表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
3章
64/78

VS 銀狼

 うそっ、ボクたち2人がかりで銀狼1人に攻撃が当てられない! 風に舞う煙の如く飄々と躱されてくんだよ。

 フィカスが背後から殴りかかり、銀狼はそれをお辞儀の要領で躱す。下がった上半身を斬り上げるボクの太刀も素早く状態を戻し避けられちゃう。

 その時にはフィカスの蹴りが正面から迫る、更にボクの斬り返しも! でも、躱されちゃう。


「どうされましたか? 準備運動など無用です、本気で掛かってきてください。それともまさかとは思いますが、それが全力ですか?」


 なっ、バッカにしてッ!

 挑発なんだと分かってはいてもあったまにくるんだよぉー!


「やぁあああぁぁ───!」

「おぉおおおぉぉ───!」


 銀狼の余裕の態度はどうやっても崩せない。まさかこれ程の実力差があるなんて思ってもみなかったんだよ。鬼人のフィカスだって銀狼の動きに翻弄されちゃってる。


「人狼なんぞに負けてる場合じゃねぇんだよッ!」


 フィカスが火系魔術を連射して距離をとった。強力な魔術を放つための準備に入ったんだと思う。

 なら時間稼ぎはボク仕事なんだよ。


「せっ、やー、残光ーッ!」


 創ちゃんが得意とする最速抜刀術!

 狙うは余裕こいてガラ空きの首元、それでもスレスレで躱される。

 速いなんてもんじゃない、今までにこれ程躱され続けた相手は居なかったんじゃないかな?

 少しでもこいつに時間を与えると大魔術の術式を組まれちゃうから手を止めることはできない。大魔術だけは阻止しないと。


「もっかいッ!」


 再度の残光。

 この残光を上回る速度は奥義以上でないと出せない。

 つまり、この抜刀術を躱されるなら最早奥義を使うしか勝筋が無い。


 ――――ッ!!!


 あろうことかこの銀狼やろー、残光を片手で止めて刃を握り締めちゃったんだよ。


「ちょ…」


 う、ビクともしない。パワーじゃ相手にもならないんだよ。


 ボクの扱ってる刀は“幸御魂(さちみたま)”って言うんだよ。先代の折られちゃった銀の剣の代わりに創ちゃんが妖刀と幸運のお守りを対価に【等価交換】してくれた刀なんだ。

 この刀を折られる訳にはいかない! だって、創ちゃんがボクの幸せを願って交換してくれた大切な宝物なんだから!


「は、な、せー、井氷鹿(イヒカ)――ッ!」


 絶対防御発動。

 でも、実はイヒカは防御技ってだけじゃないんだよね。

 イヒカは氷のドームを創って身を護る奥義なのは間違いないんだけど、このドームを形成する冷気には崩壊の力が宿ってるんだよ。触れたモノ全てを凍らせ崩壊まで導くのが極意、ちゃんと攻撃にも使えるんだよ。


 ほら、ボクの幸御魂を掴んでた腕から急速に凍り始めた。

 凍結するその速度はとても速い、瞬時に全身へと至る。筈なんだけど、この銀狼は即座に自らの腕を斬り捨てて距離をとっちゃったんだよ。

 それでも遅かった、既に致命的なまでに凍り付いてる。身体全体が凍結し崩壊寸前にまでなってるんだよ。

 片腕は砕け、身体中にヒビが生じ、所々がパラパラと欠けていく。

 まだ生きてるのが不思議なんだよ。どんな生命力してんのかな? G? Gなの?


 銀狼は辛うじてまだ自らの足で立っている。けど、時間の問題、放っとけば直ぐにでもバラバラに砕けてしまうんだよ。

 それなのに、そんな状態なのに、銀狼の放つ存在感が揺るがない。此方を圧迫する程の気配が薄れない!


「よくやった! 準備は整ったぜ、そのまま氷の中にいろよ涼葉ッ!」


 フィカスの準備が完了したみたい。

 何をするのか知らないけど、このままイヒカの中にいろってことは、広範囲に及ぼす攻撃魔術なんだろうな。


「これで眠れクソッタレな銀狼がぁ、獄炎魔術『ジオクリムゾン』ッ!」


 第三位階の魔術が解き放たれる、それは視界を埋め尽くす前方へと向かう炎の津波。

 巨人すら軽く呑み込まれちゃいそうな大規模な炎が津波となって大地を駆けて行くんだよ。

 見るからに超高温の波が大地を奔り紅く染めていく。


 ……ところで、水蒸気爆発は大丈夫なのかな?

