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39.不良冒険者たち

 振り向いたその先。部屋の入り口のあたりに陣取っているのは、ルドヴィスたちだった。


「ちっ、外したか」

「冴えねえな、ラベリア」

「うるさいよ、バルドッグ!」


 矢を放ったのはラベリア。盾使いのバルドッグが野次を飛ばしている。彼らの背後には禍々しい黒い狼。やっぱり、疫呪の黒狼はルドヴィスたちが解き放ったみたいだ。


「まさか、それを先に見つけられるとは、な。だが、持ち去られる前で助かったぞ」


 ルドヴィスがニタリと邪悪な笑みを浮かべる。どうやら、彼らも慈雨の祈石を探していたようだ。まあ、黒狼への対抗手段が存在していることがわかっているなら、探すのは当たり前か。


「それにしても、私は運がいい。逃げられた運命神の巫女をこんなところで見つけられるとは。巫女の血を捧げれば黒狼は大きく力を取り戻すだろう」


 自分の優位を信じ切っているのか、ルドヴィスは気分良さそうに演説している。


 それにしても、運命神の巫女か。それってハルファのことだよね。僕にシロルにハルファ。運命神の関係者がこうも集まるのは偶然なのかな。シロルは特別な使命はないって言っていたけど、なんだか作為的な物を感じるよね。


 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。どうにかこの場を切り抜ける方法を考えないと。ルドヴィスたちだけならともかく、黒狼までいるとなると、僕たちの実力であいつらを退けるのはかなり厳しいだろう。頼みの綱はドルガさんだけど……。


 あれ? ドルガさんの姿が見当たらない。もしかして、姿を消してから奇襲を仕掛けるつもりかな。それにしてもいつの間に? 全然気がつかなかった。流石だなぁ。


「そして、そこのお前も覚えているぞ。闇市では巫女を連れ去るのを妨害してくれたな? いや、それだけではないな。お前、黒狼から運良く逃れたガキか! 転移の罠で逃れたとはいえ、どこかでのたれ死んだものと思っていたぞ。まさか生きていたとは」


 おっと、僕の話になったぞ。


 なるほどね。黒狼に襲われてどうやって生き延びたのか不思議だったけど、転移の罠を発動させて死を逃れたのか。我ながら運が良い……のかな? 結局、そのあと、奴隷商のもとに逆戻りしたわけだけど。まあ、死ぬよりはましだから、やっぱり運は良かったのかな。


 運の良し悪しはともかく。

 ここで僕に注目が集まれば、ドルガさんも動きやすくなるだろう。


「お前たちのことは許さない! 何を企んでいるのか知らないけど、思うようにはさせないぞ!」


 と、啖呵(たんか)を切ったものの。ちょっと不自然というか、大根演技だったことは否めない。


「おい、ルドヴィスの旦那。あいつ、何か狙っているぞ!」


 短剣使いのアロックが声を上げた。やっぱり、違和感に気付かれたみたいだ。


 仕方がないね。僕に演技の才能なんてないんだから。まあ、でも問題はないんだ。結局のところ、僕に注意を引きつけることには成功したわけだからね。


「貴様ら何を――」

「ぎゃっ! ……お前、いつの間に!」


 ルドヴィスが僕の狙いについて問いただそうとしたその瞬間、姿を消していたドルガさんがラベリアを切りつけた。咄嗟に反応したんだろう。完璧な奇襲だったはずなのに、ラベリアは致命傷を逃れていた。


 とはいえ、傷を負ったのは利き腕。あれだけの傷ならば弓を引くのは難しいはずだ。


「〈シャドウハイディング〉」


 ルドヴィスたちが混乱している隙に僕は魔法で気配を消す。狙いは疫呪の黒狼。ルーンブレイカーがなければ消滅させることはできないとはいえ、ベテラン冒険者によって何度か撃退されているんだから、大きなダメージを与えれば退かせることはできるはずだ。


 ドルガさんはアロックとラベリアを相手に立ち回っている。ラベリアが負傷しているからドルガさんが優位に戦いを進めているけど、さすがにすぐに決着が付く様子でもない。


 レイとミルがバルドッグを牽制し、シロルがルドヴィスにちょっかいをかけて魔法を使わせない。ハルファとサリィは隙を見て弓と魔法で支援するつもりのようだけど、混戦なのでなかなかタイミングが難しいみたいだ。


「おい、ルドヴィス。こいつら、駆け出しのわり手強い。もったいぶってないで、さっさとやれ」

「そうだな……。黒狼よ、まずは巫女を食らえ。力を取り戻し、奴らを血祭りにあげろ!」


 まずい!


 余裕なのか何なのか。今まで、疫呪の黒狼はルドヴィスの傍に控えていただけだったけど、ついにルドヴィスが攻撃の指示を出した。


 だけど、僕も気配を隠してすぐ近くまで迫っている。動き出す前にこの魔法を!


「〈デハイドレイト〉」


 黒狼に触れて脱水の魔法を発動。まともな生命体なら、この魔法でダメージは避けられない。基本的には、どんな生物も体内の大部分を水分が占めているからだ。だけど――


「魔法が、効かない?」


 発動した感覚はある。魔法が弾かれた感じもしない。ただ手応えがなかった。


 そういえばシロルが言っていた気がする。疫呪の黒狼は魔物と言うよりは呪いの類いだって。普通の生命体とは違うってことか。魔物じゃない……ね。


 これって、もしかしたら……?


 と、一瞬でも考えてしまったのがよくなかった。黒狼は駆け抜けざまに尻尾を僕にたたきつけてきたんだ。ただそれだけのことなのに、僕の体は少し吹き飛ばされてしまった。


 黒狼は僕を置き去りにして駆ける。

 その先にいるのは、ハルファだ!

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