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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
3章
53/78

決着?

 魔王のヤツから不穏な気配を感じとったオレは、先手を打ってやった!

 頭ん中でジャネットのヤツがギャーギャー言ってやがったが全て無視だ。

 百を超える数のエスポワールを顕現させ、今やちょっとした湿地帯へと化している地上へ叩き込んでやったぜ。

 激しい爆音の連鎖と、派手に舞い散る神水が瀑布となり降り注ぐ。

 そしてトドメに魔法だ。視界に映る空間を掌握、握り潰し消し去ってやる!

 爆発の威力も爆音も、この降り注ぐ雨の如く神水も、中に潜む魔王すらも等しく平等に消えるがいい!


 オレは目一杯に掌を開き、エスポワールの投下地点へと伸ばす。


「おぉらぁ――ッ!」


 勢いを付けて開いていた掌を握り締める。

 水の一滴、砂の一粒、辺りに響く轟音さえも残さず消え失せろッ!


 結果は上々、魔王の息の根を止めるには至らなかったが、邪魔な瀑布は消し去り、隠れていた者達を暴き出すには成功した。


 ち、ジャネットのヤツがまた頭の中でギャーギャーと騒いでやがる。

 ええ、なに? 我が主のお告げを無視するなって? 主君の関係者の血縁者だとか何とかってやつだろ?

 覚えてる、無視する気なんてねぇっての。だからほら、あいつだろ?


 オレの魔法により地面は半球状に抉れて消えた。それも塵一つ舞うことなく綺麗に、そして静かに全てを消し去った。

 元は草原だった大地は魔王により湿地帯へと変わり、今では巨大なクレーターの如く大穴が空いている。

 その穴の底、中心部に巨大なスライム、まったくしぶといヤツだが大ダメージは与えた。ヤツは今動けないでいる。

 ヤツの横に並ぶ3体の力ある魔物。流石に魔王を死なせないためにも現れたようだ。

 その中に一人の鬼人が立っている。

 そいつは長身で均等のとれた女性。髪は黒く長くストレートに伸び肌は透き通るように白い。瞳は鋭く細く深紅に輝き此方を睨んできやがる。

 服装は和装、紫をベースとし金や銀なのどの刺繍が施された綺麗な着物。

 帯には日本刀を一振り帯びている、可成りの業物なんだろうな。鬼人の力は遥か上空のここまでビシバシと感じ取れる程に強い、その力に耐え得る得物に違いない。神器なのかも知れねぇな。


 ん? ああ分かってるって、あの女鬼人は殺さねぇよ。

 主君はオレのミスも自分の事の様に考え対処してくれる優しく自慢の主、そんなお方に迷惑はかけられねぇよ。

 因みにだが、主君と我が神は違うからな。主君は使えるべき主、我が神は信仰対象だ。


 あの女鬼人、オレの邪眼で覗き見れば所々が虫喰いのように空きがある。

 聖眼には高度な鑑定能力や浄化の力があるが、オレの眼はジャネットのような聖眼とは違い、事細かに詳細が見て取れるわけじゃねぇんだよ。

 その代わりと言っちゃなんだが、オレの邪眼は対象者の精神に作用する。

 例えば、味方の士気を上げる、敵を威圧し動きを封じる、催眠にかけ思い通りに誘導する、不吉な幻惑を見せ戦意を奪ったりと便利なものだ。

 まぁそんな訳でオレには女鬼人の強さがハッキリと分かる訳じゃねぇんだ。が、そんなもんに頼んなくても分かっちまう。あの女は強い!

