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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
1章
8/78

厄災 七九五日 サフィニア VS 剣南創可

 眼前を埋め尽くす氷塊は百に届くだろうか?

 気がつけば数が増え、増えると共に身体に出来る傷もまた増えていく。

 肉を抉られ堪らず傷の痛みに膝をつく。

 しかし、立ち止まれば待つのは死のみ!


「うをぉぉぉぉぉ――――!!!」


 気合いを入れ脚に力を込める。

 既に氷塊は目の前、躱すには時間が足りない。


「はぁぁぁぁぁぁ――――!!!」


 とれだけ気合いを入れようが、脚は動いてはくれない。

 俺はここで死ぬのか? ……何故だかそんな考えには一切至らなかった。

 絶望的な状況において【不屈】の効果が発揮されているのか?

 どうすれば打開できるのかを、冷静に考えている自分に気づく。

 無意識に氷塊を見定め、どこに隙があるかを探している。

 

 ?


 妙だな、氷塊の迫る速度が妙に遅く感じる?

 弾丸並みの速度で迫ってきた氷塊が、今では遅々として牛歩の様に遅い。

 気づけば例の如く、俺の視界の端に映る点滅するアイコン。

 アイコンに意識を向けると見えてくる。


唯一の役割(オンリーロール)【主人公】緊急救済処置が発動します。

 生命力(オド)を対価に以下の処置を行います。

 時間停滞が発動しました。

 超速再生が発動しました。

 思考加速が発動しました。

 高速演算が発動しました。

 魔力(マナ)最大値が拡張されました。

 肉体強化が発動しました。

 身体強化が発動しました。

 強運が発動しました。

 注・緊急時の一時的処置であり、オドが三割を切った時点で終了します』


 何だよコレ?

 救済? 俺はそこまで追い詰められているのか?

 オドを消費し持ってもいないスキルが発動したってことか?

 更に続きがあるようだ。


(ジョブ)【騎士】が救済処置により一時的にクラスアップします。

 【騎士】が【聖騎士】にクラスアップしました』


 おいおい、騎士から聖騎士にクラスチェンジしたんだけど!?

 【騎士】は特定の人物を護る際に剣、槍、盾の扱いに補正が掛るだったか。

 【聖騎士】は騎士の上位互換らしい、武具全般に補正が掛り、身体能力の強化もしてくれるらしい。


『並びに、【主人公】隠しミッション『恐怖の克服』の達成を確認しました。

 報酬『運命誘導』を獲得しました。『運命誘導』が自動発動します』


 運命誘導って、何に向かって誘導するんだよ?

 説明を見ても運命を誘導するとしか記されていない。

 恐怖の克服って言うけど、不屈を取った時点で達成したも同然じゃんッ!


 そして、最後に!


『【主人公】シナリオ『死地からの生還』が開幕します。

 皆様、お楽しみ下さい!』


 な、何だこれは!?

 シナリオ? 今までに無い展開、一体何をさせるつもりなんだ!?

 ここまで来ると、神の介入は疑いようがない。

 ゲームの中で物語を創らされている気分だよ。これから先、物語のシナリオを描いていけってかッ!

 俺は神の玩具でもなければ、駒でもないんだがな。


 救済処置か……、確かに身体には力がフツフツと沸き上がってくる。しかし、同時に何か生きるのに必要な何かが抜け落ちていく感覚もする。

 考えるのは後に回して、早期に決着をつけないと取り返しのつかない事になりそうだ。


 改めて状況を確認しよう。

 未だ遅々として辿り着かない氷塊は、中空で標的つまり俺に向けてこう言っているようだ。

 『さぁ待っていろ、お前に逃げ場など無い、直ぐにでも其処まで行って殺してやるぞ!』と。


 恐怖は無い。が、脅威は感じる。

 あくまでも今の強化された肉体での話だが、一つ一つの威力は致命傷に至る程のものではない。

 肉体強化を施された今の身体なら一つや二つこの身に受けたところで問題ない。

 しかし、アレだけの数を全身で受ければ話は別だ。

 蓄積されたダメージは致命傷へと至るだろう。

 ならば、逃げ場は無いと言われている気もするが、強化された身体能力で躱しきってやるッ!


