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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
3章
51/78

悪いスライムじゃないよ? なんて言うスライムがいたら信用はできませんよね?

 私ことジャネットの魔術によって魔物の数は半減しています。

 ここぞというタイミングで不意に現れた魔物がいました。それは人を同時に何人も丸呑みにできそうな巨大なスライムでした。


「な、何あれ?」

「デ、デカいスライムだッ‼」

「くそっ新手かよ!」

「怯むなッ! 撃――ッ!!!」


 魔術師部隊から魔術が放たれますが、スライムは微動だにしません。それもその筈、格が違い過ぎます。

 あれは伝説なってもおかしくない程の力を感じます。伝説級に届く実力者には魔術師部隊の実力では傷一つ付けることはできないでしょう。


「退いてくださいッ! あれの相手私がします!」

「「ジャ、ジャネット」様」


 スライムと一口に言っても種類は様々で大きく別けると二種類存在します。液状型とゼリー型の二種です。

 その中でもそれぞれ毒を持つタイプや空へと跳ぶもの、水中を好み溶け込むタイプから擬態するものなど多種多様。それら全てに共通することは、あらゆる物を融解する能力を持つということでしょう。

 目の前に現れたのは透明感のある丸みを帯びた形状をしたスライムです。色は仄かに青みがかっており、光の反射具合により黒く見えたりもします。

 見た目からは球体のゼリー型、……水棲タイプでしょうか?


 スライムは物語やゲームなどでは序盤で登場する最弱に位置される魔物ですが、実際には出くわしてしまうと実に厄介な敵なのです。

 数多くの耐性を備え、強力な融解能力を持ち、潜在能力は高く知能も人間以上に高い個体も存在します。上位の存在では言葉を発する個体など珍しくはないのです。

 目の前のスライムの強さは……、ただならぬ気配、ただそこに居るというだけで気圧される程の圧倒的な存在感。化け物クラスであることに間違いはありませんね。おそらく知能も高いでしょう。


「言葉は分かりますね? 貴方はいったい何者ですか? と訊いてもスライムなのでしょうけど、貴方はただのスライムではありませんよね?」

「…………」


 暫し待ちますが答えは返ってきません。

 意志を持っているのは間違いなく、言葉を発することもおそらく可能でしょう。


「答えませんか。では申し訳ありませんが、詳しく見させてもらいますよ!」


 私には全てを見通す眼があります。私はこの眼のことを聖眼と呼んでいます。この眼で相手を丸裸にすることが可能なのです。


 ……魔王ですか。

 流石に高いステータスに数多くのスキル、システム上ではもはや敵無しと言っても過言ではないでしょう。ですがそれはあくまでもシステム上の話です。

 地の力も持ち合わせているようですね。システムの影響がなくてもこのスライムは強者です。寧ろシステムなど邪魔になるのではないでしょうか?

