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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
2章
43/78

魔王戦決着

燦翔(きらと)具合はどうですか?」

「キィヒヒッ、完璧だよティリイス。流石だね君は、一瞬で全快さ」


 勇者である俺は突然現れた女から目を離せなくなっていた。

 一瞬で瀕死だった魔王の状態を完全回復させる魔力に魅せられたのか、それとも美しい肢体に魅了されたのか。いや、膨大なマナ量に恐れているのかこの俺が? 自分でもよく分からない。

 明らかに魔王である燦翔を上回るマナ量を感じとれる。こいつも魔王なのか?


 見た目から奴はサキュバスだと推測できる。

 露出が多く魅惑的なボディに視線を奪われるのは男として可笑しくはないと思うが、気を抜けば【魅了】にかかる危険がある、気を付けないとな!


 だが、見惚れている場合でも怖気づいてる場合でもない。奴が見せた回復能力の高さは尋常ではない。一瞬であれ程の傷を完治させるのは聖女である美織(みおり)でも不可能だ。

 早めに倒さないと回復され続けるのは厄介だ、先に此方の体力が尽きてしまう。


 ティリイスと言うらしいあの女は、今も涼葉の刀を摘まんで動かない。が、涼葉はその摘まんでいる腕を蹴り上げ拘束を解くと素早く後退し俺の横にまで一足飛びでやって来た。

 相変わらずの瞬発力だと感心させられる動きだ。


「優斗くん、隆成くん、こまりん、彼女はおそらく魔法を使うと思うんだよ。十分に気をつけて」


 涼葉からの忠告に隆成が反応を示す。


「え! 魔法ってあの魔法ですか涼葉さん!」

「え? 魔法って魔術とは違うんですか?」


 恋鞠(こまり)は魔法については知らないか。俺だってルシファーから訊いてなければ知らなかったことだから不思議ではないか。


「あら、そちらのお嬢さんは魔法を存知ていないのですね。魔法を魔術と同列に見ては神に対して失礼にあたりますよ」


 魔法か、神の力を借り受け操るのが魔法だったな。魔術では太刀打ちできない力だとルシファーから訊いている。


「魔法は魔術と比べ別次元の存在なのです。思い描いた通りの力が発揮できると考えて下さい」


 こいつ、本気で魔法が使えるのか!

 今までに使える奴なんて女神家(おみながみけ)の連中しか見た事がない、可成りのレアな存在だと思う。それだけに放っておくのは危険だ!


「そうですね、例えば……、“動くな”と願えば、どうです? 動けないのではありませんか?」


 しまった 魔法で拘束された、う、動けねぇッ!


「う、動けませんッ!」

「フフフッ、油断大敵ですよ可愛らしいお嬢さん、これが魔法です。あら……? 貴女、人間を辞めて魔人になってるじゃありませんか?」

「ッ!」


 ああん、何言ってやがんだこいつッ! 何を出鱈目を、と思ったが恋鞠の表情が凍りついたのを見逃さなかった。


「おい恋鞠、こんな奴の言うことにいちいち気にしてんじゃねぇよ。どうせ動揺させようとしてんだろ」

「あ、ああ、そ、そうだよな、あんな奴の言う事なんか耳を貸す必要はないよ。こっちには涼葉さんだっているんだから」


 涼葉はダンジョンコアであり、種属は人間のままらしいがな。

 一般的に見れば【ダンジョンコア】とは人類の敵であり、考え方によっては【魔人】と大差さないだろう。


「……」


 涼葉の奴は黙ってやがんな。どうしたんだ? いつもなら何か言ってきそうなもんだが?

 その涼葉がまったく別の事を言い出した。


「……ねぇ、創ちゃんはどうしたのかな? 下層から気配を感じるんだけど、大きなダメージを受けた様子もないんだよ」


 そういや創可の姿が見えないな。創可の奴、何時の間に下層にいったんだ? ま、ダメージがないなら直ぐに上がって来るだろう。そのことはまぁいい、お陰で恋鞠の話題から逸れたからな。


