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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
1章
9/78

厄災 七九五日 ミルトニア VS 柏葉涼葉

 衝撃波がボクを襲う。

 それは目の前を埋め尽くす大波の様に押し寄せてくる。

 広域気配探知により、冒険者風の人達は既に出口付近まで辿り着いているのが確認できた。そして、ボクの後方で戦う創ちゃん。

 これを何とかしないと冒険者達は兎も角、確実に被害は創ちゃんにまで及ぶんだよ!

 ボクにこれを防ぐ術はない。

 有るとしたら、それは魔法とか魔術とかいった神秘の力。

 でも、そんな簡単かつ都合よく神秘の力に目覚める訳がないんだよ。

 そんなのは物語の中だけでのお話。

 でも、思い出して欲しい、今のこの世界は既に物語の中なんだよ?

 何処の誰だか知らないけど、実際の人間を使っての強制的に行われる物語。神だか何だか知らないけど、姿も見せない何者かが楽しむための物語。

 そしてボクの、物語での役割はダンジョンコア。

 ダンジョンコアとはダンジョンを創り出すモノ、ダンジョンとは魔物達の住処であり監獄でもある。

 コアには魔物を管理する義務があり、それ故使役も可能なんだよ。

 では、姿を見せない何者かの期待するコアの在り方とは何か?

 それは魔物を駆使して人々を恐怖のドン底に突き落とすことだと思うんだよ。

 何が言いたいのかというと、ボクのダンジョンに住まう魔物達を使って演じるんだよ、恐怖を振り撒く暴君の如く人類の敵をねッ!

 ボク自身使えない魔法や魔術も魔物達なら使えるんだよ!


「リョカ、ホワィ、アルヒコッ! 来て、クィーンビーッ!」


 ボクの現段階で戦力になる魔物はこの四体だけ、でも、その四体のみでも頼もしい戦力になるんだよ!


「ホワィ、衝撃波を削ってッ! リョカッ、触手で壁を作ってッ! アルヒコとクィーンは待機だよッ!」


 ボクの指示に即座に反応を示すボクの魔物達。

 ホワィは影から飛び出すなり両手に持つ双扇を振るい強烈な旋風を巻き起こす。

 同時にリョカは前方に、影で作り出した触手を密集させ伸ば壁を作り出した。

 結果、旋風が衝撃波を削り、壁が完全に余波を防ぎきったんだよ!


「ウソだろッ、アレを防いだってのかよ!」

「散開して!」


 衝撃波をやり過ごすと、まさか防がれるとは思わなかったミルトニアが驚きの表情を浮かべ動きを止めた。

 これは大きな隙、その瞬間にホワィとリョカがボクの左右に展開する。アルヒコとクィーンビーはボクの傍に控えてるんだよ。

 前方にボク、右からホワィ、左からはリョカが同時に仕掛ける。

 一瞬呆然としていたミルトニアだけど、直ぐに気を取り直して迎撃の態勢を取ったんだよ。


「このアマァがぁ舐めんなよ――ッ!」


 衝撃波を作らせない為にも接近して離れない様に立ち回る。

 ホワィが双扇を振るい、リョカが隙を誘うように影の触手と魔弾を近距離から放っている。ボクは常に彼女の動きを封殺するように動く。あの巨岩の剣は危険なので振り抜かせないんだよ。


 アルヒコとクィーンビーが相手の死角に入り込んでは魔術を仕掛けていく。

 どれも反射的な速度で躱されているけど、その分攻撃の手は止まってるんだよ。

 ボク達は人数差で有利、実際の実力では鬼人が圧倒するだろうけど、彼女はおバカさんなので付け入る隙がいくらでもある。戦闘技能ではボクに一日の長があるので、このまま圧し切ってしまおう。


「調子に乗るなっつってんだろうがぁ――ッ!」


 ミルトニアには余裕が無くなってるんだよ。それはボク達が有利に事を運んでいる証拠。

 彼女はあの巨岩の剣の力を十全には使いこなせてない。

 だから、一気に攻め切り終焉なんだよッ!


