勇者参戦!
ティリイスと呼ばれた女性を両断しようと炎の刃が疾翔する。
しかし、高温だと思われるその炎刃をティリイスは事も無げに払い退け霧散させてしまう!
俺のピンチを救ったのは【真の勇者】である藤瀬誠だった。
彼は【炎翔刃】を難無く払い退けられたことでしかめっ面だ。
「チ、この程度では話にならんか?」
「ええ、そうですね。私を相手にするにはもの足りません」
余裕を見せるティリイスに苦虫を噛みしめる藤瀬。
この表情だけを見てどちらが優勢なのかが伺えてしまう。
真の勇者と言えど、どんな魔物にでも優位に立てるって訳じゃないのか!?
「キィヒヒヒッ、僕のことも忘れて貰っては困るんだよね」
聞きたくなかった魔王の声。その声を聞いた瞬間、収容カプセルが熱を帯びたような錯覚を起こす。
彼女達、それに犠牲になった者達の無念が伝わってくるようだった。
「やはり皇龍では時間稼ぎがやっとかよ」
「キィヒヒッ、あの程度じゃね。本気で僕の相手が務まると思ってた訳じゃないよね?」
藤瀬に話しかけていた反町が、不意に彼の背後にいる俺に視線を向けた。
「 ……ところで君が戻って来たってことは、女達の惨状は見てきたんだよね? ヒヒッ、どうだった、絶望したかな? あれを助け出す事なんて誰にだってできっこないって理解してくれた?」
彼女達の惨状か…、確かに酷いものだったな。だが、彼女達を助けるのが不可能だという考えは甘い。俺は助けたし、助けられる人物を複数知っている。
反町は知らない、この世界には問答無用で問題を解決してしまうような超人がいるってことを。
そう考えると、反町は魔王と呼ぶには稚拙だと思えてくる。自分の行いが全てまかり通るとでも思っているかのようだ。
「ヒヒヒッ、勇者に助けを求めに来たんだろうけど、残念でした。おっさんはここで死ぬし、生贄は今ここで全員贄となるんだから」
反町はそこまで一気に捲し立てると、両腕を大きく上へと伸ばして叫ぶ。
「キィヒヒヒッ、出てこい【眷属召喚】」
「やめろ魔王ッ!」
慌てて止めに入る藤瀬だが、その必要はない。
「……? さあ絶望しろ【眷属召喚】ッ!」
反町の様子が変だと気付き足を止める藤瀬。
「……どうしたのです燦翔、魔物の召喚がなされてませんが?」
「うん、あれ? どうしたのかな? さっきの銀の攻撃でおかしくなっちゃったかな?」
反町は頻りに首を傾げているが、できる筈がない。彼女達は今反町の手から離れ俺のカプセルの中に収容されているんだから。
銀の攻撃とやらが何か知らないが、勘違いしてくれるのは好都合だ。
女性達を救出し、今も共にあると知られるのは危険だ、このまま黙っていよう。
「ということは、生贄の女達は救出されたのですね? でしたら逃げた者達を捕まえなければなりません」
「ち、反対側から逃げたのかよ」
ティリイスの言葉に忌々しげに答える反町。
反対側? もしかして部屋をでて反対側に行けば出口だったのか?
「うそだ、あの状態の女共をどうやって助けられるっていうんだよ。神でもないのに、こんなパッとしない男に出来るもんか。でも、事実生贄は一人も居なくなっている。なんで……」
「別に驚く程の事ではありませんよ。魔法を使える者なら容易く救助できたでしょうから。問題が有るとしたら、彼が魔法を使えたのかという点です。私の見た限りでは、彼は魔法が使えない。それどころか、満足に魔術すら使うことが出来ない様に見えます」
ぐ、当たってる。なんであの女はそんな細かい所まで分かるんだよッ!
