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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
1章
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天啓 初日 俺が勇者だ! 

 俺は高校二年生の里山優斗(さとやまゆうと)という。地元じゃ有名な時勇館高等学校へと進学し、悠々自適な学生生活を送っていたんだ。

 部活は剣道部、夢は全国一位になることだ!


 だがこの地域は大きな大地震に見舞われた。その直後からか魔物と呼ばれるモンスター達が現れる様になったんだ。

 大勢が死んだ。学校の建物は丈夫で揺れには耐えられたが、魔物の襲撃には耐えられなかった。

 校舎は至る所破壊され、居残っていた教師や学生は犠牲になった者が多い。


 地震が起きた時間は既に放課後、残っていたのは教師や遅くまで部活に励んでいた生徒達だ。

 俺は剣道部に在籍し、剣道場で竹刀を振るっていた最中だった。

 立て掛けていた竹刀は右へ左へと暴れまわり、更衣室や道具置場からはけたたましく鳴り響く衝突音、僅に存在する窓ガラスは甲高い音と共に割れ床に散らばる。

 それでも、大きく揺れたが時間は短かった。


「……お、終わったのか?」


 練習相手をしていた友達の河合隆成(かわいたかなり)が俺に向かって言った。


「俺が知るか。今話題の巨大地震か?」

「それにしちゃ短くなかったか?」


 どうなんだろう? 確かに揺れた時間は一瞬と言って良いのかも知れない。

 俺と隆成は防具を着けていた為に擦り傷程度の怪我しかしていない。

 だが防具を身につけて居ない部員やマネージャー達は、割れたガラス、荷物や人同士とぶつかり大怪我を負った者も少なくない。


「おい隆成、怪我人を保健室に連れてってやらないと」

「保健室で対応できるか? 人数も多いし、救急車を呼ばないと!」

「保険医を連れてこよう。無事なヤツはガラス片や邪魔な物を退かして怪我人を寝かせておけ。あと、携帯を掘り出して救急車を呼んどいてくれ。隆成行こう」


 俺は隆成と保険医を連れて来ようと外へと飛び出した。


「なっ、なんだよこれッ!」


 隆成が思わず叫んでしまう気持ちはよく分かる。


 グランドは小さな地割れが幾つもある。

 倒れ伏す学生は多く、あちこちから血を流がしてるようだ。


 俺達は手分けして怪我人の様子を見て回る。だが、救急箱すら持っていない俺達には出来ることは少なかった。

 彼等は何かに怯えているようだ。理由はは直ぐに分かった。


 離れた場所には血溜まりが出来て、底に沈むように人の一部が浸かっていた。

 動けるものは逃げ惑い走り去っていく。何から逃げているのか?

 それは──!


「何だよアレ、アレアレ! バケモンが徘徊してんぞ、優斗、ここはマズい逃げようッ!」


 隆成が指差す先には背の高い人形モンスター。

 赤黒い肌に盛り上がった筋肉、厳つくゴツイ顔に大きく裂けた口には巨大な2本の牙が長く延びている。額からも2本の長く鋭い角が突き出ており、見た目はこの国の伝承に出てくる鬼のようだ。

 腰には何かの動物の毛皮でできた腰巻き、上半身は裸だ。

 そして周りには緑の肌をした小鬼達が数匹いる。


「待て! 逃げるったって何処にだよ!?」

「何処だっていいだろ、アレに捕まれば殺されるぞッ! 何だってあんなバケモンがこの世界に居るんだよッ!」


 この国に限らず、あんなのは世界に存在していない筈だ。

 鬼のようなヤツは一人の陸上部の部員を捕まえ、──そのまま鋭い牙でかぶりついた!


「お、おい、喰われたぞッ! 人を喰いやがったッ! 早く逃げるぞ優斗! そ、そうだ、職員室にまだ教師達が残っている筈だッ!」

「ああ分かったよ。一先ず先生に助けを求めよう。その後の事はその時に決める。そうと決まれば急ぐぞ」


 俺達は職員室を目指し走り出す。

 大人だからと言って助けになるか分からないが、全く頼るものがないよりかマシだろう。

 本当は警察案件だろうけど、それも先生の判断に任せよう。

 考えることは皆同じなのか、向かう方向は一緒のようだ。校舎入口は人でごった返し、このままでは渋滞に捕まってしまう!


