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204.金銭感覚がバグってる

「早速、試してみよう……いや、その前に報酬を支払わねばな」


 ギュスターさんが近くに控えていた使用人に声を掛ける。予め用意されていたようで、使用人はすぐに木製のトレイのようなものを差し出してきた。その上には、確かに白金貨が一枚置かれている。


 それを見たもう一人の男性は、ぎょっとした表情で固まった。まあ、白金貨なんて普通の取引では使わないからね。あの多脚ゴーレム一体のお値段が白金貨だとは想像もしなかったに違いない。僕だって、値段相応かと言われると首を捻っちゃうし。


 とはいえ、受け取らないわけにもいかないから、ありがたく頂戴する。すると、また男性が驚きの表情で僕を見た。言葉はないけど、考えていることは伝わる。なんだコイツっていう目で僕を見ているね。なんで?


「……白金貨を見て動じないどころか、躊躇無く受け取るとは。いったい、どういう童なのだ」


 不思議に思っていると、男性は呻くように言った。


 ああ!

 そう言われてみれば、その通りだね。ちょっと感覚が麻痺しちゃってるけど、白金貨なんて普通に生活していたら庶民は一生お目にかかれないほどの高額の通貨だ。


「ふはは、言っただろう? トルトは普通の子供ではない。そもそも、彼がその気になればライナノーンの全資産を持って行くこともできたのだからな、白金貨一枚なら安いものだ」

「……なんだ、その話は? 聞いておらんぞ。命の恩人だとは聞いたが」

「それもあるな」


 上機嫌に笑うギュスターさん。対して、その男性は困惑した表情を浮かべている。まあ、ろくに説明もされずにそれだけ聞いたら、意味がわかんないよね。ルーレットで適当に賭けてたら意図せず大勝ちしてしまった……なんて、説明しても意味がわかんないかもしれないけど。


 というか、結局、この人はいったいどういう人なんだろうか。

 そんな気持ちが伝わったのか、ギュスターさんはようやく例の男性を紹介するつもりになったみたい。


「この男が気になるのか? こいつはアバルム。まあ、俺の友人だ」

「アバルム・ギデル・ギデルデだ。もう帰るところだったのだが、お前の来訪を知ったギュスターに引き留められてな。どうやら新しい玩具を自慢したくて仕方がなかったらしい」

「おいおい。お前が、俺を救った凄腕の冒険者を気にしていたから、気を回してやったんだろうが」


 アバルムさんは親族ではなく、友人だったみたい。親しい間柄であることは、今の短いやり取りからも感じられるね。


 それよりも気になるのは、アバルムさんの名前だ。


「あの、ギデルデというのは……?」

「想像はついているだろうが、アバルムはギデルデの族長の息子だ」


 軽い口調でギュスターさんが言う。


 おおぅ、やっぱりだった。ギデルデ氏族の長の息子ということは、この街有数の偉い人ってことだ。まあ、それを言うならギュスターさんだってそうなんだけどね。


「まあ、変に敬う必要はないぞ。堅苦しいのは苦手な奴だ」

「ギュスターよ、お前が言うことではなかろう。だが、その通りだ。氏族の者ならばともかく、そうでない者に威を張ろうとは思わん。ギュスターと同じように接してくれ」


 良かった。アバルムさんも権力を盾に威張るような人じゃないみたいだ。

 でも、そういうことならお願いを聞いてもらえないかな。ギュスターさんに頼むつもりだったけれど、直接の関係者であるアバルムさんに話せるならば、その方がいいだろう。


「あの、アバルムさん。実はお願いしたいことが……」


 お願いというのは、ギデルデ氏族の管理している東の地に立ち入る許可をもらうこと。先日のクロムビートルの異常発生や、邪神関連のことについても話して、協力をお願いする。


「なるほど。クロムビートルの件は聞いている。岩場にはそれらしい原因はなかったか。それに邪神の声とは、な。はっきりしない話ではあるが、だからといって捨て置くには気がかりか。うーむ」


 話を聞いたアバルムさんは腕を組んで唸っている。聖地への立ち入りを求めたことに関しては理解を示してくれているけど、それでも「はいどうぞ」と許可してくれることはないみたい。まあ、どちらの理由も緊急性があるのかと言われると、微妙だからね。一族の者で調査すると言われると、僕らとしても引き下がるしかない。


「トルト。東の大峡谷はギデルデの戦士にとっての聖地なのだ。一族の中でも選ばれた戦士のみがその地に入ることを許されるそうだ」


 唸るアバルムさんの代わりにギュスターさんが説明してくれた。なんでも、大峡谷での試練を乗り越えた者だけが、戦士長として他の戦士を束ねる立場になるという掟があったらしい。それはセファーソンが氏族連合としてまとまる以前の話だけど、ギデルデ氏族にとっては今でも特別な場所みたいだ。


「氏族の者でも優れた戦士と認められねば、出入りが許されない場所だ。外部の者を入れるとなると反発が大きかろう。せめて、お前の戦士としての資質を証明できればいいのだが」


 悩んだ挙げ句にアバルムさんが出した結論がこれだった。


 戦士としての資質の証明か。Bランクの冒険者というのが、証明にはならないのかな。ならないんだろうなぁ……。たぶん、僕のことはギュスターさんが話しているだろうし。


 何か口添えをしてくれないかなと思ってギュスターさんに視線を向けると、彼はにやりと笑みを浮かべていた。何か悪巧みでもしていそうな笑顔だ。ちょっとだけ嫌な予感がする。


「戦士の証明か。ちょうどいいじゃないか。今度の闘技大会にはギデルデ氏族の戦士たちも参加するのだ。トルトたちも参加して、彼らを打ち破れば良い。参加枠なら、俺の推薦枠があるから心配しなくてもいいぞ」


 あはは、やっぱりか……。

 まあ、それが一番簡単なのかもしれないな。ローウェルたちにも相談してみよう。


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