「ですが、勇者を救った氷の結界は魔法の様でした。……不思議ですね、俄然興味が湧いてきました」
「何言ってんの? 魔法なんてそう簡単に使えるもんじゃないだろ? 彼が魔法を使えたら大問題だよ!」
ティリイスが獲物を見定めるように、反町が訝し気に俺を視る。その視線は意味合いは違えど俺からしたらどちらとも遠慮してもらいたい粘着質な嫌なものだった。
そこで藤瀬が小声で俺に話しかけてきた。
「おい剣南、まだ戦えるか? 片方を任せたい」
「ああ、大分休ませてもらえたからな。だが、勇者でない俺に期待されても応えられないぞ」
過度の期待は身を亡ぼす、キッチリと期待するなと言っておく。
「ああ、俺が女を倒すまでの間でいい、もう片方の反町燦翔と言ったか、奴の足止めを頼む」
「分かった。反町の方はどうにかしよう。だが、長くは持たない、できるだけ早くケリを付けてくれ」
「了解ッ!」と返事を聞き、二人同時に走り出す。
藤瀬が反町に、俺がティリイスへと向かって駆ける。
え、逆じゃねって? 良いんだよコレで!
俺がティリイスの間合いへと踏み込むと、横を奔る藤瀬が急に軌道修正をかけティリイスへと大剣を振る。
不意の攻撃に意表を突かれる形で後退するティリイス。
俺はティリイスの頭上を跳び越えるように【天駆】を使い駆け上がり、燦翔に向かって急降下する。
「冥閬院流刀術、槌閃ッ!」
巨大なハンマーを振り下ろすかのように、力任せに上空から刀を振り下ろす。
強靭な光忠ならではの強引な振り下ろしだ。
「キィヒッ、舐めるなよ!『アースジャベリン』ッ!」
反町に向かって落下する俺に向かい、反町の足元から幾つもの石で出来た槍が跳び出し飛来してくる。鋭利な先端を持つ石の槍に刺されば串刺し確定だな。
だが、俺には空間に関するスキルが揃っている。これ位なら躱すのは容易だ。
「ヒヒッ、まだまだっ『ダークジャベリン』ッ!」
石の槍に紛れて無数の闇の槍が追加された。
俺は槌閃をキャンセルして、【天駆】に【空間機動】と【空間認識】を駆使して躱していく。
「キィヒヒッ、躱すのがやっとなのかい!?『ロックレイン』ッ!」
今度は天井から岩の雨が降ってくる。
流石魔王と言うべきか? これだけの魔術を連発して疲労は見て取れない。魔力量が多いのだろう。
反町は魔術効果が切れる度に新たな魔術を放ってくる。ち、奴のマナは底なしかよッ!
上下からの魔術に、俺はただひたすらに躱す事に意識を集中させる。
俺は勝つ必要がない。藤瀬が勝つまでの間、時間を稼げばいいだけだ。俺に注意を引き付ければそれでいい。
チラリと藤瀬の方を見ると、――ってヤベッ!
此方へ凄い勢いで吹き飛ばされてくる。
無防備に飛ばされる藤瀬は、このままでは大きなダメージを負いかねない。
俺は「くそっ」と悪態をつきつつも飛ばされる藤瀬を庇う様に抱き留める。
勢いは予想以上で、受け止めた筈の俺の身体までもが後方へと飛ばされてしまう。
広い空間だ、壁まで飛ばされる事はないがその所為で可成りの距離を飛ばされる羽目となった。
「ぐ、すまん剣南、助かった」
「それは良いがどうした? 一人であの女を倒すのは難しいのか!?」
藤瀬は勇者だ、それも【真の勇者】として覚醒しているのだという。
そんな彼が魔王以外に敗れる事など無いと考えていた俺には、少々どころかデッカイ驚きだった。
「ああ、流石に【色欲の魔王】だ。そう簡単には仕留めさせてはくれんらしい。……あっちの【傲慢の魔王】よりも遥かに厄介な相手だぜ」
ん? 今、不穏な響きを耳にした気がする? え?
「……は? 色欲の魔王? って、おい、まさかあの女も魔王なのかッ!」
「気付いてなかったのか? あの女は色欲の魔王だ、気を付けろよ。男のお前には相性が悪い」
なんてことだ、俺達は同時に二人の魔王を相手にしていたのか! どおりで仕留めきれない訳だ。
それより、男の俺には相性が悪いって、お前も男だろうがッ!