 水が急激に蒸発することで爆発的に体積を増やすっていうあれ。

 ここ銀狼が火災鎮火のために放った冷気が、先の連射された魔術の熱で溶け水気でたっぷりなんだけど?


 ええっと確か、1g=1㎤の水が蒸発するとその体積は1700㎤に膨張するんだよね。

 水蒸気爆発は摂氏250℃以上の物体が水に接触することで起こるんだっけ?

 確かお風呂の水180リットルで水蒸気爆発を起こさせると、97㎏のTNT爆弾並みの威力って師匠が言ってたんだよ。これは爆心地から数百mに渡って衝撃波が走るモノなんだとか。

 それに温度や圧力、条件次第で威力は跳ね上がちゃっうんだったっけ。


 …………。


 うん、どんな原理なのか分からないけど、大丈夫。

 そうだよね、炎が発生した時点で爆発しないなら大丈夫なんだよね?


 ……違うね、うん、現実を見よう。


 周りは衝撃波で軒並み吹き飛ばされてるんだよ。メテオ的な魔術で炭化した樹木が銀狼の冷気で凍りついてたんだけど、見事に消し飛んでるんだよ。

 ボクはイヒカのドームの中で一切被害を被ってないけど、爆発は炎が生じた後で起きてたんだ。

 酷い自然破壊なんだよッ!


 けど、こうでもしないとアレは倒せないってことかな。


 崩壊寸前の銀狼に炎の津波が容赦なく迫るんだよ。

 でも……、


「『多重魔術(マルチマジック)』『術式強(ストレング)化魔術(センマジック)』『アイスウォール』『パーフェクトヒール』『エフェクト・アビリティオール』」


 もはや死に体の銀狼が魔術を連続使用! なんでそんな力が残ってんの!?


 自身とフィカスとの間に巨大な氷の壁を三壁築かせ、朽ちかけた肉体を完全に癒し、強化魔術を己にかける。

 信じられない! もう決着が着いたと思った矢先にこれなんだもん。


 フィカスの放った炎は氷の壁と激突する。また爆発? と、思ったけど今度はホントにしなかった。

 なんでなのか分からないけど、氷からだ水蒸気爆発は起きない?

 炎の津波は氷の壁を一枚二枚と消失させ、最後の一枚を半壊させて力尽きちゃった。


「今のは危なかったですね。お嬢さんに致命傷を負わされるとは思っていませんでした。侮ったことをお詫びいたします。そして鬼人の彼の魔術も素晴らしいものでした。あれ程の術式をあの短時間に構築する技術は見事と言う他ありません。鬼人にしておくのは惜しいですね」


 こいつ、先の水蒸気爆発で完全に崩壊しててもおかしくなかったのに!


「ちっ、こいつ、パーフェクトヒールで完全回復しやがった!」


 砕けた腕まで綺麗に再生しちゃったんだよ!

 折角あれだけのダメージを負わせたのにぃ!

 あともう一歩力及ばなかったんだよ。

 ボクはイヒカを解除して戦闘態勢へと移る。って、やっぱり外気が熱いや。


「それでも、優先すべきは鬼人ではなくお嬢さんの方でしたね!」


 話を振られてハッとする。

 気づけば目の前が銀に染められてる! 一瞬、ほんの一瞬のうちに間合いに入られた!

 視線を逸らした訳でもないのに、気づいたら眼前に銀狼が立ってた!

 慌てて回避行動を取る。

 寸でで頬を掠め鋭い爪が通過する。でも気づけば既に腕が引き戻されてるんだよ。

 動作そのものが速すぎるッ!


「ち、俺は無視かよッ!」


 舐めてんじゃねぇと奮起するフィカスが仕掛ける。


「異域之鬼、 来やがれ相棒、炎帝鬼ぃ――ッ!」


 使用者たる鬼人の属性をもった武具を生み出す異域之鬼、名を炎帝鬼と呼ぶらしい。

 フィカスの属性は火だから紅蓮の刀が生み出され握られているんだよ。

 ボクと銀狼の間に入り刀を振るうフィカス。

 でも、刀は空を斬る。

 銀狼はフィカスが刀を振るうと同時に、ボクの背後に回っていたんだよッ!