「隆成、裏から回って行け! 俺は部員達に警告してから行く!」

「分かった! 捕まるなよッ!」

「お前もなッ!」


 二人して別方向にダッシュする。残りの体力は考えずにひたすら速度を重視して走った。

 剣道場に着くなり悲鳴が木霊する。

 急いで中に入ると、鬼の取り巻きをしていた緑の小鬼が生徒達に襲いかかっていた。

 ソイツは、木製だが頑丈そうでツンツンとトゲのような突起が付いた棍棒を振り回し、手当たり次第に殴りかかっていく。


「皆逃げろッ!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げる部員達。だが、まだガラス片が片付けられていなかった。

 ガラスを踏みつけ倒れ込む部員に、小鬼が容赦なく棍棒を振るう。

 「グシャリ」と聞きたくもない音を聞き、見たくもない友の頭部を見せつけられる。

 見事に潰された友の頭は、脳髄をばら撒き床に散らばっていた。


「あ、あああぁぁ───」


 意識もしてないのに声が出てしまう。

 声に反応した小鬼が此方を振り向いた。

 その顔には邪悪で悪戯がしたくて堪らない幼児なような表情が張り付いていた。


「あああ、クソがぁッ!」


 俺は恐怖のあまり逃げ出す、……ことはなかった。

 落ちていた竹刀を拾い上げ小鬼と退治する。遠くから「バカ、逃げろよ!」と、声が掛けられたが、今の俺の耳には届かない。

 声を掛けてきたヤツも脱兎の如く駆けていきもう居ない。この場には俺と小鬼が居るだけだ。


「テメェは絶体に許さんッ!」


 一歩踏み出すと、ジャリッとガラス片を踏みつけた音がする。

 二歩目を大きく踏み出し竹刀を振るう。

 振るわれた竹刀は躱されて、逆に棍棒が胴着に打ち付けられる。

 あまりの威力に吹き飛ばされて、見れば胴着に凹みが出来ていた。

 防具がなければアレだけで死んでいたかも知れない。

 息が詰まるが構っている場合ではない。急いで立ち上がり再び竹刀を構える。


「はぁはぁはぁはぁ」


 全力で走った疲れ、化け物を前にする緊張、殴り付けられた痛みが呼吸を乱す。言葉は一言も出てこなかった。

 小鬼は棍棒を振り上げると軽快な動きで襲い掛かって来た。

 だけど小鬼が俺に辿り着くことなく、ガラス片に足を取られ転倒する。

 その際に俺の足元に転がってきた物がある。それは棍棒!