「話し合ってる時間はくれんようだ! 来るぞッ!!」
藤瀬が視線を向け知らせてくるのは、言わずもがなティリイスの襲来。
彼女の身体には先程には無かった紋様がいつの間にか刻まれていた。
紋様の効果か? 先程までとは比べ物にならない程のプレッシャーを感じる!
「あの模様が浮かび上がった途端に強くなりやがった。たくっ、ただでさえ傲慢よりも強ぇってのによ、更に強くなるなんて訊いてねぇぞッ! 脅威だぜ全く」
藤瀬の本気の愚痴り、思わず声に出てしまったのだろう。
藤瀬の纏う鎧は既にボロボロとなっており、碌な防御力は見込めない。それをやったのが彼女だと言うなら、確かに脅威と言えよう。
「大丈夫なのか!? 先に反町を倒した方が良くないか?」
と言ったところでティリイスの蹴りがきた。
二人同時に左右に跳び退き躱すが、ティリイスは何故か俺の方へと向かって追撃を仕掛けてきた!
「ち、お前さんの相手は俺じゃないだろうッ!」
彼女の迫る拳を光忠の柄でそっと逸らし、一歩を踏み込むと同時に力で強引に振り戻す。冥閬院流刀術、カウンター技の一つ戒光だ。
「フフフッ、やはり貴方、ちゃんとした剣術を習得しているのですね?
基本は完璧、ですが決して型に嵌まらず。正確な足運びに不意の崩れた体捌き、力を入れようはメリハリがあり、不必要な力は使わない。力を入れる時は入れ、抜く時は抜く。剛柔併せ持つ素晴らしき剣術。剣術スキルや上位のスキルですらこれ程の剣捌きは不可能でしょう。
本当に勿体なく思います。貴方が魔王であるならば迷わずスカウトしましたものを」
「生憎と魔王じゃないんでね。それに、たとえ魔王であったとしても人類の敵であるアンタに力は貸さないッ!」
怪しく光る血の色をした瞳を見ていると、吸い込まれそうになるが気合で踏み止まる。
ただボーとしている訳にもいかないので、水歩を使って間合いへと入る。入るなり残光を放つが余裕で避けられてしまった。
最速の抜刀術で当てられないのなら搦め手を使うしかない。
そこで藤瀬が大剣を振るうがこれも同じことだった。
「ティリイス、お前の相手は俺だ! まさか勇者では物足りんとは言わんよなッ!」
「いいでしょう。先ずは貴方から始末してあげましょう。彼の相手は燦翔に任せます」
ち、できればティリイスを二人で集中したかったが、流石に無理なようだ。
「キィヒヒッ、勿論だよッ!『ダークスピアー』」
巨大な一本槍の闇魔術、そいつが俺に真っすぐに向かってくる。
正直魔術師の相手はやり難くはあるが、ティリイスを相手にするよりかはマシなのかも知れない。
今までの戦闘で、反町の実力はティリイスの足元にも及ばないことは分かっている。
が、それは裏返せばティリイスの尋常ならざる実力を証明しているということ。反町とて決して弱くないのだから。
「く、次から次へと魔術のバラエティーが豊かなことだなッ!」
「ヒヒッ、この位魔王なら誰でもできるんじゃないかな。『アースジャベリン』!」
続け様に放たれる魔術のせいで反町に近付けないでいる。
時間を稼げば藤瀬がどうにかしてくれると考えていたが、それでは駄目だということが分かった。
逸早く反町を倒し藤瀬に加勢しなくては、何時までも無事だとは考えづらい。
「ヒヒヒッ、ホントよく避けるよね? どうしたの? 反撃はしないのかな?『ロックレイン』ッ!」
俺は飛来する魔術を一つ一つ集中して躱しつつ、反町との距離を詰めていく。
だが、奴の豊富な魔術により押し戻される。近付いては遠ざかる、これの繰り返しだ。
「キィヒヒッ、近づけないよね。魔術の使えない君には僕を倒すなんて不可能なんだよッ! ってことでそろそろ諦めて死んでよ。『アドバンスド・ハンドブレイク』ッ!」
これは、バルサムが天一に使った大地魔術!
