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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
3章
55/78

修行2

「勇者様、これでいいですか?」


 俺の前で弟子の如月昴(きさらぎすばる)がブンブンと音を立てて三節棍をぶん回している。コイツは剣よりも三節棍の才があったようで、剣よりも此方を伸ばすことにした。


「上手、上手、いい感じだよ昴くん」

「うん、小さな体でちゃんと様になってるよ」

「へへへッ、ありがと恋鞠ねぇちゃんに賢人兄ちゃん。ところで勇者様の意見も聞きたいな?」


 蓮池恋鞠と白崎賢人の2人が俺達の修行風景を傍らで座りながらパチパチと手を叩いて見学しいる。

 恋鞠には昴の修行の合間にでも相手をしてもらうために付き合って貰ってるんだ。賢人は昴に魔術の手解きをすると言って着いてきた。


「おう、筋が良いな昴。だが油断して自分の頭を打ち抜くんじゃねぇぞ」

「そんなことしな――、あたッ!」


 言わんこっちゃない、言ってる傍からぶつけてやがらぁ。

 ちょいと褒めると直ぐコレだ、照れからか手元を誤る。


「やれやれだな。よし、素振りはここまでにして標的を用意してやるよ」


 俺は予め用意していた風船を昴にフワリと投げ渡す。

 一見只の風船に見えるが、実はそうではない。


「そいつには【回避】スキルが付与されてる。昴、そいつを三節棍で割って見せろ」


 簡単に割れないようにこの風船には【回避】と【浮遊】のスキルが付与してある。棍が当たれば直ぐに割れてしまう代物だが、当てるのが非常に難しい筈だ。

 時勇館の子供たちの練習用の的として開発されたものなんだ。


 ユラユラと漂う風船は昴の振るう根の風圧に敏感に反応してフワリと回避する。今の昴の腕ではこの風船を割ることができない。

 棍が触れそうになると反発する磁石のように横に逸れてしまう風船に困惑しながらも振り続ける。

 簡単に割れるようになったら本物の魔物との実戦を経験させても良いかな。


 昴が風船に集中している間に、俺は恋鞠との手合わせしようじゃねぇか。

 同じ勇者同士での真剣勝負だ。先ずはスキルや魔術は無しだ、剣の腕だけの野試合。斬っては躱し躱しては斬る、その繰り返しだ。だが、その速度は人の常識を超えている。

 システムが適用される前では考えられない速度で撃ち合いは続けられた。


「ゼェゼェ、流石鳥田の勇者ってだけのことはあるな、恋鞠」

「ハァハァ、それは此方のセリフです。まさか魔人と化した今の私と互角に渡り合えるなんて……」

「け、今は互角でも直ぐに差をつけてやるさ。行くぞッ!」

「はいッ!」

「頑張れ恋鞠」

「いいな、俺もそっちに速く混ざりたいよ」


 ……………………

 ……………

 ……


「ああ、やってるやってるぅ。ヤッホ~こまりん」


 暫く俺と恋鞠が試合っていると、この場に恋鞠の親友である知地理茉子(ちちりまこ)が顔を出した。


「あれ? 茉子、どうしたの? 今日は龍護さんとデートじゃなかったっけ?」


 こんな時にデートかよ! 羨ましくもねぇけどな。


「うん、時勇館内を見て回ってたんだけど、途中で隆ちんに取られちゃったんだぁ」

「隆成に?」


 隆ちんとは河合隆成のこと、俺の従者だ。茉子は人のことを変な呼び名で呼ぶ癖がある。


 隆成は傲慢のスキルのせいで最近は落ち込んでいた。俺が話しかけても素っ気なく対応されて少し心配はしていたんだ。それが大守龍護(おおもりりゅうご)を誘ったってのは同じタンク役として何か感じるものがあったのかもしれないな。