「あの坊やには退場してもらっただけなので安心してください」

「キィヒヒッ、ティリイスがその気なら既に死んでるんだけどね。どうしたのさ?」

「いえ、ちょっと興味が湧いたもので、後でじっくりと相手をしようかと」

「ヒヒッ、悪い癖だね、それはそれは彼も可哀想に。でもさ、この連中は僕が貰ちゃっても良いよね? 借りは返さないと気が済まないんだよ」

「……燦翔(きらと)、貴方の手に負えるのですか? 正直に言って荷が勝ち過ぎだと思いますが?」

「今は動けないんだろ? なら僕の経験値になって貰うよ。人を殺すことには慣れたけど、これ程の戦力を持つ者を殺したことがないからね」

「いいでしょう。ですが、何かあれば直ぐに介入しますのでその積もりでいて下さい」

「分かったよ!」


 くそっ、奴等が話し合っている間も身体は動かない。まるでコンクリートで固められたようにガチガチに固定されている。どうにかしないとただ殺されるのを待つだけだぞ!


「……ねえ、創ちゃんをどうするって? 創ちゃんに手を出すって言うなら、ボクは全力で君達を倒すんだよ!」

「ヒヒヒッ、動けないのにどうやってやるってのさッ!」

「こうやってなんだよッ!」


 はぁあ! 涼葉の奴、魔法の影響を跳ね退けたのかッ! 涼葉が何事も無かったかのように動き出したぞ。


「――ッ!!! 信じられませんね、私の魔法を無効化したのですか! 貴女はどこぞの神から加護でも受けているのですか!?」


 その涼葉の刃は燦翔(きらと)に向かって上段から振り下ろされる。


「そんなのは知らないんだよッ!」

「キィヒヒッ、いつまでも調子に乗らないでよねッ!」


 振るわれた刃だが、それは甲高い音を立てて燦翔の張った【魔力障壁】によって止められてしまった。

 余裕のつもりか、燦翔の奴は笑みを湛えたまま動かない。


「スラティンッ!」


 涼葉はスラティンへと呼び声をかけ、同時に障壁内部に細く圧縮された水で創られた針のような物が幾つも浮かび上がった。


「な、何時の間に障壁内にッ!」

「やっちゃえスラティンッ!」

「チィー、スライム如きが舐めるなよッ!」


 燦翔の奴、障壁を解き無数の水の針を払い退けその場から退きやがった。が、その背後から巨大な白蛇が現れ大きく顎を開く。

 先程燦翔自身が呼び出した白蛇だ。いつの間にか仲間にしていたのか?


「なんでだよ。お前は僕の召喚獣だろうッ!」


 振り向きざまに闇の魔術を放ち難を逃れたが、すぐさま涼葉の追撃が迫る。

 驚愕しながらも新たな魔術を放ち何とか刃から逃れ、そのまま岩の腕を地面から生やし涼葉の拘束を狙う。


「おいでリョカッ!」


 涼葉は自身の影から馬の魔物を呼び出し素早く躱した。

 涼葉に迫る岩の腕の数は十を超えている。その全てを馬を巧みに操り華麗に躱し続けている。


 何なんだよあの女!

 あの双子と共に鍛えられたんなら納得もいく実力を持っていると思っていたが、これ程だったのかよ!

 更に加えて魔物を自在に操り見事な連携を見せてやがる。


 正直、今の俺じゃ涼葉にも勝てない気がする。

 ……あ、あれ? 俺って実はそんなに強くないのか?

 そ、そんな事はない筈だ。俺は勇者で世界を救う為の実力を磨いてきた。筈だ。

 その俺が未だに動けないってのは格好がつかない!

 くそっ、こんな拘束なんて直ぐに解いてやるッ!


「をぉおおおおぉぉぉ――!」

「あら、勇者様は自力でその拘束を破る気でいるのですか? 無茶をすれば身体を壊してしまいますよ?」


 舐めた言い方をするティリイスがやけに癇に障る。

 俺はあの日、あの時、【勇者】の役割を割り当てられた瞬間に誓ったんだ。

 誰からも称えられる英雄になるとッ!

 何者にも負けないほど強くなり、戦場で活躍を見せ名声を得て栄光を手に入れる!

 何故そう思ったのか? その時はただ単純に有名になりチヤホヤされたい一心だった。が、今は違う、明確な目標ができたんだ。


「お、おい優斗ッ!」

「無茶ですよ優斗さん!」


 二人の叫び声が聞こえて初めて気づく、身体が耐えきれずあちこちから皮膚が裂けて血が吹き出していることに。

 気付いてしまうと痛みを感じるものだ。痛みから骨まで亀裂が入っているのだと分かる。

 だが、こんなところで挫ける訳にはいかない。

 俺の目標は遠く高く聳えているんだよ。何せ俺の目標ってのは、あの女神紡(おみながみつむぎ)(あざな)を超えることだからな。

 目の前のこいつがあの双子より強いとはどうしても思えない。

 なら、俺はこいつに負けるわけにはいかねぇよなッ!!


