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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
3章
61/78

再開

 勇者である俺里山優斗は、

 従者河合隆成、

 鳥田の勇者蓮池恋鞠、

 調整役の白崎賢人、

 あと路傍の石的なマーシャル・ディオン、

 の、4人を連れて鳥田防衛基地まで来ていた。再度ルシファーから虎車を借りての移動だ。到着したのは深夜になってしまったがな。


 聖女である伊志嶺美織を連れていないのはシステムが働いていない今、危険な目に合わせる訳にはいかなかったからだ。美織はなくてはならない存在だからな、万一があってはたまらない。

 恋鞠の友である知地理茉子(ちちりまこ)とその彼氏大守龍護(おおもりりゅうご)を置いてきたのは時勇館の護りを固めておくためだ。守護者の龍護が居れば大抵のことは何とかなるだろう。


 魔物は人間を獲物と考えている。

 食せば高カロリーを確保できるし、何より知識や能力を多少なりとも吸収できるらしいからだ。魔物が現地の言葉を理解し喋れるのはそのためだと云われている。

 システムが停止している今が魔物にとって最大のチャンスであり、人としては絶対に被害を抑えておきたい事態なんだ。

 俺?俺も危険? 俺はほれ、勇者だからな、どんな時でも弱者の味方な訳だ。危険だろうと行ってやるってのが勇者ってもんだろ? それは恋鞠も同じことだ。


 兎に角だ、俺達は時勇館メンバーと女神家(おみながみけ)の連中とで手分けして少しでも被害を減らそうと回ってる訳だ。


「安心したよ。この辺りは魔物の被害ないみたいで良かったね、恋鞠」

「そうだね賢人。って、ここにはもう人が居ないから当たり前なのかな」


 魔物は人を目指して移動しているからな。

 既に全員が避難済みのこの場に魔物が現れる可能性は低い。

 更に言うなら、魔物を排出するダンジョンが機能していないからってのもある。


「おいおい、だからって気を抜くんじゃねぇぞ。油断が命取りになるご時世だからな。何処に何が潜んでいるか分からねぇぞ」

「ははっ、そうだね。僕も少し気が緩んでたみたいだ」

「うん私もだよ。でも、真剣にやらないとホントに命を落としかねないからね。そんなのイヤだよ私」

「うん、気を付けよう。今はシステムが使えないから魔術も低級のものしか使えないんだよね。恋鞠はどうなの? 魔人としての力は使える?」


 恋鞠の奴はシステムが停止しても確りと魔人だったらしい。


「ある程度は使えるよ。でも、やっぱりシステムが有ると無いとじゃ違うかな」


 こいつ等付き合ってんのか? バカップルがイチャつきやがって、見せつけんじゃねぇよ!

 俺だって美織が居れば、って、何対抗してんだか。


 それよりも確かに魔物の気配は感じ取れない。が、システムが停止している今、俺自身の感覚を信じて良いのか分からない。だってよ、システムが開始するまで気配を探るなんてしたこと無いからな。

 それはこの場にいる誰だって同じだろう。

 武術オタクだった創可達ならいざ知らず、俺達は普通の学生だったんだからよ。


「ねぇ恋鞠、優斗さんもこっち来て見てよ。何か見慣れない物があるんだけど?」


 少し離れた場所を指差し白崎が言う。


「見慣れねぇもんだぁ?」


 皆で集まりライトを照らしてみると、そこには確かに見慣れない物があった。


「あれ? こんなのここを出る時は無かったよね?」

「うん、見たことないよ。なんなんだろう?」

「優斗、これはなんなんだ?」


 俺が知るかよ。隆成の奴、俺が何でも知ってるとでも思ってやがるのか?

 美織の兄である伊志嶺暁識(いしみねさとる)を連れてきてれば何か分かったのかも知れないが、今は居ない。ってかいつもいない。

 まあ奴は時勇館のまとめ役だから仕方がない。


「さぁな。見たとこ何かのオブジェみたいに見えるけどな」


 俺達の視線の先にはケーブルで繋がれたガラスケースの中に不気味なオブジェのようなものが宙に浮かんでいる。

 オブジェの大きさは一辺が1m位の立方体、その中に同じく一回り小さな立方体が収まっている。

 そして、内と外の立方体が常に入れ替わるよう流動している。


「これ……、超立方体って奴じゃないのかな? 昔映画で見た気がするよ」

「なんだそれ?」


 恋鞠は超立方体が出ていた映画の話をしてくるが、詳しいことは分からないそうだ。

 そんなものが何故ここにあるのか謎だ。


「映画の中だと、人を襲っていたんだけど……」


 物騒な物体だな、いったい誰がこんな物をここに置いたんだ? 破壊しておいた方が良いのか?

