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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
2章
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お祭り

 こまりん達と一緒にお宝を配っていたボクは、創ちゃんと師匠が居ないことに気づいた。それはお宝を配り終わった後だったんだよ。

 ボクは直ぐに創ちゃんの気配を感じ取って居場所に気づいたけど、創ちゃんは用事を済ませた後なのか此方に向かってくるみたい。

 師匠は何処かへ行っちゃったみたいだけど、創ちゃんはボクに二人でした内緒話を教えてくれたんだあ。

 なんでも大地震の前、つまり世界にダンジョンが出現する前に既に世界を行き来していた人物が居たのかも知れないって話だった。

 まったく、次から次へと厄介な話が舞い込んでくるんだよ。


 そのことはさておき、早速創ちゃんに妖刀の等価交換をお願いしたんだよ。

 創ちゃんは快く引き受けてくれて、集中したいからと一人になれる部屋へと入って行っちゃった。

 何が出来るのかワクワクしながら扉の前で待ってると、誰かが近付いて来る気配に気づいたんだよ。


 現れたのはどこぞのおばちゃんだったよ。

 薄っすらと皺を刻んだ柔和な笑顔を携えながら現れたおばちゃんは、50代ぐらいかな? ほっそりとした体格で出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んだナイスバデェな女の人なんだよ。若い頃はさぞモテたんだろうな。

 黒い髪を頭の後部で結い留め、背は、ボクと同じ位かな? 決して長身とは言えないのはほっといて欲しいんだよ。

 ボクと違うのはお胸かな? 大きいや。……え? チッパイ、チッパイって思ったッ! ボクのことチッパイって思ったよねッ!!! くぅ~、許すまじッ! いつか君のを捥いでやるんだから! きぃ~、ぼっきゅぼんってなって創ちゃんを喜ばしてやる~!


 そんなおばちゃん、ズンズンとボクに近付くと急に立ち止まったんだよ。


「あらあら、御機嫌よう可愛らしいお嬢ちゃん。どうしたのこんな所で?」

「こんにちは。ボクはここで創ちゃんを待ってるんだよ」

「あらあら、彼氏さんかしら? ふふふっ、可愛らしいことねぇ」


 表情と同じで、きっと温和な性格の持ち主なんだなと思う、暖かい声なんだよ。


「う、うん。創ちゃんはボクの恋人なんだよ。今、この部屋でちょっと作業中だから、邪魔しない様に外で待ってるんだよ」

「あらあらまあまあ、微笑ましいこと。お嬢さんのお名前を訊かせてもらえないかしら? ああごめんなさいね、先ずは私から名乗るのが礼儀だったわね」


 そう言っておばちゃんが自己紹介を始めちゃったんだよ。


「おばちゃんの名前は大岩聡子(おおいわさとこ)って言うのよ。もし良ければ覚えておいてね。お嬢さんは?」

「ボクは柏葉涼葉(かしわばりょうは)って言うんだよ。よろしくお願いします?」

「あらあら、ホントに可愛らしいお嬢さんだこと。お節介なおばちゃんが一つアドバイスをあげましょうね。譲渡する目的で【等価交換】を行う時は、その譲渡する相手は傍に着いていた方がいいわ。その方がイメージしやすいし、想いが届きやすいのよ。さぁさぁ、部屋に入って入って」


 えっ? なんでおばちゃんが創ちゃんが今【等価交換】をやってるのを知ってるの?

 疑問を口にする前に、おばちゃんが勝手に扉を開けてボクの背を押して部屋へと押し込むんだよ。

 ダメだよ。創ちゃんの邪魔にはなりたくないんだよ! って、どうして【等価交換】のことを知ってるの?