≪ 【解放】スキルを獲得しました≫


 おあつらえ向きのスキルが手に入ったぜ。


 おおおおぉぉぉ――!


 だが駄目だ! 【解放】スキルを使っても魔法の拘束は解けない!


≪【限界突破】スキルを獲得しました≫


 更に新たな良い物が手に入った。


「うぉおおぉぉ、【限界突破】ぁ――ッ!」


 ――がはぁ!


 【限界突破】を使った途端に吐血した!

 駄目だ、限界を超えた力は今の傷ついた身体じゃ使いこなせないッ!

 傷が広がりみるみる内に俺の身体は血塗れになってしまった!


「や、やめろ優斗ッ!」

「む、無茶ですよ、やめてください!」


 正直立っているのも辛いが、それでも【生命力向上】スキルを頼りに力み続ける。


≪【生命力向上】スキルが【高速再生】スキルに進化しました≫


 ウソみたいに次々にスキルが手に入るじゃないか。

 だが、【再生】スキルをすっ飛ばして【高速再生】が手に入ったのはデカい!傷を負う速度よりも回復する速度の方が速い。

 これなら拘束魔法を打ち破れるかもしれない!


「無茶をする勇者ですね。再生能力が優れているのは分かりましたが、スキルや魔術では魔法を解く事はできません。そのまま続ければ命を落とす事にもなりかねませんよ」

「や、やっかましいッ!」

「威勢はいいですが、良いのですか? スキルに頼っているようですが、魔法は神の力を借りたもです。ですが、スキルは違います。あくまでも自身に眠る潜在的能力の範囲で扱えるモノを、神が与え表面上にまで押し上げたのがスキルなのです。神の力でないのですから幾ら奮闘しようとも魔法は打ち破れません」


 そうなのか? ルシファーからもその話は訊いてなかったな、初めて知ったぜ。


「特殊なスキルの存在も確認されていますが、貴方の【高速再生】ですね、ですが、それでも魔法を破るには至りません」

「ああ、ごちゃごちゃとうるせぇ女だなぁ。要は想いの力が魔法なんだろ? なら、俺にだってできねぇ筈はねぇんだよ。涼葉にできて俺にできない道理はねぇ――ッ!」

「お、おい、優斗、その辺にしとけよ」


 何言ってやがる隆成、ここで気張らないでどうするんだよッ!


「無茶苦茶ですね。そもそも貴方、信仰する神がいないではないのですか?」

「ああ――、俺が信仰するのは俺だけだぁ――ッ! クソッタレがぁ解けろぉ――ッ!!」

「ゆ、優斗さん!」


≪ハハハッ、面白いのがいるね。いいや、ぼくが力を貸してあげるよ≫


 な、なんだ? この場に居ない誰かの声がダンジョン内に響き渡った。


「な、馬鹿な。この世界の神が、この愚行を認めたと?」


≪管理神の加護を授かり、魔法の使用が許可されました≫


「ははは、やってやったぜ。拘束は解けたぞティリイスとやら」


 変な声が聞こえた瞬間、身体は自由になった。傷は高速再生のお陰で完治している。これならイケる!


「まさかこの土壇場で魔法を習得するとは思いませんでしたよ。ですが、魔法は一朝一夕に使いこなせる力ではありませんので気をつけることですね」


 うるせぇ、早速で悪いが魔法を使わせてもらうぜッ!


「“拘束を解け”ッ!」


 俺の想いを込めた声と同時にドッと疲れった気がした。だが、その甲斐もあり拘束されていた隆成と恋鞠の二人の拘束が解かれた。二人は前のめりにたたらを踏んでいる。

 祈りが必要だと訊いていたが、その必要はなかったようだ。さっきの声の奴が勝手に力を送っているのか?


「おお、拘束が解けたぜ優斗」

「はい私も解けました。有難う御座います優斗さん」


 拘束が解けて喜び合う余裕はない。今も近くで涼葉と燦翔が戦っているんだからよ。

 チラリと見るとリョカの影から触手が飛び出し岩の腕を纏めて拘束している。

 で、いつの間にか呼び出したのか、白いゴブリンが二体で燦翔を追いやっているじゃねぇか。

 おいおい、最弱の筈のゴブリンが何やってんだ!? 確か名前はホワィとアスプロだったか?