「うん、剣道場の方へ行ったよ。壁役同士修行がしたいのかもね」

「へぇ、隆成兄ちゃんはタンクなんだ。俺はてっきり真っ先に斬り込む戦士だと思ってたよ」

「あながち間違っちゃいねぇな、隆成のジョブは【戦士】だからな。でもよ、どっちかっちゅうと俺のが先頭に立つことが多いから自然と壁役になったんだよ」


 隆成は俺の従者だ。先頭に立つ俺を護ろうと自然とタンクになってくれた。更に貴重な【道具箱(アイテムボックス)】の所持者で荷物持ちにもなってくれている。

 隆成は俺達にとって欠かせない存在だと今更ながらに思い知らされるな。


「へぇー、じゃあ隆成兄ちゃんは勇者様のパーティーの守護神なんだね」


 おお、本人が聞いたら泣いて喜びそうなことを言う。


「んあ、あれ? ゆ、勇者様ぁ、なんか変なの出た!」


 唐突な昴の奇声、変なのとはなんじゃ?


「あっ、ホントだ」

「なんのこっちゃ? ん? これか?」


 なになに……、システムをアップデートするのか。って、はぁー、3日間のシステム停止だと!


「おいおい、3日もシステムを停止したらどれだけの被害がでると思ってんだよ。しかも明日だと、急すぎるだろ!」

「勇者様、鳥田にはもう誰一人居ないから良いけど、……俺の村ももう潰れてるから良いけどさ、他の拠点は大丈夫なのかな?」


 この近くに拠点と呼べる場所は女神家(おみながみけ)しかないが、あそこは何があろうと大丈夫だろう。  

 元々システムのない連中が揃っている、今更システムが使えなくても関係がない。例外的に創可と涼葉がちと心配なくらいだ。

 昴が言っているのは離れた場所に点在するその他の拠点だろう。

 鳥田周辺の小規模拠点も既に無い。傲慢の魔王燦翔(きらと)の差し金で盗賊共に潰されているからだ。問題なのは、例えば首都なんかだ。


「首都はやべぇかもな。障壁に護られてるのが当たり前だと思っている連中じゃあ天空ダンジョンから降る魔物に対抗しきれねぇかもな」


 結界で護られてるのが当たり前に思っている住人達は、碌な戦闘訓練も受けず護られていると安心しきってることだろう。


「そうだよね。あの高さから落ちても平気な魔物なら強くない訳ないもんね。でもでも、首都には軍が存在するんでしょ? 軍が何とかしないのかな?」


 茉子の言う通り、確か軍的な組織を作ったとかなんとか。そんな話だったような?

  だがシステム有りきの軍など、あの天一翔奏(あまいちかなた)に匹敵すると言われる天から降る魔物達に太刀打ちできるとは思えない。システムがなければゴブリンですら強敵になりうるんだから。

 ああそうか、魔物側のシステムも停止するから魔物の方も弱体化する筈だ。3日間は地の力がモノをいってくるだろう。


「ここら辺は魔物の数も少ないみたいだけど、他の細々と成り立ってる拠点はもっと危険ですよね?」


 この辺りは時勇館や女神家(おみながみけ)の連中で定期的に討伐しているし、ダンジョンが軒並み死んでいるから魔物は極少数だ。どっかからはぐれてきた魔物がやって来る程度だ。

 だが、少し離れればそれなりに居る。細々と成り立っている場所はやべぇかもな。


「特に今は天空ダンジョンの攻略のために首都に向かって猛者達が拠点を離れて移動中だろうからな。ソイツ等だってシステムなしで魔物を倒せるかどうか分からねぇし、可成り厄介なタイミングだぜ」


 天空ダンジョンに挑むために、実力ある者は首都を目指し拠点を離れている筈。元の拠点の守備力低下は免れない。急いで引き返す奴等が続出するんじゃねぇのか?


「あ、あのぉ~」

「どしたの、こまりん?」

「私、システムの影響で種族が変わっちゃたんだけど、…人間に戻れるのかな?」

「………?………!!」


 そうだ、こいつ魔人だった!