 マーシャルが一歩前へでてまじまじと見つめる。


「何のためのモノなんだろうね。これ自体になにか意味があるんだろうけど……、別段特別な何かを感じるってことは無いかあ」


 もしこれが只のオブジェなら特に気にする必要もない。だが、何らかの装置なら詳しく調べる必要があるだろう。


「う~ん、これ動いている以上エネルギーを使ってるよな? その源はなんなんだ? もし危険な物ならエネルギー供給を止めればいい。多分このケーブルだよな?」


 前までエネルギーって言ったら電気だよな、だが今では魔石からエネルギーを抽出しているのが主流だ。

 今でも電気を使うには使うが、供給されている訳ではない。もっぱら自己発電で賄うか魔石を使うかだ。太陽光発電、水力発電、風力発電が主流だな。珍しいもので重力発電かな。

 あと魔術で電気を作る事もできるが、どれでも言えるが蓄電できなければ効率は良くない。

 小さな拠点では魔石も取るのも難しく苦労していることだろう。


「念の為、エネルギー供給止めとくか?」

「何もわからな状況でそれは危険だよ」

「だよな、じゃあ取り敢えずは放置でいいんじゃないか?」


 ということで、前に使っていた部屋をそのまま使わせてもらい休むことにした。

 勿論だが見張りは交代でやる。聖女の結界がないからな、これぐらいは仕方がない。

 順番は一番負担の少ない最初の見張りに恋鞠、次に少ない最後は隆成、一度起きないといけない真ん中をマーシャル→賢人→俺の順番で交代することになった。

 そして、


「交代ですよ、起きてください優斗さん」


 賢人に起こされ見張りにつく。

 誰も居ない鳥田の拠点は寂しさを醸し出し、人の居な建物が並ぶ景色は否が応でも世界が変わってしまったのだと分からせてくれる。

 時勇館は恵まれている、時勇館は寂しさとは無縁だ。

 勇者の俺や聖女の美織が居て、それ以外でも大勢の有能な人材が揃い助け合い生きている。

 大きなトラブルと言ったものもない。昔少し近くの拠点とやり合っていたが、今はそれすらも解決済みだ。

 今も拡大し続ける時勇館はこの界隈じゃ有名だ。これからも人は集まって来るに違いない。


「このまま何事も無けりゃいいんだけどな」


 時勇館に慣れている俺は、寂しさもあり独り言を呟く。

 そんな独り言に応える者がいた。


「そんな都合の良い世の中ではあるまい」

「だよなぁ~」


 当たり前のように答えつつ内心ではギョッとしながらも冷静に声のした方を振り返る。

 そこには、オブジェの入ったガラスケースの上に座っている男が一人。


「けっ、随分とご無沙汰じゃねぇか。今までどこで不貞腐れてたんだ?」

「フッ、不貞腐れてなどいない。俺は自らに相応しい存在となるべく力を蓄えていたに過ぎない。お前こそ少しは成長したのだろうな?」

「なんだと!」


 その男は額に鋭い二つの角を持つ鬼人。

 嘗ては魔物を誰よりも憎んでいた人物であり、その頃とは比べるべくもなき強靭な肉体を手にした元人間。

 人間だった頃は時勇館にちょっかいをかけてきた拠点のリーダーで、最後には俺達との戦いの最中に憤怒の魔王として覚醒を果たした男、その名を天一翔奏(あまいちかなた)と言う。


「けっ、人間やめてまで欲した力かよ。後悔はねぇのかよ、お前の女を死なせた魔物と同類になっちまってよ」


 この話題は天一の逆鱗に触れかねない危険なワード。俺は静かに腰を落とし、背負うアスカロンの柄に手を添える。


「後悔などしたところで陽葵(ひなた)が蘇ったりはしない。全ての敵を葬り去ることであいつへの手向けとする」


 陽葵とは天一の彼女だった女性だ。

 天一は彼女を魔物に殺され魔物を憎んでいる。その魔物の王の一人になってしまったんだから皮肉と言う他ない。哀れだとは思うんだけどな。


「じゃあ魔物を駆逐して回ればいいだろ? 人間はその娘の敵じゃねぇんだからよ」

「フッ、ハハハハ――ッ」


 あ? 何だこいつ、イカれたのか? あ、いや、こいつは元々イカれてたわあ。


「確かに陽葵からしたら人間は敵ではなのかも知れない。だが、それでも俺からしたら人間は明確な敵だ、駆逐する対象でしかないッ!」

「だよなぁ、魔王だもんなお前。人に害する意思なくして魔王にはなれないようだしな、結局はテメェは俺達の敵ってこったッ!」


 勢いよく背中のアスカロンを抜くと、天一の奴が片手を上げて静止を促してきやがった。


「待て、そう急くな。俺に戦う意志はない」

「はぁ、舌の根の乾かねぇ内に何言ってやがんだッ!」

「聞け里山優斗。今のお前がどう足掻こうが俺には勝つことは不可能だ。言っただろ、俺は力を蓄えたのだと」

「はぁあ、そんなもんやってみなきゃ分かんねぇだろうがッ! この場を逃れるための言い訳にするつもりかよ。俺だって強くなってんだよッ!」


 俺は天一の静止を無視してアスカロンを振り上げる。が、


 ————————!!!