「やぁああぁッ!」


 冥閬院流(めいろういんりゅう)()()雲耀剣(ライトニングソード)

 師匠の考えた技名はちょっとアレなものが多くて口にするにはちょっと恥ずかしいんだよ。

 それでも口にする事が多いのは、自らに暗示をかけ、技の安定性を狙ってのことだよ。


 冥閬院流(めいろういんりゅう)の剣術は、刀術の技名に“剣”の文字を付け加え、カタカナ読みにしたものが多い。

 手抜きだと言ったら怒られたんだよ? 何でだろう、本当の事を言ったのに理不尽なんだよ!


 コホン、名前の事は横にでも置いておいて、雲耀(うんよう)とは雷のこと、要は雷の様な一撃を入れる斬撃なんだよ。

 と言っても分かんないよね?

 稲妻のような瞬間的速度で相手に打ち込む、それは力んでいては不可能、だから不必要な力を抜き、瞬時に必要なだけの力を引き出し接近する。

 つまり、余分な力を余計な所に使わずに、必要な所へと一点集中させること。

 そこから、刃が標的に接触した瞬間に持てる力の全てを相手に送り込む技なんだよ。

 筋力、闘気ともに全力で叩き込む技だから、発動後に若干の隙が生じるけど、その隙を埋めてくれる仲間達がボクにはいるんだよ。

 これは口で言うと簡単に聞こえるかもだけど、そう簡単なことじゃないんだよ。

 人は考えた事を100%実行できる訳じゃなく、考えと動きには必ず齟齬が生まれる。ボク達は先ず、その齟齬を少しでも減らす事から修練するんだよ。


 今は関係ないけど、刀術にも雲耀という技があるんだけど、内容はほぼ同じで、曲刀と直剣の動きに合わせただけで違いは微々たるものなんだよ。ホント、師匠は手抜きなんだよ。


 で、その雲耀剣なんだけど、信じられないことに巨岩の剣を盾にして防がれちゃったんだよ。

 それでも、威力を殺しきれなかったミルトニアは後方へと飛んでったよ。

 あの巨岩の剣は脅威、ボクの雲耀剣を受けて傷一つ付いてないなんて異常なんだよ。

 寧ろ剣自体が生命体であるかのように、闘志が湧きあがり力が増しているように感じる。

 今後はアノ剣を掻い潜って技を当てないといけない。

 水歩は流れる水の如く滑らかな動きに対して、雲耀は稲妻の如く瞬間的なもの。爆発的な速度は水歩を大きく上回りピカイチだ。一瞬なら雲耀剣の速度は水歩を上回るってこと。

 雲耀剣の速度で防がれたのなら、他の技は正面から打ち込んでも当たんないと見ていい。

 刀術の残光を組み合わせればだけど、剣術に残光と対をなす技は存在しない、直剣で抜刀術は不向きなんだよ。


 それに一つ気になる事があって、それはボクの後方で戦う創ちゃんなんだよ。

 創ちゃんが相手をしているサフィニアって女鬼人は、ボクの相手するミルトニアと比べて強いと思うんだよ。

 雰囲気から察するに彼女は冷静な判断を下せる人物。つまりバカではないってこと。

 それと、彼女の内に秘める力はミルトニアを圧倒しているように感じるんだよ。

 冷静故に隙を作ってくれず、力もミルトニアよりも上では創ちゃんもさぞかし戦い辛いことでしょう。

 今、そのサフィニアは魔術を使っているんだよ。

 ボクには魔物達から得た知識があるから、魔法と魔術の違いが何となく分かる。

 魔法は魔術を上回る威力や効果があるから、その点はまだマシだけど心配するんだよ。

 だから、ボクの手札であるホワィを派遣する事にするんだよ。

 彼ならきっと創ちゃんの力になってくれるだろう。


「ホワィ、ボクの方は何とかするから創ちゃんの手助けに言ってあげてくれるかな」

「ぎゃぎゃ、我がこの場を離れれば危険だぎゃよッ!」

「創ちゃんが危険なのッ! お願い、ボクは大丈夫だからッ」

「ぎゃぎゃぎゃ、それは命令だぎゃか?」

「うん、そう、命令ってことで宜しく」

「分かっただぎゃ。けど、気を付けるだぎゃよ。アレの力は他の鬼人より弱いけど、この場のどの鬼人よりも不気味な何かを感じるだぎゃよッ!」


 何の事だろう? ボクにはミルトニア本人を脅威だとは感じないんだよ。どちらかと言えば彼女が生み出した巨岩の剣の方が脅威だと思うんだけど?