「そうだよ、こまりん魔人さんになってたよ! どうなるの、どうするのゆうちん!」

「誰がゆうちんだ!」


 こいつ俺のことまで変な呼び方しやがって!


「どうするも何も、そん時にならねぇことには分からねぇよ。どっちにしろ関係ねぇだろ、魔人でも人間でもどっちでもいい、恋鞠は恋鞠だ」

「おっ、ゆうちん良い事言うね。こまりんはこまりんだよ。性格が変わる訳じゃないし気にする必要ナッシングッ!」


 クルクルと回転しながら恋鞠に近付き、ニコニコしながら抱きつく茉子。そんなことは些細なことだと恋鞠の頭をグリグリと撫でまわしている。


 まあ、取り敢えずは何があっても良い様に準備だけはしておかなきゃな。

 どこかから救援要請が来たときのために旅支度はしておこう。


「さて恋鞠、何時までも抱き合ってないで続きといこうじゃねぇか」

「え、ええ、でも対策しなくていいんですか? システムの停止なんて一大事だと思うんですけど?」

「だから強くなるんだろ? その為の特訓なんだからよ」

「そ、そうですね。はい、がんばります!」


 再び始まる剣戟の嵐を傍で見ているだけの茉子がウズウズと「次、私もやるッ!」なんていいだした。



 ◇◇◇◇◇



 ここは時勇館高校の剣道場だった場所、今は鍛錬場になっていて物々しいことになっている。

 壁には多種にわたる武器が並び、動く練習相手として人型ゴーレムが鎮座している。

 物言わず身動き一つしないゴーレムだが、ひとたび魔石を組み込むと予めインプットされたプログラムをこなすために動き出す。時勇館の技術者たちの合作なのだが中々の出来だ。

 インプットされているプログラムは、死なない程度に武器を持つ人間を攻撃すること、それだけだ。

 あまり複雑なのは組み込めなかったそうだ。


「すみません大守さん、折角のデートを邪魔してしまったみたいで」

「いや構わないさ。俺と立ち合いたいって話でいいのか隆成君?」


 大守龍護(おおもりりゅうご)、鳥田で守護神的な位置に居る人物で、【門番】のロールと【守護者】のジョブを持つ護りのエキスパートだ。俺の様なにわかタンクとは訳が違う。


「はい、俺、【英雄の従者】で【戦士】なんですけど、勇者パーティーではタンク役なんです。大守さんのような、皆が安心できる壁役になるためにご教授願えないかと」

「君は壁役に適したジョブでもなければロールでもないのに、どうして壁役をやっているんだ?」


 その質問は予想していた。

 俺は従者だからと答えるのが当然なんだけど、


「俺はこれまで無防備に敵に突っ込んでいく優斗の姿を見て何度、何度肝を冷やした分かりません。なら、俺が優斗の前に立ち敵の矢面に立てばそんな事も無いんじゃないのかと思いました。でも、本職と比べれば俺の守備力なんて大したことなくて、皆に心配かけてるのは本意じゃなくて。どうすれば良いのか悩んでるんです」


 そんな時に護りのエキスパートと出会ったんなら、教えを請わない訳にはいかないよ。


 優斗は目立ちたがり屋であり、自らの力に絶対の自信を持っている。そしてそれに見合う力の持ち主だ。それ故に身の危険を顧みず真っ先に敵に突っ込んで行ってしまう。優斗に何かあれば時勇館はお終いだ。


「成程な、優斗君を、勇者を護りたいから自分が壁になる、と。だが、それだけなら護りに適したジョブを持つ者をパーティーに入れる方が効率がいいが。確か居たはずだよな?」


 大守さんの言う通り時勇館にはタンク役になれるロールやジョブの持ち主も居る。だけど、俺は自分の力で優斗を護りたいと思っているんだ。小さい頃からいつも一緒だったあいつを、誰か他の人に任せるなんて俺は嫌だ。優斗の隣は誰にも任せられない!