 次の瞬間、気付けば俺は幾体もの魔物に囲まれていた。


「…………」


 いつ現れたのか分からなかった、反応できなかった。


「なにも力とは俺自身のものだけとは限らない。そいつ等は俺に敗れ軍門に下った俺の配下だ。俺の力だ」


 俺の正面に立つは巨体から四本の腕を生やした巨熊。

 右には狼を二足歩行させた狼男。

 左には上半身は人間だが下半身は蛇の女。

 背後には俺の背丈よりも若干低い巨大蜘蛛。

 そして、更に背後から現れたただならぬ気配を放つ竜人の少女。

 この竜人、別格の気配を放っていやがる。実力はこの五体の中でダントツなんだろうな。


 その竜人の少女が鈴を鳴らすかのような澄んだ声で口を開いた。


「ねぇねぇお兄ちゃん、この人間は殺しちゃダメなの?」


 なんとも物騒な少女だこと。


「まぁ待て。里山優斗よ、俺達とゲームをしないか、お互いの陣営の存続をかけた命懸けのゲームを?」

「ああん? ゲームも何も、そもそも俺達はお互いの命を懸けた殺し合いしてんだろうが!」


 俺達は元々敵同士なのだから殺し合うのは当然だ。わざわざゲームと言うのには理由があるのか?

 ゲームだというならルールが必要になる。

 天一の奴は「ゲームさ」と短く答え、そのルールを説明しだす。


「ルールは簡単、お互いの陣営から最強の五名を選別し、サシでの勝負を行う。勝った者は負けた者が生きているのならその者を自陣に加えることができる。死んでいるのなら死体を奪うか、他のものを一つ敗者から奪う。人物でも武具でも好きなものをな、但しその場合はメンバーに入っている者は除くものとする」


 争奪戦をやろうってのか。


「全滅させればゲーム終了だ。勝者の陣営は敗者を自陣に組み込むことになるが、裏切りを避けるために、事前に魔術的契約を交わして貰う。所謂隷属の魔術だ」

「な、ふざけんなッ! 誰が好き好んで仲間にそんな危険なマネさせられるってんだよ!」


 わざわざ仲間にそんな危険なことをさせなくても、安全に拠点を防衛していればいい。

 拠点には聖女の聖域がある、聖女がいる俺達に魔物は手出しできないんだからな。俺達にとって何の魅力もメリットもない話なんだ。


「危険なマネと言うが、そのまま戦争するよりも余程安全であると言えるだろう? 俺達には聖女の聖域を破る能力があるからな」


 !!!


「言ってなかったか? 俺達には聖域や結界を破る能力がある。それを考えればこのゲームに乗るメリットは大きいと思わないか?」


 馬鹿な、聖女の聖域を破れるだと!

 もしそれが本当なら確かにメリットはある。危険に晒されるのが五名だけなんだからな。が、それは奴等がルールを守ればの話だ。


「ゲームが終わった後にお前等が攻めてこない保証はどこにもねぇじゃねぇか」

「それも契約の魔術を使おう、俺達が勝ってもそれ以上は襲わないと。俺は戦力を欲しているだけだからな。時勇館程度なら例外的に殲滅は見逃してやる。世界を滅ぼそうとも時勇館には手を出さんさ。言うなれば今後、時勇館は世界の安全基地となる」


 …………これは乗るべきか? いや、でも魔王の言うことを鵜呑みにはできない。


「どの道、この提案を蹴るというのなら俺達は全戦力を以て時勇館を潰しに行くぞ。俺の配下は各地に散らばっている。今直ぐにでも時勇館を襲わせることが可能だ。あの辺だとリッチの担当だったか?」

「テメェ、脅す気かよ」


 奴の言が真実ならば、それは時勇館の終焉を意味する。

 正直、聖域が破られるなら、こんな化け物共から時勇館を守り抜く自信なんて持てない。


「…………なぁ、一つ訊いても良いか?」

「許そう」

「テメェのケツに敷いてるそれって何なんだ?」


 超立方体とか何とか言っていたアレだ。


「フッ、こいつか? こいつは簡単に言ってしまえば永久機関だ。無限の魔力(マナ)を生み出すための装置、俺達は暫くこの地を拠点にして活動することにしたのでな。設置させてもらった」

「ちっ、とっとと破壊しとくべきだったか」

「それは無理だな。こいつは今の俺でも破壊は不可能だ」

「どうやってんなもん造ったんだよ」

「造ったのではない。出たんだよ、ガチャでな」


 厄介なもん出しやがって!

 無限にマナを生み出し続けるってんなら、この場で戦うのは不利でしかない。

 システムが無くても、システム以上の力を出しかえねねぇ。


「安心しろ、勝負は明後日システムが復旧してからで良いだろう。場所は時勇館の近くに広場があった筈だ、そこにしよう」

「…………分かった。ゲームには乗ってやる。但し、メンバーは時勇館所属でない者も含ませて貰うぞ」

「ああ、好きにしろ」


 そう言い残すし天一とその配下は消えていった。


 くそっ、好き放題言って居なくなりやがって!

 皆を叩き起こし、急いで時勇館に戻らないとな。

 不安でしかねぇが、魔王天一の戦力を削るチャンスでもある。もし女神家(おみながみけ)の連中を引き入れることができれば勝ったも同然だ。勝機は十分にある。


 俺は自分にそう言い聞かせ皆を起こに走るのだった。




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