 ……善戦してやがんな。あっちは涼葉に任せてよさそうだ。

 となると、俺の敵はやはりこの女、ティリイスだ!


「隆成、恋鞠行くぞッ! あっちは涼葉に任せる」


 二人は「お、おう」「はい」と返事を返してきたが、涼葉のことが心配なのかチラチラと気に掛けているようだ。


「あの女に集中しろ、あっちは魔物の援護が有るから大丈夫だ。気を逸らせばやられるのは俺達だぞッ!」

「わ、分かった。だが、良いのか? ティリイスは特に何もしてこないようだけどよ」


 隆成の奴は何が言いたいんだ?

 襲って来ないからって敵である事に変わりはないんだぞ?


「隆成さん、彼女は世界の敵です。叩けるときに叩いておかないとダメですよ」

「お、おう、そうだよな。わりぃ二人共、ちょっとボケてたようだ」

「分かりゃいい。行くぞ二人共!」


 三人同時に襲い掛かる。

 俺と恋鞠で立て続けに剣を振るい、隙を見て隆成が脇から攻める。

 ティリイスは全ての攻撃をその場で躱すだけ、その場から移動することなく身をくねって躱し続ける。


「くそぉ、舐めんじゃねぇー、”拘束しろ”ッ!」


 お返しとばかりにティリイスを拘束魔法で縛る。一瞬、奴はビクッンとして動きを止めた!


「良し、今だッ!」


 俺と恋鞠が同時に斬りかかる。が、俺は魔法を使用した影響か力が入らずにその場で膝をついてしまった。

 剣を振るったのは恋鞠だけだ。「やぁー」と可愛らしい掛け声が聞こえ恋鞠の剣がティリイスの肩へと叩き込まれる。

 しかし、恋鞠の細い腕では力が足りないのか、奴に傷を負わせることができなかった。

 あれでも恋鞠は力が強かった筈だが?

 今はそれより、


「隆成ぃー!」


 俺の呼び掛けに隆成が応え斧で追撃する。奴の【剛腕】でならいくら何でもダメージを負わせられる筈だ。


「あら隆成くん? 私に刃を向けるのかしら?」

「は? 何を言ってやがる。やれ隆成ッ!」


 だが、隆成の奴は斧を振り上げたまま硬直したように動かなくなってしまった。


「おい、どうした!?」

「ゆ、優斗、彼女はどうしても斬らないと駄目なのか?」

「はぁー、何言ってんだ、当たり前だろうがッ!」


 こいつ、まさか魅了されてんじゃねぇだろうな?

 そういや、こいつは肉体の強化系スキルは所持しているが、精神強化に関するスキルは無かったような?


「隆成くん、貴女の敵は私かしら? それとも、そこの二人?」

「テメェは何言ってやがるッ! お前に決まってんだろうがッ!」

「隆成さん、目を覚ましてくださいッ! 今、ここで彼女を倒さなければ大勢の犠牲を出してしまうんですよ!」

「あ、…ああ、わ、わるい優斗、どうしても彼女を斬れないんだ。ひい、い…いいぃぃ――」


 こ、壊れたぞ!


「あぁあああぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 隆成の奴、恋鞠に斬りかかりやがったッ!


「テメェ、隆成に何しやがったッ!」

「あら、私はただ問うただけです。彼の敵は誰なのかと」


 間違いない、隆成の奴はあの女に魅了されている。解くにはやはり魔法しかない!


「隆成、”目を覚ませ”ッ!」

「”無駄です”」


 は?


「阻止させてもらいました。言い忘れてましたが、魔法は体力と精神を消耗しますので、使い過ぎには気を付けて下さい。更に言うなら、上位の神の魔法は下位の神の魔法を打ち消せます」

「クソッタレがぁ! 恋鞠、暫く隆成を抑えてろ。その間に俺があの女を倒すッ! 来いクラウ・ソラスッ!」


 恋鞠は隆成相手に攻めることができず、防戦一方になっている。早くティリイスの魅了を解かないと恋鞠がヤバイッ!