 私が相手をするなら……、いえそれでも相手は暴食の魔王にして水精の神格位保持者、私が相手をしても楽に倒せるかどうか判断できませんね。


「ここでは何ですから場所を変えましょ――」

「まて、俺は別に悪いスライムではない」

「どの口が――」


 私には彼がこれまでに殺めてきた者の大まかな数まで分かります。夥しい怨念を彼は纏っているのですから。


「俺はただ食事をしていただけ。生きる為に当たり前の行為をしているに過ぎない」

「それはこちらとて同じこと。生きる為に、仲間を生かすために貴方を倒します!」

「ふむ、そう言われてしまえば仕方がないのか? 互いの生を守るためには必要ということか。お前は実に喰いごたえがありそうではあるが、お前を喰らうのは骨が折れそうだ」

「私を喰らうですか? それは不可能でしょう。その前に私が貴方を屠るのですから」


 私は馬上からゆっくりと片手を上げ彼に狙いを定めるように伸ばします。


「ハァ――ッ!」


 裂帛の気合を放つ、それは衝撃波となって相手の巨体を遥か後方へと吹き飛ばします。

 この場の魔物達は仲間達に任せるしかありません。まだ半数の魔物が生き残っていますが、あれがこの場に残れば確実に被害が拡大します。

 彼等からしたら周りの魔物も強敵となりますが、私はあの魔王の相手をしなくてはなりません。あれに対抗できるのは私しか居ませんから。

 兵士の皆さんには暫しの間頑張ってもらうしかありませんね。


 歓声を背後に、愛馬である純白の神馬(ジョアンヌ)の両腹を軽く蹴り追い掛けます。

 可成りの距離を飛ばされた魔王を追い疾駆するジョアンヌ。漸く止まった場所は都合よく広大な草原でした。

 ここでなら何の障害もなく、スライムの隠れる場所もありません。決着をつけるには絶好の場所だと思われます。

 直ちに戦闘態勢に入ります。私の手には想えば現れる聖なる旗が括りつけられた槍が握られています。

 この槍は神器の一つであり、名を聖旗神槍エスポワールといいます。


 神器とは神と通じる武具や道具のことです。故に通常のそれらよりも遥かに高次元の桁違いな性能を持っています。


 私がシステムで唯一羨んだものにガチャが有ります。

 ああ、言い忘れました。あれ? 言いましたか? 私はシステムの影響を一切受けていません。ですからガチャを回すことができないのです。

 ガチャとはこの世界の管理神達が集めた宝物を配るためのシステム。その中には勿論のこと神器も含まれていると思われます。しかし、システムを扱えない私が手にすることは無いでしょう。ですがいいのです、私にはエスポワールの他にも多くの神器を保有していますから。

 実はジョアンヌも神器扱いの神馬なのです。ですが神器とはあまりに強力な故に軽はずみに扱うわけにはいきません。本来であればエスポワールも使いたくはないのですが、相手が神格位保持者なら1つや2つは使わざるを得ません。

 神器なら神格位保持者にもダメージを負わせることが可能です。勿論同じ神格位を持っているのなら持たずとも相手取れますが、それでもあれば有利に事が運べます。


 暴食之魔王と向かい合い互いに相手の隙を伺います。並みの戦士ではスライムの隙など判別がつかないでしょうが、私には聖眼が有ります。スライムボディの何方が前で後ろかすら私には手に取るように分かるのです。


 長かったのかそれとも短かったのか、私達が睨み合いを始めて暫くすると遠方から大きな爆発音が聞こえてきました。おそらく戦闘で大きな魔術でも使ったのでしょう。そしてそれが合図となりました!


 互いに距離を詰め攻撃を仕掛けます。

 ジョアンヌが駆け、私はエスポワールを突き出し、魔王は身体から鋭く尖った針のような物を無数に飛ばしてきます。スライムの体の一部にマナを込め生成したものでしょう。

 私は槍を引き、槍に括られた旗を大きく振りそれらの針を巻き取り振り落とします。ですが留まることなく吐き出されるスライム針。何百、何千もの針を叩き(はたき)落としました。

 射出が止まり、相手との距離が再び開きます。

 不思議です、あれ程の針を吐き出しながらもスライムの体積は少しも減ってはいないのです。

 どういう原理か分かりませんが、射出が止んでる今が好機です!


 私はジョアンヌの上から神速を以て刺突を繰り出します。物理攻撃は効きにくいのですが、神器ならば耐性を突破できます。

 あの巨体、言い換えれば大きな的、当てるのは容易い。

 私の電光石火の刺突、常人には軌跡すら見て取れない速度、それなのにッ!


 気付けば巨大なスライムは私の背後に居ました。


 ――私が背後をとられたッ!!!


「くっ!」


 背後を取られた、それよりも問題となるのは私の聖眼を持っていしても見切れなかった彼の動きです。

 只、素早く動いただけなら聖眼で見切れない筈がありません。ですが現に私は魔王を見失ったのです。

 【空間移動】【偽装】などのスキルを併用して使っているのかも知れません。警戒レベルを引き上げる必要があります。


 すかさず槍を引き戻し、石突きを背後へと突き、それすらも躱されてしまいます。

 今度は右側!

 引いた槍を薙ぎ払いに変更、相手を槍の柄で叩き飛ばします。

 ですが相手とて無防備な訳ではありません。

 魔王は吹き飛ばされながらも無数の水刃を中空に創り出し、私に向けて放ってきます。

 水刃は神水で出来ているようです。並みの防御力では防ぐのは難しい。その証拠に、私の白銀の鎧に一筋の亀裂ができあがっています。

 水刃は今尚私の周りを周回し隙をついて襲い掛かってきます。


「やりますね。ですがッ!」


 エスポワールを水刃へと向けて薙ぎ払うと、一振りで全ての水刃を打ち据え消滅させます。

 その隙に魔王が私へと水の魔術を放ってきます。


 ところで、魔術はシステム外にも存在します。いえ、寧ろシステムが本来あった魔術を取り入れたのです。システム内に存在する魔術とは、数多に存在する魔術系統の内のほんの一握りに過ぎません。

 今魔王が使った魔術はシステム外のもので、『死招く腐食の糸』と呼ばれるものです。これは術者の体の至る場所から視認できない程の細く強靭な糸を伸ばし、自在に操り相手を絡め捕り斬り刻むものです。その際、糸に触れた場所は腐食され腐り落ちていきます。縛り、斬り、腐らせる魔術なのです。


 視認できない極細の糸、ですが私には聖眼があります。いくら細く鋭い糸であろうと私が見誤る事は有り得ません。たとえ【偽装】スキルを使われていようとも!