 ヤツは今何も得物を持ってはいない。逆に俺の手には拾い上げた棍棒が有る。


「うおおおおおッ!」


 振り下ろす。唯々棍棒を振り上げては振り下ろす、その繰り返しだ。

 小鬼の頭が潰れ、手足がひしゃげ、尚も繰り返す。

 辺りが青い血に染まり、血溜まりが出来上がる頃に漸く落ち着いて手を止めた。

 見渡せば周りには誰一人居らず只、潰れた小鬼とその小鬼の血溜まりの中に佇む俺だけだった。


「はぁはぁはぁ、ん? 何だこのアイコン?」


 気づけば視界の端に浮かぶアイコン。

 意識した瞬間に視界に浮かび上がる文字の列。


極希少な役割(SRロール)【英雄】が覚醒しました。

 職業(ジョブ)【勇者】を獲得しました。

 初回魔物討伐特典としてガチャ一回無料権を獲得しました』


「はっ、ははっ、あはははははッ! そうだよ、そうなんだよッ! 俺は、俺が勇者なんだぁッ──!」


 意味するところは分からない。しかし、そんなことは関係なく込み上げてくる歓喜、あの文字列は正に強さを求めた俺には天啓だった。


「ふふふ、はははっ、これであの双子の悪魔に勝てるッ!」


 俺には一方的にライバル視している人物が二人いる。

 その人物は双子の在校生で、姉の名を女神(おみながみ)(つむぎ)、妹は(あざな)という。

 双子故に見た目は同じで、可愛らしくも美しい容姿をしている。男なら誰しも手に入れたいと思う存在だろう。

 性格は両極端と言うべきか、姉の紡は物静でお淑やか、妹の糾は明るく奔放な性格をしている。


 時々部員に連れられて剣道場にやって来ては練習に交じっていく。

 試合では、彼女達から一本をもぎ取った者は俺も含めて誰一人いない。

 顧問の先生ですら敵わず、特別顧問として呼ばれることもしばしばあった程だ。何でも古武術を親から叩き込まれているらしい。

 俺とて実力は十分に備わっている、しかし彼女達の陰に埋もれ目立つことはなかった。悔しくないと言えば嘘になる、正直悔しくて仕方がなかった。


「だが、それも今日までだ、俺は勇者として覚醒した。これからは俺の時代が始まるんだ」


 心の中に芽生えるどす黒い感情。常に下に見られていた鬱憤が噴き出してくるようだ。

 いずれはあの双子姉妹を俺の女にしてやれば、今までの鬱憤も少しは晴れるだろう。溜飲が下がれば、後は可愛がってやるさ、見た目は正に女神のようだからな。

 双子の姉妹は、その奇妙で珍しい苗字の影響もあり、学生達の間で女神のように崇められている。

 文武両道を絵に描いたような存在で、何をやらせてもトップクラスの成績を叩き出している。

 俺から言わせればあんなものはインチキだ。

 何をやらせてもトップなんて天才児が早々いる筈がない。何か細工があるに違いないと見ている。

 いつか化けの皮を剥がしてやろうと思っていたが、そう遠くない未来に機会がありそうだ。


「さて、餌にされている奴等を助けてやるとするかな。隆成の奴も無事なら助けに行ってやるか」


 俺自身から見ても、この時は勇者の名を冠することで有頂天になっていた。

 だがこれで、双子の影響で学校内で目立つことの出来なかった俺は、一気にヒーローに昇り詰めることが出来る。何せ俺の役割は英雄だからな。


 意気揚々と剣道場を飛び出したいところだが、気になる事がある。そう、ガチャだ!

 浮かび上がった文字を眺める。何も起きない。「ガチャ」と声に出したところで何も起きなかった。

 何だとこのヤローと文字を叩いたところ、僅かな引っ掛かりを覚えた。それはガチャの文字に指が触れた瞬間だったと思う。

 俺はガチャの文字を掴み、引き抜く様にして腕を引いた。すると、目の前に大きなガチャマシーンが突如現れたんだ。

 無料と書いてあるので試しに回してみる。ガチャガチャっと音を鳴らして飛び出してきた黒いカプセル。

 直ぐに掴み取り蓋を開けてみる。途端、眩い黄金の光がカプセルの中から漏れ出した。


「く、何だ? 眩しくて見えない」


 ギュッと目を閉じ、光が納まるまで待って目を開けると、俺の右手には派手な剣がガッチリと握られていた。

 剣の鍔には竜の頭部が口を開き、まるで竜が刃を吐き出したかのように剣身が伸びている。鞘にも竜が描かれており、見た目はカッコいいと言えるだろう。


 カプセルの中には一枚の紙切れが入っており、目を通すと次のことが書かれていた。


『竜殺しの聖剣アスカロン()

 竜に対して強い特攻力を持ち、所持するだけで肉体強化を施す。破損しようとも時間経過で修復され、登録者以外は使用できない。呼べば瞬時に手元に戻り、魔力(マナ)を籠めれば槍へと形状を変化させられる』


「ははは、説明書付とは気が利いてるじゃないか」


 アスカロンの名の上のRが気になるが、おそらくレア度だろうとあたりをつける。

 只のレア()では物足りなく感じるが、もっと凄い武器を手にする事もあるだろうと諦める。


「槍か、……マナを籠めるってどうやるんだ?」


 試しにやってみたが、うんともすんとも言わない。

 仕方なく諦める。そろそろヒーローへと昇り詰める為に校舎へと向かおう。

 剣道場を出て駆け出すと直ぐに校舎へと辿り着く、肉体強化とやらが効いているのだろう。

 既に多くの学生達が犠牲になったようで、血の海が出来上がっていた。

 むせ返るような血の臭いに吐き気を催す。しかし、ここで立ち止まっていてはヒーローにはなれない。

 再び駆け出し中へと入っていくと、無残にも食い散らかされた残骸が至る所に落ちていた。

 悲惨なのはまだ息がある者達だ。痛みを堪える事が出来ずに泣いている者にはまだ希望が有る。が、声も出せず、痛みを感じなくなっている者は、可哀想だがもう手遅れだろう。

 助けを求める声を無視して、激しく音が鳴り響く方へと駆けて行く。


「お、おい、優斗! 良かった無事だったか」


 途中で隆成と合流した。コイツは律儀にも逃げずに俺を待っていたらしい。


「心配したんだぞ優斗。俺は化け物が職員室の方へ向かったから様子を見ていたんだが、アレはダメだ。大人が相手をしたところで、どうにかできる相手じゃない。先生が消火器を使って応戦してたけど無視されて喰われちまったよ」