 俺は迫りくる氷塊の僅な隙を見つけ出し、見つけた瞬間に飛び込んでいく。

 身体を出来る限りの縮めて隙間を通り抜ける。

 その際に幾つか身体を掠め、強化された肉体に傷をつける。しかし、先程とは違い抉られることはない。

 ならば構う必要もなく、サフィニアへと肉薄する。


 強化が働いている今なら、鬼人と互角に渡り合える筈だ!

 刹那の一瞬で肉薄し、急激な加速に驚いている無防備なサフィニアに残光を使い袈裟斬りを仕掛ける。

 油断しまくっていたサフィニアは左肩から右胴へと刃が通る。

 血を吹き出し驚愕の表情を浮かべるサフィニア。

 よし、行けるッ!

 奴に大きな傷を与えたことに希望が見えた!

 このまま押し切ってやるッ! 反撃の隙を与えず連撃を仕掛ける。


 しかし、奴はこの時間停滞の中で、強化された俺よりも速かった。


「あら? 急に動きが良くなりまたね。私を相手に手加減でもしていたのかしら? だとしたらとんだお間抜けさんだこと」

「がッ!」


 サフィニアは余裕のある態度で俺の追撃を躱し腕を伸ばしてきた。

 隙を見せたのは俺の方だった。驚愕の表情を拝めたのは一瞬だけ、今や余裕の表情を浮かべ俺を捉える。

 振り抜いた刀は容易く躱され、大きな隙を見せた俺の首根っこにサフィニアの腕が喰らいつく。

 次の瞬間には持ち上げられ、宙に浮ていた。


「ぐッ!」


 い、息が出来ない!


「フフフッ、貴方、私の隙を突こうと必死のようですが、ありませんよ、そのようなものは!」


 腹に強い衝撃を受けて吹き飛ばされ、ゴツゴツとした床を滑り横たわる。

 酸欠に加え強い衝撃を受けて咳き込み、それでも隙を見せぬ様に慌てて顔を上げる。

 顔を上げれば、視界に広がる氷の雨。先程の場所まで一気に押し戻されたようだ。


「ちッ、またここかよ!」


 超速再生とやらが働いているのか、痛みは直ぐに消えた。これなら直ぐにでも動ける、再び隙間を縫って近づけばいい。

 がしかし、先程まであった筈の隙間は無くなり、ビッシリと視界を埋め尽くしている氷塊だけが視界に映る。


「そうそう、その表情が視たかったのですよ。人間風情が図に乗るからこの様な目にあうのです。少しは自分の立場と言うものが理解出来たのではありませんか? 『アイスニードル』」


 追加される魔術。

 視認するには細く透明な氷の針が、氷塊に紛れて俺に迫りくる!

 この氷針は、全てを捉えるのは難しく捌きにくい。

 俺の困惑する表情が気に入ったのか、サフィニアは嬉しそうにフフッと笑い続けている。

 こっちはその表情を見るだけでイライラが募るのだからやめて欲しい。


「こうなりゃやぶれかぶれだッ!」


 俺は先程と同様に身体を縮めて氷塊へと突撃しようと駆け出した。

 すると――、


「無謀だぎゃッ!」


 俺は何者かに体当たりされ、元居た場所へと再び戻されてしまった。

 俺に体当たりをして吹き飛ばし、氷塊から逃れさせたのはホワィだった。

 俺の居た場所では、ホワィが二本の戦扇を両手に持ち氷塊を必死に捌いていた。


「な、ホワィ、何でお前がこっちに居る! 涼葉はどうした!?」

「その主からの命だぎゃ。『創ちゃんを助けてあげて』だそうだぎゃ」


 涼葉の戦闘は離れた位置で行われている。互いに邪魔にならないように距離を離して戦闘しているんだ。

 その涼葉はアルヒコとリョカを顕現させミルトニアと戦闘中だ。

 見たところ大きな怪我もなくやっていけてるようで一安心だ。

 双子の姉妹も同様に離れた位置で戦闘をしている。

 男の鬼人、名をフィカスと言ったか? フィカスはあの双子相手に互角の戦闘を繰り広げていた。

 どっちに驚くべきだろうか? 人外の鬼人と互角に渡り合う双子に驚くべきだろうか? それとも、あの超人的な姉妹と渡り合う鬼人に驚くべきだろうか?