「ダ、ダメなんだよ、おばちゃん……」


 部屋に押し込まれ振り向くと、既にそこにおばちゃんの姿はなくなっていたんだよ。


「あ、あれ?」

「どうしたんだ涼葉? 何かあったのか?」


 創ちゃんが突然入ってきたボクを見て首を傾げる。

 ボクがおばちゃんのことを説明すると、創ちゃんが何かに気がついたのか苦い顔で笑ったんだよ。


「ははっ、まさかな? いや、でもな……」

「どうしたの?」

「実はな、シナリオ報酬で【お節介なおばちゃん】ってのが支払われてな。どうやら、時々現れてはお節介を焼いてくれるらしい。多分、そのスキルが働いたんだろう」

「ええ、何そのスキル!」


 創ちゃんが言うには、魔王討伐シナリオとやらを楽しんだ神が、面白がって寄越したんだろうってことみたい。


「だが、お節介おばちゃんが現れてまで涼葉をこの場に寄越したんなら意味があるんだろうな」

「うんボク、ここに居ても良いのかな?」

「ああ勿論だ。よし、それじゃ始めるぞ」


 創ちゃんがボクが渡しておいた妖刀を持って集中に入るんだよ。

 よく見ると、その手にはラビットフットの御守りも握られてるのが見える。


「あ、あれ? 創ちゃんそれ……」

「【等価交換】」


 創ちゃんがスキル名を口にした瞬間、強く眩しく妖刀が光を放ったんだよ。止める間がなかったよ。

 眩しくて目を覆ったボクにもチラッと見えた、妖刀が光ると同時に形を変えてくのを。

 同時にラビットフットも同様に光を放ち妖刀と同化していくんだよ。

 あのラビットフットは創ちゃんが選んだお宝なのに、ボクのために使ってくれたんだ。

 幸運の御守りだって師匠が言ってた、生命力の象徴だとも。

 そんなお守りをボクのために使ってくれた創ちゃんの気持ちがとっても嬉しいんだよ。

 ボクも創ちゃんのために何かできることを捜さないとと思ったよ。


「よし出来た。やっぱり、涼葉が傍に居たからか思った以上の物と交換できたみたいだ」


 創ちゃんが握っているのは新たに誕生した刀。


「わぁ~、ありがとう創ちゃん! ラビットフットまで使ってくれたんだね、嬉しいんだよ。でも、良かったの? ボクなんかにお守りを使っちゃって?」

「涼葉にだから使ったんだよ。この先何があるか分からないからな。涼葉が少しでも幸運に恵まれるように祈りながら交換した」


 創ちゃんは優しい。きっと元々ボクのためにお守りを選んだんだと思う。

 でも今の世界は優しいとは言えない。創ちゃんの優しさがこの先、仇になる事がありませんように! と、ボクも祈るんだよ。


 創ちゃんが渡してくれた妖刀だったものは、今は神聖な気を放ってるよ。

 どうしてだろうと考えを巡らせるまでもなく、これはラビットフットの恩恵なんだなと思う。

 ほんのりと赤かった刀身は見事なまでの白銀に、柄には上等な素材を使ってあるのか持つ感触は今までのモノとは訳が違う。赤糸で巻かれ、目貫(めぬき)と呼ばれる柄と(なかご)を飾る金属は金で彩られている。

 切れ味も強度も前の銀の剣とは桁違いなのが握っただけで感じ取れたんだよ。 


「有難う創ちゃん、とっても気に入ったんだよ! これからはこの刀を創ちゃんと思って肌身離さず大切に使うね。今度こそ折られたりはしないんだよ、たとえ相手が悪魔だろうとね」

「お、おう、気に入って貰えたなら良かった。これからはその刀が涼葉を護ってくれるよ」

「うんッ! この子にも名前を付けてやらないとね。う~んそうだなぁ~」


 カッコいい名前を付けたいな。

 ボクの名前と創ちゃんの名前を組み合わせて……って、ダメダメ。それじゃリョカと同じになっちゃうよ。リョカは、涼葉の“りょ”と創可の“か”を合わせたものだからね。

 あ、あれ? ボクって師匠と同じ位のネーミングセンスだったのかな??? う、どうしよう。


「名は体を表すと言う。今直ぐに決めなくても良いんじゃないのか?」

「でも名前がないのは可哀想なんだよ。う~ん、……よしっ決めた! 君の名は幸御魂(さきみたま)にするんだよ」


 幸御魂とは人を幸福に導く神霊のことなんだよ。

 創ちゃんがボクの幸せを願ってラビットフットを使ってくれたからこの名前で合ってると思うんだよ。

 ふふふっと笑みがこぼれちゃうよ。創ちゃんの想いの籠ったプレゼントなんだから当然なんだよ。へへっ。


「さて、皆の所へ戻るか?」

「うん、でもその前に、ちょっとこの子を振るって来るよ。何か試し斬りできるモノがあると良いんだけど」

「それなら持ってきた物資の中に牛の足があったろ? アレで試してみたらどうだ?」


 確かに食料として牛の足が丸ごとあったのを見たんだよ。

 爪先からモモ全体のお肉なんだけど、大きな肉の塊で斬り応えは十分かな。

 冷凍されちゃってるから弾力性に欠けるんだけど、丸ごとのお肉には骨、筋肉、筋、神経に血管、皮に体毛と存在しているんだよ。これ等を刀で一刀両断するのは可成り難度が高いんだよ。

 凍ってると斬り易くなり、本当は生が一番だけどこの際贅沢は言えないね。


「よし、じゃあ牛の足を木にでも吊るしてくるよ。涼葉は準備運動でもしてろよ」

「有難うなんだよ」


 こうして始まった試し斬りなんだけど、あれ? なんだかお祭り騒ぎになってないかな?

 準備運動を終えて広場に出てみたら人の集団が出来てたんだよ。

 創ちゃんが牛の足を木に吊るしてると、周りの人達が騒ぎ出しみんな集まって来ちゃったみたい。

 どこからかやって来て、「やっほい、今日は焼肉祭りだッ!」って叫びながら駆け回ってる人がいた。


 ……よく見たら優斗くんなんだよ。何やってるのかなもう~。


 創ちゃんも足を三本も吊るしてる。その内二本は紐で括られて一つになってるよ。

 張り切って難易度を上げなくても良いんだよ?

 冷凍されてるからそれ程難しいものでもないし、システムの補助がある今はこれ位は余裕なんだよ。

 でも、いくら何でもこの量を60人で食べきれるのかな?