「何で逃げなかったんだよ! 俺を待たずに逃げれば良かっただろ!? けどまぁ、結果的に正解だ。後は俺に任せろッ!」

「何言ってんだ優斗? って何持ってんだ優斗?」


 漸く俺の持つアスカロンに気づいた隆成だ。見せびらかす様に刀身を鞘から引き抜く。


「スゲェだろ。俺の相棒のアスカロンだ」

「スゲェけど、どうしたんだよそれ? コスプレか? 似合ってないぞソレ!?」

「うっせぇよ。けどな、コレが有れば鬼なんか簡単に()れる筈だ。俺は勇者だからな」


 自慢気に言ってやる。隆成はまだ魔物を倒していないのだろう。一匹でも魔物を倒せばガチャが回せる。アスカロンのように強化系の能力が備わっている物が出れば飛躍的に強化される筈だ。

 だから、可哀想な奴を見るような目で俺を見るのは止めろッ!


「いいからお前も魔物を一匹狩って来いよ。そうしたら俺の言っている意味が分かる筈だからよ」

「簡単に言うけどな! やれるもんならとっくにやってるつっーのッ!」

「俺が小鬼を弱らせるから、お前が止めを刺せばいい。そしたら役割と職が貰えるからよ。あとガチャな」

「小鬼ってゴブリンのことか? 確かにゲームなんかじゃ雑魚キャラだけどよ、現実に出てきたんだからコエェだろうが。あと、役割とか職とかって何だよ!」


 そうか、あの小鬼はゴブリンなのか。うん、確かにそんな感じだな。


「ビビるなって。俺が手伝ってやるからよ」


 俺は隆成に先程の事を簡単に説明する。

 それから俺達はゴブリンを捜しに校舎を離れ、多くの生徒達が残っていそうな体育館へと向かった。

 案の定体育館では、ゴブリンが三匹ほど暴れていた。

 俺は二匹を出会い頭に叩き斬り、残りの一匹を抑え込む。

 隆成が敵から奪った棍棒で最後の一匹を叩き潰した時、周りからは歓声が上がった。

 俺達を讃える声は心地よく俺の深部に浸透していく。

 強制的に生命の危機に立たされた者からしたら、俺達は正にヒーロー。

 ふははっ、気分が良い。この場に居ない双子の姉妹に見せつけてやりたいぐらいだ。


 ゴブリンを倒したことで隆成は希少な役割(Rロール)【英雄の従者】が覚醒し、職【戦士】を獲得している。

 そしてガチャだ。隆成が得たモノは『双斧』だった。

 双斧は二対の斧で特別な能力は備わっていない、只の頑丈な斧だそうだ。


 オーガを倒すにあたって、あと一人は仲間が欲しいところだ。

 出来れば遠距離攻撃が可能なヤツがいい。弓道部の奴等なんかどうだろうか? 弓道場に行ってみようか?