「うん、分かったよ。気を付けるから創ちゃんをお願いね」

「了解しただぎゃッ! 直ぐに終わらせて戻ってくるだぎゃ、それまでガンバルだぎゃよッ!」


 ホワィはそう言い残して創ちゃんの元へと駆けて行った。


 ホワィの言葉を考えてみる。

 ミルトニアがこの場の鬼人の誰よりも不気味な何かを持っている?

 それは何だろう?


 そもそも鬼人は、人やオーガの上位種って話だから人間では倒すのは不可能に近いんだと思う。

 役割(ロール)(ジョブ)を得て常識外の力を手にした人間だけど、それでも鬼人には遠く及ばない。

 だって、上位種ってことは、種としての限界を超えた先にある存在なんだよ。

 基本的に人間の能力の全てを上回っていて当たり前なんだよ。

 ボクや創ちゃんは役割(ロール)(ジョブ)の力に加え、師匠に鍛えられた地の力があるから何とか対抗出来ているんだよ。

 師匠は化け物だから、その化け物に鍛えられたボク達はそれなりに強いんだと思う。

 その師匠の実子たる(つむぎ)ちゃんと(あざな)ちゃんは、鬼人達のボスっぽいフィカスと互角に渡り合っているんだよ。

 フィカスの存在力は二人の女鬼人を足したものより大きい。それはつまり、ボク達では太刀打ちできない強さであって、鬼人族の中でもおそらくは上位に位置する強さだと思うんだよ。

 その鬼人の上位と渡り合う姉妹は流石という他ないんだよ。


 っと、話が逸れたよ。ミルトニアの不気味な力だったっけ?

 もう、どうでもいいかな。あの巨岩の剣だけ注意しとけば良いよね?

 人の上位種が隠し持つ力を警戒したって、只でさえ脅威なんだから仕方ないよね。

 先ずは着実にミルトニアを倒すことだけを考えよう。

 彼女は既に立ち上がって此方に向かって巨岩の剣を振り上げて駆けだしてるんだよ。

 ボクも雲耀剣を使って近づき両者剣の応酬が始まるんだよ。

 技術ではボクが勝ち、力でミルトニアが勝っているから互角の応酬になるんだよ。

 でも、忘れてはいけないのがリョカの存在なんだよ。

 ボクとミルトニアが互角なら、プラスαが存在するボク達の方が有利ッ!


「リョカッ!」


 リョカが嘶きと共に触手を量産し、ミルトニアの足元から拘束する。

 僅かな隙でも作れれば、その瞬間に雲耀剣をお見舞い出来るので有難いんだよ。

 けど、ミルトニアはそんな触手なんてどこ吹く風ってくらい無視して、引き千切りながらボクを攻め立ててくる。

 アルヒコもクィーンビーも魔術を放って頑張ってくれている。

 ――それでも彼女を止められない。


 やはり搦め手を使わないと彼女には届かない? そう思った時だった。


「そんなっ、創ちゃんッ!!!」


 ボクの視界の隅に、女鬼人に串刺しにされる創ちゃんの姿が映ったんだよッ!


「キャハハッ、アイツ、死んだわぁ、これ死んだっしょッ!」


 気配探知により、創ちゃんの生命力が極端に減っていることが確認できちゃったんだよ!

 でもまだ大丈夫、まだ死んではいないんだよ。創ちゃんの生命力はまだ残っている。

 どうして創ちゃんばかりが痛い目に合わなければならないのかな?

 考えれば考える程に怒りが込み上げてくるんだよ。

 こんな物語を仕組んだ神様なんか大嫌いだッ!

 ボクの創ちゃんを傷付けるものは、たとえ神だろうと許さないッ!

 いずれ見つけ出して痛い目に合わせてやるんだから覚悟しておいて欲しいんだよッ!

 直ぐにでも駆けつけたい。でも、目の前の敵が邪魔をするッ!

 ホワィは創ちゃんの影の中に潜んでるみたい、隙を見て救出してくれる事を願って今は、目の前の敵にこの怒りをぶつけることにしよう。


「やぁああああぁ――――ッ!」


 もう、形振り構ってる場合じゃない。


「お、おっ、何だよ急にッ! 躍起になっちゃったりしてさぁ~。仲間が殺されて怒っちゃった? キャハハハッ、そんなん当たり前じゃん、テメェ等は鬼人を相手にしてんだぞ!」


 雲耀剣を連発させて攻める。

 創ちゃんはまだ死んでない! 彼女の声は耳障りなんだよ!