「先程の技は打ち止めですかお嬢さん?」


 馴れ馴れしくお嬢さんと連呼しないで欲しいんだよ!


「キミこそ魔術は使わないの――ッ!」

「俺を無視すんじゃねぇ――ッ!」


 イヒカなら確実に倒せるけど、使わないのは確実に捉えないといけないから。

 イヒカはその場に固定されるから、こっちから当てにはいけないんだよ。

 奥義は消耗が激しいから無駄打ちはできない。


 必死に攻撃を避けては反撃にでるけど、素早さを活かしヒットアンドアウェイを繰り返す銀狼を捉えられない!

 自分より遥かに素早い相手に勝つには、自らが動いてはいけない。自分が動けば相手の速度に翻弄されちゃうから。相手から近づいてくれるならそこを狙う。

 ほら、来たッ!


 再び視界いっぱいの銀毛、と同時に残光の最速の抜刀術をっ!

 もっかい握ってくればイヒカの餌食、でも銀狼はそんな馬鹿じゃない。


 キィーンと甲高い音を立てて魔力障壁に止められちゃう。

 ほんの小さな、直径1cm程の小さな障壁に止められた!

 一瞬の驚愕、その隙を見出した銀老が吠える!


「さあ足掻いてみせなさい、――――ッ!」


 至近距離からの魔術、対応するには速度が足らないんだよ!


「テメェこそ足掻けやッ!」


 そこにボクを護るように割って入ったフィカス!


「『ダンシングアイス』ッ!」

「【牽強傅会(オレニシタガエ)】ッ!」


 銀狼の放った魔術は、拳大の氷の固まりが標的の周りをビュンビュンと飛び跳ねるってもの。

 でもそれはフィカスの牽強傅会(オレニシタガエ)により防がれた。


 フィカスの特殊技能牽強傅会(オレニシタガエ)は、システムが機能していれば固有スキルに分類されるこの技能、それはこの場で死した者をゾンビとして蘇らせるもの。

 正直なところこの技能は使って欲しくないんだけど……、死者への冒涜なんだよ。でも、その死者達に助けられたのも確か。


 ボクの思いとは裏腹に、この場で死した茶や赤の人狼達がわんさかと蘇っては銀狼へと向かう。

 ゾンビは全てフィカスの支配下なんだよ。


「なんと悪趣味な……、同胞よ、死して尚辱められる憐れな者達よ、今楽に逝かせてあげましょう『アイスジャベリン』ッ!」


 銀狼の足元から次々と飛び出してくる氷の槍が、ゾンビ達を串刺しにして凍りつかせてくんだよ。

 凍ったゾンビはそのまま砕けて消えちゃった。


「隙ありだぜ【鬼焔月彩(きえんがっさい)】ッ!」


 ゾンビに気を取られた銀狼の見せた一瞬の隙を突き、フィカスが仕掛ける。

 大上段からの振り下ろされ、刀身に灯る炎が月を象る。

 でも、


「『アイスウォール』ッ!」


 銀狼は透かさず護りのための魔術を放ったんだよ。

 自身を囲む三枚の氷の壁が出現し、フィカスの斬撃を受け止める。

 パシュシュッと音を立て止められちゃうけど、刀身は高熱を発し氷を徐々に溶かしていくんだよ。

 何度も何度も斬撃を叩き込むフィカスがふと何かに気づいたみたい。


「ちい、涼葉っ、第四位階を使う気だ、止めろッ!」

「ええ、分かったんだよッ!」


 銀狼は氷の壁で時間を稼ぎ術式を組んでたんだよ!

 第三位階ですらとんでもない自然災害、その上となると何としても止めないとッ!


「やぁあああぁぁ――ッ、火之迦具土(ヒノカグツチ)ぃ――ッ!」


 温存なんてしてる場合じゃない、奥義を連発してでも止めないと!

 氷の壁を斬り飛ばしたボクは、そのままの勢いで銀狼へと飛び込む!


「涼葉、よくやった!」


 フィカスも負けじと飛び込み、


「ヒノカグツチッ!」

「【鬼焔月彩】ッ!」


 ボクとフィカスの斬撃が銀狼の両肩に深く喰い込む。

 確実に致命傷なんだよ、急所を的確に斬り裂いてるんだから!