 俺は右にアスカロンを、左にクラウ・ソラスを持ち立ち上がる。

 クラウ・ソラスには【分裂】【索敵】【必中】の能力が備わっている。

 分裂させれば威力は落ちるが、必ず当たるしアスカロンが威力の点は補填可能だろう。


「分裂しろクラウ・ソラス、喰らいやがれッ!」


 指示に従いクラウ・ソラスが細かく分裂し、自ら意志を持ったかのようにティリイスの周りを旋回し始める。同時にアスカロンを振り上げ迫るが、ティリイスの表情には余裕が見て取れる。


「フフッ、可愛らしい攻撃ですね。この程度で私を抑えられるとでも? ハーッ!」


 そう言ったこの女は、俺の振り下ろすアスカロンに片手を添えて軌道をズラし、クラウ・ソラスの分裂した刃を気合一閃で弾き飛ばしやがった!

 そのまま俺の胸に掌を当てて踏み込んだんだ。


「がはぁ」


 その瞬間、俺は口から大量の血を流すハメになった。

 な、なんだ、手を添えられただけなのにッ!


「今のは発勁と呼ばれる技です。外的防御を無視し内部に直接エネルギーを送り込むのです。特別な力は必要とせず、技術のみで行使するものなので消費エネルギーが少なく済みます。因みに、勁とは運動量を差し、勁を相手へと発することからこの名が付いたようですね」


 解説はどうでもいい。こいつ、【体術】それも上位に位置するスキルでも持ってやがんな!

 今の一撃で内臓に裂傷を負ったようだが、俺には【高速再生】がある。直ぐに立ち上がるが、対抗策が見当たらない。

 遠距離攻撃のクラウ・ソラスは気合で弾かれてしまう。かと言って近付けば先の二の舞になる。となると魔術だが、これもおそらくは効かない。

 奴は魔法を自在に扱っている、にわかな俺とは違うんだ直ぐに消されてしまうだろう。

 なら【八火爆砕陣】だが、これも魔術同様に消される可能性が高い。無駄に力を消費するのは避けたい。


 俺があぐねていると、ダンジョンの地面が揺れ始めた。


「くそ、今度は何をするつもりだッ!」

「……これは私ではありません。これは…コアです! 燦翔、急ぎ彼女を止めなさいッ!」


 ティリイスは涼葉と燦翔が未だに争い合っている方向を向き声を張り上げた。

 コアって涼葉のことだよな? あいつが何かしているのか?


「急ぎなさいッ! このダンジョンを乗っ取る気でいます、乗っ取られれば――っ」


 ティリイスの忠告は遅すぎたようだ。

 ティリイスの足元からダンジョン産の大地の槍が付き出し串刺しにする。

 貫かれたと思ったが、残像を残して移動していたようだ。大地の槍に串刺しになったティリイスがぼやけて消えていく。


「ク、遅かったですか!」


 どうやら涼葉がダンジョンの主導権を握ったらしい。

 俺には良く分からんが、おそらくこのダンジョン内で魔物や罠を召還できるようになったんだろう。


「ヒィヒヒッ、なんでそんな事ができるんだよ!」

「キミと違ってボクは長い間【ダンジョンコア】をやってきたから分かるんだよ」


 そう言った涼葉が次々に罠を作動させていく。

 大地の槍、鎖での拘束、矢の飛来、巨大な岩石落とし、酸の散布、etc.…。

 まぁよくもここまでってくらい同時に罠を作動させていく。


「おいおい、大丈夫なのかよこれ?」


 完全にコントロールしているのか、俺や未だに戦闘中の隆成と恋鞠には一切危害は加わっていない。


「まさか乗っ取られるとは思いも寄りませんでした。そうでしたね、【ダンジョンコア】とは異界へと繋ぐ穴、無限のエネルギーに満ちた存在、考えようによっては魔法にすら匹敵します。彼女を燦翔に任せたのは失策でした」


 ティリイスは罠を躱し続けながらそんな事を言っている。


「はんっ、今更かよ」

「まったくです。どうやらここが潮時のようですね」


 なに!? 潮時だと! こいつ、逃げる気かッ!


 そうはさせるかと追いすがるが、まるで瞬間移動のように移動する彼女を捉えることができない!

 そこで、更なる地響きが!