 一つの足から取れる精肉が30㎏以上あるだろうから、全部で90㎏以上になるんだよ。単純計算一人当たり1,5㎏にもなるんだよ。無理だよ!

 一度冷凍してるから、再度の冷凍は傷みの元になっちゃうし。あれ? 浄化魔術なら腐らないのかな?

 そんな事を考えていたら、創ちゃんが教えてくれたんだよ。

 創ちゃんが持つ使用済みガチャカプセルに200人を超える女性が収納されてるって話、ダンジョンから救出した女性達みたい。

 うん、それなら合計三百人と考えて、お肉は一人当たり300gになるんだよ。

 それぐらいならみんなで手分けして食べきれるかも、ボクは無理だから創ちゃんへ押し付けようと思う。

 ……え、実は予備にもう二本用意してある?

 ……何やってるのかな創ちゃん。食料は無駄にしたらダメなんだよ?


 なんてやり取りを経て、ボクの幸御魂による試し斬り大会が始まったんだよ。

 今更緊張する程のことでもないんだけど、大勢に見られてるとどことなくやり難いよ。

 ボクを見世物にして、創ちゃんは鳥田の要人を集めて200人を超える女性陣を解放してもいいのか相談したらしいんだよ。

 早くカプセルから出してやりたいっていう創ちゃんと、大所帯での移動になるので後にしたらと言うこまりん達。この後に時勇館へ移住するからね。

 結局焼肉祭りには参加してもらって、移動には再びカプセルに入って貰うことになった。

 良かった、この量のお肉は60人じゃ食べきれないんだよ。

 え? 余ればカプセルに入れてしまえば良い? 腐らない? うん、その手があったんだよ。

 ってことで、遠慮なくこのお肉を斬る事ができるよ。


 解凍され吊るされた牛の足の前に立つ。

 抜刀術の構えを取りつつ目を閉じて集中に入る。

 何処を斬れば良いのかを見極める。硬い筋肉や骨は刃の威力を削ぎ、筋や神経は太刀筋を曲げる。

 それらを問答無用で斬り裂くには刀の斬れ味と技量が必要不可欠だけど、勝手にシステムの補佐が入っちゃうので技術という意味では意味がない。けどこの幸御魂の斬れ味を見るには丁度いい。


 そしてカッと目を開き抜刀、銀閃を残像とし残し振り抜く幸御魂。

 一拍の間を開けてボトリと牛足のモモ部分が地面に落ちる。

 そのまま続けて上段から二つを一つに括られた足を斬り落とす。


 魔物を斬り裂いてきたボクには動かない標的を斬るのは簡単、 成功なんだよ。

 一瞬の沈黙から、盛大な歓声へと変わる。

 みんな、お祭りごとが好きなんだろうと思う。

 だって、今更牛の足を斬り落としただけで大騒ぎなんだよ。

 と言うよりも、食料不足からお肉が食べられなかったのかな?

 この試し斬りで久しぶりにお肉に在り付けるって事だろうと思うんだよ。


 ここからは本当にお祭りになったんだよ。

 創ちゃんが助けた人達も加わりてんやわんやの大騒ぎ。

 でも、女性達を解放した時はびっくりしたよ。

 カプセルを開くと200以上の女性達が裸で飛び出して来たんだから。

 創ちゃんも気が利かないんだよ、先に言ってくれれば洋服を用意しておいたのに。解放してから慌てて服を搔き集めたんだよ。

 まあ、男性陣はみんなお肉に夢中で見てなかったからその辺は助かったんだよ。大きな建物の中で解放したからね。創ちゃんの視界はボクが塞いだから大丈夫だよ。

 創ちゃん何か期待してたりしないよね?


 こうして大勢での焼肉祭りが大いに盛り上がったんだよ。魔王討伐組は寝てもないのに元気。


 解放した女性陣の紹介は大まかに、取り敢えず食えって事で簡単に紹介してお肉を食べてもらったよ。

 中には泣きながら食べてる人も見える。生きてるんだって実感が嬉しいんだって。

 苦しくて悲しい思いをしてきたんだと思うんだよ。でも、これからは大丈夫だよ、ボクも創ちゃんも、勿論のこと優斗くんやこまりんも力を貸してくれるんだから。

 貴女達のこの先の人生に、同じ苦しみや悲しみは在りはしないんだから。


 どんちゃん騒ぎは朝まで続いたんだよ。

 騒ぎすぎて疲れたのか、その場でヘソを出してイビキをかいてる人までチラホラしてるんだよ。

 ボクも楽しんだんだよ。

 隆成くんは目を覚まして途中参加、師匠が付き添ってったみたいで元気そうにしてたんだよ。

 傲慢スキルが心配ではあるけど、楽しそうに優斗くんと美織さんと笑い合ってたから大丈夫かな。


 朝まで続いたお祭りもこれで終わり。

 少し寂しいと思うんだけど、また今度みんなでお祭りをしたらいいんだよね、ここで終わりじゃないんだから。


 数日で移住の準備を終わらせて早く帰ろう、あの暖かな女神家(おみながみけ)に!








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