 興奮する隆成を抑えるのが大変だったが、二人で相談して行ってみる事にした。

 弓道部員は数が多い。武器を持ち尚且つ人数が多いなら小鬼の一匹や二匹倒していてもおかしくはない。

 ガチャの存在に気づけるかだが、一匹でも倒していたなら力を手に入れている可能性が高い。

 その中から仲間を募ろう。


 ここも酷い有様だった。けど、そんな中でも生存者がいた、男二人と女一人だ。

 三人とも疲れ切ったように壁に持たれかかり座っている。


「生き残ったのは三人だけなのか? 他の奴等はどうした?」


 俺が聞くと一人の男が答えた。


「散り散りになって逃げってった。喰われた奴等も多いが何とか撃退できたよ」

「ゴブリンを殺してはいないのか?」

「何匹かは殺した。あそこに死体があるだろ」


 男の指差す方向を見ると、確かに数匹のゴブリンが横たわっていた。


「誰が殺した? お前達か?」

「大半は部長がやったよ。俺等も何匹かは殺したと思うけど、良く分からない。もう、何が何だか分からないんだよッ!」


 語気を荒げる男子生徒。しかし、殺したのならガチャが回せる筈だ。

 彼等に簡単に説明して文字を確認させる。

 初めは疑っていた彼等だが、実際にアイコンが視え役割と職を得たようだ。

 女子一人と男子一人の役割は只の【住人】、残りの男子が【狩人】だった。職は全員【弓士】だ、流石弓道部と言ったところか。


「で、部長は誰だ? オーガを倒すのに力を貸して欲しい。アンタ等も力を貸してくれ」

「俺には無理だッ! あんな化け物と戦える訳がないじゃないかッ!」

「いやよッ! 何で私が戦わなくちゃいけないのッ!?」

「部長に頼んでくれよ、俺は死にたくないんだよッ! 部長はデカいのを追って校舎の方へ行っちまったよッ!」


 根こそぎ気力を奪われたのか、三人とも拒絶する。

 コイツ等は自分の命以外はどうでもいいらしい。

 当然か、人とはそういうもんだ。俺だって勝てない相手には挑まないだろうからな。

 弱気になっている奴を連れて行けば邪魔になるだけだ。コイツ等は置いていこう。盾にはなるかも知れないが、足を引っ張られるのはごめんだ。


「じゃぁ俺達は行く。その前に部長の名前だけ教えてくれ」

「ああ、名前は武弓美咲(たけゆみみさき)だよ」

「わかった武弓美咲だな。俺達はもう行くけど、お前達はちゃんとガチャを回しておけよ」


 三人を置いて外へとでる。


「いいのか奴等を置いていっても? 何かの役には立つと思うんだけどな」

「足手纏いは要らないだろ。自ら戦場へ向かった部長だけで十分だ。それより隆成、いよいよだ、準備は良いな? 武弓はもうオーガと交戦しているかもしれん、ならそのまま戦闘だ。覚悟は出来てるな?」

「お、おう。任せとけ。俺はお前のフォローをすれば良いんだよな?」

「ああ、頼りにしてるからな。じゃあ行こう!」


 急ぎ校舎まで戻る俺達。

 校舎まで辿り着く間にゴブリンと何匹か出会したが、出会い頭に脳天を叩き割って終らせた。そして職員室まで辿り着いた。


「アイツ、やけに静かだな。何やってんだ?」

「先生を喰ってるみたいだな。それに、武弓が見当たらない。既に殺されたのか? それともまだ来てないのか?」


 周りを見渡してもそれらしき姿は見えない。それどころか、誰もこの付近に人の姿はない。

 それも当たり前か、あんな化け物が居るんだから逃げる隙があるなら皆そうしている。


「どうする優斗、合流するのは諦めてこのまま殺るか!? 今なら隙だらけだぞ」


 オーガは職員室の窓際にある机にドカリと座り、外に隠れる生徒達を眺めながら先生の遺体にかぶりつく。こっちには背を見せている形になる。

 もう外は薄暗く俺には生徒達が何処に隠れてるかなんて分からない。ヤツには見えてるのだろうか?


「仕方ない、これ以上犠牲者を出しても面白くない。武弓と合流は出来なかったがこのままヤツを倒そう。気合いを入れろ! いよいよだ、いよいよ俺が真の勇者になる時がきたッ!」

「おいおい、気張んなよ。勇者の役割を与えられたからって、只の高校生であることにかわりないんだからな。あまり調子に乗ると痛い目にあうぞ。肩の力抜いて行こうぜ!」


 隆成が窘めてくるが、そんな事はどうでも良い。今はオーガを如何に倒すかだからな。

 そして気づいた。さっきのアイコンが点滅していることに。


「た、隆成、アイコンが点滅してないか?」

「ん? あれホントだ!」


『英雄ミッション発生・オーガを討伐せよ。

 報酬・身体能力向上』


『英雄の従者中難度ミッション発生・オーガ討伐に貢献せよ。

 報酬・筋力強化 ガチャ一回無料権

 注・オーガの攻撃を一度でも受けたら即死』


「なんだこれ? ミッション? 報酬は魅力的だけど、注意の即死って何だよ!?」

「即死? 何の話だ、俺のにはそんなことは書いてないぞ」


 お互いに確認し合うと、異なる内容だったことが分かった。

 隆成の報酬にあるガチャは羨ましいが、俺の身体能力向上も中々の物だろう。しかし、隆成の動向には注意が必要だ。

 

「ヤツはデカい図体に似合った体力があると思っていい。確実に仕留めるには首を落すことだ。俺のアスカロンならヤツの分厚い首を切断できる筈だ。そこで隆成には、奴の気を引いて欲しい」

