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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
2章
47/78

弟子入り

 お祭りが終わりそれぞれがそれぞれの住まいへと戻り、騒がしくも賑やかな人の集まりは徐々にまばらとなっていった。祭りの片づけをする者、余韻に浸る者、道端で眠ってしまった者もいる。


 俺や涼葉は後片付けを手伝いだ。

 優斗や美織は【傲慢之王】スキルを植え付けられ体に大きな負担がかかる隆成を心配し、割り当てられた部屋へと休ませに戻っていった。

 蓮池恋鞠(はすいけこまり)白崎賢人(しらさきけんと)知地理茉子(ちちりまこ)大守龍護(おおもりりゅうご)とマーシャル・ディオンは俺達同様に片付けだ。

 俺は初見だが十七夜月恵美(かのうめぐみ)と呼ばれる女性が加わり、ここ鳥田までの道中で助けた如月昴と加藤正雄も手伝ってくれている。

 十七夜月恵美(かのうめぐみ)は隆成と知り合いの様で、終始心配そうにしていたのが印象に残っている。そんな彼女も洗い物を担当してこの場には居ない。

 今は俺と涼葉、加藤さんと昴でゴミの回収作業中だ。


「なぁなぁ創可兄ちゃん。俺、勇者様に弟子入りしたいんだけどさぁ、兄ちゃんからも頼んでくれないかな。俺みたいなガキが勇者様に弟子入りを頼んでも断られそうでさぁ」

「昴くん勇者の弟子になりたいの? 勇者ならここにも居るんだけどなぁ~」


 ゴミを拾っていると、蓮池がヒョッコッと現れて昴に声を掛けた。その隣には白崎もいる。


「ごめん、恋鞠のねぇちゃんじゃダメなんだよ。だって、俺を助けてくれたのは優斗の兄ちゃんだからさ。やっぱり優斗兄ちゃんの弟子になりたいんだよ。なぁダメかなあ、頼むよお」

「こら昴、無理を言うもんじゃない。剣南さんも勇者様だって忙しいんだぞ」


 今は昴の保護者となっている加藤さんが叱る。が、昴にとっては切実な問題なのだろうな。


「加藤さん、きっと大丈夫ですよ。寧ろ優斗なら弟子が出来たと喜びそうです」「うんうん、ボクもそう思うよ」

「剣南さん柏葉さん、……そうですか。もし迷惑になるようなら私に言ってください、何とかしますから」

「やったぁー。じゃあさ、早速勇者様んとこに行こうぜ!」

「こら昴、調子に乗るな」

「ちぇ」


 今直ぐにでも弟子入りしたいのかウズウズとしながら片づけを手伝う昴に、蓮池と一緒に来ていた白崎が声を掛けた。


「勇者の弟子になるなら武器の扱いに慣れる必要があるね。昴くんのロールやジョブは何なんだい? 勇者は剣も魔術も両方使うよ?」


 今では魔法も使えるようになったとはしゃいでいたが、魔法の扱いは非常に難しい。下手な望は己が身を滅ぼしかねない効果がある。おいそれとは使えないだろうな。


「ふふん、それ訊いちゃう? ふふふ、何を隠そう俺のロールはなんと、【後継者】なんだ! ジョブは【代行】なんだぜ。勇者の弟子にはうってつけじゃね?」

「勇者の代行した後に継承するのか? 後継者だけで誰のとは付いていないな、なら自ら相手を選べるのか?」


 継承した後のロールはどうなるのか? 何とも不思議なロールを授かったものだな。前任者は昴を後継にした後どうなるんだ?


「知らない。誰からのロールを継承できるとしか説明されないんだよ。でもさ、感じたんだよ助けられた時に。この人しかいないって」


 昴と初めて会った時、彼等は荒野の黒蜥蜴を名乗る盗賊団に襲われていた。それを助けたのが俺達であり優斗なんだ。 


「へぇ、でもそのロールやジョブからだと得意分野が分からないね。剣を振るったことはあるの? 魔術は使える?」

「馬鹿にするない。俺だって魔物の一匹や二匹、倒した事ぐらいあるんだぞ! ……手伝ってもらってだけど」


 ロールやジョブなどのシステムのアシストは一体でも魔物を倒さなくては受けられない。故に昴とて魔物を倒した事があるのは分かっている。しかし、問題はその魔物をどうやって倒したかだ。

