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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
3章
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東門でのやり取り

 東門を護るのはマーシャル・ディオンの役目だった。


 東門は入組んだ場所にあり、木々に囲まれ密林となっている。そのため目立たず、敵に所在を掴まれ難い。

 門と言っても、門ではなく扉が1枚設置されているだけの出入口でしかない。

 しかし、扉は分厚い鋼鉄製の頑丈なものだし、いざという時のために二重扉にもなっている。

 護る面積が狭くそれでいて頑丈であるため、護るに易しと言える場所ではある。


 そんな門前にポツリと1人立つマーシャル。


「正門の方は大丈夫なのかね? 俺もそっちに行きたかったぜ」


 南を向き独りごちるマーシャルだが、誰も聞いてはいない。

 それもその筈、この場に居るのは彼1人だけだからだ。


「やれやれ、俺1人でここの警護だなんて貧乏くじ引いちまったな」


 敵を警戒するには余りに少なすぎる。たとえ人手不足であったとしても、これでは有事の際に対処しきれるものではない。最低でも報告と補助の人員があと2人は必要だろうとマーシャルは考えていた。

 この場にマーシャルを配置したのは伊志嶺暁識(いしみねさとる)だ。暁識はこの門を重要視していたが、人手が足りずやむなくマーシャルの【隠蔽】に頼ることになったのだ。

 マーシャルには可成り高度な【隠密】や【隠蔽】のスキルがあり、扉を隠し戦闘を避けるには彼が最適だと判断された。寧ろマーシャル以外は邪魔になりかねないとの判断だ。


「にしても、こんな寂れた場所に敵さんは来るんかね?」


 来ては欲しくないという願望を込めてゴチる。が、皮肉にも返る言葉が響いた。


「ああ、それが来ちまうんだな、これがっ」


 マーシャルの心臓が跳ね上がる。

 油断していた訳ではない。しかし、敵の存在に接近を許したことに今の今まで気づけなかった!


「いやー参ったね。おたくも貧乏くじ引いたクチかい?」


 内心の驚きと焦りをおくびにも出さぬよう気を付け、存在不明の敵に問いかける。

 軽口で話しかけつつ敵の居場所を探る。


「そーなんだよ、オレもよ、正面から堂々と攻めたかったんだぜ、ホントわよぉー」


 相手も軽口で返してくる。


「ハハハッ、そりゃこっちは手柄は少ないからねぇ。おたくはなんだってこんな所に?」


 声を頼りに視線だけを動かし確認していくが、どうしても見つけることができない。


 マーシャルは【路傍の石】という役割を割り振られた人物であり、誰もが彼に無関心の筈だった。最初の内は仲間内ですら認識されずにいたという。

 【路傍の石】とは誰もが気にも止めない存在だと神に決めつけられた存在だ。だが、この見えならざる敵は正確にマーシャルを認識していた。現在まで魔王にしかそれは成し得なかったことだというのに。 


「手柄は有るんだぜ。秘密裏に侵入できる場所が分かれば大手柄だ。だがよ俺は強い敵と戦いたい訳よ。なのに魔王様がよ、オレに命令するんだわ、侵入場所を見つけて来いってよ! ここそうだろ? ったくよ、このオレに将校斥候させるとは、とほほだぜ!」