 事実、彼女の力は暴食魔王を上回ってんじゃねぇのか?抑えているようだが、オレと互角といったところ。本気でやり合ったら面白そうなヤツだな。出来ないのが残念でならねぇ。


 暴食の魔王もそうだが、この女鬼人にとってシステムってのは邪魔でしかないだろうな。

 システムは真の実力者にとっては不都合なことでしかない。

 システム内の魔術やスキルは得てしまえば即座に使えるようになる。これはそれらを得るための工程をすっ飛ばして扱えるようになるってことだ。

 例えば回復魔術、あれは本来人体構造を完璧に把握できていないと扱えない代物だが、システム内ではその限りではない。人体の構造などは知らなくても全てシステムが補佐してしまう。

 だが人体構造を理解しているのとそうでないでは戦闘時の戦術に幅が出る。戦闘能力自体に差が出るんだ。

 技一つとってもそうだ。

 血反吐を吐いてまで会得した技と、ヒョイと獲得したスキルとでは信頼度が違う。本当のピンチ時に頼れるのは血反吐を吐いて会得した技でしかねぇんだよ。絶対の自信を持って放てる技、それは体に魂に刻み込むほどに繰り返され染み込ませた技だ。

 簡単に言えば、本来の得るはずの経験が得られないってことだな。それ故にシステムに頼った者とそうでない者では明白な実力差がでてくる。


 そんな事を考えていたら、三体の力ある魔物がオレの居る上空へと飛び上がって来やがった。

 その速度は音さえ置き去りにしているようで、音の壁が奴等の背後に生じている。

 一体は先程の女鬼人。ヤツの実力から言って最早鬼人ってより鬼神だな。

 もう一体は、見た目はデカい金の猪。

 最後は、大きなトカゲだな。


 金の猪はグリンブルスティ、の、模倣品だろう。

 グリンブルスティってのは小人の鍛冶師が創り、神に献上した宝物の一つとされている。

 このグリンブルスティはオレのジョアンヌ同様に、生きた神器といっていいのかも知れねぇ。今は神の乗り物になってるぜ。

 だが目の前の模倣品は違う、あれはちゃんと親から産まれ出たモノ。であるなら種族名がある筈だ。

 ジャネットなら分かるだろうが、もうどうでも良いか金獅子と呼ぶことにする。


 次に大トカゲ。

 あれはぁ~、……竜だな。

 翼を生やさない地竜の一種だろう。確か種族名は……、ティラノザウルスだったけか?

 え? 違う? それじゃ恐竜だって? えっ、マッシブマモスドラゴン?? 全然違うじゃん!


 この二体はつえぇよ。けどよ、喧嘩売る相手を間違えたな、オレから見たら雑魚だ、オレの方が断然つえぇー!


 音を置き去りにしてきた三体の魔物の中で、もっとも意識しなけりゃならねぇのは鬼人のねぇちゃんなのは間違いねぇ。あれはオレと互角に渡り合えるだけの実力を持っている。

 次に警戒するのは金獅子だ。奴は神の乗り物を模倣している種族だろうから、逃げ足が速い。

 そしてこの三体の中で一番ど~でもい~なのはマッシブマモスドラゴンだ。こいつはパワーだけだ、最後でいい。


 ぐぅ、またジャネットが騒ぎ出す。今度はなんだ? 最弱を先に屠れだと?

 あほかッ! 奴等の足手纏いを先に潰しちゃってどうするんだよ。

 あれは最後に残し、奴等の足を引っ張って貰うんだよ。最初に潰さにゃならねぇのは……、金獅子だッ!

 尤も、鬼人のねぇちゃんが一番に厄介なのは言うまでもないがなっ。

 殺す訳にはいかねぇ、大怪我をさせてもいけねぇ、逃がしてもいけねぇ、そのくせオレと互角の実力者。……厳しくね?


 なんて考えていると、最初の金獅子が突進してきた。真正面からの突撃、まさに猪突猛進だな。

 コイツに遠慮はいらねぇ、即刻叩き斬ってやるッ!


 真正面から突撃してくる金獅子の脳天に怒剣フィエルボワを叩き付ける。

 が、当たるかって瞬間にヤツの姿が霞んでズレる。

 げ、こいつ! フィエルボワが届かないギリギリの位置にまで後退するように転移しやがったッ!

