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269.試作プリンは早い者勝ち

 ジェスターさんと話していると、そこに悪い笑顔のピノとシロルがやってきた。ピノの手には二人が作ったと思しきたこ焼きがある。


 いや、果たして、それをたこ焼きって言ってもいいのかな。形はたこ焼きだけど、色は真っ赤だ。完全に隠す気がない。真っ赤な真っ赤な唐辛子特盛りの激辛たこ焼きだった。


「……どうしたの二人とも。ロシアンたこ焼きを作るんじゃなかったの?」

「ご主人。アタシたち、気づいたんだよ。辛さと見た目を両立するのって難しいんだって」


 ピノは世紀の大発見でもしたかのように得意げだ。難しいミッションをやり遂げたみたいに誇らしげな様子でシロルも続ける。


『両方欲張るとどっちつかずになるだろ? だから、見た目は気にしないことにしたぞ!』


 あ、うん。

 なんかロシアンたこ焼きの本質を見失っている気がする。いや、二人の目的は激辛たこ焼きを人に食べさせることだから、そうでもないのかな。


「まあ、二人がそれでいいならいいけど。どうするのそのたこ焼き」

『もちろん、誰かに食べさせるぞ!』

「あ、ご主人もひとつどう?」


 どうって。僕は特別辛いもの好きというわけじゃないから、ここまで激辛っぽいと食べる気が起きない。


「僕は遠慮しておくよ」

「ええ、なんで!?」

『た、食べてみたら意外と美味しいかもしれないぞ?』


 何故か驚くピノとシロル。なんで、それで食べてもらえると思ったの。


 どうやら、二人は激辛にすることだけを考えて、人に食べてもらう方法を考えてなかったみたい。どうしようと、今更になって考えてる。


「ひとつもらっても良いですか?」


 救いの手を差し伸べたのはジェスターさんだ。その申し出に、ピノとシロルは一も二もなく飛びつく。ニシシと悪戯な笑みを復活させて、激辛たこ焼きを差し出した。


「では、頂きます」


 ジェスターさんが爪楊枝の刺さった激辛たこ焼きを口に運ぶ。見てるだけでも口の中がヒリヒリしてきそうなのに、まったく躊躇がない。


「うむ……これは!?」


 もぐもぐと咀嚼していたジェスターさんが、目を見開いた。そして、表情を一変させる。だけど、浮かんだのは予想外の表情だった。ちっとも苦しそうじゃなくて、何故か満面の笑顔だ。


「いい! 実にいいですね! 刺激的で癖になる味です。なんて素晴らしいたこ焼きなんだ。文句のつけようがないほどうまい!」

「え? えぇ? おいしいの?」

『あれ? 唐辛子を入れ忘れたのか?』

「そんなわけないよ。真っ赤だったもん」


 思っていた反応が得られず、ピノとシロルは混乱している。まあ、見た目通りに唐辛子が入っているなら、あの反応は普通じゃないよね。


 そういえば、ジェスターさんって無類の辛いもの好きだった気がする。カレーだって、自分が食べる分は激辛にしてるみたいだし。


「もうひとつ頂いてもいいですか?」

「あ! 店長ずるいッスよ! 俺たちにも食わせてくださいよ!」

「俺たちだけ働かせてズルいっス!」


 そして、激辛好きはジェスターさんだけじゃないみたい。他の店員にも数名混じっていたらしくて、突然、激辛たこ焼き争奪戦が始まった。彼らはみんなパクパクと真っ赤なたこ焼きを口に運び、うまいうまいと連呼している。ちょっと異様な光景だ。


 そんな状況で大人しくしていられるほど、食いしん坊二人の食い意地は控えめではなかった。みんなが口々にうまいとはやし立てるので、本当にそうなのかもと思い始めたみたい。自分たちで作ったものなのにね。


 我慢できなくなったシロルとピノはついに激辛たこ焼きに手を出した。


『むぐぐ……! からっ、から……から~いぞ~!』

「なんで!? なんで辛いの~!?」


 あっという間に二人の顔が苦しげに歪む。それでも吐きださないのは偉い。食い意地がはってるだけかもしれないけど。


『トルト、水! 水をくれ!』

「アタシも! アタシも水!」

「はいはい」


 水が欲しいと要求されたので、魔法で出してあげる。器もなく、空間に浮いた水球に二人が飛びついた。


「このうまさがわかりませんか。残念です」


 ジェスターさんが本当に残念そうに呟く。だけど、シロルたちはそれどころではないみたい。


『痛いぞ! 口の中が痛い!』

「水だけじゃどうしようもないよ~! ご主人、助けて~!」

「仕方がないなぁ」


 辛さは痛みって言うから、回復魔法のファーストエイドで治るかな?

 あとは口直しに甘い物をあげよう。ちょうど、昨日試作したプリンがある。


「あ、なにそれ!」

「新しいお菓子だ!」


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