「無茶言うなよ。俺一人で奴の相手をしろってかッ!?」

「相手をする必要は無い。ひたすらに逃げまくれッ、決して捕まるなッ! 後は隙を見て俺がヤツの首を刎ねる」


 俺達の会話が聞こえたのか、オーガが廊下の壁に隠れる俺達を見つけたようだ。


「ちっ、見つかった! やるぞッ!」

「くそッ! 分かったよッ!」


 隆成が双斧を持って職員室の中へと駆けこんだ。


「やい、テメェの相手は俺がしてやるよッ! ビビッてないで掛かって来やがれッ!」


 なんて、ありきたりな台詞を口にしている隆成。

 天井スレスレの身長のオーガが立ち上がり隆成に体を向ける。

 多くの机が立ち並ぶ職員室だが、今はオーガが座っていた机以外は乱雑に倒れ瓦礫と化している。

 持っていた肉を無造作に放り投げ、瓦礫を踏みつけながらゆっくりと進むオーガ。

 その間に隆成が攻める。相手をする必要はないと言っておいたのに、自分の力を試したくなったのかもしれない。


「おおお、動きが遅ぇんだよッ!」


 瓦礫を飛び越えオーガへと接近した隆成が、両手の斧を足目掛けて振り下ろした。

 隆成の斧には、肉体強化などの能力はない。その為か隆成の動きは普段と変わりがない。いや、不馴れな武器を使っている分、普段より動きが悪い!

 そんな攻撃がオーガに通用する筈もなく、スルリと躱されてしまう。

 瓦礫の机にあたった二振りの斧は一瞬隆成の動きを制限してしまう。

 その隙を突いて腕を伸ばすオーガ。


「させるかッ!」


 流石に見ていられなくなり飛び出し、伸ばされた腕をアスカロンで薙ぎ払う。

 透かさず、空いた腕の隙間に入り込んでオーガの腹に突きを見舞う。

 だが、これは後方へ逃れたオーガには届かなかった。槍に変形させていれば届いたのかも知れないが、出来ないものは仕方がない。


「大丈夫か隆成! 態勢を整えろ、直ぐに来るぞッ!」

「お、おう、すまん!」

「グシシッ、この世界は脆弱でつまらんと思っていたが、見どころの有る奴も居るには居るのだな」


 ──!!!

 オーガが喋ったッ!

 化け物共は今まで一匹たりとも喋ってはいなかった。てっきり獣同様喋らないものだと思っていた。

 不味いな、喋れるってことはそれだけ知能が高いことを意味する。

 知能が高ければ、本能だけで戦う者とは違い、フェイントを仕掛けてきたり、罠をはったりと必要に応じた行動を取る。

 一言で言えば、強敵となる。


「お、おい優斗、アイツ喋りやがったぞ! それもこの国の言葉だったッ!」

「慌てるな、只喋っただけた、慌てることはない」


 確かにこの国の言葉を知っているのは気になるが、その事に気を取られる訳にはいかない。

 ヤツの言ったことから、ヤツは強者を求めている。なら、いきなり本気で襲って来ることはないだろう。ヤツ自身が楽しむために、手を抜いてくる筈だ。なら、それは大きな隙となる。


「グシッ、ヌシ等はアレだろ? 勇者とか英雄とか、人に敬われる存在に憧れているのだろう。でなければ既に逃げている筈だ。まさか正義だの愛だのと言わないだろうな。あちら側ではそんな輩は腐る程見てきたが、正義だ愛だと叫ぶヤツに限って逃げ出すのだ! この脆弱な世界、骨の有る者が居たのは喜ばしいことだが、ここぞという時に逃げるなよ。俺をどこまでを楽しませてくれ!」


 この鬼は思ったよりも饒舌だな。この世界だのあちら側だの、やはりコイツ等は別世界から来たと言うことか? だが、聞き出している余裕はなさそうだ。


「安心しろ! 俺達は正義だ愛だなんて興味がない、そんなタイプじゃないんでな。俺は、俺達は只、アンタを殺すだけだッ!」


 俺は隆成と同時に駆け出す。オーガに向かってではなく、お互いが離れるように。

 少しでもオーガの意識を分散させるための行動だ。

 同時に相手をしても勝てないだろう。本能的にだろうか、それは分かってしまう。なら、工夫しないといけない。では、どう工夫したら勝てるのか?

 ハッキリ言って短時間では勝ち筋など見いだせない。


「グシシッ、気張るが良い、生き残る為になあぁ――ッ!」


 ああ、分かっているよ。俺達は勝つ為に死力を尽くさなくてはならない。だから、非道な手でも平気で使う!