 その時には恐竜の様な竜、マッシブマモスドラゴンが鋭いキバで頭上から襲ってきた。……って、名前が長いわぁ、マモドンでいいか!?

 マモドンの攻撃、これを躱すと鬼人のねぇちゃんの餌食になりかねない。女鬼人は金獅子から少しだけ距離を置いて此方の隙を伺ってやがんだ!

 なら、こいつは動かずに魔術で対処しよう。


「『ダークネスコフィン』ッ!」


 オレの放った魔術の効果によって、暗黒の柩に囚われるマモドン。

 『ダークネスコフィン』――、対象を完全に囲う様に闇の柩に閉じ込め動きを封じる結界の一種だ。囚われている間、対象のオドを急速に霧散させていく第四位階の闇系魔術の属する。

 これで封じている間ヤツはHPを削られていくって訳だ。……あっ、足を引っ張らせるつもりだったのに忘れてた!


 ジャネットのお小言を聞いている間に、金獅子がオレに触れる程接近していた。

 咄嗟に振り下ろしていたフィエルボワを振り上げ金獅子の顎を打ち上げ状態を上向きに、そのまま蹴り飛ばそうと脚を上げかける。

 が、それをそのまま見ている鬼人じゃねぇよな。

 女鬼人が刀を抜いた。その瞬間に辺りを支配する程の強大な力が解き放たれた。

 ちっ、このねぇちゃんを無傷で捕らえるのはキツ過ぎだあ!

 ギィーンと刀と剣がぶつかり合う。

 その衝撃は凄まじく金獅子は吹き飛び、マモドンを捕えていた闇の柩が消し飛んだ。


「ちぃ、おいねぇちゃん! 少しどいててもらっても良いかな!? やりづれぇんだよ、アンタが居るとよ」

「何を仰いますか? 私達は敵同士なのですから積極的に殺し合うのは当然だと思いますが?」


 それもそうなんだけどな。

 割と綺麗な声なんだなこのねぇちゃん。取り敢えず名前でも訊いておこう。


「オレはジャンヌ・ダルクってんだ。アンタは?」

「私は鬼人王が妹、鬼人将バルサムが妻、カレンデュラと申します。気軽にカレンとお呼び下さい」

「ん、じゃあオレのことはジャンヌって呼んでくれや。……ん? ってことは王だか将だかのどっちかが主君の関係者ってことか?」

「??? なんのことでしょうか?」

「アンタはオレの主君の関係者の血縁者なんだってよ。だからさ、オレ達と一緒に来ないか?」

「………血縁ということはバルサムではなく息子のフィカス、もしくわ妹のラフィアでしょう。私の兄はありえませんので。……良かった、生きていたのですね」


 最後の方はボソっと小声で呟いていた。

 一旦言葉を止めたカレンだが、オレの眼を確りと視て再び話始めた。


「魅力的な提案ではあるのですが、私にも都合というものがございます。家族とは会いたくありますが、私にはそれ以外にもやるべきことがあるのです。貴女なら、人質に取るような事は致しませんでしょう?」

「ち、やっぱダメか。人質? する訳ねぇだろそんなダサいこと。そもそも主君の関係者ってことは敵じゃねぇしよ」


 会話をしながらの鍔迫り合い、そんなオレ達に向かい再度襲い掛かる金獅子とマモドン。

 オレは力任せに鍔迫り合いを振り払い、後方へと跳び退き構える。


「お前等に遠慮はいらねぇんだよッ! ”斬り刻め”ッ!」

「 ”護りなさい”、させませんよ」


 二体の魔物を断斬するオレの魔法。

 二体の魔物を護ろうとするカレンの魔法。

 両者の魔法が丁々発止と交差する。


 断斬の魔法により剣で、又は真空の刃で斬るのとは異なり、何の外的力を受けることなく二体の魔物の肉が裂けていく。まるで自重に耐えかねた豆腐のように。又は乾ききった大地のように。

 が、カレンの魔法が裂けた箇所を即座に修復していく。逆再生を観ているかのように。

 塞がれた傷とは別の場所から再度肉が裂けていくが、それすら透かさず修復していく。それを延々と繰り返していく。


 だが、そんな事はいつまでも続かないよな。二体の魔物の体力が持つわけがないだよ。この魔法合戦は攻め手のオレにぶがある。……筈だったんだが!?


