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290.キグニルダンジョンの現状2

 伝令を聞いたレイたちは、直ちにダンジョン入り口へと向かう。ダンジョン前では冒険者たちが協力して敵の襲撃に当たっていた。


「押し返せ!」

「くっ……誰か来てくれ! 手が足りない!」

「予備戦力を当てる! もう少し耐えてくれ!」


 今のところ、何とか対処できているようだ。直ちに、防衛線を突破されるほどの劣勢ではないと知り、レイはほっと息を吐く。


 だが、とても安心できるような状況ではない。これまでの襲撃と異なり、冒険者たちは明らかに押されていた。その原因についてはすでに報告を受けている。


「アレか。確かに、これまでのとは違うな」


 遠目からでもはっきりとわかる敵の姿。入り口前に陣取っているのは、巨大な銀の塊である。それは、ぷるぷると体を震わせるだけで、積極的に攻撃をしてくるわけではないらしい。無論、無害というわけではない。無数の下僕を生み出し、けしかけてくるのだとか。


「魔道具は効かないのか?」


 レイが傍らに控える男に問う。陣幕に襲撃の報をもたらした衛兵だ。


「はい。あの銀の塊が生み出すのは土塊でできた獣です。今までの敵と違って、浄化はできません」


 何度も撃退されたことによって、敵勢力も戦い方を変えてきた。銀を寄生させた魔物ではなく、土塊で作った疑似生命――いわゆるゴーレムのようなものを主軸としたのだ。幸いなことに、土の獣は非常に脆い。攻撃をすればたちまちただの土に還るので、個体としてはさほど脅威ではなかった。問題は数だ。次々と生み出されるので、殲滅速度が追いつかない。


「範囲魔法で焼き払うのは駄目なのか?」


 ガルドが口を挟む。衛兵はそちらを向き、微かに首を振った。


「焼き払うことは可能です。ですが、リスクがありまして……」

「リスク?」

「はい。隙を突かれるリスクです」


 衛兵は、銀に寄生される危険性について語った。


 今はただぷるぷると震えるだけの銀の塊だが、ときおり触手を伸ばして冒険者を取り込む動きを見せる。それが危険だった。範囲魔法の発動直後は、視界が塞がれる。その隙をついて、銀の塊が手を伸ばしてくるのだ。


 実際、魔法発動直後の魔術師が取り憑かれ、あわやという事態になった。パーティメンバーが気づいたおかげで、すぐに浄化して事なきを得たが、下手をすれば範囲魔法が味方に向けられる可能性もあった。そのため、可能な限り魔法なしで対処するという流れになっているのだ。


「なるほど」


 話を聞いて、ガルドが頷く。続けて、レイが問いかけた。


「敵本体への浄化は?」

「多少は効いてはいると思います。ですが、浄化には至りませんでした。ダンジョン内部から力を補充しているらしく、すぐに元に戻ってしまいます」


 ダンジョン前に陣取っているように見える銀の塊だが、実態はダンジョンから体を突き出しているような状態である。ダンジョンの中と外は空間的な繋がりがないせいで、浄化の力が内部にまで及ばないのだ。


 魔道具を連続使用して力押しで浄化してしまうという手も考えられるが、全体を指揮する冒険者の判断で見送られている。力押しでも浄化しきれなかったときが危険だからだ。マナが枯渇した状態で、銀に寄生された場合、元に戻す術がなくなってしまう。


「とはいえ、このままでは防戦一方だ。ある程度……そうだな、半分のマナを残して連続浄化を試すように伝えてくれ。それと、マナ回復ポーションの手配を頼む」

「はっ!」


 レイの指示を受け、衛兵が走る。それを見送ってしばらくしたころ、不意にガルドが呟いた。


「これはマズいですね」


 何が、と問う前にレイはその理由を察した。ダンジョン前に鎮座する銀の塊が増えたのだ。それは分裂したわけではなく、ダンジョンの中から新たに顔を出した。


「……手数を増やすつもりか!」


 冒険者たちの悲鳴のような声を聞き、レイは事態を悟る。塊が増えたことで、土の獣の生成速度が上がったらしい。もともと余裕のなかった冒険者たちは、これにより限界ギリギリにまで追い込まれてしまう。


 さらに――


「また増えたよ!」


 サリィが叫ぶ。


 その言葉通り、三体目の塊がにゅるりと姿を現したのだ。これによって、完全に冒険者側の対応力は飽和してしまった。幾人かの冒険者が火事場の馬鹿力を発揮し、限界を超えた力で戦線を支えているが、それもいつまでも保つものではない。崩壊はすぐ目の前に迫っていた。


「ミル、サリィ、ガルド……行くぞ!」


 領主の次男という立場にありながら、レイが選んだのは戦線を支えるという決断だ。引退したとはいえ、彼の心は冒険者だった頃のまま。目の前の危機を見過ごして、逃げることなどできなかった。


「わかった」

「うん!」

「やれやれ。坊ちゃんは落ち着きませんねぇ」


 ミルとサリィは即座に頷く。ガルドも苦笑いを浮かべつつも、止めはしなかった。もとより、防衛線が崩壊してしまえば、銀の勢力の攻勢を留めることは難しい。そうなれば、逃げることも覚束なくなる。どうにかして、ここを守るしかないのだ。


「ここが正念場だ! 我々の力でキグニルを守るんだ!」

「おお!」


 レイたちの参戦。たかだか四人の戦力だが、領主の息子が戦場に踏みとどまる姿を見せたことで、浮き足立っていた冒険者たちにも戦意が戻る。


「指揮官! 魔術師に範囲魔法の指示を! 直後に浄化をすれば、寄生のリスクは小さい!」


 土塊の獣に剣を振り下ろしながら、レイが怒鳴る。直接は指示せずに指揮官に命じる形を取ったのは指揮系統を考慮してのことだ。迂遠ではあるが、指揮系統は一本化させないと、いたずらに混乱をもたらすことになる。


 レイの指示は正しく伝わったようで、散発的な範囲攻撃がなされるようになった。押し返すまではいかないが、それでもギリギリ戦線は維持できている。


 だが――――


「くっ……またか!」


 駄目押しとばかりに、四体目、五体目の塊が現れた。すでに限界を超えている冒険者たちに為す術などあるわけがない。


 誰しもが絶望を抱いた。レイも例外ではない。


(……ここまで、なのか)


 死に瀕して、頭を(よぎ)るのは冒険者として過ごしたときのこと。危険なこともあったが、あれほど充実した日々はなかった。そういう意味では、今の状況は悪くない。冒険者として死ねるのだから。


 土の獣が押し寄せ、銀の手が這い寄ってくる。だが、ヤツらに楽はさせない。最後まで抗って、冒険者としての意地を見せてやる。


 レイが決意を固めたそのとき――――


「もう大丈夫だよ、レイ! 今、助けてあげるからね!」


 懐かしい声が背後から聞こえてきた。


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