「ち、今度は何だよ涼葉ッ!」

「いえ、これはコアに由るものではありません。これは……、下から――ッ!」


 ティリイスの言葉は最後まで発せられなかった。

 あの女は、地下からの巨大な光の柱に貫かれて消失したからだ。


「ふぃー、やっと上がれた」

「やっぱり創ちゃんだッ!」


 光の柱が開けた穴から跳び出してきたのは、いつの間にか姿を見なくなった創可だった。

 嬉しそうに駆け寄る涼葉を尻目に、俺はティリイスの姿を探す。

 あの程度で死ぬ女じゃねぇよな?

 確かに高威力の攻撃だったが、真直ぐ進む攻撃に成す術もなくやられる奴じゃない。


「やはり貴方でしたか剣南創可(けんなみそうか)

「やっぱ生きてるよなぁ」


 案の定ティリイスの奴は生きていた、ってか無傷でいやがる。

 さっきの光の柱は目が眩む程の強い光を発して下層から上層、つまりこの一つ上の階層まで突き抜けていった。もしかしたら、その上も貫いてるかもしれない。

 無論ダンジョンである天井を突き抜けたってことは魔法の力が働いているのだろう。

 どいつもこいつもあの女神家(おみながみけ)に関わる連中は化け物揃いって訳かよ。


「先程の攻撃は見事でした。宜しければ何をしたのか教えてもらいたいのですが?」

「今のは世を制する神槍(ロンギヌス)なんだよ!」

「ああ、冥閬院流(めいろういんりゅう)弓術、秘奥義・ロンギヌス。全てを貫く神槍の一撃だ」


 弓術なのに槍の一撃ってなんだ?


「槍だの追だの出鱈目ですね。ですがそれが魔法というものですか。……さて、隆成来なさい!」


 ティリイスが隆成を呼ぶと、直ぐにやってきた。

 くそ、まるで奴の従者みたいじゃねぇかよ!


「魔法使いが三人もいては分が悪いので、ここらで退散させて貰います」

「はぁ、待てよ! テメェ、隆成を連れてくつもりかよッ!」

「ええ、彼は私の可愛い恋人ですからね」

「ティ、ティリイスさん、そ、そんなぁ~俺なんかがぁ~」

「キィヒヒッ」


 あの野郎ぉ、嬉しそうににやけてんじゃねぇよッ! ぶっ殺すぞコノヤロー!


「た、隆成さん駄目です! そんな女に着いて行っては、貴方は優斗さんの従者でしょ?」


 イラッとする気持ちを落ち着けて、深呼吸を一つ。


「はあー、そう簡単に逃がすとでも思ってんのかよ。特に隆成は俺の従者だ、ぜってぇに渡さねぇ! 燦翔には落とし前つけてもらわんと困るしなッ!」

「キィヒヒヒッ、僕がなんの落とし前をつける必要があるのさ?」

「テメェの仕出かした事は許されるこっちゃねぇってことだ。命で償えってんだよ!」

「キィヒヒッ、嫌に決まってるだろ」


 そこで、


「いえ、貴方にはここで死んでもらいますよ燦翔」

「「「え!?」」」


 ――なにッ!!!


 燦翔の胸から赤く血に染まった細い腕が生えたッ!

 見ればティリイスが背後から燦翔を突き刺している!


「な、なんで……、ど、どう…し…、て……」 

「申し訳ありませんが、貴方にこれは扱いきれません。貴方に与えた【傲慢】を返して貰います」


 そう言って腕を引き抜くと、その手には光る球が握られていた。


「なっ、仲間なんでしょ、どうしてそんなことができるのッ!!」


 恋鞠の悲痛な叫び。ドサッと音を立て地に伏せる燦翔。


「いえ、あくまでも契約上の関係です。彼に契約を遂行する力はないと判断したまでのこと」


 ティリイスは隆成を抱き寄せると、その光球を隆成の胸に押し当て埋め込んでいく。


「がぁあああぁぁぁ――ッ!」

「燦翔の代わりはここにいますから」


 あの光る球が【傲慢之王】なのか? 取り出せるのかよ!

 何よりこの女、傲慢を返せと言ったか? つまりは元を正せば傲慢はこの女のものだったってことか! この女も魔王!?

 って、そんな場合じゃねぇ!


「はあぁ、おい! 隆成を魔王にするつもりかッ!」

「はい、そのつもりです。ですが、成長するには時間が掛かるでしょうから暫くは追って来ないでくださね」

「なッ!」

「それではさようなら勇者諸君」


 ティリイスの姿が薄れてゆき連れ去られる と思った時、創可が化け物の親玉を呼び寄せやがったッ!