 正面切って剣と魔術で倒したのか、誰かにアシストしてもらったのか、それとも偶然に偶然が重なり倒せたのか? 白崎が訊きたかったのはそのことだろう。

 俺だって最初のゴブリンを倒すには苦労した。曲がりなりにも冥閬院流(めいろういんりゅう)を習得していた俺がだ。子供である昴が正面から魔物と斬り合えたとは思えないよな。


「昴、今までに誰かから剣や魔術を学んだことはあるのか?」

「……ない。魔物は正雄のおっちゃんが弱らせてくれたから何とか倒せたんだよ。だから勇者さまにお願いしたいんだよッ!」

「じゃあ、剣は兎も角、魔術は使えないんだな?」

「う、うん。剣は親父と友達とチャンバラした程度なんだ。けど魔術は誰も使わなくて教えてもらう人が居なかった」


 剣は遊びの中で上達したが、魔術はそうはいかなかったか。

 おそらく昴の父親は優れた才能を持っていたんだろう。遊びの中に学びを織り交ぜていたに違いない。

 だが、遊びで学べるのは技術までだ。実際の戦闘ともなれば技術の他に様々な要素が加わってくる。

 相手の得物に跳び込む度胸、自身が傷つく覚悟に相手を殺す覚悟、騙し合いのかけ引きに騙されないための知識や観察眼、何より経験からくる直感は非常に大事なものだ。ダンジョン内では罠を見破る目も必要になる。

 昴にとって優斗に弟子入りするのは悪い事ではないだろう。優斗に教える才能があればだが……。


「そうなんだ。うん、良いんじゃないのかな? 僕は昴くんが優斗さんに弟子入りするのを応援するよ。なんなら僕が魔術を教えてもいいかな」

「ほ、ホントか!」

「今の時代、一人でも多くの強者が必要になるからね。じゃあ早速優斗さんの所へ行こうか」

「え、いいの? 片づけは?」

「じゃあここは恋鞠おねぇちゃんに任せなさい。賢人と創可さん、勿論加藤さんも昴くんを優斗さんの所へ案内してあげて下さい。お片づけは涼葉ちゃんと私の女の子パワーで乗り切ります!」


 両の力こぶを見せる蓮池に涼葉が驚愕の声を上げる。


「え、ええ、ボクもなの!」

「嫌でしたか涼葉さん?」

「そ、そんなことないよ~。お片づけは大事だからね。女の子同士ガンバルゾー」


 涼葉の奴、ついて来る気だったな。

 涼葉はさておき、俺は白崎と加藤さんと共に昴を優斗の居る部屋へと連れて行く。

 その間、喜び勇む昴が駆け回りワイワイと楽しそうにはしゃいでいた。そんなに嬉しいのかね、加藤さんが見かねて首の後ろを掴んで吊り上げている。

 そして大人しくなった昴を連れ目的地へと辿り着き、扉をノック。


「優斗、ちょっと話があるんだが入ってもいいか?」

「お、おおおおう、ちょ、ちょっと待ってくれッ!」


 なんだ? やけにドタバタと中で暴れているようだが?


「おい、大丈夫か?」

「ああ、も、問題ねぇよ。さ、入ってくれ」


 許しも得た事で扉を開けると、そこには優斗と美織の二人が頬を赤らめて立っていた。心なしか着衣が乱れているような?


「どうしたんだ二人共? 何だか顔が赤いが熱でも出たのか?」

「ち、ちげぇよ。そんな事より話ってなんだよ」

「ああ、それなんだが、……って、隆成はどこいったんだ?」

「え、ええ、隆成くんは疲れたと申しまして、奥の部屋でお休みしております」


 美織の口調がおかしいゾ?