 ――――勝った!


「グフッ、ハァハァ……、『アブソリュート……、ゼロ』」


 油断かな?

 勝ったと思い気が緩んだのかも? そりゃそっか、イヒカで死なないんだから油断するべきじゃなかったんだよ。


「バカヤロー、下がれッ!」


 フィカスに後襟を掴まれて後退、地面に放られて尻餅をついちゃったんだよ。

 当のフィカスはボクの前で正眼に構えて最大火力で刀身を燃やす。


 そうか、フィカスはボクを護ってくれてるんだ。と、今更ながらに理解するんだよ。

 フィカスの発する熱がボク達を膜を張るように包み込んで銀狼の放つ冷気から護ってくれてる。

 辺りは瞬く間に凍りつき氷が地面を覆っていく。

 生物が生きていけない絶対零度の世界がそこにはあったんだよ。


 全ての原子運動が停止し、周りは静寂に包まれる。

 大気に含む水分すら氷りつき白銀の世界へ。

 一呼吸吸うだけで肺が凍る。

 超電導現象を引き起こし、電気抵抗がゼロに。

 全ての動きや変化がないため、時間さえも意味をなさず凍りつく。


『おい、涼葉、イヒカを使え! 長くは持たねぇぞ!』


 はっ、フィカスからの念話だ。何を呆けてるのかなボクはッ!


 くっ、イヒカ───ッ!


 氷のドームが冷気を遮断してくれた。

 でも、一歩でも外へと出れば瞬間に凍りついて死んじゃうんだよ!


「ち、このままここに居ても奴に回復の時間を与えるだけだ。どうにかこのドームを動かせねぇのか?」

「今のボクじゃ無理、師匠クラスなら出来ると思うけど、まだ未熟なボクにはできないんだよ」


 申し訳ないんだけどね。

 千載一遇のチャンスを身を護る事で棒に振っちゃうんだから。でもしょうがないんだよ、死んだら意味ないからね。


「くそ、俺の炎帝鬼と涼葉のヒノカグツチを頼りに飛び出してみるか?」

「外が絶対零度の世界なら建御雷(タケミカヅチ)が有効だと思うんだけど? ここから上手く使えるかは分かんないや」


 外は超電導現象が起きてるはずだから、電気抵抗値はゼロ。雷撃であるタケミカヅチなら100%の力を相手に叩き込めるんだよ! 多分、雷耐性すらもつき通す筈なんだよ。


「いや、雷撃は止めておけ。制御できるかが不明だ、下手したら自爆も考えられる」

「そっか、じゃ、やっぱりヒノカグツチで熱の幕を張って接近するしかないのかな? ……あっ、ここからさっきのメテオ何とかでどうにかならないのかな?」


 イヒカのドームから出るのは不安があるんだよ、できれば安全に事を進めたい。


「それは無理だな。既に絶対零度は展開された後だ、『メテオ・トラジェディー』の発動と同時に熱を奪われ消えちまう」

「う~ん、じゃあやっぱりヒノカグツチでいこう!」


 ええい、女は度胸! やってやるんだよッ!


「よし、俺の炎帝鬼の熱は短時間なら持ち堪えるのは実証済みだ。全ての力をお前を護るために使う。トドメを差すのはお前がやれッ!」

「うん、分かったんだよ」


 一二の三で飛び出す。

 流石に奥義の連続使用で体が重く感じる。でも、弱音を吐いてる場合じゃないんだよ。

 2人の最大火力で熱を生み続け、凍る大地を駆けて行く。

 銀の世界で相手がよく見えないけど、確かに前方に二人の人狼の気配を感じ取ってるんだよ。


 ……ってあれ? 二人?


 意識を失い倒れる銀狼の傍らに、そっと寄り添う1人の女性が見えた。

 彼女は、とても大切そうに傷ついた銀狼を抱きしめてるんだよ。


 ————はッ!


