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188.幸運の女神様

 神域らしき場所にぽつんと存在するのは、やたらと自己主張が激しい建物だ。建物全体が電飾で飾り立てられている。周囲が明るいからまだ平気だけど、これが暗闇の中だったら目がチカチカして大変だったと思う。


「……幸運神の館?」


 建物の正面の屋根付近にネオン看板のようなものが掲げられていた。パチンコ屋さんの看板みたいに、ピカピカとついたり消えたりするアレだ。その記載が正しいのなら、ここは幸運神様の館らしい。


 色々とよくわからないことはある。なんで、パチンコ屋さんそっくりの外観なのか、とか。どうして、僕が幸運神様の神域にいるのか、とか。


 ただ、こうして突っ立っていても事態が動かないのは間違いない。帰り方もわからないしね。仕方なく建物の入り口に立つと、ガラス張りの扉がひとりでに左右に開いた。自動ドアまで再現されているのか。


 建物の中は大音量で音楽が流されている。ちょっと耳が痛い。

 大部屋になっていて、幾つもの機械が置かれている。たぶん、スロットマシーンだ。ひょっとしたら、本当にパチンコ台もあるかもしれない。そんな騒がしい空間なのに、人っ子一人いないので少し異様だ。


 いや、全くいないわけではなかった。スロットマシーンの影から、誰かが現れたんだ。現れたのは、バニースーツを着た若い女性。だけど、頭についているのはウサミミじゃなくてネコミミだ。ということは、キャットスーツ……なのかな? 手には古びた壺を持っている。どういう組み合わせなんだろうか。


「ようこそ、私の館へ~! 幸運なあなたには、私の信徒となる栄誉が与えられま~す!」


 ……聞き間違いでなければ、この人は今、『私の館』って言ったよね。

 つまり、この人が幸運神様ということ?


 わからない。わからないけど、知りたくない真実を知ってしまいそうだから、とりあえず流しておこう。


「僕は廉君……運命神様の使徒なのでお断りします」

「ぐぬぬ……! では、こちらも使徒にしてあげますよ~!」

「あ、いえ、必要ないので……」

「なんでよ~! あんな新参者に義理立てする必要はないわよ~! あいつは運命の神であって、幸運の神ではないのよ? あなたのような幸運な子は私の信徒となるべきよ!」


 ああ、うん。

 そこの女性が言っているように、廉君は運命神であって幸運神ではない。運命を切り開くためにわずかばかりの幸運を授けることはあるけど、幸運を与えること自体が彼の権能ではないって話だった。

 まあ、だからといって、僕が幸運神様の信徒になる理由はないと思うんだけどね。別に幸運が欲しくて廉君の使徒になっているわけじゃないし。


 僕の反応が悪いせいか、その女性は僕を信徒にしようと次々に勧誘の言葉を投げかけている。その言葉の端々から判断するに……やっぱり彼女が幸運神らしい。

 どんなに勧誘されようと幸運神様の信徒に鞍替えするつもりはないんだけど、その場合、どうやって帰ればいいんだろうか。


 困っていると、幸運神様の隣の空間がぐにゃりと歪んだ。


「こらー! 人の使徒を無理矢理勧誘するんじゃないよ! って、うわっ!? うるさっ!? どうなってるのさ!」


 歪んだ空間から現れたのは廉君だった。どうやら、僕の状況を察知して抗議しにきてくれたみたい。これなら、どうにか戻れそうだね。

 まあ、廉君は抗議の途中で、この建物の騒音に思わず耳を塞いでいるけど。本当にじゃんじゃんばりばりとうるさいんだ。それなのに、廉君たちの声は、はっきりと聞こえる。不思議だ。


「ちょっと人の領域に勝手に入ってこないで……あら、あなたどうしたの、その格好? そっちの子といい、ちょっと可愛いじゃない?」

「うわぁ……、気持ちが悪いこと言わないでよ。というか、どうかしてるのは君でしょ。なんだって、そんな格好に?」


 幸運神様と廉君はお互いの姿を見て、驚いている。そういえば、廉君の姿は僕のイメージに合わせてあるっていつか聞いた。ということは、もしかして幸運神様も僕のイメージに引っ張られてるの?


 いやいやいや。僕、幸運の神様にこんなイメージ抱いてないよ?


「そんなに、おかしいかしら? その子の幸運に関連するイメージをつなぎ合わせたのだけど……」

「いや、ごちゃ混ぜすぎるんだよ……」


 どうやら、僕の持つ幸運のイメージをつなぎあわせた結果、こんなカオスな状況が生まれているみたい。廉君の言うとおり、ごちゃ混ぜすぎだ。スロットマシーンやネオン看板は、たぶんギャンブルのイメージから来ているんだろう。幸運神様のネコミミは招き猫かな? よくわからない壺は……幸運の壺?


「こんなんじゃ落ち着いて話しもできないよ。いつもの姿に戻りなよ。瑠兎もその方がいいでしょ?」

「うん」


 いつもの姿がどんなものかは知らないけど、少なくとも今より悪くなることはないと思う。廉君の言葉に頷くと、幸運神様は「仕方ないわね」と呟いた。


 その瞬間、周囲の光景は一変した。

 趣味の悪い派手な建物は消え失せ、柔らかな月明かりが照らす草原へと姿を変える。青白く燐光を放つ神秘的な花々が控えめに存在を主張する中、薄らと透き通る羽を持つ蝶が月光を纏いひらひらと舞う。とても幻想的な雰囲気だ。


 もちろん、幸運神様の姿も変わっている。さっきまでとは打って変わって落ち着いた服装だ。長く伸びる髪は月明かりで、キラキラと輝き、まるで女神みたい。いや、正真正銘の女神なんだろうけど。


 最初から、こんな感じだったらちょっとは印象が違ったんだけどなぁ。


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