僅かな休息
「ぐ、う…ぅ……」
俺が気がついたのは完全に明るく日が昇った時刻。
昼にはまだ時間があるのか太陽はまだ東に傾いている。それでも、随分と長い間意識を失っていたようだ。
離れた場所からは戦闘音が引切り無しに聞こえてくる。
身体は動かないが何とか首だけを捻り視線を向けると、巨大なスケルトンと戦うバルサムと藤瀬の姿が見てとれた。
「くっ、お、俺も……」
参戦しようとしても、俺の体は未だに自由には動かせないらしい。
バルサム達は善戦していた。既に長時間戦い続けているだろうに、自身へのダメージは最小限に抑え、相手へは最大限のダメージとなるよう計算された動きを維持している。
ジャイアントスケルトンの体はボロボロと崩れる。
しかし、破壊された身体をオストードッグ達が集まり自らを材料として繋ぎ合わせ再生させていく。
何度もそんなことを繰り返してきたのだろう、ジャイアントスケルトンの体は歪な形に変形している。
「お…れは、ひつ…よう……ないな」
素直に見学していよう。
ジャイアントスケルトンの再生能力ももう限界のようだし、オストードッグももういない。
勝負は放っておいても負けることはないだろう。
俺は再び意識を手放した。
…………
………
……
はっ!
ここは? 今は何時だ? あれからどうなった?
再び目を覚まして見たものは、見たこともない天井だった。
直ぐに理解する、何処かの建物の中で休まされたのだろうと。
耳には賑やかな喧騒が届き、楽しげな人々の笑い声が行き交っている。
喜びの声は絶望からの解放を意味している。どうやらジャイアントスケルトンは無事に討伐できたと考えていいだろう。
「う…、あぁ~」
身を起こし身体を伸ばす。
「ああ、起きたか創可殿」
バルサムが部屋に入って来て声を掛けてきた。
「調子はどうだ? 可成り無茶をしていたのだろう?」
「ああ、ありがとう。大分良いよ」
バルサムから話を訊く。
バルサムは藤瀬と二人でジャイアントスケルトンを倒した。その後、拠点の崩された防壁を地魔術で修復したそうだ。
そうしたら住人達に多大な感謝を送られたと喜んでいた。
魔物のバルサムに対してもちゃんと礼が言えるのは本当に心から感謝しているからだろう。
そのまま祭りのような状態になっているそうだ。この喧騒はその為だという。
因みに現在の時刻は夜中の2時だそうだ。
「う、俺は結構長い時間眠っていたんだな」
「仕方がないさ。人の身であれだけの技を連発したんだ、体に掛かる負担は計り知れない」
バルサム達鬼人族と初めて会った時には、こんな背中を預けるに足る仲になるなんて思ってもいなかった。
あの出会いは決して良いものとは言えないが、今となって思えば運命的な幸運だったのかも知れない。
「ありがとな、バルサム」
「ふん、何を今更。ほら、食料を貰って来た、食べるがいい」
祭りとやらで貰って来た食べ物を俺によこすバルサム。
それらをむしゃむしゃと口に運びながら疑問を口にする。
「そう言えば藤瀬はどうしたんだ?」
さっきから姿が見えない。
「外で皆と酒を飲んでいる。なんでもここに来るのは初めてではないらしく、知人と話をしたいと言っていたな」
藤瀬とはそれ程親しい訳でもないから別にいいのだが、この地を離れる前に挨拶だけでもしておかなくては。
「あと一日でシステムが復旧するのだったな。明るくなり次第女神家へ帰るか? それとももう少し進むか?」
「ああ、そうだな、戻ろう。みんなが待っているあの家へ」
日が昇るまでにはまだ時間がある。それまでゆっくり休んでなるべく早く戻ることにしよう。
二日の工程だったが皆が恋しく思う。それは命懸けで戦ったからだろうか、それとも普通にそう思うものなのだろうか?
こうして俺達は女神家へと帰還するのだった。
その後衝撃的な報告を受けるとも知らずに。