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13.全てお話しします

 金貨10枚は、かなりの大金だ。山猫亭だと食事付きで500泊できる。ちなみに山猫亭は周辺のお宿に比べるとちょっと高めだ。安い宿を紹介してもらったはずなのにね。居心地がいいから、そのまま泊ってるけど。


 あ、いやいや、話が逸れた。僕が言いたいのは、金貨10枚はひと財産だということ。ちょっとお高いホテルに500泊できる金額を想像してみよう。金貨10枚のヤバさが分かるよね。


 もちろん、物の価値が僕の前世とは違うから全く同じようには考えられない。特に宿代や食事代は前世に比べて安めだ。とはいえ、金貨10枚はやはり大金。レイに聞いてみたら、都市部に住む裕福な平民の一年の年収に相当するかも、という話。それが宝箱ひとつで手に入るんだから、冒険者って夢のある職業だよね。


 ちなみに、例の水差しは『清浄の水差し』というアイテムだった。効果は、水差しに水を入れておくと、浄化された綺麗な水になるみたい。前世基準で考えるとあんまり大したことがなさそうなアイテムに思えるけど、この世界では大変有用なアイテムだ。なにせ綺麗な水を確保するのは難しい。消毒された水道水なんてないわけだしね。燃料代もただじゃない。だから、平民だと川の水でも沸かさずに平気で飲むんだ。


 魔法で水を出したりもできるから、切望されるというほどの効果ではないそうだけど、それでも実用度が高いというのがレイたちの評価だ。美術品としても一級品となれば、その価値は間違いなく高い。レイは金貨10枚と見たけれど、もっと高値がつく可能性も十分にあるという話だ。


「便利なアイテムだが、さっきも言った通り売却でいいよな?」


 レイの確認に僕とミルは頷く。一方で、不服そうなのがサリィだ。


「えぇ!? もったいないよ。飲み水が確保できるんだし、私たちで使おうよ~」

「いや、流石に嫌よ。金貨10枚もする水差しなんて気軽に使えないじゃない。冒険活動に使うものじゃないわ」


 サリィの提案はミルがバッサリと切って捨てた。僕も全くの同意見だ。金貨10枚の水差しなんて、安心して使えないよ。休憩中、緊張して休めない未来が見える。


「じゃ、じゃあ、私が買い取るよ! どうにかお金を用意するから!」

「いや、やめときなさいって。サリィは魔法のスクロールも色々と買い込んでるし、余裕はないはずでしょ。必要のない魔道具を買ったりしても、絶対に後悔することになるわよ」

「うぅ……。そんなぁ」


 買い取りまで主張したサリィだけど、ミルに諭されて渋々と諦めたようだ。それがいいと思う。水は<クリエイト・ウォーター>の魔法で作れるからね。お金が入ったら、スクロールを買うのもいいかもしれない。


 さて、手に入れたこの水差し。売るのはいいけど、ちょっと問題があると思う。取引相手を見極めないと、僕たちが損をすることになるんじゃないかな。そもそも、この水差しの価値がきちんとわかる相手じゃないといけない。偏見かもしれないけど、何も知らない冒険者だと思って安値を吹っかけてくる可能性もある。


「売るなら、売り先を考えないと駄目だね。下手なところに売ると買い叩かれると思うよ」

「ん? そうか……。たしかにそうだな。それなら俺の伝手で売るか。その辺はきっちりしてるところだから、心配はいらないはずだ。それでいいか?」

「うん。僕には心当たりがないから助かるよ」


 レイが貴族か大商人の息子だとしたら、悪いことにはならないだろう。そもそも僕には伝手なんてないから別案なんてあるわけない。


「じゃあ決まりね! 運搬は……トルトの収納リングに入れさせてもらった方がいいかな」

「そうだな。さすがに高額の割れ物を持って歩きたくはない。頼めるか」

「うん。もちろん」


 正直に言えば、高額のアイテムを手元に置いておくのはちょっと怖いんだけど、収納リングの中に入れておけば万が一はないはずだ。戦闘になって激しく動いても、収納したアイテムに影響がないのは本当に助かるね。収納系のアイテムを持たない冒険者っていったいどうしてるんだろうか。


 さてと。お宝は手に入った。レイたちも、そろそろ引き上げるつもりだったみたいだから、あとは出口に向かうだけだ。


 だけど、僕にはちょっとだけ気がかりなことがある。僕の身の上について、話した方がいいのかなってこと。


 普通に考えて、僕みたいに防具も買えない駆け出し冒険者が収納リングや鑑定ルーペを持っているのはおかしなことだ。レイたちは不審に感じていないみたいだけど、どこかで盗んできたと疑われる可能性だってある。


 出会ってすぐの彼らを信用するのは早すぎるかもしれない。でも、たぶん、いい人たちだと思うんだよね。いや、幸運値が滅茶苦茶高い僕が加入を決めたパーティーなんだ。いい人たちに決まってるよ。たぶん。


 というわけで、僕の生い立ちというか、奴隷になってから解放されるまでのことを簡単に話した。前世の記憶については話してないけど、【運命神の微笑み】については話した。それ無しで説明するのが難しかったからね。


「違法な奴隷商人か……」

「レイ? どうかした?」

「あ、いや、なんでもない。その【運命神の微笑み】というスキルは反則だな。特にパンドラギフトとの相性が良すぎる」

「そうね。それだけにあまり人に言いふらさないほうがいいわよ。絶対に利用しようとしてくる人間が出てくるわ」

「それに、致命的な運命を回避すると言っても、正確にはどんな効果なのかわからないよね。即死は回避出来ても、毒でジワジワと衰弱するような死は回避できないかもしれないよ。もうやらないほうがいいよ」


 三人の意見は尤もだね。特に【運命神の微笑み】のことをやばい連中に知られたら、再び違法奴隷にされて、死ぬまでパンドラギフトを開けるだけの人生を強制されそうだ。


「うん、レイたち以外には誰にも言ってない。パンドラギフトにももう手を出さないよ」


 パンドラギフトに関しては、たぶんだけど。もし、手元にあったら気持ちが揺らぐかもしれない……。


「今後もそうしたほうがいいと思うぞ。さて、ちょっと話しすぎたな。宝も見つけたし、今日のところは引け上げるか」


 そうレイが締めくくった。確かに、ダンジョンの中だっていうのに、ちょっとのんびりしすぎたかもしれないね。


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