亡霊襲撃
俺はバルサムと共にリョカの分身体を疾駆させ西を目指す。
南は海だし東は鳥田へと続く道だ。
鳥田までの道程にある拠点は既に盗賊の手によって亡ぼされている。3日間ではその先にある拠点までは救えないかもしれない。よって北と西に別れることになった。
分身体の影移動を駆使した全速力は速く、半日も経たずに鳥田に倍する距離を駆け抜けることができた。
チラホラと魔物とも遭遇したが、発見した次の瞬間にはもう後方へと流れていった。まるで新幹線から観る景色のようだった。
暫く全力で駆け、程なくして魔物の群れに襲われる小さな拠点を見つけた。
山の麓に設置された拠点で人口はぱっと見、数十人。非難している人も含めてもそう多くはなさそうだ。
木材を組み合わせて作られた1.5m程の高さの防壁、柵と呼んだ方が妥当だろうか、を拵えている。
それはあまりにも頼りなく、内側から住人達が必死に貧相な槍を突き差し侵入を防いでいる姿が見えた。
「ふむ、ギリギリ間に合ったと言えるか」
「ああ、急いで助けよう! 今は未だ持ちこたえてるようだけど、長くは持ちそうにない」
拠点を襲っている魔物はオストードッグと呼ばれるらしい骨の犬だ。
そのオストードッグが数十匹が群がり襲っている。
大型犬位の大きさで、鋭い牙は猛獣と言うよりはサメの様なノコギリ型だ。物を食べるためではなく、獲物を噛み千切るためだけの歯なんだろう。
骨の体故に的が狭く、突く槍では苦戦を強いられている。薙ぎ払えばマシなのだろうが、柵の内側からではそうはいかない。
今のところ侵入を抑え犠牲者は出ていないようだが、急いで骨の犬を片付けよう。
「助太刀する!」
「誰かは知らないが有難い。感謝する!」
俺の乗るリョカの分身体が大きく前足を跳ね上げ、そして踏み下ろす。
一体の骨犬を踏み潰しバラバラにして、分身体から飛び降り腰の燭台切光忠を抜きもう一体を斬り刻む。
防壁の外から現れた俺達に標的を移したオストードッグが一斉にカコカコと音を鳴らし飛び掛かってきた。
「私を無視してもらっては困るな!」
バルサムが俺の背後から飛び出て、持っていた槍で薙ぎ払う。バラバラとなった骨が辺りに散乱する。
俺達はそのままの勢いでオストードッグの殲滅を開始した。
……………
………
…
「いやぁ礼を言うよ助かった。正直もう駄目かと思ったよ」
「ここの主力は首都を目指して行っちまったから本当に助かった、有り難うよ」
骨の犬を殲滅した俺達に礼を言ってくる守備隊の人達。人々に囲まれ鬱陶しくもありまた嬉しくもあった。このまま立ち去るのが心苦しくもある。
「ここにはシステムが無くても戦える人はいないのか?」
バルサムが一歩前に出て言う。
「ここには3人の猛者が居ましたが、今は首都の上空に現れたダンジョンを目指して出ていきました」
「システムが有れば俺達でも防衛は可能だろうと行ってしまったんです。まさかその後にシステムが停止するなんて」
首都に向かった3人とは入れ違いか、或いは……、道中で魔物に襲われた可能性は十分にあるな。
「って、あ、あんた! あんた人間じゃねぇじゃねぇーか!」
「ま、魔物だ、魔物が入り込んだぞ!!」
バルサムの容姿に気づいた人達が騒ぎだした。
鬼人はパッと見は人間と変わり無いが、よく見れば特徴のある容姿をしている。
口には牙が、爪は攻撃的に尖り、額には角が生えている。よく見なくとも角を視界に入れれば分かってしまうか。
「ふむ、如何にも私は魔物に分類される鬼人だ。だが人間よ慌てる必要はない。私はバルサム、此方の御方、剣南創可様の従魔だ」
バルサムが騒ぎだし距離を取ろうとする人々に、トンデモ設定を即興で口にする。聞いてねぇよ!
