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174.浄化完了……と思ったら

 導師会の行政府はアイングルナの中心部からやや外れた場所にある。ダンジョンゲートから見ると、街の中心を挟んで反対側だ。その周辺は大きな建物が多いけど、行政府の入っている建物はそれらに比べてもかなり立派な作りになってる。大きさよりも存在感が凄いんだよね。荘厳というのかな。なんていうか、古代の大神殿っぽさがある。あくまで僕のイメージだけど。


 僕らは警備隊長さんの先導に従って、圧倒されそうなくらい装飾が細やかな門をくぐり、建物へと入っていく。今もなお、警備員の人達が僕らを囲んでいるので、相当に物々しい。導師会の関係者にも事情を知らない人がいるみたいで、何事かと驚いている人もいるね。


 そうしてたどり着いたのは、大きな扉の前。


「ここは教導の間。中には教導長ラギール様がおられる。くれぐれも粗相の無いようにな」


 扉の前で警備隊長さんはそう言った。どうやら扉の先へは僕たちだけで進むみたいだ。


 教導長というのは導師会の十二人いるトップ指導者のこと。僕らをこんな形で呼び出したからにはおそらく邪教徒側だと思うんだけど……かなりの大物だね。そりゃあ、邪教徒が導師会に影響力を持つはずだ。


「開けるぞ」

「あ、ちょっと待って」


 扉を開けようとするローウェルに制止をかける。部屋に入る前にやっておきたいことがあるんだ。


 僕はしゃがみこんで何度か魔法を唱えた。こっそりとやったから、たぶん警備隊長さんには何をやっていたのかわからないはず。不審げにしているけど、特に咎められることもなかった。ついでにローウェルたちも物言いたげな顔をしているけど、この場で説明するわけにもいかないしね。


 まあ念のための仕込みだ。気にしないようにとローウェルの背中を叩いた。


 気を取り直して、教導の間とやらに入る。両開きの扉が、かすかにギィと音を立てた。中は思ったよりも広くない。だいたい、前世の学校の教室二部屋分くらいの大きさだ。扉の真っ直ぐ先の壁近くだけが少しだけ高くなっていて教壇みたいな台がある。そこに立っているのがラギール教導長だろう。


 部屋にいるのはそれだけじゃない。左右にずらっと10人くらいの男女が立っている。服装は導師会の一員であることを示すローブ姿。武器を帯びているようには見えないけど、油断はできない。さらに、その中にひとりだけフードを被り俯いている怪しい人物がいる。


 気になるけど、問いただすわけにもいかず、壇上の男性と対面することになった。対面と言っても5メートルほど距離がある。残念ながら、ここからじゃクリーンは届かない。


「私が教導長ラギール・グウェナだ。お前たちが最近アイングルナを騒がしている無法者だな?」

「僕たちは無法者ではありません」


 騒がしているのは間違いではないけどね!


「そうかな? お前たちの歌や怪しげな食べ物による被害も出ているのだぞ。突然気を失い、それ以来言動がすっかりと変わってしまう者もいると聞く。これを無法といわず何という」


 被害かどうかはともかく、ラギールの言葉に嘘はない。邪神の洗脳が進行している人は、浄化のときの負荷が強いのか気絶してしまうことがある。また、そういう人達はすでに言動にも影響が及んでいるから、浄化されたことで言動が元に戻るんだ。ある意味、言動が変わったとも言える。


「ですが、それは邪神に洗脳された人達が浄化されて元の状態へと戻っただけのことです」

「おかしなことを言うな。彼が聞いたというのは試練神様の声のはず。それを邪神と断じて一方的に退ける資格がお前たちにあるというのか」


 むしろ、一方的に洗脳しておいて何を言うんだと言いたいところだけど、言っても仕方が無いことだろう。ラギールは完全に邪神側の人間だ。手っ取り早くクリーンで浄化した方が早い。とはいえ、僕自身が動けば周囲に控えている人達に取り押さえられてしまうだろう。強引にふりほどけなくはないかもしれないけど、それよりはこっそりと事を運んだ方がよさそうだ。


『シロル! シャラにあいつを浄化するように伝えて』

『わかったぞ!』


 絆の腕輪によって声に出さずに指示を出す。シロル経由で指示を受け取ったシャラが外套のポケットからひょこっと顔を出した。ラギールはそれに気付いていないようだ。


 シャラがシャドウリープの付与魔道具で教壇の影へと跳ぶ。そこからならクリーンが可能だ。シャラが杖を持ち替えて、魔法を放つ。その瞬間、ラギールからキラキラと眩しい光が溢れ出した。間違いなく浄化の光だ。


 うめき声を上げながら倒れ伏すラギールを横目に、走り寄ってきたシャラを抱きかかえてポケットに戻す。邪神の洗脳が深かったのか、ラギールは気絶してしまったみたいだ。


 作戦は成功……と言いたいところだけど何かがおかしい。ラギールが突然倒れたというのに、左右の取り巻きは僕らを取り押さえるどころか、彼に駆け寄ろうともしない。


「何これ!」


 ふいにハルファが声を上げた。彼女が見ているのは僕らの足元。そこには、いつの間にか部屋全体に広がる巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。


「あいつか!」


 ローウェルが睨み付ける先には、怪しいフードの男がいる。男は、走り寄るローウェルをあざ笑うかのように口元を歪めた。フードを取り去り露わになった顔には微かに見覚えがある。ガロンドの地下水路でわずかな時間だけ対面した男、ゴドフィーだ。そう思った瞬間、魔法陣から浮かび上がる薄紫の燐光が弾けて強烈な閃光を放ち、僕らの目を灼いた。魔法が発動したんだ。


 気がついたとき、僕は何もない真っ白な空間にいた。


「みんな!」


 呼びかける声に返事はない。どうやら一人みたいだ。


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