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296.ドーピングはじめました

「はっ!」


 鋭く短い声とともに、ミルの剣が振り下ろされる。閃光を煌めかせた刃が、魔物の太い腕をするりと切り裂いた。


 腕を失った褐色の巨人が悲鳴を上げる。でも、戦意を失ったわけではない。無事な左手でミルに掴みかかった。慌てて飛び退くけれど、巨人の長い腕から逃れるのは簡単ではない。


 だけど、そこは阿吽の呼吸。


「させるか!」


 すかさずカバーに入ったレイが、盾で巨人の腕を打ち払った。重量比では巨人に分がある。でも、体格差を埋めるほどの激しい衝突で巨人が体勢を崩した。その隙を逃す彼らではない。


「サリィ!」


 ミル、レイの二人は巨人から距離をとる。名前を呼ばれたサリィは返事の代わりに魔術を解き放った。


「〈ライジングブレイズ〉」


 巨人の足元から、炎が噴き出す。まるで炎の柱だ。


 ひとつの柱が出現して消えるまでの時間はわりと短い。だけど、連続していくつも出てくる。巨人は身をよじって逃れようとするけど、炎はそれを追いかけて逃さない。


 20もの柱に焼かれた巨人は、体の一部が炭化し黒くなっている。死んではいないけど、すでに瀕死の状態だ。動きも鈍い。


「これでも――食らえ!」


 レイが叫び、盾を構えて巨人に突進する。炭化し脆くなった巨人の体は、その衝撃に耐えられなかった。低い呻き声を残して、巨人は光となって消えていく。レイたちの勝利だ。


「「おお!」」


 脇で見ていたハルファとスピラが歓声とともに手を叩いた。ローウェルも感心した様子だ。


 ここはキグニルダンジョンの第十階層にあるボス部屋。つまり、あの巨人はボスってわけ。レイたちは、それを三人だけで撃破したんだ。


「凄いね! 冒険者を引退してからも鍛えてたんだ!」


 僕が声をかけると、レイたちは微妙な顔で頷く。


「確かに鍛えてはいたが……」

「そういう問題じゃないわよね……」

「凄いよ、凄い! 魔法の威力が凄く上がってる!」


 あ、サリィだけはテンションが高いね。


「ステータスが上がっているのはわかってたでしょ?」

「いや、まあ、簡易鑑定で確認はしていたが……」

「それにしたって信じられないわよ。上がりすぎでしょ!」

「凄い、凄い! これなら、どんな魔法も使えそうだよ! あ、そうだ、トルト君。新しい魔道具はないの? あったら貸して欲しいな」

「サリィはちょっと落ち着きなさい」


 サリィはともかく、レイとミルには戸惑いがあるみたいだね。ちょっとドーピングしすぎたかな。でも、安全を考えると仕方がないよね。


 抗菌作用つき空気ゴーレムでダンジョン低階層を制圧した翌日、僕らはダンジョンに乗り込んで銀の幹部たちを討伐することに決めた。異形たちはどこからともなく現れて増えていくから、すぐに根本を断たないと駄目だと思ったんだ。


 キグニルの冒険者ギルドもその方針には賛成してくれた。僕らが先行しているけど、他の冒険者たちもあとに続いている。彼らの役割は階層間の経路確保と補給だ。各階層の異形は空気ゴーレムによる探索で根絶やしにしているはずだけど、取りこぼしてる可能性はあるからね。


 それにダンジョン内には普通の魔物も現れるからそれらの排除も必要だ。ガルナが制御できれば良かったんだけど、今は無理なんだって。銀勢力が拠点としているだけあって、コントロールが奪われているみたい。現在は神様たちが総力をあげて、コントロールを奪い返そうとしている。ガルナもそっちに協力しているから今はいない。


 まあ、それはいいんだ。問題はレイたちのこと。キグニルの危機に見ているだけなんて許されないと言って、銀の幹部討伐への同行を主張したんだ。


 もう一度レイたちと冒険ができるのは嬉しい。だけど、彼らはすでに冒険者を引退している。低階層ならともかく、銀の異形が潜んでいると思われる深層まで連れて行くのは躊躇われた。


 というわけで、ドーピング大作戦を実行しました!


 ステータスに不安があるなら、盛ってあげればいいよねって話だね。幸い、僕らにはステータス向上薬がある。それをせっせとレイたちに与えたんだ。そして、ついさっき、その効果を試してもらったというわけ。


 せっかくだから、ドルガさんにもあげたかったんだけど、彼はここにはいない。レイの指示によって、彼のお父さん――つまり、領主様にレイたちの銀勢力討伐への参加の報告をしに行っているんだ。正確に言えば許可を取りに向かわせたんだけど、レイたちはその結果を待たなかった。つまり、許可を取らずにここにいるみたい。いいのかなぁ?


「今回戦えたのも、ほとんどあの薬のおかげだろ……」


 レイはステータス向上薬のことを気にしているみたいだ。確かに、ステータスが上がれば敵を倒しやすくはなる。でも、それだけで上手く戦えるわけじゃない。


「能力だけじゃ、あんな風には戦えないよ」

「そうだな。十分な経験がなければ、力を持て余すだけだ。あの連携は、ステータスでは計れない強さだな」


 ローウェルも頷き同意する。僕らの言葉が本心だとわかったのか、レイは少しだけ嬉しそうな顔をした。


「そう言ってもらえるのは嬉しいが……あの薬の効果が大きいのは事実だ。あれは貴重なものだったんじゃないか?」


 レイの言葉に、思わず僕は視線を逸らした。見てないからわからないけど、きっとローウェルもだ。なんとなく雰囲気でわかる。


 僕らがそういう態度を取ったのは、ちょっと後ろめたいからなんだけど、レイは不安に思ったみたい。


「や、やはりそうなのか。父上にもお願いして、可能な限り返済はする。しかし、あの量となると……」

「待って待って。返済は必要ないよ!」


 レイが顔を青くして、返済計画を考え出したので慌てて止める。そんなつもりで使わせたわけじゃないからね。それに……


「実は、そんなに貴重でもないんだ」

「は? そんなわけがないだろ」


 そんなわけがあるんだよね……。

 実はちょっとした裏技を発見してしまったんだ……。


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