 どちらにせよ、それはつまりフィカスの実力がサフィニアやミルトニアを大きく突き放しているということ。曲がり間違っても、俺や涼葉では勝ち目が無いことを意味する。

 加勢に入ったところで、俺や涼葉では足を引っ張るに終わるだろう。

 なら、このままサフィニアやミルトニアを何としても倒さなければならない。二人に(つむぎ)(あざな)の邪魔に入られたら一巻の終わりだッ!

 ホワィには涼葉の元に戻って貰い、涼葉を勝利させてから俺の手伝いをして貰う方が良いのだろう。

 俺を庇い氷塊と氷針を捌き続けるホワィに向かって俺は言う。


「ホワィ、お前は涼葉の元まで戻れ! 涼葉に勝ってもらい、それから加勢してくれればいい!」

「それは無理だぎゃ! 主の命は絶対だぎゃ、お前の命令は受けられないだぎゃよ」


 両手の戦扇を振るい氷塊と氷針を必死でいなすホワィ。

 所々に傷を作り、氷針の刺さっている箇所では凍傷の様な症状すら見て取れる。

 この状況下で考えている場合ではないが、いくら肌が人間と同じ色をしていても、ゴブリンに戦扇は似合わないな。と、どこか呑気に考えてしまう自分は阿呆なのだろうか?

 って、んなこと考えている余裕は無い。俺も刀を振るい氷を捌くのに加わる。


「ぎゃ、ここは良いだぎゃッ! あの女が狙って来るだぎゃよッ!」

「何?」


 サフィニアが自ら生み出した氷塊を吹き飛ばしながら猛スピードで迫ってくる。


「くそッ、ちょっと待っててくれても良いだろうがッ!」

「醜いゴブリンが、この戦いに乱入するとは何事ですか! 私の邪魔をした罪は重いですよッ!」


 サフィニアが狙ったのはホワィだった。

 奴の手刀が振るわれ、衝撃波の刃を生みホワィを襲う。

 衝撃波は周りの氷塊を吹き飛ばし、ホワィの正面を捉える。

 戦扇を構え衝撃波を受け止めるホワィが、床に二本の線を描き後方へと押されていく。


「ぎゃ――ッ!」


 耐えられなくなったホワィ、戦扇が弾かれ護りの無くなったホワィが吹き飛ばされていく。

 飛ばされるホワィを横目に確認し、それでも俺はサフィニアに接近し刀を振るう。

 このまま奴に暴れられたら、俺もホワィも命がない。


 攻撃を仕掛けて気づいたが、奴に負わせた筈の傷が綺麗に無くなっている。それどころか、斬り裂いた筈の衣服までもが再生していた。

 奴は超速再生と似て非なるスキルを持っているのかも知れない。

 それはとても厄介であり、俺の低い勝率を更に下げてくれることだろう。


「クソッタレめッ!」


 無我夢中で振るう刀は悉く躱される。

 サフィニアは反撃もせずに躱す。奴の弱点はこの油断だ、俺を下に見て余裕を見せている。

 なら、速度を抑えた抜刀術で油断を招き、ここぞという時に最速の抜刀術で首を叩き斬る。遅い剣速に馴れた奴は超速抜刀術は躱せまい!

 俺は飽きもせずにひたすらに加減し刀を振るう。

 サフィニアは相も変わらずにニヤケ顔だ。

 そうだ、それでいい、最後の瞬間までニヤケ顔で死ねッ!


「残光ォ――!!!」


 僅かな隙、ここぞという瞬間を見逃さずに超速抜刀で首を狙う。


 ――――ッ!!!


「フフッ、私を軽んじているのですか? 一度見せた技が、この私に通用するとでもお思いですか?」


 しまった。先の袈裟斬りで見切られていた!