床から天井からと幾つもの岩腕が俺を襲おうと迫りくる。
「ヒヒヒッ、ダンジョン内でのこの魔術は凶悪だよ!」
尋常ならざる強度を誇るダンジョンでの岩の腕だ、俺の剣術では太刀打ちできない。
――とでも思ったか!?
奥義ならこの程度、乗り切るのは容易い。問題は、奥義を使うだけの体力が俺に残っているかだが……。
奥義を使うには躊躇いがある。がしかし、ここで使わなければそもそもが終わってしまう!
俺は意を決して奥義の構えに入る。
「冥閬院流刀術、奥義・火之迦具土ッ!」
迫る岩椀を焼き尽くそうと光忠が炎上する。
「炎王爽籟ッ!」
ヒノカグツチの炎を纏わせたままの賂王爽籟。
今にも殴り掛からんとする岩椀を、一瞬の内にして細々と焼き切っていく。
その光景をまざまざと見せつけられた反町の気持ちはどうだろうか?
ダンジョン産ということで自信を持って放った魔術は、悉く焼き切られ意味を成さない。焦りや怖れ、憤り嫉妬する、そんな感情の込められた視線を俺の真眼が捉えていた。
「なっ、何で、何だよそれッ!? 何でダンジョンの岩の腕が斬れるんだよ! く、来るなっ『ダ、ダークジャベリン』ッ!」
回転を止めずに突き進む俺に向かって闇の槍が放たれる。しかし、奥義が発動している最中にその程度の魔術が効く訳もなく、炎に巻かれ消えていった。
「くそっ、来るなって言ってるだろ、『エアバレット』ッ!……あ、あれ、なんで? 何ででないんだよッ!!」
何だ? 空ぶりか、何も起きないぞ?
「ああ、コアが機能してないッ!?」
そうかさっき言っていた銀の攻撃がどうのこうのってのがコアの機能を殺しているのか!?
なら、今が最大のチャンスだ! 時間を置いてしまえば回復されてしまう。
「おおおぉぉ――ッ!」
「なめるな――ッ!『クリフ・レジェクション』ッ!」
燦翔の切り札だろうか? 俺と奴との間に巨大な、ってか床と天井を繋ぐ壁ができあがった。
ち、厚さは分からないが、ヒノカグツチなら、できない筈がないッ!
「うぉおおおおおぉぉぉ――――――ッ!」
俺と反町とを隔てる壁に向けて横薙ぎに光忠を薙ぐ。
炎を纏った光忠が壁に触れたその瞬間、綺麗にスッパリと巨大な裂け目ができあがった。
まるで斬ったのではなく消滅したかのように、一瞬で目の前に巨大な裂け目ができあがった。
なんの抵抗も手応えも無かったが、光忠によるヒノカグツチはその役目をキッチリ果たしてくれたようだ。
後はこの裂け目を潜り抜けて魔王を討つのみ!
裂け目の奥で怯えたようにしゃがみ込む反町の姿が視界に入る。
怯えて屈みこみプルプルと震えるさまはまるで子供だ。
燦翔は魔王としては臆病すぎる。魔王となる前の境遇の所為だろう。
同情はするが手心は加えない、反町はそれだけのことをしてしまっているんだから。
今なら勇者でない俺でもトドメを差せるはずッ!
そのまま裂け目を潜ろうと手を置いたその時、グラリと身体が傾ぐのを感じた。
気付けばその場に倒れ吐血、光忠を握る手にも力が入らない、ここに来て体力切れを起こしてしまった!
筋肉は断裂を起こし、血管は破裂して内出血を至るところで起こしている。
血を吐いたってことは、内臓にもダメージが入っている。
脳の血管が無事なのは不幸中の幸いだったか!
「へ? へぇ~、やっぱり神さまっているもんだな。あ、ヒヒッ、違う違う、魔王が神さまを頼っちゃダメだよね? これは僕の力、僕の運、僕の起こした奇跡なんだよ。これまでの行いが巡ってのこと、君よりも僕の方が優秀だったってことだよ!」
くそ、あと少し、後ほんの数歩だったのに……。
意識が薄らいでいく、これ程までに魔王を追い込んだというのにッ!