「そりゃよ、テメェが喰い残したモンはテメェで片付けなッ!」


 食い散らかされていた教師だか生徒だかのも分からない遺体をヤツ目掛けて蹴り飛ばす。

 ヤツは避ける事もなくソイツを口で受け止め、そのままガジガジと噛み砕いて嚥下する。

 その隙に俺は一気に距離を詰めアスカロンをヤツの心臓へと目掛けて突き出す。


「ふんっ」


 ヤツが気合を入れると、アスカロンは刺さることなく弾かれてしまった。

 これには驚愕する他なかった。アスカロンが通用しないのなら、俺達に勝ち目が無くなってしまうからだ。


「駄目だ優斗、奴の筋肉の分厚い場所は弾かれる。筋肉の薄い所を狙うしかないッ!」


 俺を囮にする形で隆成がオーガに肉薄し(ひかがみ)、つまり膝の後ろを斧で思いっきり打ち抜く。

 ガクンと膝を落とすオーガに、再びアスカロンを振るう俺。今度は奴の喉元に突きを放つ。

 流石にコレは腕で防いだオーガだが、隆成が間髪入れずに斧を振るう。

 うおぉぉと叫び声を上げながらオーガの首筋にクリーンヒットした斧は、やはり分厚い筋肉に弾かれ反動でたたらを踏む隆成。

 隙を見せた隆成を拳が襲う。

 不味い、隆成は一撃でも喰らえば即死だと不思議文字に書かれていた。あれを喰らえばそのまま死んでしまう。

 俺は慌てて隆成にタックルをかまして吹き飛ばし、拳から遠退ける。代わりに俺の目の前に迫る拳に対応出来ずに吹き飛ばされてしまった。

 魂が抜けたかのような錯覚に陥る程の衝撃。瓦礫を押しのけるよに床を滑り、壁にあたって漸く止まった俺に声がかかる。


「優斗ッ! 大丈夫か、意識はあるかッ!」


 意識が朦朧とする中、俺に駆け寄る隆成と、その隆成を追うオーガの姿が見えたような気がした。


「ウガァャ――!!!」


 薄れる意識に異様な叫びが入り込んでくる。

 俺は気を持ち直す様に気を奮い立たせ、意識を覚醒させる。

 その俺の視界に入ったのは、苦しむオーガの姿。

 何故なら、オーガの右目に深々と突き刺さる一本の矢が生えていたからだ。

 何が起きた? と見渡せば、教室の入り口付近に、矢を放ち終えた形の女子高生の姿があった。


「な、あ、アンタは?」

「私は武弓美咲、三年生よ。あの化け物を倒すのに加勢するわ!」


 武弓はポニーテールの活発そうな女性だ。部長を張っている以上、厳しい面もあるのだろうが、笑顔の良く似合う女の子って感じだ。

 俺はよろよろと立ち上がる。

 漸く弓道部の部長が駆けつけたようだ。最悪の事態の前に来てくれて助かったよ。

 その武弓は、第二矢を番え構えを取る。

 そして放たれる矢がオーガに迫る。


「ギシシッ、調子に乗らん事だな。一人増えたところで何が出来るッ!」


 オーガは自らの眼を貫く矢を引き抜くと、その矢で飛来するもう一本の矢を撃ち落としてしまう。

 だが、奴の右目はもう見えない筈だ、なら右側からの攻撃は有効となるだろう。


「援護頼む先輩ッ!」

「美咲で良いわよッ後輩ッ!」


 俺は開いた距離を一気に縮める。ヤツも迎撃態勢に入っているが、誰よりも速く隆成が斧を振るった。

 いつの間にか背後に回っていた隆成が、ヤツの背中を斧で叩く。おそらく背骨を狙ったのだろう、ここからでは確認できないが、効果はあったようだ。

 オーガの動きが一瞬止まる。ほんの短い時間の隙だが今の俺には十分だ。


「うおおぉぉぉぉ――――――ッ!」


 アスカロンが頸を捉える。奴の血も青い。

 ドクドクと流れる血が、俺のアスカロンを汚していく。が、アスカロンは数センチ斬り込み止まってしまった。


「ガアァ――――――ッ!」

「くっそぉ――――――ッ!」


 力を込める。が、押し戻される。

 どんなに力を入れてもアスカロンは徐々に押し戻されてくる。

 その時、シュッっと鋭い音と共に第三の矢が放たれた。

 矢は寸分たがわずオーガの左目に突き刺さり、


「――――――ッ!」


 音無き声で叫び、奴の込めていた力が緩む。


「今だッ!」


 俺は渾身の力を込め、徐々にではあるが奴の分厚い頸にめり込んでいく。しかし、今一つ力が足りない。


「優斗ぉ――ッ!」


 隆成が斧を俺のアスカロン目掛けて振るう。

 斧は斬られた頸へと吸い込まれ、アスカロンへとぶち当たり加速させてくれる。


「ば、バカなッ! この我が敗れると言うのかッ!」

