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35.謎肉

「〈シャドウハイディング〉」


 迫り来るオークの群れを前に、僕が自らにかけた魔法は闇魔法の一種。影に潜むように対象の視認性を低下させる魔法だ。


 この魔法、僕みたいな戦闘スタイルと相性がいい。シャドウハイディングが掛かった状態だと、魔物から見つかりにくくなるから【影討ち】スキルが発動しやすいんだ。おかげで、先制奇襲がやりやすい。注目を集めると無効化されるから、大抵は一撃を加えたところで効果が切れちゃうけどね。でも、使い勝手がよくて多用している。ますます、暗殺者っぽくなってる気がするよ。


 今回は駆け寄ってくるオークたちはスルーして、彼らの後ろで構えているオークマジシャンを狙う。魔術師は厄介だからね。まず後衛を狙うのは定石といっていい。


 魔法の効果でノーマルオークたちをやり過ごした僕は、こっそりとオークマジシャンへと駆け寄る。そして、すれ違いざまに詠唱途中のオークマジシャンの首を切り裂いた。マジシャンはノーマルオークよりも生命力が小さいので、それだけで確実に倒せる。僕を視認できていなかったマジシャンには、何が起こったのかもわからなかっただろうね。


 残るオークはノーマル四匹。二匹はレイが引きつけ、一匹はミルが相手をしている。もう一匹はシロルとハルファが協力して戦っているね。みんな余裕がありそうだ。


 僕はレイが相手にしている一匹を狙う。認識外からの一撃で、オークは勢いよく血を吹き出し、消えていった。


 ここまでくれば勝負は決まったような物だ。サリィが魔法を使うまでもないね。残る三匹もすぐに倒されて戦いは終わった。


 戦いが終わった後は、ドロップ品の吟味なんだけど……。


「肉と魔石だな」

「オークはあんまり代わり映えしないわよね」

『肉が一杯なのはいいことだぞ!』


 オークのドロップは肉と魔石でほぼ固定だ。どちらがドロップしないことはあっても、それ以外のものを落としたことはない。まあ、それはいいんだけどね。


 それよりも、問題は肉だよ、肉。


 まさか、多くのラノベ主人公たちが直面したオーク肉問題を僕が体験することになるとは!


 この世界のオークは豚面の人型魔物だ。人間とは似ても似つかないけど、一応人型なんだよね。食べるのはちょっと抵抗がある。だからか、この世界の人たちも、ダンジョン外でオークを狩っても、解体して肉を食べたりはしない。


 では、ダンジョンではというと、ドロップしたこの肉は食用判定が出る。でも、実は何の肉なのかよくわからないんだ。鑑定するとアイテム名は『オークの謎肉』と表記される。ちょっとモヤモヤするよね。


 だけど、このオークの謎肉はみんな普通に食べている……どころか、少し高級品扱いなんだよね。まあ、郷に入っては郷に従えというから、僕も食べてみたけど。ちなみに味は豚肉によく似ていた。余計にモヤモヤするよ。


 まあ、美味しい肉には違いないので、せっせと収集している。蟹とあわせて、僕の収納リングは確実に食料庫のようになっているね。


『むぅ、お腹が空いてきたぞ。そろそろお昼じゃないか?』

「ええと……。うん、ちょうどお昼みたいだね! シロルのお腹は正確だね~」

『ご飯の時間なら、まかせろ!』


 シロルの腹時計がぐぅとお昼を告げた。サリィも時読みの魔道具で確認を取っている。どうやら、本当にお昼の時間みたいだ。


「そうか。ではここで昼食としよう」


 オークと戦った小部屋は出入り口がひとつ。そちらだけを確認すればいいので、休息を取るには向いている。時間もちょうどいいということで、その小部屋で休憩を取ることにした。


 ふふ、実はこのときを待っていたんだよね。


 先日、醤油を作って以来、闇魔法の腕を上げて、醤油の品質向上に努めてきた。そのおかげか、この前よりは良い出来の醤油ができあがったんだよね。いい機会なので、今日ここで披露しようと思ったんだ。


 収納リングから、下味をつけたホーンラビットの肉とフライパンと簡易かまどを取り出す。簡易かまどは魔道具だ。この日のために奮発して購入したよ。


「あれ、今日は調理済みじゃないの?」

「そうだよ。照り焼きは調理するときの匂いがたまらないからね。そこまで味わって貰わないと」

「ああ、たしかにお醤油の焼ける匂いっていいよね」


 ハルファに手伝って貰って準備を進める。といっても、あとは焼くだけなので手間はほとんどない。肉を焼き始めると、ほどなくして醤油が焦げる香ばしい匂いが部屋中に広がった。


「うまそうだな……」

「本当。良い匂いね」

『むぅ、よだれが止まらないぞ!』


 やっぱり、みんなの食いつきもいい。醤油の布教活動は順調だね。


 焼き上がった肉を皿に移し、みんなに配る。柔らかなウサギ肉に醤油ベースの甘辛いタレが絡んで食欲をそそる。みんなの視線も料理に釘付けだ。


 先陣をきったのはやはりシロル。はふはふと音を立てながら、肉に食らいついている。レイたちもそれに続く。うん、僕も食べよう。


 美味しい!

 やっぱり照り焼きは正義だ!

 ご飯が進む味だよ!


 残念ながらご飯はないので、代わりにパンを食べる。パンに挟んでも良いかもね。


「うまいな! 食べたことがない味だが、癖になりそうだ」

「本当だね~。黒い液体をかけてたけど、それが味の秘密かな?」

「これなら、本当にお店を開けそうね」


 レイたちからも絶賛の嵐だ。ハルファも目を細めて、照り焼きを味わっている。


 うんうん。どうやら、ハルファにも満足してもらえているみたいだ。唯一の醤油を知っているメンバーだから、やっぱり一番評価が気になるんだよね。問題がないようで、良かった。


『照り焼き、美味しいぞ! これが腐った豆からできているなんて信じられないな!』


 シロルがそう言った瞬間、レイ、ミル、サリィの動きがピタリと止まった。直後、三人の視線が僕を一斉に刺す。


「ち、違うでしょ、シロル。腐ったんじゃなくて、発酵ね」

『お、おお。そうだったな。発酵だ』


 僕の必死の説明で、三人にはなんとか納得して貰うことができた。ハルファが擁護してくれたことが大きいね。ありがとう、発酵の民! 醤油布教計画が、いきなり頓挫しそうで焦ったよ。


 本当にもう。

 頼むよ、シロルぅ!


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