 ————————ッ!


 二体の魔物が気合を入れるかの如く吠えた!

 途端にオレの魔法が弾け飛ばされたかのような衝撃が走った。


 バカなッ! たかが魔獣如きにオレの魔法が弾かれただと!

 瞬間、激しい殺気を背後から感じたオレは咄嗟に下降して距離を取る。

 背後からの殺気の正体は……、ちっ、暴食の魔王ヒルコ!

 先程までオレの居た場所に向かって槍のような一撃が放たれていた。

 コイツ、回復したのか? さっきまで身動き一つ出来なかった魔王が回復している。

 そりゃそうか、神格位を解放しているモノがそう簡単に死ぬことはない。神格位が宿主を護るんだから。


 ちっ、神格位保持者が一体、そいつを含め魔法使いが二体にそれなりの実力を持つ魔獣型が二体かよ。

 いや、カレンもおそらく神格位保持者だろうな。じゃなきゃ鬼人がこれ程の強さを持っているのはおかしい。


 これはボチボチ本気で相手しなきゃならねぇか?

 え、なに? 今まで本気じゃなかったのかって? ジャネットうるせぇ。

 だからマモドンを先に倒せば良かったって? 一対四は避けられたって?

 いいんだよ、これから数を減らすんだからよ! 本気の本気を見せつけてやるぜッ!


「をぉおおおおおぉぉぉ————ッ!」


 抑えていた力を解放、それは神格位とはまた別の物だ。

 サクレ・クールと称されるオレの聖なる心臓。火刑に処されて尚、どれ程燃やしても焼け残った不変の心の臓。

 オレはその時には死んでるから知る由もねぇが、死後に聖心と呼ばれることとなったこの心臓が、神性を得て力を持つようになった。


 未だ下降を続けるなか、オレの心臓がドックンドックンと強く脈動する。

 鼓動を繰り返す度に力が増し、肉体そのものが作り変えられていくようだ。

 その頃には降下が終わり地面へと着地した。


「はぁあああぁぁぁぁぁ————ッ!」


 いつの間にかショートだった筈の自慢の黒髪は、腰を超える程に長く伸び、自身の力の影響を受けバサバサと舞う。


「なっ、これ程の力を隠していたというのですか!! まさか神各位の解放? ……いえ、なにかが違うッ! ————これは神格そのもの、神になったと言うのですかッ!!!」

「っはん、そこまでじゃねぇよ。言って神格モドキってとこか?」


 劇的な変貌を遂げたオレの力に驚愕するカレン。それもその筈だ、サクレ・クールを解放したオレとそうでないオレとでは存在そのものの次元が違う。生物としての格が上がるんだ。それこそ神の一歩手前ってなとこだ。

 神格を得れば神だが、オレはあくまでも神格位保持者であって神じゃねぇ、神の使徒でしかない。サクレ・クールは未だ神格に至ってねぇ。


 サクレ・クールには、前世のオルレアンの乙女としてのジャンヌ・ダルクへの崇拝の想いが、祈りの力が蓄積されているんだ。……生前っていうとちょいと語弊があるか? オレは今でもジャンヌ・ダルクだ、生まれ変わった訳じゃねぇ。