 身体に掛かる負担は大きいけど、休まず技を連発させる。どうにか彼女を倒さない事には創ちゃんの元にまで行けない。

 初撃の時は吹き飛んだミルトニアだけど、今は一撃一撃その場に耐えて踏ん張っているんだよ。

 師匠は言ってたんだよ、同じ相手に同じ技が通用すると思うなよって。だから、工夫するんだよ。


 力の大小、タイミング角度の変化、時折フェイントを織り交ぜて微妙に技を変化させていく。

 アルヒコがミルトニアの周りを飛び回り動きの邪魔をし、クィーンビーが毒針を飛ばして牽制する。リョカが魔術を放ち後退させ、ボクを援護してくれている。

 それでも彼女には届かない。

 冷静になれッ! 相手がおバカさんでも同じようにバカになっては、冷静な考えが出来なければ勝てるものも勝てなくなる。

 バカと言っても、その力は驚異的であるから油断は出来ない。一撃でも貰えばそれまでなんだからね。

 だから相手の低脳を利用しないといけないんだよ。


「でも流石だね。人類の上位種ってだけはあるよね」


 煽てることから始める。剣戟の合間に会話を挟んでいく。

 彼女の振るう巨岩の剣は振り抜かせたらダメだから、振り抜く前に止めて衝撃波の発生を少しでも抑える。


「キャハハッ、漸く理解したのかぁ? けど今更媚び売ってもおそいっつーの。テメェはもう殺すって決めてっからよ」

「まあ、そう言わずに聞きなよ。ボク達から見たら鬼人ってさ、そこらの魔物達とは格が違うんだよね。だから、人では勝機がないって言うかさ、不意に出会ったら絶望的だと思うんだよ」


 正に今のボク達だね、不慮の事故じゃすまないんだよ。


「ああん? だから何だよ急によ、そんなの当たり前だろ」

「ほら、人間のボクがキミとこうして剣を交えてる訳だけど――」


 ミルトニアは少し不審な顔つきをしてるんだよ。

 そうだよね、何が言いたいのか分かってないんだよ。


「こうして渡り合えてる訳でしょ?」


 さあ、ここから挑発の始まりなんだよ。


「それってさぁ、上位種って言ってもあんまり意味がないのかなって?」

「……何が言いたい」


 うん、青筋たってきたんだよ。


「キミってさぁ、あっちで戦ってるサフィニアって鬼人さんとどっちが強いのかな? あっちの男の鬼人さんは別格だよね? でも、あのサフィニアってのも相当だよね? じゃ、キミは?」

「ハッ! 確かにフィカス様の強さは次元が違うけどな、ウチとサフィニアは同格なんだよッ!」


 ミルトニアの攻撃回数が増えてきた。それはつまり、挑発が効き始めている証拠なんだよ!

 現に剣捌きが雑になってきた、回数は増えたけど捌き斬れば勝機も見えてくると思うんだよ。

 純粋な力比べだと分が悪いからね、ちょっとズルをするんだよ。


「う~ん、そうなのかなぁ? ほら、キミって頭悪そうじゃんか、知能が足りないのに賢そうなあの鬼人と同格なの?」

「ああぁん、ウチがバカだって言いてぇのかよッ! 確かにサフィニアほど頭は良くないけどな、力じゃ負けないんだよ、総合したら同等なんだよッ! ウチもサフィニアも同じフィカス様の従者だし、ウチ等は同等の実力だしよッ、どっちかが下ってことはなぇーんだよッ!」


 口数まで増えてきたんだよ。この調子でどんどんと調子を乱していって欲しいんだよ。


「そうなのかなぁ? 従者にだって上下関係はあるだろうし、同等って割には実力不足に感じるんだよ。だって、ボクでも相手出来てるんだからさ」


 人よりも上位に位置する鬼人が、格下たる人と互角ってのは問題あるよね。


「ああぁ! テメェがウチより強いって言いたいのかよッ!」

「どうかな? でも、ボクから見たらサフィニアって鬼人さんはキミよりも強そうなんだよ。魔術も使ってるし、頭も良さそうだし、キミには真似出来なさそうなんだよ。切り札まで出してるのにボクにトドメも刺せないようじゃ、言われても仕方がないよね」


 実際はサフィニアって鬼人は、創ちゃんを舐めて掛かって油断しまくってるんだよ。

 創ちゃん相手にその油断は命取りだって事に気づいていないんだよね。鬼人って頭悪いのばっかなのかな?