聞いてないけど、話を合わせないことには混乱を招くなこりゃ。
「あ、ああ、彼は俺の従魔だから貴方がたを襲う心配はない」
この場はバルサムを従魔ということにして場を凌ぐ。本来は涼葉の従魔じゃないのか?とも思わなくもないが……、ああ、従魔って訳でもないのか。只の修行仲間だと言う訳にはいかないか。
住人達は落ち着きを取り戻したので詳しい話を訊いた。
拠点の人達から訊いた話だと、1人の剣士と2人の魔術師がいたが出かけてしまったという。
彼等はここの拠点の防衛の要で、今までは彼等に頼り切っていた部分もあったとか。
破格な報酬のミッションに釣られて天空ダンジョンを目指していったそうだ。
それなりの実力を持った3人だったそうだが、かなり危険な状況じゃなかろうか?
最悪剣士は何とかなるかもしれない、しかし、魔術師はシステムが無ければ魔術が使えない可能性がある。剣術と違い魔術はマナと呼ばれる未知の力を使うからだ。マナを理解しなければ魔術は使えない。
剣士とて魔術師2人を護りながら戦うのは難度の高いことだろう。
「それは心配だな。あの程度の木の柵では心許かろう。私の魔術で補強しておこう」
バルサムが木製の防壁に向かって手を伸ばし、魔術を発動させる。
地面から土が沸き立つように盛り上り、貧相な木製の防壁を補強していく。
最終的には高さ2.5m程に、厚さは50㎝程になった。
住人達はバルサムが鬼人であることも忘れたかのように喜び、涙を滲ませて彼に礼を述べていた。
彼等は「ウチの主力たちが戻って来る時までここに居てくれないか」と必要に迫られたが、他にもここと同じような拠点があるだろうからと断った。
「残り二日半、システムが復旧するまで頑張ってください。補強された防壁なら易々と突破されることはないと思いますが、油断しないように気を付けて」
俺達はリョカの分身体による影収納からある程度の食料を譲りその場を後にした。
泣きながら手を振る住人達に見送られ、彼等が視界の外へと移動した所で影移動で再び全速力で駆ける。
そんな事を二三繰り返した後、これまでとは違い大きな拠点に出くわした。時は既に真夜中になっていた。
そこには広い土地の周りに高さ5mはあろうかという防壁、そしてその上には弓を構えた弓兵が並んでいた。
巨大なライトで闇夜を照らし警戒している。が、あれは返って魔物を呼び込まないだろうか?
周りにはまだ魔物の姿は見えないが、何時襲われても良いように備えてはいるようだ。
「ここの準備は万全って感じだな。ここは飛ばすか?」
「いや、良く見ると壁に亀裂が数ヶ所見て取れる。ここのトップと話をして補強はした方が無難だろう」
そう言って防壁の門へと向かうと両脇に2体のゴーレムの様な石像が立っていた。
ゴーレム、何処ぞの有名なゲームを思い起こさせるフォルムだ。
「ふむ、この拠点には、いや、ここまで来ると既に都市と言ってもいいか、ここにはゴーレムを駆使して戦闘を行えるロール或はジョブの持ち主がいるらしいな。尤も、システムが停止中の今、真っ当に起動するのか怪しいところであるが」
時勇館では戦闘訓練にゴーレムを使っていると訊く。その防衛版と言ったところだろう。
「俺達のようにシステムが無くてもスキルをある程度使える人物が居てもおかしくは無いよな。どうする? 近づいたら動き出して問答無用で攻撃されないか?」
もし近づく者を自動で迎撃するように命令されていたなら無暗に近づくのは得策ではない。
ここを無理して護る必要性もなさそうだし、スルーしても良いんじゃないだろうか?