 先程は不覚を取りましたが、注意してさえいれば問題ありません!


 ピュンピュンと音を立てて良そうでいながら無音の糸を掻い潜り、巨大なスライムの土手腹に鋭い一撃を食らわせます。

 刺突は鋭く、スライムボディに大穴を開け、私はジョアンヌに後方へと跳び退くようにと指示を出します。

 大穴を開けた魔王の体が勢いそのままに膨張し、そして弾け飛びます。まるで弾薬を以て弾けたかのような大爆発を起こしたのです。

 ですが、まだ油断などできません。相手は神格位を持つ魔王、限りなく不死に近い存在なのですから。


 案の定魔王は遥か上空に現れました。

 あの巨体で私を圧し潰すかの勢いで落下してきますが、中空で静止し魔術を放ってきました。

 『アイシクルランス』、無数の氷の槍を放つシステム内にも存在する魔術です。

 ジョアンヌは華麗に右に左にと移動を繰り返し、後退しながら躱していきます。

 氷のランスは地面へと次々に突き刺さっていき、突き刺さると途端に姿を水へと変化させました。結果、地面に大きな水溜まりを作っていきます。

 ソレが突然形を持ち襲い掛かってくるのです。

 これは『アイシクルランス』の効果ではなく、魔王が操っているのでしょう。

 弾丸の様に真直ぐ、鞭の様に曲線的に、または波の様に前面から襲い掛かって来るのです。

 私はジョアンヌの上からエスポワールを両手で持ち掲げ上げます。


 私の持つ聖旗神槍エスポワールとは軍旗です。

 軍旗とは戦場にて主将の所在を示すものです。その意味する所とは即ち、敵意を自分に向けることであり、つまるところは【ヘイト】の能力を持つのです。

 そして、エスポワールのヘイト機能は何も生物だけに留まるものではありません。撃ち放たれた魔術にもその効果は及ぶのです。

 水の弾丸も波も、今だ打ち込まれる『アイシクルランス』も、不規則な動きをしていた鞭状のものも真直ぐにエスポワールへと向かってきます。


 神器であるエスポワールがヘイト機能のみの筈が有りません。

 エスポワールが真骨頂、それは全ての物から敵意を削ぎ落すことにあるのです。端的に言ってしまえば敵意喪失、無力化です。

 【敵意喪失】それは恐るべき能力であり、その力を全解放で使用すれば世界から闘争本能すら奪えてしまう代物なのです。


 我が身を貫かんとまた圧し潰そうと迫りくる魔術の全てが、一定の距離で停止し只の水溜まりへと帰す。

 その直後に空に浮かぶ巨大なスライムに向かいジョアンヌが翔け上がっていきます。


「ここまでです。暴食之魔王ッ!」


 エスポワールが聖なる光に包まれていきます。邪を払う聖なる光を宿した神槍が魔王を突き刺します。

 魔王に明確なダメージを与えた手応えを感じ取り、引き抜こうとエスポワールに力を込めた時、逆に引っ張られていることに気づきました。

 魔王が暴食に恥じない行動を起こしたのです。


「愚かな。まさか神器を食そうとは……」


 私はあえてエスポワールから手を放しスライムに捕食させます。

 エスポワールは直ぐにスライムの体に取り込まれブクブクと気泡を立てています。

 ですが、神器がスライム如きに消化される事など有り得ないのです。

 案の定、魔王は苦しみ出します。体の至る所から気泡が弾けるように、沸騰したお湯のようにボコボコと。

 そして、先程の爆発を再現することとなるのです。

 私は手を放してから直ぐにジョアンヌを地上へと戻しています。

 見上げる先で魔王の大爆発を視認します。

 内側から強力な力を受けたスライムの体が弾け飛んだのです。

 その時には再び私の手にエスポワールが握られています。


「ふぅ、終わりましたか?」

「いや、まだだ」


 背後から掛けられる声に、急いで振り向き体勢を整えます。が、次の瞬間、視界を覆い尽くすスライムボディ!