「あっ、従者ってさ、鬼人の戦士にもなれなかった落ちこぼれってことなのかな?」

「はぁー、バカかテメェ。ウチ等はエリートだっちゅ~の! そんじょそこらの雑魚共と一緒にすんじゃねぇーよッ!」


 段々と巨岩の剣が大振りになって来たんだよ。


「ふ~ん。でも、上位種の鬼人が人間を瞬殺できないなんて問題あるんじゃないかな? それとも、鬼人って、言う程大したことないのかな?」


 ミルトニアが大きく跳躍して距離を取ったんだよ。何か仕掛けてくるのかも知れない。気を引き締めなきゃ!


「……テメェの身の程知らずには呆れるけどな、分かり易く教えやるよ。本来の鬼人族ってのは常軌を逸した存在だってな!」


 あっ、激怒してる。彼女の闘気がみるみる上昇していくのを感じるんだよ。

 少しやり過ぎだったかな? でも仕様がないよね、正面切ってやり合えば負けるのはボクの方なんだから。

 因みに後方では、創ちゃんの猛攻が始まったんだよ。

 良かったよ、あれだけ動けるのなら死ぬ心配はないし、多分負ける事もないんだよ。問題はボクの方かな。


「来るよ皆ッ!」


 リョカ達に注意喚起をしておく、だって、今までとは比べ物にならない程の闘気が湧き上がってるんだよ。さっきまでの二倍どころか三倍は高められてる。

 ミルトニアの放つ闘気は、最早内に秘めるモノではなく物理的に作用し始めてるんだよ! 床の岩盤を砕き浮き上がらせてる。

 やり過ぎちゃったのはしょうがないけど、これは想定外なんだよッ!


「見たら死ねッ!――【狂鬼化】ッ!」


 ヤ、ヤバいんだよッ!

 ミルトニアから計り知れない程の闘気を感じる、急いで対策を立てないと!


 変化が起きた、彼女が叫ぶと同時に始まったんだよ!

 今までは、鬼の要素よりも人の要素が勝っていたんだよ。でも、今の彼女は鬼人と言うよりもオーガと呼んだ方が納得できる外見に変貌しちゃったんだよ。

 背は延び肌は赤黒く変色し、筋肉が盛り上がり、角は太く伸び、牙まで伸びてきている。

 変貌を遂げたミルトニアは、グルグルと喉を鳴らしボクを凝視して――ッ!


 気づいたら殴り飛ばされてたんだよ。それも、リョカと同時に!

 視認どころか探知にすら引っ掛からなかった。

 気配探知を使えば、大抵の速度には反応出来るかなって思ってたのは思い上がりだったんだよ。


 ごふっ、と血を吐き出す。

 骨の何本かは持ってかれた。

 痛い! 全身が痛いけど、それでも剣を手放さなかった自分を褒めてあげたいんだよ。

 ああ、失敗したなぁ、ちょっとバカにし過ぎた結果、自分がバカになっちゃったよ。


 そんな事を考えていると、何処からか男の人の声が聞こえてきた。

 聞こえてくる声から何か攻略のヒントを探さないと……。


「あ~あ、アイツの【狂鬼化】は醜いんだよな。理性すら失われるしよ。だがよ、アレは人間には対抗手段が一切無いだろうよ。あの状態のミルトニアは、純粋に強い。単純なパワーだけなら俺よりも上かもしれねぇな」


 純粋なパワーファイターってことかな?

 今の一撃に、巨岩の剣を使用しなかったのは幸運なんだよ。

 あのパワーでアレを振り回されたら、いくら冥閬院流(めいろういんりゅう)といえど一溜りもないからね。


 でも、希望も見えたんだよ。


『ダンジョンコア超難度ミッション達成。

 報酬、感知 第六感 ダンジョンコアポイント・5000 ガチャ一回無料権を獲得しました』


 創ちゃんがやってくれたんだよ!

 流石創ちゃんなんだよ、見事サフィニアを倒してくれたんだよ!