迷っている俺達に、防壁の上から声がかけられた。
「おいッ、そこの魔物を連れた怪しい奴、何者だ! 用なく近付けば敵と見做すぞ!」
並び立った弓兵が俺達に向け矢を番える。何時でも射殺すと殺気を撒き散らし身構えている。
「ああ、驚かせてしまってすまない。俺達はシステムが停止して困っているだろう拠点を巡っている。ここが魔物の襲撃に困っていないようならこのまま通り過ぎる積もりだ」
「そうするんだな。ここは困ってはおらんし、怪しい奴を招き入れることはできない!」
そう言われると退散するしかないな。しかし、忠告だけはしておこう。
「分かった。俺達はこのまま進む。防壁に幾つか亀裂が入っているようだ。魔物の居ない今の内に補強しておいた方がいいぞ」
「必要なら私の魔術で外から補強しておいても良いが」
「要らぬお世話だ! とっととこの場から去るがいい!」
感じが悪い、無理にこの場を助ける必要もない。険悪になる位ならこのまま立ち去った方が良策だろう。
この場を立ち去ろうと踵を返すと、正面に見慣れない人物、いや、あれは魔物だろうか?
ダンジョンで慣れているからか、システムが無くても夜目が利く俺の視界に映る怪しい人物。
その魔物は人型をしているが、そうではない。あれは死人、言い換えればゾンビだ!
肌は爛れ変色し、瞳は白濁とし濁り、死臭を放つゾンビ。何故ここまで接近されるまで気付かなかったのか?
「ゾ、ゾンビだ! あいつ等ゾンビを連れてきやがったッ!」
ゾンビにスポットライトが当てられる。
「射てぇーッ! 奴等を門に近づけるなぁー!」
げ、一斉に矢が放たれる。雨の様に矢が降ってくる! それも、ゾンビではなく俺達を狙ってるのはどういうことか!?
「まて、俺達は敵じゃない。誤解だッ!」
俺は振り返り光忠で矢の雨を切払う。背後からはゾンビがゆったりと近づいてくる!
ゾンビは1匹見たら30匹はいるGの様にワラワラと闇の奥から集まりだした!
「ち、各方、矢を射る相手を間違えるな!」
堪らずバルサムが叫ぶ。
降る矢は雨のようだが、迫るゾンビは波のようだ。既にその数は30など等に超えている!
「くっ、このままじゃ挟み撃ちだ! バルサム、ここは撤退しよう」
「いや、これはチャンスかもしれん。我等でゾンビ共を倒せば信頼を得られる。尤も、信頼は得ても他に得るものはなさそうだがな」
確かに彼等の態度は悪い、助ける価値があるのかと問われれば首を傾げてしまう。だからといって見捨てるには忍びない。
「この矢の雨の中ゾンビとどうやり合う?」
「矢は利用すれば良い。上手くやればゾンビの動きぐらいは鈍らせられる。……それより気を付けろ、ひ弱な人間の免疫では傷を付けられれば、そこから細菌に感染し死に至るケースも少なくない」
ゾンビの細菌か、嫌だな。
感染症を起こした場合、消毒程度での治療では完治は難しいと言う。治療には直ぐに局部を焼くか斬り落とす、或は強い魔力で押し流す必要があるそうだ。
他者に頼るなら浄化の魔術やスキルを掛けてもらうのが手っ取り早い。
更に無念の想いを抱き死ねば、その者が死後にゾンビ化する可能性もあるとか。
ゾンビ自体の攻撃力は低いらしいが、厄介な敵である事には変わりが無いとのことだ。
軽く説明した後バルサムはゾンビへと向かい駆け出した。俺も飛んでくる矢を気にしながら慌てて後を追う。
バルサムは最初に接敵したゾンビの胸を槍で貫くが、既に死んでいるゾンビにはその程度のことは致命傷にはならないようでそのまま直進しようと動いている。
バルサムは身体を突き刺さしたまま前進するゾンビを片手で持ち上げ、地面に叩き付ける様に落とす。どんな膂力してんだよ!
すかさず槍を引き抜き首を刎ねた。それでもゾンビの動きは止まらない。
おう、ゾンビとはG並みの生命力があるのか? 既に死体であるゾンビには不適切な表現だろうか?