「くっ」


 私を喰らおうと体を引き延ばした魔王の姿でした。

 巨大な津波を思わせる質量、このまま後退しても間に合いませんッ!


「ジョアンヌッ!」


 ジョアンヌは私の意を瞬時に理解し、ある能力を解放します。

 ジョアンヌは神器だということは話しましたね。

 この子が神器である以上、高速移動や転移など魔獣ですら可能な能力だけの筈が有りません。この子の真価は別の所にあるのです。


「———【現実否定】ッ!」


 【現実否定】――、その名の通り現実を否定する能力、認められない現実を非現実へと改変する力。


 実は私には前世の記憶が有ります。私は前世で冤罪を被り火刑に処されたのです。

 その認められない現実を否定したくて所持する神器にこの様な能力が備わったのかも知れませんね。

 その話はまた後程にしましょう。


 私に迫るスライムを前にジョアンヌが能力を解放、光り輝きます。

 時は停まり、まるでマーブル模様のように視界が歪み出します。この感覚は何度味わっても慣れませんね。

 自分の位置すら見失い、世界は交じり合い感覚すら曖昧になっていきます。

 世界が否定したい現実の選択を迫ります。何をどう改変したいのかと。

 勿論スライムが迫りくる現状を改変します。

 出来ることならスライムの魔王化を改変したいところですが、あまり大きな出来事の改変は難しく今の私では不可能なのです。

 特にこの魔王は神格位を保有しています。神が関わっている事柄を改変することはできません。なので現状を少し弄ってやる事しかできないのです。

 ですがそれで十分!


「なッ、なにがッ!」


 スライムからしたら何が何やら分からないでしょう。

 私を喰らおうと広がった次の瞬間には通常形態で佇んでいるだけなのですから。


 面食らう魔王に一撃を仕掛けます。

 慌てて回避行動を取る魔王ですが、もう遅いッ!


「”天にまします我等が父よ”————」


 魔法、それは神に願いを聞き届けてもらうための祈り。


「”願わくば、御名をあがめさせたまえ”ッ!」


 願うは必勝!

 エスポワールが魔法の力を宿し魔王へと突き刺さります。

 魔王は自ら後退したのか大穴を開けるには至りませんでした。しかし、ゲームで言えば大半のHPを削る結果となりました。


 それにしても、必勝を願い放たれた魔法を、それも神器での一撃をその身に浴びて尚生きているのは信じがたいことです。

 いくら神格位保持者と言えども先程の攻撃を受ければただで済む筈がありません。我が神が水精に劣るとも考えられませんし……。

 答えは一つですね。彼もまた魔法を使ったのです。身を護るための魔法を。


 魔王の姿は再び忽然と消えています。またです、また私の聖眼で見切れませんでした!

 間違いありません、魔王は魔法を使い転移しているのです。

 魔法の転移ならば私の聖眼では見切れません。見切るには神の眼が必要になるでしょう。

 それにしても私に魔法の使用を気取らせない技量は大したものです。

 魔王は再度私の背後に居ますが、ダメージが大きいのか動こうとしません。

 畳み掛けるなら今ですね。


「『ホーリーチェイン』『セイクリッドピラー』『清純なる乙女の惨劇』ッ!」


 続け様に放つ三種の魔術。

 何本もの聖なる鎖が虚空より現れ魔王に絡みつき、身動きを封じられたその身を光の柱が襲う。直後に破邪の力が八つ裂き斬り刻む。


「終わりです。”裁きを”ッ!」


 最後に無残に散らばる魔王の体に魔法の砲弾が止めをさします。


「ふぅ、これで終わりましたね」


 辺りを確認してもスライムの欠片一つ残ってはいません。

 漸く戦闘が終了したと戦闘態勢を解いたその時———。


 ——— ”怨嗟の炎に焼かれて死ぬがよい”


 !!!


 油断しきっていた私の足元から黒い炎が立ち上がってきますッ!

 油断しました! 水精の神格位故に炎系は扱わないモノだと決めつけていました!


 私は前世の記憶から一つの不安要素を抱えています。

 それは火刑に処されて死んだことから、この身を炎で焼かれることで表裏が入れ替わってしまうのですッ!


 私が表……、いえ、私が裏で彼女が表。


 は、早く抜け出さなければ、表の彼女が目を覚ましてしまいます。


「きゃはははははっ、やっとオレに出番が回って来たのかよッ!」


 ああ、遅かったですね。


 私の本来の人格、———ジャンヌ・ダルクが目覚めたようです。





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