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107.名誉研究員

 ダンジョン研究会の建物は市壁のそばにあった。外観の雰囲気は古い民家という感じだ。入り口には『ダンジョン研究所』という表札がなかったら、ここが目的地だなんて思わなかっただろうね。たぶん、古くなった一般住宅を改築して使っているんだと思う。ただ、想定していたよりも敷地は広かった。意外と大きな組織なのかもしれない。


「お邪魔しまーす……」


 声をかけて中に入ると、そこは受付のような場所だった。


「誰もいないね~」

「本当だね」


 ハルファとスピラがキョロキョロと部屋の様子を観察して回っているけど、それでも人が現れる気配はない。よく見れば受付の机に『ご用の方は奥へどうぞ』という書き置きが残されていた。まったく受付の意味がないね。


 仕方なく奥に進む。短い廊下の先には扉があって、そちらからは話し声が聞こえてくる。少なくとも、人がいるのは間違いないみたいだ。


 扉を開けると、その先は大きな広間となっていた。よれよれの服で目だけギラギラの人たちが数人ごとに集まって議論をしている。本当にマッ……研究熱心な人たちのようだ。よほど議論に熱中しているのか、僕たちが入ってきたことに対して何の反応もないんだよね。ひょっとしたら、気付いていないのかもしれない。


 どうしたものかとしばらく眺めていると、近くで話していた白衣の男性がこちらに気がついてくれたみたい。ニコニコと機嫌良さそうに近づいてきた。ぼさぼさの頭からぴょんと突き出たとんがり耳が特徴的だ。森人の研究員みたいだね。


「見学者の方ですか? 是非、我々の研究を見て言ってください。そして幾ばくかの寄付をいただければ、と。我々はダンジョンの仕組みを秘密を解き明かすことを目的としております。探索に役立つ研究もしておりますから、きっと役に立ちますよ」


 その男性は聞いてもいないのに、ペラペラとしゃべり始めた。話している途中に興奮してきたのか、少しずつ早口になってきている。


「あ、いや、僕たちはパンドラギフトを……」

「ほほぅ。なかなか面白いところに目をつけますなぁ。そういう外れアイテムを研究している部署ももちろんありますとも。さあ、こちらです」


 パンドラギフトを譲って欲しいと切り出すことすら難しい。なんていうか、見た目は細身……というかひょろっとしているのに、圧が凄いんだ。気がつけば、研究所を見学することになっている。


 まあ、どういう研究をしているのかは、僕としてもちょっと興味はある。なので、ここは逆らわずについて行くことにした。


「おや、所長そちらの方々は?」


 広間の隅で集まっている人たちに近づいたところで、集団の一人がそんなことを言った。驚いたことに、案内してくれている男性がダンジョン研究会の所長だったみたい。それはいいんだけど――


「この方々は大事なパトロンだ!」


 所長は誇らしげに胸を張り、そう宣言したんだ。


 いやいや、ちょっと待ってよ!

 そんなこと一言も言ってないよね!?


 驚いて所長を見るけど、悪びれた様子はない。かといって悪意を持って僕たちをはめたという印象でもないんだよね。ただニコニコと純粋に喜んでいるだけだ。かえってたちが悪い気がする。


 まあ、役に立つ研究なら資金を出すのもやぶさかでないけど。まだ研究内容すら聞いてないんだよね。せめて、パトロン候補と言って欲しかった。訂正したいところだけど、喜びに沸き立った研究員たちに水を差すのも忍びない。面白そうな内容があれば、多少の資金提供をしてお茶を濁すことにしようかな。


 研究員たちは我先に自分たちの研究をアピールしてくる。内容として多いのは外れアイテムの活用方法かな。ほとんどは微妙な内容だったが、中には面白い使い方をしているものもあった。


 特に興味を引いたのは、パンドラギフトで人工的にダンジョンが作れないかという試み。パンドラギフトは開封するとランダムにアイテムなりが生成されるわけだけど、そのためには当然なんらかの素、もしくはエネルギーが必要となる。研究員はそれがダンジョンを構成する力――ダンジョンパワーであるという仮説を立てたみたい。このダンジョンパワーというのは僕たちが言う邪気のことだろう。


 ともかく、パンドラギフトは内部に蓄えられた邪気を使ってアイテムを作っていると考えた研究員は、その邪気を使って何か別のことができないかと思ったらしい。その一つとして考えたのが人工的にダンジョンを作ることだ。まあ、作ると言っても、大量の邪気を取り出して空間を満たしたらダンジョン化するんじゃないかという大雑把な計画だけどね。


 ダンジョンは資源が無限に取れる場所だから、うまく有益なダンジョンが作れれば、その利益は計りしれない。まあ、今のところ上手くはいっていないようだけどね。そもそもはっきりとした形で邪気を検出する方法がないみたいで、パンドラギフトを開封せずに邪気を回収できているかどうかすら怪しいようだ。


 まあ、役に立つかどうかは別として、話としては面白かったかな。そう考えたところで、ふと気がつく。そういえば、僕も外れアイテムの活用方法に心当たりがあるんだよね。せっかくだから、披露してみようかな。


 まずは『護衛者の呪符』の活用方法。この呪符を使った物は、周囲で発生するあらゆるダメージを請け負うことになる。この呪符を強引に魔物に押しつけることで格上の魔物でも倒すことができるんだ。この活用方法は研究会でも検討されたみたいだけど、発動者の手から呪符が離れずに断念したらしい。そこで、収納リングを使った強制譲渡の方法を提示すると、研究員たちから、感心したような声が上がった。反応は上々だ。


 『博打打ちの錫杖』を発破アイテムとして利用する方法についてもっと反応が良かった。こちらは錫杖と遠隔の発火手段さえあればいいので、運用しやすいところが評価されたみたいだ。


 説明を終えると、研究員たちが大きな拍手で称えてくれた。悪い気はしないんだけど……、なんだかやってしまった感じがする。というのも、研究員たちが僕を見る目が、どうも熱っぽいんだよね。尊敬のまなざし……とかじゃないよね?


 戸惑っていると、神妙な顔をした所長が近づいてきた。


「なんという卓越した知見。いやぁ、お見それしました。おっと、そういえばまだ名前を伺っていませんでしたな。私はヴァルドーナと申します」

「ああ、僕はトルトです」

「ふむ。では、同志トルト。あなたを我が研究所の名誉研究員として認定します。これからも知識の研鑽に努めてくだされ」


 ど、同志!?

 しかも、名誉研究員というのにされてしまった!


 ついつい口を挟んでしまったばかりに……。


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