「師匠ッ!」


 創可の呼び声に応えるように、ティリイスの周りで放電現象が起きる。


「キャ」


 短い悲鳴。

 薄れていく姿が再び顕わになる。


「あ、貴方は、女神文月(おみながみふみづき)ッ! ば、馬鹿な、何故ここに!?」

「おや、初対面だと思ったが、俺を知ってるのか?」


 最上級の化け物が現れた。

 それは双子姉妹の父親、女神文月だった。

 なんでこんなとこにいやがんだ?


「ち、最上位の要注意人物とこんな場所で出くわすとは思いも寄りませんでした」

「いや、お前を追ってきたんだから会って当然だろうな」

「私を追ってですか? この国の王にでも頼まれましたか? 成程、先程の魔力球を消し去ったのは貴方でしたか。まさか私にも気づかれずに魔法を扱うとは!」


 なんのこっちゃか分からんが、ティリイスの奴はこの男を相当に警戒している。


「河合隆成を返すと言うなら見逃してやるが、どうする?」


 はぁ、見逃すだと! そんなことが許されるものかッ!


「ふざけんな、突然現れてなに勝手なこと抜かしてやがる! この好機を不意にしろってのかよ!」 

「そうだ、隆成くんを助けたいなら今は見逃すのが最善だろうな。ここでやり合えば彼は中途半端な魔王として覚醒させられ、お前達を襲うことになる。その間に彼女は逃げ、隆成くんはお前達に討伐されることになる」

「ふ、ふざけんな、俺達は勇者だ! こんな危険人物、見逃していい筈がねぇッ!」

「ほぉ、勇者故に親しい友人一人よりも、見ず知らずの大勢の他人を優先するか。だが、目の前の救える者を救うのも勇者じゃないのか? 未確定の危険より、確定した危険に対処しなくていいのか?」


 ち、綺麗事を!


「あんたが居るなら――、」

「 取り敢えず、あの兄ちゃんは今にも死にそうだしな」


 話を遮るように言う。あの兄ちゃんってのは、ずっと倒れたまま動かないあの巨漢の男のことか?


藤瀬誠(ふじせまこと)、彼は【真の勇者】だ」

「は? 【真の勇者】だと!」


 真の勇者ってことは、奴は【英雄】のロールを持ってるってことか。

 真の勇者と只の勇者の違いが分からんが、現段階であの男は俺よりも上位に位置する勇者だ。


「このまま戦い続ければ彼は助からないだろう。真の勇者を失うのは人類にとっては致命的な打撃となるんじゃないのか?」

「ぐッ!」


 確かに人類全体から考えれば勇者を失うのは痛手となる。

 勇者が死ぬってことは、この世界で魔王へ対抗する最大戦力の一人を失うってことだ。それは避けたい。

 ロールの変更は基本的にないと訊いている。

 【真の勇者】は【英雄】のロールからしか生まれない貴重なジョブだ。つまり、現在存在している【英雄】かつ【勇者】の中でしか【真の勇者】は増えないってことだ。

 既に大半の人類のロールが確定していると思われる現状では、一人の勇者の死が人類にとって致命的な打撃となりかねない。


「ち、 あんたは回復できないのかよ!」

「できるが、燿子ほどの回復能力はないぞ。助けられれるが時間が必要だ」


 ……嘘だな。


 なんとなく分かる。このおっさん、燿子と等々かそれ以上の回復能力を持ってんじゃねぇのか?

 嘘をつく理由が分からないが、わざわざ出てきたくせに役立たずを演じるってことは何か理由があるんだろう。


「くそっ、分かったよ!」


 勇者を失うぐらいなら見ず知らずの多くの他人を見捨てざるを得ない。さっき燦翔に言った取捨選択をしなくちゃならねぇとはな、トホホだぜ。

 ここで否と唱えれば、今後このおっさんは力を貸してくれねぇんじゃねぇのかと思う。


「私の方もここで殺される訳にはいきませんので、その話に乗らせてもらいましょう。残念ではありますが、隆成くんのことは諦めます。ですが、一度埋め込だ【傲慢】は殺さない限り取り出す事はできません。約束が違うと反故にしないでください」

「ああ、彼を置いていけば追わんさ」

「分かりました。では、私はこれで失礼させてもらいます。できれば貴方とは二度と会わないことを願いますよ」

「俺は積極的には動かんよ、元々殺すつもりもなかったしな。お前さんのやろうとしていることの一部は俺の願いと一致している」

「ほう、それは興味深い話ですね。ですが長々と話すこともできません、私はここで。それでは皆様ごきげんよう」


 そう言い残して姿を消したティリイス。

 それよりもこのおっさん、魔王と願いの一部が同じだとか言わなかったか?