 サフィニアは俺の抜刀を片手の親指と人差し指だけで摘まみ受け止めた。

 信じられんが、残光を一度見ただけで見切り、俺の狙いを読み取り誘い込んだんだ。

 一瞬呆けてしまった、その隙を見逃すサフィニアではなかった。

 奴は空いている手で俺の腹部に強烈な一撃を叩き込んだ。


「ごふッ!」


 ――吐血。

 体内から溢れ出る血液、口内で鉄の味が充満する。

 身体中激痛が駆け巡り、血を流し過ぎ意識が朦朧とする。

 遠くから涼葉の声が聴こえた気がする。

 超速再生のおかげで死にはしないが、極度の激痛が全身を支配し動けない。

 それもその筈だ。奴の抜き手が俺の腹を貫通し、背後から奴の腕が生えている。

 継続する激痛に意識を保つに必死だ。

 いくら超速再生が優秀なスキルだとしても、このままでは出血多量で死ぬのは俺だ!

 何とか逃れようと気力と力を振り絞り足掻くが、動く反動で痛みが増していく!

 奴は俺から刀を奪い取り無造作に足元へと放り捨て、空いた手で俺をガッチリと掴んで離さない。

 そして、逃れられない俺の視界に文字が浮かぶ!


『オドが五割を切りました』


 ま、不味い! オドとは生命力のこと、このままでは急激にオドを失い死んでしまう。それ以前に強化が解ければ勝ち目がないッ!

 死に物狂いで暴れるが、逃れることは出来ず痛みが増すばかりだ。


「があぁああああぁぁぁ――――」

「フフフッ、貴方、面白いですね? 人間のわりには頑強に出来ているではありませんか。私のペットとして飼ってやっても面白いかも知れませんね? どうです、私のペットとして一生を過ごす気はありますか?」


 何言ってんだこの女、俺を飼うつもりかよ!

 冗談じゃないんだよッ!

 遠退く意識が怒りにより浮上してくれた。奴の冗談も役に立つことがあるらしい。


「ぐッ、じょ、冗談は、……か、顔だけにしてもらいたいもんだなッ!」

「あら、この状況でそんな事が言えるなら大したものです。ですが、良いのですか? 状況を考えれないおバカさんは早死にしますよッ!」

「が、がぁあああぁぁぁ――――ッ!!!」


 奴が腹に刺さる腕を激しく動かす。


「貴方の体内に魔術を放ってみようかしら?」

「く、がぁあ、く─、そッ……」


 サフィニアが心底楽しそうに笑った瞬間のことだ。


「ぎゃぎゃぎゃッ、やらせないぎゃッ!」


 俺は床へと倒れ込み、顔を上げて状況を把握する。

 突如現れたホワィが、俺を串刺しにする腕を戦扇を振るい切り落としたんだ!


「きああぁあ――! き、貴様、貴様、貴様ぁはああぁ――――ッ、醜陋(しゅうろう)の分際で、わ、私にぃ、この私に傷を付けたなぁ――ッ!」

「ぎゃぎゃ、ざまぁみろだぎゃッ! 流石燿子の姐さんの双扇だぎゃ!」


 鬼人の腕を容易く切り落とした戦扇に目を落とすホワィ、――次の瞬間彼の姿が消えた!

 それは、時の停滞した空間ですら見てとれない程の速度で、サフィニアがホワィを攻撃したからだ。


「なっ」

「フンッ、当然の報いです!」


 何をされたのか見えなかった。

 ホワィは俺を助け、結果として消えてしまった。

 それは彼の死を意味し、二度と会うことの出来ない永遠の別れ。


「う、嘘だろ?」


 ホワィが死んだ、涼葉の配下を死なせてしまった。

 俺を助ける為にホワィが犠牲になってしまった。

 思考が止まる、まるで脳内に膜が張ったかのよう。

 思考加速も高速演算も役に立たってくれない。


「あ、あああ……」


 だが、徐々に徐々にと現実が脳へと浸透していく。

 ホワィは死に、サフィ二アは笑う。涼葉は泣くだろうか?