「ちょ、ちょっと待ってフィカス――ッ! たんまたんまッ!」


 ボクと並走するフィカスに待ったをかける。


「はぁ、この状況で待ってられるかよ!」

「彼女のお腹お腹ッ!」


 銀狼に寄り添う女性は、体格に見合わずポッコリとお腹が膨れてるんだよ。


「ち、妊婦かよ…」


 仕方なしと足を止めてくれるフィカスくん、既に二人の目の前なんだよ。

 やっぱりフィカスは優しい、出会った頃のフィカスだったら二人共問答無用で斬り殺してたと思うんだけど……。


「優しいんだね」

「け、赤子に罪はねぇ」


 照れたのかそっぽを向いちゃう。

 それを見て、女性が声をかけてきたんだよ。


「どうか、なにとぞ彼を許しては頂けないでしょうか? 手前勝手なこととお思いになられるでしょうが、全てはわたくしのため、我が子のために成したことなのです」

「本当に勝手だな。こいつが殺めた人間にも子は居たんじゃねぇのか!?」

「その通りです、お怒りはご尤もでございます。ですので、この子を産み落としたその後に、わたくしの命を差し上げます。どうかわたくしの命一つでご容赦願いたく存じます」

「はぁ、馬鹿かテメェ、そりゃ産れたばかりの赤子を見捨てる行為だろうがッ! 母親なら自立するまでは面倒みやがれってんだ! 赤ん坊にはなぁ、母親が必要なんだよ!!」


 フィカスが人情的なこと言ってるんだよ。最近フィカスが人間っぽい。でも、言ってることチグハグしてない?


 で、彼女から詳しく話を訊くんだけど、この場所は寒い、ってか死んじゃう。イヒカを再びってのも考えたけど、維持してるうちに力尽きちゃうんだよ。

 だから、魔術の効果を解除してもらうことにした。

 彼女は白狼みたい、回復魔術を得意とする種族なんだよ。瀕死で意識を失っている銀狼を回復させて魔術効果を切って貰ったんだけど、それでも寒いのなんの、フィカスの炎帝鬼の熱と魔術で周囲を温めてもらったんだよ。


 さて、彼女は白狼のヤツキと名乗ったんだよ。因みに銀狼はバクヤだそうです。

 事の発端を端的に言えば、妊婦に必要な栄養が足りなかったんだって。

 そりゃそうだ、茶狼や赤狼があんなに居たんだからこの森の食料なんて喰い尽くされちゃってるんだよ。

 で、魔物にとって最高級な栄養素、人間の集まる村を発見、捕食しようと考えた。

 あの大勢での移動は不可能、何より妊婦を動かすのは危険だと判断したからとかなんとか。

 長期的にでも栄養を確保しようと生贄という形をとった。一気に捕食しちゃうと次がないからね。で、今に至ると。


「食糧難かよ。元々俺も人間を捕食してたから人のことは言えねぇか」

「そもそも何で鬼人が人間に味方している?」


 バクヤの疑問も尤もなんだよ。


「腐れ縁? それとも成り行き? としか言えないかな?」

「そんな事はどうでもいいんだよ。肝心なのはこれからどうするかだろうが」


 食料がないなら移動するしかないんだよ。けど何処に? 都合よく見つかるかな?

 今は茶狼達はもういない。2人ぐらいならなんとか食料を確保できるのかも知れない。けど、確実とは言えないかな?


「もう日が暮れるんだよ。そうなればシステムは復旧して人間は魔物を狩りに出るかも。そうなれば何処へ行こうと、バクヤは大丈夫だとして、妊婦のヤツキや生れてくる赤ちゃんは無事な保証はないよね?」

「私はどうなっても構わない。が、妻と子は護りたい」

「…………一つ、心当たりがなくもない」


 およ? フィカスはいい場所を知っているらしい。


「ダンジョンだ」


 ああ、元々いたダンジョンなら食料になり得る魔物も居るし、こう言っちゃなんだけど、攻略しに来る人間もいるのか。


「いえ、わたくし達のダンジョンは既に攻略されて機能しておりません」

「ああ、機能していないダンジョンは不安定だ。野良の魔物が棲みつくぐらいでしかない。子を育てるには適していないのです」

「ちげぇよ、お前等のダンジョンじゃねぇ。こいつのダンジョンだ」


 とボクを指差すフィカスくん。

 って、ボクのダンジョンッ!!

 あ、その手があったか。あそこには無限に沸き立つ餌場があるし、危険は一切ないんだよ。


「確かに、ボクのダンジョンなら安全で安心だね」


 2人の人狼の頭の上に?が見える気がする。


「ああ、ボク、ダンジョン持ちの【ダンジョンコア】なんだよ」

「「ええッ!?」」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