「「うおぉぉ――――――ッ!」」

「いっけぇ――――――ッ!」


 そして、宙を舞う鬼の首。

 ドサリと体は倒れ込み、首はコロコロと床を転がる。


「や、やった」

「倒したのか?」

「ふぅ、やったようね」


 どうやら俺達全員ミッションを達成したようだ。

 俺達三人は極度の緊張から解き放たれ、脱力して床へとへたり込んでしまう。

 特に俺はオーガの一撃をモロに喰らっているため、ダメージが大きい。

 はぁ、と息を吐いた時、ふと転がる首の潰された目と視界がぶつかり、

「我を倒して気を抜くなよ。他にも強い敵はごまんと居るぞ!」

 そう言われた気がした。実際にはヤツは喋っていないけど、そんな気がしたんだ。


「さて、改めて自己紹介させてもらうわ。私は三年の武弓美咲よ、弓道部部長をやってる。役割は好敵手、職は狙撃手。貴方達は? あるんでしょ、役割に職。それと名前もね」

「俺は河合隆成、二年生です。剣道部やってます。役割は英雄の従者、職は戦士です。宜しくお願いしますっ美咲先輩ッ!」


 隆成が元気よく答える。どことなく顔を赤らめているのはご愛敬か?


「俺は里山優斗、二年だ。剣道部員で、役割は英雄、職は勇者だ」


 逆に俺はぶっきらぼうに自己紹介。


「へぇ、貴方、勇者なんだ凄いじゃん。私、好敵手、ライバルよライバル。いったい誰のライバル役をやらせる積もりかしら? もしかして貴方?」

「俺が知る訳ないだろ」

「先輩先輩、俺は俺ッ!」

「従者のライバルって何よ?」


 武弓は少し呆れたように言う。


「それにしても、いったい誰がこんな事してるのかしらね? 神様? でも、それって自作自演的なものかしら? こんな化け物を寄越したのも神様よね?」

「先輩、……それは分かりませんけど、少なくとも人間ができる事じゃないと思いますよ」

「神でも人でもどっちでもいいだろ? どの道現状を打破しなくちゃならないんだから」

「そうね。……ところで、貴方達ミッションは今ので達成してる?」


『英雄ミッション達成。報酬・身体能力が向上しました』

『英雄の従者中難度ミッション達成。報酬・筋力が強化されました。ガチャ一回無料権を獲得しました』

『好敵手ミッション達成。報酬・狙撃制度が上昇しました』


「してますね。報酬を受け取りましたよ」

「はぁ、ガチャが回したかったぜ」

「私達ってレベルの代わりに報酬で強くなっていくのかしら?」

「どうなんでしょう。俺はレベルアップして強くなった方が手っ取り早いと思うんですけどね」


 確かに敵を倒して経験値を貯めてレベルアップするならその方が安全に強くなれるだろう。

 こんな難ミッションじゃあ命が幾つあっても足りない気がする。


「望ましいのは両方ね。レベルアップと報酬で強くなれれば言うことなしなんだけど?」

「どの道戦う事が前提かよ。一番望ましいのは戦わなくて済む事だろうが。まぁ俺の場合は望ましいが」


 漸く訪れたヒーローになるチャンスだからな。必ず成り上がって双子の姉妹を超えてやるッ!


「あら、優斗君は戦いたいの?」

「優斗は倒したい双子が居るんスよ」

「双子? まさか女神(おみながみ)さん達じゃないでしょうね?」

「先輩もあの二人を知ってるんスか?」

「有名人だからね。やめときなさい、彼女達は私よりも弓の腕は上よ」

「ええ! あの二人弓も出来るんスかッ!」

「ってことは、剣道部にも顔を出してるんだ? そっちでも無双状態?」

「そうっス。顧問の先生よりも上ッスよ」


 隆成と武弓が双子談義で盛り上がっている。

 だが、俺にとってはどうだっていい。俺は必ずあの二人を超えると誓った。たとえ双子が役割と職を得ていたとしてもなッ!


「そんな事よりも、今後の事を話し合った方が有益だろう。どうするんだ? 生き残ったヤツ等を集めて防衛ラインを築くか? 他の使い道があるのか見当する必要がある」


 オーガのような化け物達は他にも居るだろう。まさか学校にだけ出現した訳じゃないだろう。

 なら今後の方針を決めておいても損はないだろう。


「そうね。生き残りを鍛えてこの学校を砦に作り替えるのも面白いかもね」


 こうして俺達は、化け物共から身を護る為にも生き残りを鍛えることになったのだ。



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