「流石にしぶとい。聖女の美織殿がこの場に居れば一掃できるんだが……、居ない者を頼っても仕方がない」
言って新たなゾンビを槍で器用に細切れにするバルサム。流石に細切れにされたゾンビはもごもごと動くだけで襲っては来れないようだ。これは後で焼いてしまおう。
バルサムの言う通り聖属性のスキルや魔術を使える美織なら纏めて浄化できるかもしれない。しかし、システムが停止している今、それらが使えるかどうかは定かではない。
この場に居もしない、それもシステム停止中で使えるかどうかも分からない者に頼る訳にはいかない。俺も傍に寄って来たゾンビの首を一刀のもとに斬り伏せる。
「ん? あれ? バルサム、首を刎ねたゾンビがピクリとも動かないぞ!」
バルサムが屠ったゾンビとは違い、俺が斬ったゾンビは身動ぎ一つしない。少し様子を観察してみたが動く気配はない。
「いや、それはその刀の力の影響が強い。創可殿の刀に宿る力は聖女のそれに近いモノがあるからな」
え? 確かこの燭台切光忠を受け取った時に師匠が退魔の力が有るとか何とか言っていたが、それのことだろうか?
試しにもう一体のゾンビの、今度は胴体を斬ってみる。うむ、動かない。
やはりこの刀の退魔の力が作用しているようだ。
って、そんな事を確認している間に、ゾンビの数が増えていく。
おいおい、どんだけ集まって来るんだよ! 気づけば100体を超えているぞ。
ゾンビを相手に奮闘しだした俺達を見て防壁上の番兵くん達が騒ぎ出した。
「あ、あいつらゾンビに攻撃しだしたぞ!」
「敵じゃないのか!? 本当に救援に来ただけなのか?」
弓兵達の誤解が解けたか?
「気を抜くな! そう思わせるための演技かもしれんぞッ!」
疑り深い奴がいるな。
相も変わらず矢は飛んだ来るが、数は減ってきている。上手いことゾンビを盾にして逃れる。
それにしてもゾンビの数が倒しても倒しても何故だか減ってこない。
俺とバルサムで既に数十体のゾンビを行動不能にしているんだが。
「創可殿、このゾンビ共、おそらく、召還している者がいる」
バルサムがゾンビを縦に一刀両断して言う。
「その者を倒さない限り際限なく湧き出してくる。早めに見つけ出さねばいくら弱いゾンビだからとて命取りになりかねんッ!」
確かにいくら斬っても動きを止めず、細切れにしても新たに現れる。このままではキリがない上に体力が持たない。何より気持ちが悪い!
召還している者か、何処だ!? 何処に居る!
「あっ、居た、居たぞバルサム。正面奥にローブを被った怪しい奴が召喚陣を描いている!」
目を凝らすと遥か遠く、随分と距離があるが真正面に陣取るローブ姿の人物を発見する。
その者、黒いローブにすっぽりと覆われ一切の容姿が確認できない。唯一つ、奴の右手に握られている大きな杖が目に留まるだけだ。
描かれた魔法陣から新たなゾンビが次々と現れ、魔法陣は消えた。
「創可殿、奴はおそらくリッチだ。魔術に長けたアンデッドモンスターであり、自分よりも下位のアンデッドを支配下に置ける軍団長だ。支配下に置いた者を指揮する高い知能を有する厄介者だぞ」
「ってことは、このゾンビ共はアイツの兵隊ってことか」
「そうなるな」
俺達が話しながらゾンビを蹴散らしていると、防壁の上から悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「うげぇー、あいつ、リッチじゃねぇのかッ!? こんな所になんでいやがる!」
「この辺は別に墳墓なんてものも無いのに出てくんじゃねぇよッ!」
「こないだ西隣りの拠点を潰したのが強力なアンデッドだって聞いたぞ! おい、アイツのことじゃないのか!?」
隣の拠点が一つ潰されているらしい。
それにしても、こないだってことはシステムが作用して尚潰されていることになる。それだけで強敵だと分かる。
「西隣ってことは名御夜か、 巨大要塞じゃないか! そこには確か勇者や名のある猛者が何人も居たんじゃないのか!?」
「ああ、居たがあっけなくやられたらしいぞ」
「終わりだ。俺達ここまできて殺されるのかよ」
あいつ、勇者を殺ってるのかよ! ってか、勇者って何気に多くね? 既に4人目なんだけど? 極希少な役割って何なんだ?