「な、何でもねぇって。で、何のようで来たんだよ?」


 釈然としないが、話を進めよう。昴がウズウズしすぎて意識が朦朧としてきてるのかフラフラしている。


「ああ、実はな、昴の事なんだが」

「で、弟子にしてください勇者さまッ!」


 俺の言葉を遮り、昴が大声を張り上げて頭を下げた。


「は? 俺に弟子入りしたいのか?」

「はいッ! 俺、勇者様に会えるのをず~と長いこと待ってたんだ!」

「勇者って、恋鞠も勇者じゃねぇか? あの娘じゃダメなのかよ?」

「優斗兄ちゃんがいいんだ。恋鞠ねぇちゃんも悪くないけど、俺は、俺は優斗兄ちゃんの弟子に成りたいんだよッ!」


 熱意のこもった昴の願いに優斗が笑い出した。


「はははっ、そうかそうか恋鞠じゃ嫌で俺が良いのか! いいぜいいぜ昴、今日からお前は俺の弟子だッ!」


 上機嫌だな。相当に嬉しかったのか昴の背をバシバシと叩きながら笑う優斗。


「良かったな昴」


 加藤さんが昴に優しく声を掛け、続いて優斗に深々と頭を下げる。


「勇者様、昴はまだまだ子供ですが、どうかこの子のことを宜しくお願いします」

「正雄のおっちゃん……」


 こうして昴が優斗の弟子になった。

 早速修行だと張り切る優斗に、こっそりと耳打ちしておく。


「崖から落とすなよ」

「しねぇよッ!」


 俺達がしてきた修行の数々を思い浮かべる。

 あれはアカン、昴には耐えられん。


「しねぇっつってんだろうがッ! あんなバケモンの修行と一緒にすんじゃねぇっての」


 よし、言質は取った。これで一安心だな。

 にしても優斗の奴、耀子さんを化物呼ばわりして大丈夫か? あの人、絶体に聞いてると思うぞ。


 「さあ修行だ修行だ」と言って優斗は昴と白崎を連れて部屋を出て行ってしまった。

 慌てて優斗の後を追う美織が「待ってよぉゆーとー」と言いながら部屋を出て行った。

 部屋に残されたのは俺と加藤さんだけだ。寝ている隆成は除外するけどな。

 魔王戦から一切寝ていない優斗だが、休まなくても大丈夫なのか? と考えている俺に加藤さんが話しかけてきた。


「本当に良かった。昴は昔から勇者とか冒険とかの物語が大好きで憧れだったんですよ。実際に魔物が蔓延る世の中になり、より一層勇者への憧れが強くなったようなんです。

 剣南さんのおかげで昴の夢が叶いました。礼を言わせてください」


 そう言い再び深々と頭を下げる加藤さんに、


「いえ、俺は何もしてませんよ」


 ホント何もしてない。ただ連れて来ただけだし、昴一人でも来れたんだからな。


「そんなことはありません。昴から訊きましたよ、我々が盗賊に襲われている時、真っ先に剣を抜いてくれたのは剣南さんだと」


 ああ、あれは馬鹿な盗賊が涼葉を狙ってたからであって昴のためじゃないんだが。


「それでは私は昴の様子を見てきます。剣南さんはこのまま休まれますか?」


 ダンジョンから帰って来てまだ一睡もしていない。システムの影響か疲れを感じていても動けてしまう。システムの恩恵に胡坐をかき、いざと言う時に動けないと困るな、片づけをさっさと終わらせて休もう。


「片づけを終わらせて休ませてもらいますよ」

「分かりました。では後ほどに」


 そう言って部屋を出て行く加藤さん。

 さて俺も戻って片付けだ。正直に言うと優斗と昴の修行には興味があるが、休むことを優先しよう。




 ◇◇◇◇◇




 勇者である俺に以前助けた如月昴が弟子入りを願い出た。勿論即オッケーだ。

 ふふふ、遂に俺にも弟子が出来た。ビシバシと鍛え上げてやろうじゃないか。

 さてさて、どんな修行メニューにしたものかな。

 創可の野郎は俺達が行なった燿子の修行をイメージしたみてぇだが、俺があんな無茶な修行を本気でやると思ってんのか?

 俺達の修行内容はさて置き、昴に何ができて何ができないかを知らないと話にならないよな。


「昴、お前何が得意なんだ? 剣か? 槍か? それとも魔術か?」

「俺、剣は扱ったことあるけど、他は全然試したことがないんだ」


 ふむ、システムを得る為に剣で魔物を倒したのか。

 じゃあ、先ずは何が得意かを見定める必要があるな。取り敢えず木剣と牡丹槍(先端に丸く綿や毛を包んだ練習用の槍)を用意して振らせてみるか。

 鳥田は元々が学校なので体育館がある。そこで取り敢えず様子を見ようと思う。

 鳥田の修練場ともなっているから木剣や牡丹槍も多く用意されていた。変わり種では三節棍までありやがる。

 俺はそれらを順に試させようと思う。


「よし、先ずは剣の腕前を見せてくれ。これであのあそこにある人形を滅多斬りにしてみてくれ。それが終わったら次は槍をやるぞ。順に適性を見ていこうぜ」

「は、はい師匠ッ!」


 昴は木剣を持つと人型人形へと振りかざした。

 おぉ、昴の奴なかなか筋が良いじゃないか。

 親父とチャンバラで覚えたって言ってたけどよ、それだけでこれ程の太刀筋を身につけられるものなのか?