 初めは敵だったが、この二年で愛着も湧いている。共に話し共に笑いあった仲だ、また彼女を泣かせてしまう。俺は本当にこの先、彼女を護れるのだろうか?

 弱気になる気持ちを抑え込まないと、このままでは戦えなくなる。

 不屈のスキルは働いているのか?

 オドの残量は大丈夫だろうか?

 サフィニアにはどうすれば勝てる?

 奴の弱点は何だ?

 俺の力はどれ程通用する?

 残された手段はなんだッ!?

 俺はここで倒れていていいのかッ!!!


「くっそぉおおおおお――――――!!!」


 突き刺さる腕を引き抜き、刀を拾い立ち上がる。

 超速再生に意識を向けて最速で風穴を塞ぐ。


「おぉおおおおぁあああああ、こんな所で寝ている訳にはいかないんだよッ!」

「何ですか急に? 吠えても強くはなりませんよ」


 サフィニアの腕が再生される前に畳み掛ける!

 俺の頭では奴に打ち勝つ良案がついぞ浮かばなかった。

 最早俺に残されたのは力のゴリ押ししかない。

 策がない以上、ひたすらに奴の首を狩り取ることだけを考え動く。


「貴様は殺すぞ、サフィニアァァァ!」

「フフッ、面白いですね。今の貴方に何が出来ると言うのですか?」

「やかましいッ!」


 只々斬りかかる。

 この二年で叩き込まれた冥閬院流(めいろういんりゅう)を信じて振るうことしか出来ない。


冥閬院流(めいろういんりゅう)・波風ッ! 残光ッ! 気炎ッ! 磊落ッ!」


 使える技は全て使う。

 どんなに身体に負担が掛ろうとも、超速再生が癒してくれる。

 今ならどんな無茶をしても問題にならない。なら、今までは身体の負担が大きく使えなかった冥閬院流(めいろういんりゅう)の奥義が使用可能かも知れない。

 僅かな望にかける!


「槌閃ッ! 崩落ッ! 漸剣ッ!」


 奥義を出すにしても空ぶれば意味がない。どうしたって奴の肉体に接触する必要がある。

 その接触が極めて難しい。

 奴は速く賢い。俺を懐に入れるなど、もう無いのかも知れない。

 涼葉の様に闘気を扱うのに長けていれば、遠当ての要領で斬撃を飛ばせるが、俺にはそこまでの技量がない。

 ――――ん?

 いや、今の俺には嘗てない程の闘気が湧いてないか?

 可成りのオドを消費している筈の身体から溢れ出る闘気。今の俺には涼葉に負けないだけの闘気があった。これならいけるッ!


「うぉおおおお――――――!!!」


 一気に近づき切り札を切る!


冥閬院流(めいろういんりゅう)奥義ッ!」


 これで駄目なら本当に後がなくなる。

 サフィニアは未だに反撃する気がないのか避けるばかりだ。

 その余裕がお前の敗因となるんだッ!


火之迦具土神(ヒノカグツチ)ッ!」


 技を放つと同時に俺の持つ刀の刀身が、俺の闘気を燃料にして燃え上がる。

 目が眩む程の炎、敵の放った魔術ですら一瞬で蒸発させうる熱量、そして全てを焼き斬る炎の刃!

 そのまま奴の首筋目掛けて振り抜くと、炎が飛刃となってサフィニアの頸目掛けて飛翔する。


「な、なッ! ぐッ」


 今頃慌てても遅い。

 炎の刃は頸を護る様に掲げた片腕を容易く斬り飛ばし、首筋に確りと食い込んだ!


「くッ、こ、このようなものぉおおおぉぉぉッ!」


 必死に足掻いているようだが、火之迦具土神は決して逃れられない炎の断頭。


「あぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 奴の腕はまだ再生していない、新たに斬られた腕は尚更だ。

 止めとばかりにもう一つの炎の断頭を創り出す。


「火之迦具――、あっ」


『オドが三割を切りました。生命維持のため緊急救済処置を終了します』


 ……しまった。

 あと少しだったのに……。

 急激に力が抜けていく。腹の傷は既に完治しているため即、死にはしないのが救いだろう。

 結局、運命誘導のスキルは何だったんだ? このまま死ぬのが俺の運命だと言うんだろうか?