 将校クラスの 敵だということが分かり緊張は否応なく高まる。

 将校斥候とは、精密な情報を取得するため将校自ら部隊を率いて行われる偵察部隊のこと。

 この敵1人で部隊の仕事を全てこなす1人部隊なのか、それとも他にも敵がいるのか分からない。

 そうなるとこの場を離れるのは危険だ。伏撃される恐れがある。

 急いで仲間達に報せる必要があるが、下手に騒げばその瞬間に殺される可能性が高い。

 マーシャルは自分の実力にそれなりの自信を持っている。しかし、魔王軍の将校クラスに敵うと自惚れている訳でもない。


「ははっ、将校に偵察か、魔王軍は人材不足なのかい?」


 人材不足は寧ろ時勇館の方だと思いながらもマーシャルは問う。

 マーシャルとしては少しでも情報を引き出したい。可能なら魔王軍の具体的な総数、将校と呼ばれる実力者の数は引き出したいところだ。


「いや、そうでもないぞ。魔王様は広く人材をかき集めたからな。ただ、な、あの魔王様は何事にも全力なのさ」


 この時点で魔王軍の総数はかなりの数だろうと予想できる。


「お互い、無茶な上司がいると苦労するよな。おたくの代わりが居ないのは泣けるね」

「まったくだぜ。と言いたいところだが、代わりは居るんだぜ、オレより有能な魔物は多い」


 本当の話なら驚異的だ。真実だとするなら、マーシャルを見つけ出せる程の魔物が魔王軍には多数存在することになる。

 この敵よりも上の実力者が多数存在するとなると時勇館はかなり不利な状況だと言える。

 時勇館には奴の隠密技能を有している者は居ない。同時にマーシャルを見つけ出した索敵能力にも同じ事が言える。


「へぇ、おたくよりも有能ねぇ、そりゃ信じたくねぇなぁ。もしそれが本当なら俺達は勝てそうにないかぁ。因みにあんたより有能ってのはどんなんだ? おたくも相当な実力者なんだろ?」

「んん? ああ、オレもそれなりだと自負しちゃいるがよ、オレなんか中の中だぜ。ったくよ、やってらんねぇよな、あそこは次から次へとバケモンが現れやがる」


 悩むマーシャル、話が事実ならば時勇館には既に敵が侵入していてもおかしくはない。

 ベキがその気ならマーシャルに気づかれることなく侵入できていた。そのベキよりも有能だというなら侵入できて当然だ。侵入していたとしてもマーシャルには気づけない。

 逆にこの話が嘘であった場合、相手にとってもマーシャルは警戒せざるを得ない存在となる。だからこその虚偽となる。

 姿を見せないことから、マーシャルを警戒していることは想像できるが、何らかの別の目的があるのかもしれない。


「おいおい冗談よしてくれよ。仮にもおたくは将校なんだろう? それなのに中の中ってのは納得いくもんじゃあないよな」

「魔王軍に階級なんざ存在しない、オレが将校扱いってのは言葉のあやさ。お前さんこそどうなんだ? オレにはそれなりの上位者に映るがよ、こんな所で小さな扉を護ってる人物にゃあ見えねぇよな?」


 マーシャルは返答に困る。

 人材不足であることを知られる訳にはいかない。かと言って自身も時勇館では下っ端に過ぎないと、とぼける訳にもいかない。


 この局面で下っ端1人に護らせる門など在る訳がない。もしそうなら、マーシャルは捨て駒として門前に立たされているだけの存在で、門の奥には罠がごまんと存在すると思われるだろう。

 一見メリットがありそうだが、その場合マーシャルは即座に殺され罠の確認に扉を潜られてしまう。そうなれば罠などないことがバレ、この扉は格好の侵入口になってしまう。

 この敵の侵入に気づける時勇館メンバーなど既に正門にて死闘を繰り広げている事だろう。

 では、1人で十分な実力が有るからだと嘯くのも無理がある。

 その場合、確実にマーシャルを殺せる人材を連れて来られて終わりだ。その後大量の魔物が押し寄せて扉は突破される。


「…………、俺か? 俺は……」


 正直に答えるのが無難か?

 マーシャルがこの場に居るのは扉を隠し戦闘を避けるためだ。

 素直にその話をしたらどうなるのだろうか? 決まっている、戦闘になる!


 マーシャルは考える。彼等がこの場に現れたのは、正門以外の侵入箇所を見つけるため。

 密かに侵入したいのか、攻撃箇所を増やし防備を分散させたいのかは分からない。が、時勇館にとって、どう答えようと不利になることに変わりはなかった。


 なら、マーシャルのとる行動は一つだ。


「おたくのような存在を倒す為にここに居るッ!」


 マーシャルは素早く戦闘態勢に入る、この期に及んで戦闘は避けられない。

 先手を取りたいところだが、敵の居場所は未だに把握できない。なら、相手に攻撃させてソレを元に場所を特定するしかない。


 出来ることなら魔術の一つでも派手に打ち鳴らし敵の存在をアピールしたいところだが、マーシャルにはその手の魔術は使えなかった。

 この状況を仲間に伝えるには、相手に派手な魔術を使わせる必要がある。その為には挑発し続けることが大切だ。

 マーシャルの存在を看破された時点で時勇館は危機的状況なのだ。多少の無茶はしてでも仲間達に知らせる必要がある。


「はっ、魔王軍の中程の実力なら大したことはないなッ! こそこそ隠れるだけの存在なら、俺1人で十分だッ!」


 言葉を発した瞬間、パシュと小さく短い音がマーシャルの鼓膜を揺らした。






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