 なら、ボクは寝ていてはダメなんだよ。


「くっ、つっつっー、いったいなぁ」

「グルゥルルッ」


 フィカスの言葉が正しいのなら、ミルトニアは理性を失った代わりに強大な力を手にしたことになるんだよ。

 それは本当みたい、唸るミルトニアからは理性を感じられない、代わりに別人のように存在力とも言うべきものが増しているんだよ。

 まともにやり合っても勝てないかな。かと言って搦め手ももう通用しない。

 ボクに出来ることは、ひたすらに彼女の攻撃を躱し続けて自爆を狙うしかないかな?

 創ちゃんのおかげで感知と第六感を得たボクにはそれが可能なんだよ。

 あれ程の強化をしたなら身体に掛かる負担は計り知れない、長続きはしないと思うんだよね。


 躱せる力を手にしても、躱せるだけの体力がなければ意味がないんだよ。

 だから、ボクはの傷を癒してくれる物を期待してガチャを回そうと思うんだよ。

 今ボクが回せる回数は二回だけ、その二回に全てを賭けるしかないかな。

 問題は、回すだけの時間が有るかどうかなんだけど、……見逃してくれないよね?


「ガァアアアァァ――ッ!」


 吠えながら突進してくるミルトニア。彼女の手には異域之鬼なる巨岩の剣が握られているッ!

 不味い! アレを振り回されたら発生した衝撃波だけで場を掻き回させられてしまうッ!

 満身創痍の創ちゃんにアレは耐えられないし、紡ちゃんと糾ちゃんにも被害が出るかも知れない。

 なら、この身を盾にしてでも止めないとッ!


 ボクは振り下ろされる巨岩の剣の真下まで滑り込み、打ち上げる様に銀の剣を振り上げる。

 彼女の身長は三メートルになる程伸びているんだよ。

 ボクの身長は低いから、彼女はボクの倍はあることになるんだよ。

 だから振り上げる。


紅炎剣(プロミネンスソード)――ッ!」


 恥ずかしい技名を口にし、技の完成度を高める。

 狙うは巨岩の剣を握りしめる指なんだよ! 力を殺してしまえば、今のボクでも何とか止められるかも知れないッ!


 ボクの刃がミルトニアの柄を握り締める指にクリーンヒットする。

 けど、彼女の振り下ろす勢いを殺しきれない。このままじゃ衝撃波が生じてしまう。


「止まれぇ――ッ!」


 ダメッ! 押し切られるッ!!!


 その時なんだよ。


「紅炎ッ!」


 不意に背後から力強い声が聴こえたんだよッ、この声はッ!


「大丈夫か涼葉ッ! 俺も手伝うから諦めんなよッ!」


 創ちゃんなんだよ!

 ここぞって時に助けてくれるのは創ちゃんしかいないんだよッ!

 創ちゃんは主人公なんだけど、ボクにとってはヒーローなんだよ。


「うん! ガンバルんだよッ!」

「ああ、それでこそだ! うぉおおおぉ――――ッ!」


 二人掛で巨岩の剣を弾き返したんだよ。

 凄いんだよ、これは奇跡とも言えるんだよッ!

 でも……。


「涼葉ッ!」


 ボクは力尽きて膝をついちゃったんだよ。

 ごぽっと吐血しちゃうんだよ。今ので折れてた肋骨が肺に突き刺さっちゃったみたい。

 うう、痛いんだよ……。


「涼葉、休んでろ。奴は俺がやるッ! ホワィ、お前は涼葉を護ってやってくれ」

「ぎゃぎゃ、了解しただぎゃ!」


 良かった、ホワィも元気そうで何よりなんだよ。

 くっ、いったいなぁ。でも、創ちゃんには悪いんだけど、少しの間の時間稼ぎをお願いするんだよ。

 ボクは予定通りにガチャを回してみるんだよ。


 ボクは視界の端に映る文字を操作してガチャの本体を取り出す。


「ぎゃぎゃ、動かない方が良いだぎゃッ! ジッとしてるだぎゃよ」


 ホワィが心配そうに寄り添ってくれる。

 さっきまで倒れていたリョカも近づいてくるんだよ。

 他の二匹は影へと忍ばせたんだよ。一発貰っただけで死んじゃうからね。


 さて、急がないと創ちゃん一人でミルトニアの相手はしんどいと思うんだよ!


