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151.効率化しようと思っただけなのに……

「この指輪の効果は凄いな」


 ローウェルが言っているのは、『邪気転換の指輪』のこと。パンドラギフトから全員分が出てきたので、みんなに配っておいたんだ。指輪を装備しての戦闘はこれが初めてだったので、ようやく効果を実感したんだろう。


「うん、マナ回復効果が凄いよね! ショックボイスがたくさん使えるよ!」

「そうだね。簡単な樹木操作くらいなら、使ってすぐに回復しちゃうから、無限に使えるかも!」


 マナ回復の恩恵は確かに大きいんだよね。それはアイングルナの街にいるときにも実感した。僕は無魔法を鍛えるために、街中で常時スピードとパワーの魔法を使ってるからね。指輪を装備すると、身体強化魔法のマナ消費をカバーできるほど回復速度が上がる。もうダンジョン探索中も常時発動でいいかもしれない。もしくは、他の身体強化魔法も覚えて併用するとか。


「マナ回復効果もそうだが、ステータス向上効果もかなりのものだ。明らかに身体が軽い。フィアトレントの攻撃を捌ききれたのも指輪の恩恵が大きいだろうな」

『僕も、いつもより早く走れたぞ!』


 前衛組はステータスアップの恩恵を強く感じているみたいだ。


「いいもの貰ったね」

『ラムヤーダス様には感謝しないと駄目だな!』

「ダンジョン限定というのが惜しいな。だが、この感覚に慣れすぎると、ダンジョン外では苦労するかもしれん」


 それはそうかも。邪気転換の指輪は、邪気のないダンジョン外では機能しないからね。とはいえ、せっかくのアイテムを使わないというのも勿体ない。ダンジョンの邪気を減らすっていう意味もあるわけだしね。時々、外して感覚の違いを把握しておけば大丈夫かな。


「まあ、それはともかく。アイテムを確認しないと」

「ああ、そうだな」


 フィアトレントを倒したあたりに転がっているのは、魔石と角材だ。


「角材かぁ。必要な量を考えると丸太の方が良かったかな」

「普通ならそっちが外れドロップなんだがな」


 フィアトレントが落とす木材には、小さめの角材と大きな丸太の二種類がある。角材の方は杖作りなんかにはちょうどいいサイズなので、冒険者の多くが求めるのはこちらだ。一方の丸太は切り出せば何本も杖が作れるんだけど、冒険者には不人気。収納リングがないととても持ち運べないからね。低階層ならともかく、第二十階層からアイングルナまで運ぶのは相当に困難だ。転移扉が使えるなら、悪くはなさそうだけどね。


 まあ、魔石確保やレベル上げのためにまだまだ魔物を倒すつもりだ。今日中に木材は集まるだろう。




 それからしばらく、魔物を探してダンジョンを探索して回った。第二十階層でBランクの魔物はフィアトレントのみ。フィアトレントも不意打ちが危険であることが評価基準を押し上げている要因なので、同ランクの魔物の中では戦闘能力は少し低め。どっちかといえば防御寄りの魔物だけあって特に危険を感じることもなかった。


 では探索が順調なのかと言うと、実はそうでもないんだけど。やっぱり、フィアトレントの擬態能力が厄介なんだ。スピラのおかげで奇襲を受けることはないんだけど、それでもある程度は近づかないと発見できない。なので、木材集めも捗っていなかった。


 森の中に少し開けた場所があったので、僕たちはそこで一旦休憩をとることにした。第二十階層の森は全体的にどんよりとした雰囲気なのにその周辺は森の切れ間になっていて明るい。


「なんだろうね、これ」

「花壇なのかな?」


 ハルファとスピラが不思議そうに見ているのは、その場所の中央付近。色とりどりの花が咲き乱れていて綺麗なんだけど、この森の中ではかなり異質な場所だ。不揃いの石柱がぐるりと円を描くようにそれを囲っている。


「講習で聞いた限りでは、こんな地形トラップはなかったはずだけど……」

「わからないなら、むやみに近づくべきではないだろうな」


 おそらく、地形トラップではないと思うけど、だからといって危険がないとは断定できない。安全を優先して、僕たちは少し離れたところで腰を下ろした。


「うーん、もうちょっと効率を上げられないかな?」

「フィアトレントのことか? 擬態を見破るのが難しいからな」

「そうだね。あたしもある程度近づかないとわからないよ」


 森林地形に関してはスペシャリストともいえるスピラにも無理なのだから、普通に警戒するだけで見分けることは難しいだろう。だけど、自力では無理でも、道具を使えば効率改善は見込める。


「物探し棒を使えばいいんじゃない?」


 提案したのはハルファだ。

 獣系の魔物だと、頻繁に移動するから物探し棒で探すのもなかなか大変。でも、ゴールデンスライムみたいな潜伏系の魔物やフィアトレントのような植物系の魔物はその場からほとんど動かない。物探し棒で探すには都合のいい魔物だ。


 しかし、その後に、もっと効率的な意見が出た。


『んー? そんなレアな魔物じゃないんだろう? だったら、最初から札を使ったらいいじゃないか?』

「たしかにね」


 シロルの言う札というのは、引き寄せの札のことだ。ゴールデンスライムを狩るときには物探し棒で方向を絞って、十分に近づいてから引き寄せの札を使っていた。ゴールデンスライムは数が少ない魔物だから、引き寄せの札の有効範囲に存在しているとは限らなかったからだ。


 一方、フィアトレントは擬態がうまくて見つけられないだけで、数が少ないわけではない。繰り返し使わなければ範囲内からフィアトレントが全滅するなんてことはないだろう。


 まあ、引き寄せの札はランダムに魔物を引き寄せるアイテムだから、都合良くフィアトレントを引き寄せるとは限らないんだけど。でも、誰もそんな指摘をすることはなかった。今更だからね。


「じゃあ、使ってみるよ」


 休憩を切り上げて、引き寄せの札でフィアトレントを呼び寄せる作戦を試す。札を使った瞬間、宙に現れた魔方陣は小さめサイズ。明らかにフィアトレントのサイズではない。


「あれ?」

「きゃー!? え、なになに!? ふぎゃ!」


 思わず漏れた疑問の声に反応したかのようなタイミングで、魔法陣から何かが飛び出してきた。確認する暇もなく、それは甲高い声を上げながら僕に向かってくる。咄嗟のことに躱すこともできない。何かが顔にびたんと張り付くのを感じながら、僕は思った。


 いったい、何がどうなったの!?


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