 だが、俺にはそれだけの力がない。


「はい、でも、俺は自分であいつを護りたい、他の誰かなんて考えられない。でも、俺は……、俺は中途半端なんです。接近戦では明らかに勇者の優斗が上、回復や補佐では美織さん、遠距離攻撃は美咲さんが上、色々と手を付ける程器用でもない。もう、護る事しか残ってないんですよ、俺の居場所、役割は……、いっその事、システムなんて無ければ何も考えずに優斗の隣で今も並んでいられたのに……」


 俺の言葉は尻つぼみに縮んでいくが、か細く呟いた最後の言葉を大守さんが拾ってしまう。


「おいおい、物騒なことは言うな君は。今、システムが無くなれば俺達人類は酷い状況に陥るぞ。滅多なことは言うもんじゃない」

「はは、すみません。取り敢えず手合わせしてくれませんか? 俺の何処がいけないかその都度教えて下さい」


 こうして俺と大守さんとでの打ち合いが始まった。

 お互いがタンク役である以上、相手に攻撃させては防ぎ、防いではこちらから攻撃する繰り出す。

 流石は守護者だけあり大守さんは俺の攻撃じゃビクともしなかった。それどころか防がれる瞬間に返る衝撃が半端なく強烈だ。何か特殊なスキルでも使っているのだろうか?

 大守さんは【門番】の【守護者】だ、門を背にして本領を発揮するという。つまり、今の状況は全力を出せていないことになる。


「護り手とは相手に攻撃させても無駄だと分からせる程の防御力こそが最大の本懐。だが、君は【戦士】だ、主眼は攻め、護りは後回しで考えると良い。素早さを生かせ! 動きを止めるな! 相手を翻弄しろ! ――そうだ、そうしていれば壁として十分に機能する。上手いぞ、その調子だ!」


 俺の正面からの攻撃を受け止め指示を出す大守さん。指示の通りに体を動かすと褒めてくれた。

 俺達は只管に打ち合いを続け、次第にエスカレートしていき、スキルや魔術を使用しての打ち合いへと発展していった。


 そうだった、タンクは何も防御だけじゃなかった。速さで相手に攻撃をさせないのもまたタンクなんだ。


 俺がその考えに至った時、ふと視界に点滅するアイコンに気が付いた。


「大守さん、アイコンが点滅してますよ!」


 お互いに手を止め、アイコンを確認する。


「ああ、なに? システムの停止だと」

「なっ、俺があんなこと言っちゃったから……」

「それは関係ないだろう、気にする必要は無い。それよりもだ、スキルや魔術を使えなくなった人類はどうやって自衛しろと言うんだ!?」


 魔物が出現した当時、人は皆逃げ惑うばかりだった。

 一部の勇気ある者、また、運良く魔物を退治できた者達がシステムの恩恵に預かり力無き者を導いた。

 今回の停止では、この時の焼き回しに成り兼ねない。いや、一度経験しているから前の時よりはマシなのかもしれないが、それでも混乱は避けられないだろう。


「今度は魔物を倒してもシステムが使えるようになる訳じゃないんですよね?」


 当初は魔物を一体でも倒せばシステムがインストールされた。が、アップデートである以上、3日間はどうしても使えない。

 そう考えると前の時よりもキツイ状況下に置かれるのかも知れない?


「だが、曲がりなりにも戦闘を経験してきた人類だ、皆上手くやるかもな」

「多分ですが、ここら一帯は大丈夫だと思います。女神家(おみながみけ)の皆さんがいますし、時勇館には勇者が二人も居ますからね。あっ、その勇者が停止しちゃうのか……」

「二人共多くの修羅場を潜り抜けた猛者だ、問題ないだろう。システムをインストールされる前の状態にまで戻ったとしても戦闘経験そのものが無くなる訳じゃない」

「そ、そうですよね。多分他の拠点の人達も同じできっと大丈夫ですよ」

「その通りだ。俺達もその時のために少しでも多くの経験を積んでおこう」

「はい」


 その後俺達は居並ぶゴーレムに魔石を嵌め込み起動させ、只管に攻撃を繰り返させたのだった。




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