 炎の刃はサフィニアの首に半分ほど食い込んで止まっている。

 最後の一手が足りない。

 俺にはもう火之迦具土神が使えない。

 だが、諦める訳にはいかない。

 運命がどうこう言っている場合ではない。運命なんざ自らの手で切り開くもんだッ!

 奥義が出せないのなら、この身で炎の刃を押してでも奴の首を飛ばすのみ!

 俺は奴に近づき、首に食い込む炎の刃を抑え、押し込んでいく。


「き、貴様ぁああああああ――――ッ!」

「ぐぅうううぅ。さっさと両断されてしまえ――ッ!」


 今一つ力が足りない。

 あと少しの力で均衡が崩れるのに、俺に残った力では止めの一押しには足りないのかッ!


「く、そっ、おぉぉぉぉ」


 ありったけの力を込めるが、やはり足りないのか。


「ぎゃぎゃ、ガンバルだぎゃよッ!」

「!!!」


 そこには死んだと思われたホワィがいた。

 ホワィは俺と同じように炎の刃に手を添えて力を込めていく。

 徐々に押し込まれていく炎の刃に、焦りを見せるサフィニア。

 最早声も出せないのか、ぜぇぜぇと苦しそうな呼吸音だけが響いてくる。


「「おおおおおおおぉぉぉぉぉ――――!!!」」


 渾身の力を籠めて押し込むと、遂に女鬼人の首が宙に舞ったッ!

 力なく倒れるサフィニアの身体を見て、やっと終わったのだと実感する。


「はぁはぁはぁ、やった、やってやったぞッ! そ、それにしてもホワィ、死んだと思ったぞ。生きていて本当に良かったよ」

「ぎゃ、攻撃された瞬間に影に潜っただぎゃよ。心配してくれただぎゃ?」

「当たり前だろ! 仲間なんだからな」

「ぎゃぎゃぎゃ」


 どこか照れくさそうに俯くホワィ。

 そんなホワィを横目に見て、涼葉の戦闘を確認する。

 ああ、涼葉も苦戦している。早く加勢に行かないと……。



  ◇◇◇◇◇



 ボクの相手はミルトニアとかいう女鬼人なんだよ。


「キャハハッ。うけるんだけどぉ、この人間、鬼人であるウチに勝てる気でいんの。そもそもの能力値が違うってぇのによぉお! 真面目に相手するのも馬鹿らしい程の差があんのッ! そんな事も分かんない雑魚にウチは倒せないっしょ。キヒヒヒッ」