 兎に角、想いとは魔法、魔法とは神気によって引き起こされる現象。

 嘗てオレを強く想ってくれた祈りが想いの力となり、不変の魔法としてオレの心臓に宿った。

 死後に神聖視された心臓が力を得て、無限のオドとマナ、僅かなながらの神気を内包した、それがサクレ・クールって訳だ。


「さて、準備はいいか? そろそろ行くぜ!」

「!!!」


 オレは瞬時に上空に立つカレンの眼前へと駆け上がりフィエルボワを振るう。

 その速度は先の三体の魔物など目ではない。瞬間移動かくやってな感じだ。

 視認できなかったろうに、咄嗟の判断で刀を振るい、なんとか防いだカレン。流石だな、だがオレの圧倒的なパワーにより後方へと弾き飛ばされていく。

 直後に魔王の真正面へと移動し、両断。その途中、ついでに金獅子とマモドンの首を刎ね飛ばしてやった。この一連の動作を、コンマ何秒って短い時間で行ったんだぜ、すげーだろ。

 二体の魔獣は首と胴を切り離され落下していく。流石に魔王は両断した程度じゃぁ死なねぇよな。

 決して魔獣が弱かったって訳じゃねぇんだけどな。


 オレの左右に両断された筈の魔王が現れる。魔王は左右それぞれから魔法を使用したようだ。

 その魔法は拘束と炎。はんっ、オレに向かって拘束と炎を使うとはね。

 オレは生前火刑に処されて死んだ。拘束されて炎によって焼かれて命を落としたってことだ。

 だが、オレの心臓は違う。どうやっても焼け残った心臓は熱に対する絶対的な耐性を持っている。この心臓を持つオレを燃やすには魔法でも無理だってことなんだよ。


「小賢しいッ!」


 気合一発で軽々と拘束を解き、炎を消し去る。

 自由になった両腕を左右に伸ばし、有り余る力を解き放つ。


「はぁあ————ッ!」


 と、左右の魔王は水風船を針で突いたかのように弾け、飛沫となって散らばり落下していく。


「けっ、他愛もねぇ。————!!」


 ああん? ジャネットが油断大敵だと注意を促す。

 ジャネットの声を聞き周囲に気を巡らせると、さっきのオレの動きを彷彿とさせる速度で吹き飛ばされていったカレンが近付いて来る。

 ち、カレンのヤツ、神格位を解放しやがったな。やはり神格位を保有していたようだ。

 更に、弾けて落下していった魔王の飛沫が寄り集まり一つとなろうとしている。

 何方を先に対処するかって? 決まってる、両方同時にやってやるよッ!


 下方に居る魔王へフィエルボワの切先を向け、またカレンへは片手を伸ばす。

 フィエルボワからは漆黒の靄が湧き上がり、黒炎へと変化していく。

 カレンへと伸ばした片手からは光球が生じて巨大化していく。

 黒の炎を魔王へと向かって解き放つと同時に、カレンへ光球を飛ばす。

 黒炎は一条の闇の帯となり、一つとなりつつある魔王へと向かう。手の先の光球は接近するカレンの刃とぶつかり合う。


 双方共にバチバチと紫電の如く闘気を撒き散らし対抗している。

 魔王は魔力障壁に神気を混ぜて強化した壁で防ぎ、カレンは刃を光球に押し付け耐えている。

 その刃からは赤い霧の様なモノが出ているようだ。オレのフィエルボワの黒い靄のようだな。


 魔王はフィエルボワの力を障壁で耐えているようだが、徐々に障壁にはヒビが生じ広がっていく。そう長くは持たねぇだろう。

 長くは持たねぇが、カレンを倒す訳にもいかねぇ。カレンよりも魔王を優先し討つために、闇の帯の脇を抜け魔王を目指し下降する。


「奥義・雷霆神(インドラ)ッ!」


 決着を着ける覚悟を持ってフィエルボワの柄を力強く握り、すれ違いざまに一閃。魔王の体に刃が食い込むと同時にありったけの神気を流し込む。


 ————————ッ!!!