 でもな、子供である昴があんなに無茶に剣を振り回すと、


「はぁはぁはぁ……」


 直ぐに息が上がっちまうぜ。


「力み過ぎだ昴、もう少し力にメリハリを付けろよ。動きは良いが力の入れ方がなってない、その辺は後で教えてやる。よし次は槍だ」


 「頑張れ昴」「スバルくんガンバッ!」と見学している正雄と美織が声援を送っている。


 昴には剣、槍、弓、ナイフ、体術、三節棍と順に試してもらった。

 それで判ったことだが、昴には三節棍が一番合っているってことだ。

 剣と体術はそこそこだったが、槍に弓にナイフはイマイチだった。

 三節棍は扱いが難しいと思うんだがあの小さな体で自在に操っていた。

 成長し身長が伸びれば結構な使い手になるんじゃねぇのか?


「よし、昴は三節棍が一番扱えてるな。この国じゃあまり使われてねぇ武器だが、勇者の俺に扱えねぇ武器はねぇ。お前を世界一の三節棍使いにしてやるぜ」

「はい! 宜しくお願いします、師匠ッ!」


 師匠か、なかなかに良い響きじゃねぇか。文月のおっさんはいつもこんな気持ちだったのかね?

 さて、師匠が弟子にしてやれることを考えないとな。


「昴にはこれから俺との模擬戦をして、その後に外で魔術を見るか」


 流石に体育館で魔術のテストはできないからな。


「分かりましたッ!」


 元気の良いガキンチョだ。

 普通は体力作りから始めるんだろうが、システムの影響下にある以上戦っていれば勝手にあがっていく。魔物を倒してミッションをクリアすれば尚更だ。

 だから、わざわざ体力作りに時間を費やす必要はねぇ。

 創可はシステムに胡坐をかいているって怒りそうだけどな。

 勿論、体力作りをすれば体力はつく。それもシステム外の地の力ってやつだろう。だが、システムが常時補佐してくれてるのに地の力を高める必要性がない。と、俺は思っている。

 システムを封じるような相手だったらいくら地の力を高めても人間の能力の限界を超えているだろう、通用しないと思うぜ。そんな相手じゃ逃げることすらできないだろう。なら、システムを最大限に利用する方法を学ぶべきだと思うんだよ。

 システム封じに遭わないように対策を講じれば良いだけの話だ。今は未だ何も思いつかねぇけどな。


「よし、少し休んで始めるぞ昴!」

「はいっ師匠!」


 手合わせして思ったんだが、昴には特別な才能ってのはない。

 確かに10やそこらのガキンチョとして見ればそこそこやる方だろう。だが、魔物相手に三節棍を振り回したところで致命傷を与えることはできない。

 才能があれば、この手合わせ中にスキルの一つでも生えてくる筈だ。しかし、昴は何のスキルも生えてこなかった。って、まだ始めたばかりだ、焦る必要は無いな。


「これまでにしとくか。疲れたか昴」

「はぁはぁはぁ、いえ、まだまだですッ!」


 元気はあるが息が上がってやがるな。【身体能力強化、向上】があればマシになる筈だ。


「じゃあ小休止した後で魔術を試してみようぜ」

「ま、魔術ですか。俺、魔術は使えないですよ」

「まぁ、物は試しってことさ。取り敢えずは鳥田の連中の移住の準備ができるまではお前の能力の見極めだ。時勇館に着いたら本格的に修行を始めようぜ」

「魔術なら僕が教えようか?」

「賢人、俺の弟子を取るんじぇねぇよ」


 そして昴の魔術の才能、は皆無だったことだけは判った。

 ふぅ、これは教え甲斐のあるこって。前途は多難、それでも昴は強くなると予感はあるんだよな。何なんだろうなこれ?


 俺達は昴の修行に数日を費やし、その間に鳥田の連中の移住準備が整った。

 さあ、漸く時勇館へ帰れるぜ。

 創可が助けた女達は、再びで悪いがカプセルの中に戻って貰った。大人数での移動は危険を伴うからだ。虎車にも入りきらないしな。

 帰路の途中で彼女達の拠点を偵察し、無事であるならば希望を聞いて置いてくるつもりだ。

 まあ、時勇館の方が安全であるし移住した方が良いに決まってるけどな。場所は既に訊いているから道に迷う事も無いだろう。


 さあ全ての準備は整った。こうして俺達は帰途についたんだ。



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