を使うこともほとんどないからね。銀貨だって、初めて見たくらいだ。知っている知識といえば、銀貨より細かい通貨として大銅貨と銅貨があるってことくらいだ。


 知らなければ聞けばいいんだけどね。僕みたいな子供なら知っていなくても不自然じゃないんだから。


 ともかく、まずは仕事だ。とはいえ、僕みたいな伝手のない子供にはほとんど選択肢はないんだけど。


「やっぱり冒険者かな」


 冒険者の良いところは特別なコネがなくてもなれるところだね。それにダンジョンにお宝! やっぱり、こんな世界に転生したからにはチャレンジしてみたい。偶然とはいえ【運命神の微笑み】なんてレアっぽいスキルも手に入ったわけだし。


 そうと決まれば、さっさと冒険者登録してしまおう。冒険者ギルドの位置はおぼろげながら覚えている。僕を囮に使ったたちの悪い冒険者に連れられて何度か来たことがあるからね。


 てくてくと歩いて冒険者ギルドの建物に入る。以前に来たときに比べると人が少ないのは時間帯のせいかな。ちょうどお昼時なんだと思う。


 正面のカウンターには幾つかの受付があるけど、人が立っているのはひとつだけだ。その受付に並んで少し待つと僕の順番になった。


「こんにちは。今日はどうしたのかな?」


 受付のお姉さんはニッコリと笑顔。そして対応が完全に子供向けだ。あれ、もしかして12歳だと冒険者登録できないってこと、ないよね?


「冒険者登録をしたいんですけど」


 ちょっとドキドキしながら、用件を伝えた。登録できないとなるとちょっと困る。


「あら、そうなの? それじゃあ、簡単に説明しますね」


 あれ、問題なさそう。もしかして依頼人だと思ったのかな? そういえば今着てる服、新品だし質も良さそうだもんね。


 ともかく、お姉さんの説明を聞く。


 だいたい、ファンタジー小説の定番に近い内容だね。ランクがあって、最初はFランクからのスタート。依頼ごとに推奨ランクとか必須ランクがあるみたいだ。


「問題なければ、こちらに記入をお願いします。あっ、字の読み書きはできますか?」


 さて、書類の記入だけど。

 実はこの世界の文字、ちゃんと知らないんだよね。鑑定ルーペは文字と意味が両方頭に浮かぶから問題なかったけど。


 それでも、ここ数日で色々鑑定したから言葉と文字の対応もなんとなくわかるようになっている。これくらいの書類ならなんとかなりそう。


 内容は同意書みたいな感じだね。説明を理解して登録します、みたいなことが書いてある。記入も署名するくらいだ。どうにか名前を書き終えて書類を提出する。


「はい、問題ないですね。少々お待ち下さい。……はい、こちらがあなたの冒険者票です」


 お姉さんが渡してくれた冒険者票は、ドッグタグみたいなものだった。金属プレートに僕が書いた下手くそな文字で名前が刻まれている。


 あの書類に書いた文字がそのままタグになるんだ……。そんな風になるんだったら、先に言って欲しかったよ。そしたら、前もって練習しておいたのに!


 ランクごとに金属プレートの装飾や素材が変わるみたいだから、そのときなら名前を書き直させてもらえるかもしれない。そう信じてランクを上げるしかないね……。


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