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38.慈雨の祈石

 壁の向こうに通路がありそうなことはわかったけど、さてどうしようか。


「駄目だな。盾で殴った程度じゃびくともしない」

「サリィの魔法なら、どうかしら?」

「う~ん、試してみるけど、無理だと思う。私は衝撃を与えるような魔法は使えないから」


 ダンジョンの壁はなかなか丈夫でちょっとやそっとの魔法で破壊することはできない。レイが盾で殴ってみたり、サリィが魔法を使ってみたりしたけど、壊れる様子はなかった。


「トルト。シロルを見つけたときに使ったっていう奴はどうしたんだ?」


 と、ドルガさん。たぶん、博打打ちの錫杖のことだと思うけど、あれは思ったよりも危ないアイテムだったからなぁ。


「まだありますけど、使うのは難しいですよ。暴発した瞬間に手放すなんて器用なこと狙ってはできないです。あのときはたまたま運がよかっただけですから」


 いや、僕の幸運値ならできるかもしれないけど、結構怖かったからね、アレ。できればやりたくはない。


「暴発させなくても、遠くから火をつけたら爆発するんじゃないか?」


 うーん、どうなんだろう。そもそも、どういう理由で爆発したのかもわからないから、何とも言えないよね。


 まあ、試してみればわかるか。どうせ使い道のないアイテムなんだし、失っても惜しくないからね。


 そういうわけで、僕たちは問題の壁際に博打打ちの錫杖を立てかけて、少し距離を取った。そこから、サリィに〈ファイアアロー〉で錫杖を狙って貰う。


 サリィの放った炎の矢は見事に命中。轟音が通路を震わせた。ドルガさんの狙い通り、錫杖が爆発したんだ。


 それにしても凄い威力だ。〈ファイアアロー〉一発で確実にこの威力を出せるなら、これこそが博打打ちの錫杖の正しい使い方だという気がしてくるよね。魔法の攻撃アイテムではなく発破用アイテムだったのかもしれない。


「油断するな、来るぞ!」


 レイの警告。

 そうだった。壁の向こうには魔物がいるんだった。


 崩れ落ちた壁を越えて現れたのは、切り裂きコヨーテとポイズンスパイダー。コヨーテと蜘蛛という別々の魔物がタッグを組むのって、不思議な感じだけど、ダンジョンだとよくあることだ。


 切り裂きコヨーテはあまり脅威ではない。もちろん、僕が攻撃を受けたら大怪我しちゃうけど、あいつらは基本的に挑発に乗りやすいんだ。だから、レイがうまく引きつけてくれると、僕たちに攻撃がくることはほぼない。


 厄介なのはポイズンスパイダーだ。だけど、あいつらはサリィの魔法で簡単に片が付く。だから、僕の仕事は蜘蛛たちにちょっかいをかけて、毒液や蜘蛛糸がサリィとハルファに向かないようすることだ。


 向こうではシロルが同じように、蜘蛛にちょっかいをかけている。小さい身体でちょこまかと蜘蛛たちの間を走る姿はかわいらしいんだけど、それでも見事に敵を翻弄しているね。


 思ったよりもあっさりと片が付いた。第五階層の魔物にも余裕を持って対応できるようになった気がするね。


 魔物を片付けた僕たちは地図に記載のない領域を進んでいる。といってもこれまで一本道で特に迷う要素はない。順調に進んだ先には、シロルと出会ったときのような立派な扉だ。


「ボス部屋か。この先に慈雨の祈石があるのか?」

『どうだろうな。可能性はあると思うぞ!』


 古い文献にも記載がなかったのだから、調べてみないことにはわからない。問題はこの先がボス部屋かもしれないってこと。もしボス部屋なら、シロルのようなイレギュラーがない限り、戦いは避けられない。


 第五階層のボスともなると、楽観はできないよね。僕たちの視線は自然とドルガさんに集まった。


「ま、さすがに手を貸しますよ。街の行く末にもかかわることですからね」


 慈雨の祈石の入手は街の命運に大いに関わることになる。ドルガさんも手を貸してくれるようだ。


「そうか。では行こう。しかし、無理はしない。場所さえわかれば、他の冒険者たちに任せてもいいからな」


 たしかにその通りだ。僕たちは、隠し部屋の探索というミッションはクリアしたことになる。ボスとの戦いは他の冒険者に任せてもいい。


 だけど、ここまで来たらやり遂げたいという気持ちもある。それに、冒険者ギルドにルドヴィスの仲間が紛れている可能性がないとは言えないよね。この部屋の情報がギルド内で広がると、奴らにも情報が漏れるかもしれない。できれば、僕たちで確保してしまいたいところだ。


 僕たちはゆっくりと開く扉の先へと慎重に歩いて行く。


 その部屋はシロルと出会った場所とは雰囲気が違っていた。最初から明るいし、部屋に進んでもドアが閉まったりもしない。どうやら、ボス部屋ではないようだ。


 部屋の大きさはそれほどでもない。ダンジョンによくある小部屋と同程度だ。ただし、雰囲気は明らかに異なる。


 部屋の正面には女神を象ったと思われる彫像が置かれ、その前には華美な装飾が施された台座があった。近くには石碑みたいなものが置かれていて、見慣れない文字が刻まれている。


「あ、これ……秘蹟文字だ」

「秘蹟文字? ハルファ、読めるの?」

「うん……これ、〈鎮めのうた〉みたい」


 石碑に刻まれていたのは、なんと〈鎮めのうた〉についてだったみたい。ハルファが目に焼き付けるように石碑を見つめている。


 これで、ハルファも〈鎮めのうた〉を習得できるのかな? 歌唱魔法の取得方法については知らないのでなんとも言えないけど、今はそっとしておこう。集中させてあげたほうが良さそうだ。


 それにしても、慈雨の祈石を探していたのに、〈鎮めのうた〉まで発見できるなんてついているね。いや、疫呪の黒狼への対抗手段を残すのが目的なら、一緒に残っていてもおかしくはないか。


 さて、この石碑が〈鎮めのうた〉について記述したものだとしたら、あの祭壇の上にあるのが慈雨の祈石かな。


「シロル、これが慈雨の祈石?」

『おお、そうだ。たしか、そんな石だったぞ』


 慈雨の祈石は僕の拳ほどの大きさの石だった。宝石みたいにキラキラ光っている。色は水色に近いんだけど、角度を変えると虹色に輝いて見えるね。


「これがそうなのか。これで目的は達成だな」

「そうだね。とりあえず、収納しておくよ」

「ああ――トルトっ!」


 慈雨の祈石を収納しようと手にとった瞬間、レイが体当たりするように僕を突き飛ばした。その瞬間に、風切り音。僕たちのそばを何かが横切っていったようだ。見れば、台座の向こう――女神像に矢が突き刺さっていた。


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