 魔王の断末魔が鼓膜を揺すぶり、その光景を見ていたカレンが悲痛な表情を見せる。


「な、なんということ……」


 未だ光球を受け止めているカレンの口から言葉が漏れた。


 魔王は俺とフィエルボワの神気をその体内で受け止めて消えた。

 もう気配の欠片も感じ取れねぇから死んだんだろう。

 後はカレンを説き伏せるだけなんだが……。

 こうなっちまうと無傷で捕らえるのは不可能か? 魔王を殺されたことでカレンも引くに引けなくなる。

 ん? 別に捕える必要はないのか。カレンを傷付けずにことを終われば良いだけだよな?


「なあカレンさんや、アンタの目的は魔王を守護することで合ってんだよな? ご覧の通り魔王はもういねぇ。だから引いちゃくれねえか?」

「…………」


 ちぇ、無視かよ。


「クッ、ハァアアアアアアァァァ————ッ!」


 突然の咆哮はカレンのもの。気合一閃で光球を両断したカレンが此方の高度まで降下してきた。

 睨み合う。オレとカレンの間に見える筈のない火花を幻視する。

 そう睨むなよ、コッチと来たらアンタを傷付ける訳にはいかねぇんだからよ!

 そう思う一方で、これ程の好敵手をみすみす見逃すのは惜しい気もする。相手もやる気みたいだしな。


「私にはある事情によりあのスライムを護る必要がありました。ジャンヌ殿、貴女にも貴女の理由があってスライムを討ったのでしょう。貴女は人類の正義、ですが、私には私の正義があるのです。お互いの正義を付き通すためにも、にここで引く訳にいきません!」


 お冠のようだ。

 カレンの事情は知らねぇが、引けねぇってんならしょうがねぇよなあ。


「はっん、それじゃ仕方ねぇ。お互い気が済むまでやり合おうじゃねぇかッ!」


 ジャネットがうるせぇが、こうなっちまったらもう止まれねぇ。カレンを戦闘不能まで追い込んで撤退させるか捕縛するか、取れる道はその二つしかねぇよ。


 そこからの激闘は筆舌につくしがたいほどのものとなった。

 赤き刃は鎧を突き抜け肉を切り裂く。

 黒き刃は炎となり血肉を燃やす。

 魔法が飛び交い地形は変わり、二人の衝突は変化した地を更に崩す事となった。

 川は干上がり森は灰へ、衝撃により吹き飛んでいく。

 岩盤は捲れ砂へと変わり、砂は余りの高熱により溶けて硝子へと姿を変えた。


 マズいな、よく考えたら首都のことを頭に入れて無かったぜ。いくら距離が離れているとはいえ影響がない訳ねぇよな?

 このままこの場でやり合ってればいずれオレ達が首都を滅ぼしかねねぇ。

 いくら【王】の絶対不可侵領域とやらもこれ程の力のぶつかり合いを受け止められるのかは不明だ。

 早くカレンを仕留めないとやべぇな。けどよ、勿体ねぇとも思っちまうんだなこれが。

 これ程の相手、次にいつめぐり会えるか分かんねぇしな。


「ハァハァ、ジャンヌ殿、そろそろ決着をつけませんか? 勿論、生か死でしか決着はつきません」

「ゼェゼェ、こちとら決着をつける気がねぇんだがよ。」


 一瞬の睨み合いの後、瞬時に距離を詰めるオレとカレンだったが——。


 キィ――ンッ!


 両者の合わさる刃が跳ねのけられた。


「クッ、何者ですッ!」

「何しやがる、邪魔すんじゃ……、あっ」


 邪魔をされたことにカッとなって怒鳴ったオレだが、邪魔した人物を視て口を噤んだ。


「両者ともそこまでだ。」


 そのお方は全身を黒で統一した装いをした精悍な男。オレが誰よりも尊敬してやまない主君様がそこに立っていた。





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