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108/173

108.確率が関わるとこうなる

 名誉研究員になったからといって、何の義務も権利もないらしい。名誉称号みたいなものだけど、果たして本当に名誉なのかな? ラーチェさんの認識は『マッドな奴ら』だったから、下手したらその仲間と思われるだけなんじゃ……。まあ、うん。名乗らなきゃ平気だよね。


 こうなったら、さっさと目的を達して帰ろう。朱に交われば……じゃないけど、ここにいるとさらなる深みにハマってしまいそうだ。


「あ、すみません。さっきは言い損ねたんですけど、僕たち、本当はパンドラギフトを譲って欲しく来たんです」

「なんと、そうだったのですか? 同志の頼みとあれば、協力したところのなのですが……」


 ヴァルさんは表情を曇らせた。間の悪いことに、最近、パンドラギフトによるダンジョン化の実験をやったばかりなのだそうだ。研究会で確保していたパンドラギフトは全部使ってしまったとのこと。こういう他人が関わる事柄については幸運が高くてもどうにもならないんだよね。ガッカリだよ。


 ちなみに、その実験は失敗に終わったそうだ。ダンジョン化どころか、何の変化も起きなかったと、研究員さんたちもがっくりしていた。まあ、上手くいってたら、研究成果として猛アピールしていただろうから、そんなことだとは思ったけどね。


「ただまあ、次の実験の目処は立っておりませんからな。もし手には入ったら、同志のために確保しておきましょう」

「本当ですか?」


 それは助かる!


 外れアイテムとかの類いは、ほぼ研究会に集まるようになっているみたいだから、個人的に探すよりもかなり効率的だ。すぐに手に入れることはできなかったけど、ここに来た甲斐はあったね。


 研究資金の提供という名目で、パンドラギフトの予約料金を支払っておこう。とりあえず、資金は金貨10枚もあれば大丈夫だよね。相場よりもかなり高いけど、僕にとってはそれ以上に価値がある物だから惜しくはない。


 さて、用事は果たした。一応、資金提供もしたから、そろそろ研究員たちも解放してくれることだろう。そんなときに、周囲をうろちょろしながら冷やかしていたシロルが思念を飛ばしてきた。


『これはなんなんだ?』


 シロルが興味を示したもの。それは、前世でいうところのマッチみたいな見た目をしていた。短めの棒の先端に赤くて丸い何かがくっついている。ただし、マッチにしては少し大きい。大体手のひらを広げたくらいの長さだね。そのマッチもどきが何十本と床にぶちまけられている。


「なんだろうね?」

「ああ、それは『物探し棒』というアイテムですな」


 シロルと一緒にマッチもどきを観察していると、ヴァルさんが横から解説してくれた。


 この『物探し棒』は探したい物をイメージしてから空に投げると、低確率で探し物がある方向を指し示すアイテムらしい。消耗品ではないので、何度も繰り返し使えるそうだ。


 ここまで聞くと、使えなくもなさそうだけど、残念ながら一般的な認識では外れアイテムだ。その一番の理由は、発動したかどうかの判断がつかないこと。発動したときだけは光るとかいう機能があればよかったんだけど、何の反応もないみたい。その上、はっきりと効果が実感できるほど発動率が高くないらしいんだよね。発動の有無を判断できない上に、発動率は気休めレベル。あってもなくても変わらないという評価なんだって。


「そこで、大量に集めて一斉に投げたら優位な差が出るのではないかと考えたわけですな」


 例えば10%の確率で正しい方向を指し示すなら、100本投げると10本くらいは同じ方向を向くわけだ。そんな感じで大量に投げて多数決を取ればそれなりに信憑性の高い結果が得られると考えたらしい。悪い考えではなさそうだけど……。


「残念ながら発動率は極めて低確率らしく、100本を何度投げようとはっきりとした結果を得ることは難しそうでしてなぁ」


 それは残念だね。よっぽど確率が低いのかな。


 ただ、確率というと幸運が絡んでいることが多い。もしかしたら、僕が使うと結果は違うかも知れない。


「ちょっと試してみてもいいですか?」

「はぁ。構いませんが……」


 ヴァルさんは明らかに乗り気ではない。まあ、さんざん実験して成果が得られなかったわけだからね。しかも、何か工夫があるわけじゃない。単純に投げるだけなら、結果は同じだと思っているんだろう。


 まあ、同じかどうかは、やってみればわかるよね。


 かき集めた物探し棒を両手で抱える。そして、シロルを思い浮かべながら思いっきり放りなげた。中空で勢いを失った棒きれは、重力に従って落下し、バラバラと研究所の床に散らばる。


「なぁ!?」


 その結果にヴァルさんが驚愕の声を上げた。全ての物探し棒が同じ方向を示したわけではなかったけど、半分近くがシロルの方を指し示していたからね。何を思い浮かべたかは伝えていないけど、これだけはっきりと結果が出れば明白だ。


 理由を根堀り葉堀り聞かれたので、幸運が高いとだけは伝えておいた。さすがに具体的な値やスキルについては秘密だ。悪い人じゃないとは思うけど、下手に伝えたら、色々と実験に付き合わされそうだからね。


 とはいえ、幸運の影響という新たな知見が与えたヴァルさんはかなり興奮していた。幸運は基本的にレベルアップで上昇しない能力値だけど、ポーションで一時的に補強することはできるからね。きっと、これから幸運を絡めた実験なんかをやるつもりなんだろう。どんなに幸運を補強しても僕ほどの幸運になることはないだろうけど……まあ、それは伝えないでいいか。実験すればわかることだし、伝えたところで結局は実験で確かめるだろうからね。


 新しい発見をもたらした報酬として、物探し棒を10本もらえることになった。さっきの結果を見るに、これだけあれば十分に探索として使えるだろうね。


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