奥義を使うにはまだ体力が回復しきってなかったんだ。こうなる前に覚醒の実を使うべきだった!
今から覚醒の実を使うにしても取り出す力がない。ポケットから取り出す、只それだけなのに指の一本も動かない。
このままでは良い様にやられてしまう。
「キィヒヒヒッ、トドメを差してあげるよッ! いい加減にくたばってくれて良いんだよッ!」
意識を保て! 身体を動かせ! 刀を振るえ!
「キィヒヒヒッ、じゃあね、『ダークスピアー』! ありがとう、君との戦いはいい経験になったよ」
立て! 立て! 立て! 闇の巨大槍が迫ってくるぞッ!
……くそっ、だ、駄目だ、立てない、間に合わないッ!
眼前に迫る闇の槍を見ていたくなく瞳を閉じる。
「やぁあああぁぁぁ――――ッ!」
と同時に、どこかで聞いたような気合声。
閉じた瞼を薄っすらと持ち上げると。
「創ちゃん大丈夫ッ!」
涼葉のものだった。この時には既に巨大な闇の槍は消えていた。
続いて数人が跳び込んでくる。
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜぇー、【ヒートソードアタック】! おまけだ『ファイアボール』ッ!」
「大丈夫ですか創可さんッ!」
来てくれたのか、涼葉に優斗、それに隆成と蓮池も。
その蓮池が回復魔術を掛けてくれる。
「大丈夫です!? 剣南さん今癒しますからね。『ヒール』」
蓮池の回復魔術が身体に浸透していくのを感じる。
破れた血管が修復され皮下出血が消え、断裂した筋肉組織が繋がっていく。
「うっ、ふぅ、助かったよ、有り難う蓮池。涼葉もありがとな、皆を連れてきてくれて」
完全に完治とはいかないが、それでも動けるだけは回復した。
「ううん、創ちゃんが無事で良かったんだよ。うぅぅ、うわ~ん創ちゃ~ん! 心配させないでよぉ~」
起き上がろうと身を起こした俺に、勢い良く抱きつく涼葉。回復した俺を見て安心したのか涙を流しながらグリグリと顔を押し付けてくる。
そんな彼女の頭にポンと手を乗せグシャグシャと撫で回す。って言っても、帽子に擬態したスラティンをだが。
「ごめんな涼葉、心配かけさせた」
「そ、創ちゃんや、やめてぇ~、へへへっ」
頭をグシャグシャに撫でられるのを嫌がる涼葉だが、本気で嫌な訳じゃないのか笑顔を零す。
蓮池はまだ完全ではないと回復魔術を続けてくれた。
一方で優斗の方は、反町との魔術合戦が始まっていた。
「ち、次から次に邪魔な奴等だなッ! さっきからなんなのさ、『ダークジャベリン』。ホント肝心な時に邪魔をしてっ!」
「知るかよ。『ファイアジャベリン』! 日頃の行いが悪いんじゃねぇのか!?」
闇と火の槍の応酬が始まる。闇が火の、火が闇の槍を相殺していく。
その二人を見て、蓮池が回復を施しながら声を飛ばす。
「反町燦翔! どうして貴方が【魔王】なんかになってるの!? 貴方は只の【裏切り者】だった筈なのに」
「キィヒッ、【裏切り者】で合ってんじゃん。僕は僕を虐げてきた人を憎み、人類全てを裏切ったんだから。 その為に力を付けて魔王になったんだから、『テアザアース』!」
反町の魔術が展開する。奴の前方から、ゴゴゴッと地鳴りを響かせ優斗に向かって大きく地面が裂けていった。
「キィヒヒヒッ、『グランドマイン』ッ!」
優斗が亀裂を避ける為に横へ踏み出した時、足元に魔法陣らしきものが浮かび上がりボムッと爆ぜた。
咄嗟に足を引いた優斗だが、爆発の勢いで亀裂に落ちそうになっている。これも何とか踏み止まることができたよだ。
「く、ちっ、姑息な真似しやがって」