 もしこのおっさんが人類の敵に回ったら、間違いなく人類は亡びるだろうな。魔王よりも遥かに凶悪な敵となる。

 そんな事があるのかは分からんが、そん時までに強くならなくちゃならねぇ。誰も犠牲にしなくても済むようにな。

 双子の親父だろうがなんだろうが、ねじ伏せれる力を手にしなくちゃ勇者の名が廃るってもんだ。

 人類のために、世界のためにこのおっさん自身に鍛えてもらおうじゃないかッ!



●剣南創可。


 唯一の役割(オンリーロール):【主人公】

 (ジョブ):【騎士】

 スキル:【武芸十八般】【等価交換】【不屈】【カリスマ】【真眼】【集中】【身体強化】【肉体強化】【瞬発力強化】【運命誘導】【空間機動】【空間認識】【空間適正補正】【空間魔術の知識】【衝撃軽減】【恐怖耐性】【治癒力向上】【天駆】

 固有スキル:【ロムルスの神樹】

 魔術:『空間魔術』

 所持品: 雷上動 浅葱の上着 革の軽鎧 覚醒の実×1 聖騎士勲章

 流派: 冥閬院流(めいろういんりゅう)



●柏葉涼葉


 極々希少な役割(URロール):【ダンジョンコア】

 (ジョブ):【魔物操者(モンスターテイマー)

 スキル:【武芸十八般】【広域気配探知】【感知】【第六感】【獣魔召喚】【獣魔送還】【獣魔強化】【従魔共振】【天駆】【魅了】【身体強化】【肉体強化】【毒耐性】【闇耐性】【恐怖耐性】【精神耐性】

 魔術:なし

 従魔:リョカ ホワィ アルヒコ ホーネット スラティン アスプロ アルネア etc.

 所持品: 燭台切光忠 革の軽鎧 覚醒の実×1 人形式×100

 流派: 冥閬院流(めいろういんりゅう)



●里山優斗。


 加護:new 管理神の加護


 極々希少な役割(URロール):【英雄】

 (ジョブ):【勇者】

 スキル:【剣術】【槍術】【蹴撃】【会心】【強心】【跳躍】【遠視】【危機察知】【カリスマ】【身体能力向上】【身体強化】【肉体能力向上】【肉体強化】【思考加速】【魔力上昇】【魔力操作】【魔盾】【斬撃耐性】【打撃耐性】【毒耐性】【即死耐性】【呪耐性】【生命維持】【治癒力向上】【ヒートソードアタック】【アイスソードアタック】【八火爆砕陣】


 new【解放】

 new【限界突破】

 【治癒力向上】→ new【高速再生】


 魔術:『四大魔術』(火、水、風、地)

 所持品: 竜殺しの聖剣() 聖剣クラウ・ソラス(SR) 聖凱イジョス・ブリン()ジャ



●河合隆成


 希少な役割(Rロール):【英雄の従者】

 (ジョブ):【戦士】

 スキル:【剣術】【斧術】【盾術】【身体強化】【肉体強化】【城塞】【強靭】【剛腕】【魔盾】【魔力障壁】【斬撃耐性】【打撃耐性】【貫通耐性】【衝撃吸収】【毒耐性】【麻痺耐性】【生命維持】【再生】【道具箱(アイテムボックス)】【誘導】

 魔術: 『特殊魔術』

 所持品: 双斧 鋼の剣 鉄の軽鎧 カイトシールド ポーション×12



●蓮池恋鞠


 種族:魔人

 希少な役割(Rロール):【リーダー】

 (ジョブ):【魔を秘めし勇者】

 スキル:【剣術】【体術】【邪剣術】【遠見】【暗視】【飛行】【身体強化】【肉体強化】【魔力増幅】【魔力吸収】【魔力操作】【魔盾】【魔力障壁】【二重魔術(ツインマジック)】【状態異常耐性】【再生】【魔人化】

 魔術: 『四大魔術』『闇魔術』『回復魔術』『特殊魔術』

 所持品: 理力の剣 銀の鎧



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