「うん? キミはバカなのかな? ボクは君より強いよ?」 


 負け惜しみじゃないよ。だって、ボクには頼もしい仲間達がいるからね。

 仲間の力を借りればおバカな鬼人一人倒すのは容易いんだよ。

 正直に言って、この鬼人さんはそれ程強くないと思ってる。だって、頭悪そうだからね。

 だからリョカ達はまだ温存中、いざって時まで隠しておくんだよ。


「ああぁん、ムカつく女だなぁ、ちょっと調子に乗り過ぎなんだけどぉ!」


 ちょっと挑発しただけで、ほら、冷静さを失ってるんだよ。

 感情のコントロールもできない、そんな相手は容易く罠に引っかかるんだよ。


 ミルトニアが殴り掛かってくる。

 単純な動作なので簡単に避けれるけど、その速度はバカにできない程に速かった。

 あと僅かでも回避が遅れればボクの頭は吹き飛んでいたかもなんだよ。

 それでも、当たらなければ意味ないよね。

 ボクも直ぐに反撃に移るんだよ。


冥閬院流(めいろういんりゅう)()()・残光ッ!」


 冥閬院流(めいろういんりゅう)でも最速の抜刀術で頸を狙う。

 ミルトニアはそれを余裕だと言わんばかりに片腕で防ごうとする。

 けどボクは、抜刀しきったところで技をキャンセル、腕を引き刺突へと切り替える。

 ボクの持つ銀の剣だと、抜刀術には向かないからね。速度がどうしたって落ちちゃうんだよ。

 そんな技では鬼人を捉えられない、だからキャンセル、見せかけだけのフェイクってことで。


「穿楊ッ!」


 強烈な刺突には最適な角度とタイミングが必要、どちらもバッチリ。

 これなら直刀でも問題なく威力を発揮する。

 狙うは腕を上げ隙を作った大きな的の胴体。

 彼女がこれを防ぐには、ボクの刺突を上回る速度で回避するか、腕を犠牲にする覚悟で盾とするしかないんだよ。でも、角度もタイミングも完璧、防ぐも躱すも不可能。

 更に、ボクの穿楊はそんなに甘くない。

 腕で防いでも貫通させるし、今から躱すには遅すぎる。

 驚くミルトニアの、ガラ空きの鳩尾に刺突が突き刺さる。


「うぎゃあぁぁッ!」


 銀には退魔の力が宿るってのは昔からの言い伝え。故に鬼にも特攻効果が期待できるんだよ。

 悲鳴を上げるミルトニア、やっぱり特攻効果があったのかな?

 彼女の胴体から刃を引き抜き、続けて技を繰り出す。

 痛みに悶え隙を見せたミルトニアの脳天目掛けて剣を振り下ろす。


「ちょ、調子に乗るなぁ――ッ!」


 彼女は振り下ろされた刃を殴りつける様に弾き、そのまま踏み出しボクにまで拳を振るう。

 お腹に風穴を開けられて尚その動きは反則なんだよ。

 ボクは彼女の動きに合わせる様に後方へと跳ぶ。


「テメェ、調子に乗り過ぎなんだよッ!」


 腐っても鬼人なんだよ。彼女から凄まじい程の闘気が湧きあがってきた。


「テメェに見せんのは勿体ない気もするけどぉ、絶望を味合わせてやりたいから見せてやるよぉ。ウチの切り札をねッ!」


 闘気を燃やした彼女は、大地を力一杯殴りつける。それだけで彼女の周りの大地が悲鳴を上げ陥没しちゃったんだよ!

 陥没した次の瞬間、殴りつけた大地から一振りの剣の柄が現れたんだよ!


「キャハハッ、死んだよテメェ。コレはねぇ、本当だったらテメェみてぇな雑魚が拝める代物じゃねぇんだよ。こいつぁウチ等鬼人族の切り札とも呼べる代物なんよ。ってことで、拝んだなら潔く死ねッ小娘がッ! こいっ、異域之鬼――ッ!!!」


 勢いよく柄を引き抜くミルトニア。

 彼女の両手には岩で出来た巨大な剣が握られているんだよ。


 ――この剣は鬼人族の切り札、自らの属性に合わせた武具を自然の中から創り出す奥義。

 結果的に使わなかったが、サフィニアにもこの奥義は扱えた。彼女の場合は氷の槍を創り出すものだったが、創可を見下していたサフィニアは終ぞ使わなかった。

 この奥義には、自らを上回るエネルギーが蓄積されており、持てば戦闘能力を大幅に高めることが出来た。故にこの奥義を披露するには相手を自分より格上だと認定していることが条件となる。

 尤も、この時点で涼葉も創可も知らない事ではあるが。――


 ミルトニア自身よりも遥かに強大な力を感じるんだよ。

 巨岩の剣を携えるミルトニアは、決して侮れない存在へと変貌しちゃったんだよ。

 もう強くないなんて言えない。あの武器一つでボクの勝率が目に視えて減ったと思っていいんだよ。


「キャハハッ、今頃後悔しても遅いつぅーのッ!」


 彼女が巨岩の剣を振るう、ただそれだけで大気は唸り、岩をも砕く激風となってボクを襲う。

 咄嗟に後退するけど、激風の効果範囲が広く逃れられないッ!

 身を丸め、護りの姿勢に入る。どうあってもコレは躱せないし防げない!


 ――ッ!


 どうしよう、ボクは創ちゃんを残して死ぬわけにはいかないのに――ッ!




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