「うう、大丈夫なんだよ。ちょ、ちょっと肩貸してくれるかな?」

「ぎゃぁ」


 ホワィの肩を借りて立ち上がり、ガチャへと手を伸ばす。

 お願い、回復アイテムか現状を打破できる何かが出てきますようにッ!

 願いを込めてガチャ機のハンドルを捻る。


 ガチャっと音を立てて黒いカプセルが排出される。

 問題はこの中身、急いでカプセルを開くと虹色の光を放って開かれる。

 やったッ! 虹の光は超レアもんなんだよッ!


 そして、ボクの手の中には――、


「……ダメなんだよ。これじゃ今は役に立たないんだよ」


 出たのは植物の種だった。

 ボクの手の平には三粒の種と説明書が乗ってるんだよ。

 説明書を読む時間も惜しいから、そのまま二回目を回しちゃうんだよ!


 再びガチャりと音を立ててカプセルが排出される。

 開けると、赤色の光と共に現れた物は……、人型に模られた百枚位の紙束だった。

 式神かな? ボクは陰陽師じゃないんだけど……。

 説明書を見ると、


『配下としている魔物の分身体を作り出す人型。主の血液を媒介にして発動する』


 と書かれているんだよ。

 今の戦力になるボクの配下って、リョカとホワィ、アルヒコとクィーンビーだけなんだよね。

 四体の分身体を複数作っても、今のミルトニアには盾としてしか使えない。それはちょっと可哀想だよね?


 …………


 ふともう一つの説明書が気になり読んでみる。


『覚醒の実。食せば遺伝子を読み解き最高時の肉体に再構築させ、一時的に潜在能力の全てを開放する魔法の実』


 …………これじゃん。

 最初に読んどけば良かったよッ!


「リョカ、ホワィ、二人は影の中で休んでてッ!」


 ボクは二体の魔物を影へと潜ませて魔法の実たる覚醒の実を口に含む。

 口にした瞬間に変化が起きた!

 痛みは綺麗さっぱり無くなり、身体中から力が湧いてくるんだよ。

 これならいけると、急いで創ちゃんの元まで急ぐ。


 とっとっとっ、増大した身体能力に慣れずに通り過ぎるところだったよ。

 創ちゃんがぎょっとした顔を向けてくる。

 創ちゃんは今まで躱す事に専念していたようで、ケガの一つもしていないんだよ。

 良かった、間に合ったみたいなんだよ。


「お、おお、涼葉か。そんなに動いて大丈夫なのか? まだ休んでいた方がいい」

「ううん、大丈夫だよ。これ見て、これのおかげでもう大丈夫なんだよ」


 覚醒の実と説明書を創ちゃんの手に乗せる。

 その隙を見てミルトニアが突進してきたんだよ。

 丁度いいから今の力を試してみるんだよ。


冥閬院流(めいろういんりゅう)剣術奥義・雷霆神(インドラ)


 雷霆神とは、強化された雲耀剣を同時に無数に放つ冥閬院流(めいろういんりゅう)剣術の奥義なんだよ。

 その威力は天然の雷に勝るとも劣らないとかなんとか?

 本当かどうかは疑わしかったんだけど、実際にやってみたら納得なんだよ!

 覚醒した状態だからこそ出来た技なんだけど、これ程の威力があるなんて自分でも思わなかったんだよッ!

 雷と同等って、人間に出せる威力じゃないよね? 冥閬院流(めいろういんりゅう)はちょっと常識がないんだよ。

 まぁそのおかげで、こうして生きていられるんだけどさ。


 振り返ると創ちゃんが呆気にとられてるんだよ。

 それはそうだよね、あの強敵ミルトニアが一瞬で消し炭になっちゃたんだから。

 そう、只の奥義一つで呆気なく勝負が決まちゃったんだよ。


「くっ、少しは追いついたと思ったんだが、思い上がりだったな」


 なんて創ちゃんが言ってるんだよ。

 でも、それは間違いなんだよ。今のボクは覚醒の実のおかげで潜在能力が解放されてるから出来た事なんだよ。普段だったら無理だからね。


「ふふっ、秘密はその種にあるんだよ!」


 …………


「成程、これは凄いな。どうしたんだコレ? って、ガチャか」


 創ちゃん一人で納得してた。

 一安心と気を抜いた時、


「バカなッ! サフィニアに続いてミルトニアまでもが敗れただとッ!」


 遠くからフィカスの叫び声が木霊してくるんだよ。



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