「くそっ、住人達をシェルターに避難させろ! どれだけ持つか分からんが、シェルターが保ってる内に追い返さないとここも全滅だ!」
「矢を有りったけ持って来い! システムは、魔術はまだ使えないのか! ゴーレムさえ動かせればッ!」
上でアレコレと指示が飛ぶ中、「あの人達が倒してくれねぇかなあ」とか「ああぁ、ウチの英雄様達、早く帰って来いよぉ~」と言う情けない声も聞こえてくる。た、他力本願な奴がいる。そんなんだから強くなれないんだぞ。
「創可殿、早急に手を打たねばこの場はアンデッドで溢れ返る。ゾンビ共は無視してリッチを狩るのが先決だ。道は私が作る、創可殿はリッチだけに専念してくれ」
俺が頷くとバルサムが駆け出し群がるゾンビ共を左右へと吹き飛ばしながら突き進む。
左右へと宙を舞うゾンビ共。俺は言われた通りに開いた道を走り何時でも抜刀できるように身構える。
リッチとの距離がみるみる縮まる。
あと数m、そしてバルサムの姿が不意に消えリッチの前に障害となるものは無くなった。
一刀のもとに斬り伏せる気概で光忠の柄を強く握った。その時、俺とリッチとの間に赤く光る魔法陣が現れた!
————!!!
赤い魔法陣からオレに向かって何かが凄まじい勢いで飛び出してきた。
それは俺に認識させることの出来ない速度で体当たりをかましてくる。
咄嗟に抜刀して防いだが、勢いは殺せず後方へと吹き飛ばされてしまった。
一体何が?
両足で大地を掴み勢いを殺し、俺を吹き飛ばしてくれたモノの正体を探る。
それは、巨大な骨の化物だった。
巨人の骨で出来たスケルトンなのだろうか?
奴は魔法陣から腕だけを伸ばし、迫る俺を吹き飛ばしたようだ。
今は全体像がハッキリと見える。
全長10mはあろうかという巨体、太く硬い骨で形成された肢体、骨のくせしてこっちを見て笑ったように感じるしゃれこうべ。
マズい、この巨体は防壁を越えてしまう!
「大丈夫か創可殿!?」
俺に声を掛け、バルサムは横合いからリッチに向かって駆け出していた。
だが、これもまた阻まれることとなった。
バルサムに向かって今度は包帯を全身に巻いた人物が魔法陣から跳び出し迎撃したからだ。
「ち、今度はマミーか。だが、只のマミーではないな!」
マミーの手には自身を超える大きさの大剣を携えていた。
その大剣を受け止めたバルサムの槍が、あっけなく砕かれる。
「ちぃ、死者のくせに小癪なマネをッ!『ファイアボール』」
バルサムの前方で爆発が起きる。
一方俺の方はジャイアントスケルトンによって道を阻まれていた。
リーチに差があり過ぎて手の打ちようがない。が、こいつを防壁まで行かせる訳にもいかない。
冥閬院流の奥義を使えば倒せるかもしれない。だが、システムの補佐がない今、奥義の無駄打ちはできない。恐らく打てても一、二度が限界だろう。
躊躇ったのがいけなかった。
俺は巨大な拳に吹き飛ばされ防壁へと叩き付けられることとなった。
あまりの衝撃に防壁に大きな亀裂が出来てしまったようだ。
口の中に鉄の味が広がっていく。
「く、……そっ」
意識を手放さないよう強くを歯を食いしばり、光忠を杖替わりに立ち上がる。
目が霞む、息が上がる、力が抜けていく。
それでも諦めることなく巨大な骨を睨みつける。
そんな時、
「おぅおぅ、随分と苦戦しているようだな、剣南創可」
うそだろ? ここでこいつが現れるのかよッ!