ダメージは軽度のようで表情は歪んではいるが、まだ余裕が見て取れる。
そのまま勢いを付けて駆け抜けようとする優斗に、
「ダ、ダメ。まだ動いちゃダメです!」
蓮池が大声で静止をかけた。
「何だよ恋鞠、うるせぇな」
「グランドマインは地雷魔術なの、それも可成りの数仕込まれてる。迂闊に動けば足が吹き飛ぶよ!」
「キィヒヒッ、彼女の言う通りだよ。僕に近付けばドカンッだ。『アースジャベリン』」
地雷を警戒して動けない優斗に向かって石槍が飛来する。
勇者と言えど魔王ほどに魔術に精通している訳ではない。そう何度も魔王の魔術を魔術で相殺することはできない。
「ち、面倒だなッ!」
「優斗ッ!」
迫る石槍を剣で迎え撃とうと構えを取る優斗の前に、盾を構えた隆成が躍り出た。
隆成の持つカイトシールドは、アーモンド型の盾で身体を大半を隠せる大きさの物だ。
石槍は吸い込まれるように盾へと向かい、激しい音を立てて崩れ落ちていく。
不自然な動きを見せた石槍は、隆成のスキルによるものだろうか? 見事に全ての石槍が隆成の持つ盾へと吸い寄せられていった。
「だ、大丈夫か優斗?」
カイトシールドは木材と鉄で出来ている筈だが、石槍を受けても無傷のように見える。何らかのスキルないし魔術が作用していると見ていいだろう。
「それはこっちのセリフだっての。でも、サンキュー隆成、助かったぜ! んじゃ俺も見せ場を作らねぇとな。新スキルを見せてやるぜぇ【八火爆砕陣】」
いつの間に覚えたのか、優斗が新しいスキルを使う。
優斗を囲うように、宙に浮かぶ赤く輝く火球が八つ生れ出た。それは優斗の周りをフヨフヨと漂い、術者の指示無くして離れることはないようだ。
「優斗、地雷の方は俺に任せてくれ。誤爆【誘導】ッ!」
隆成のスキルも新スキルか!?
【誘導】スキルによって、地表にセットされた地雷魔術が次々に爆発を起こしていく。
反町と優斗を結ぶ直線上に、数多くの地雷がセットされていたらしい。小規模だが、連続する爆発は脅威になりうるものだった。
先程の石槍は、この【誘導】スキルで盾へと導いたのか!?
「ナイスだ隆成、防御は任せた。『アイスニードル』ッ!」
氷で創り上げられた細かい針を飛ばし、同時に駆け出す優斗。当然として火球が後を追う。
「ヒヒッ、調子に乗らないで欲しいな。『アドバンスド・ハンドブレイク』ッ!」
生えた岩椀の一本に氷の針を防がせ、そのまま岩椀が踊り狂うように動き始めた。
「けっ、岩の腕なんかに捕まるかよッ!」
「じゃあこれも追加だ。『ダークソー』」
岩腕が地面から天井から襲い来るなか、三枚の闇の丸ノコが空を翔ける。
闇鋸は岩腕の隙間を縫うように自在に滑空し優斗の逃げ道を塞いでいる。優斗は逃げ場を失い脚を止めてしまった。
そこに一本の腕が延び、ゴゥーンと大きな音を響かせ止まった。優斗を庇う様に再び隆成が盾で腕の攻撃を防いだんだ。
だが、その背後からも腕が延びてくる。おまけに三枚の闇鋸までもが追随してくる。
隆成は一本の腕と拮抗しており庇う事ができないようだ。しかし、延びた腕を弾き飛ばした者がいた。
優斗に向かって殺意を籠めて延ばされた腕は、細い腕をした少女の一撃で防がれたんだ。と同時に闇鋸に向かって光弾を飛ばし消し飛ばすという離れ業をやってのけた。
「里山さんは反町燦翔をお願いします。道は私達が開きますからッ!」
その少女とは蓮池だ。あの娘、あんな華奢な身体でどれ程のパワーなんだよ!
「おうッ!」
優斗はそんな彼女の実力を知っているのか、驚く事も無く駆け出した。
隆成と蓮池の助力もあり反町に随分と接近した優斗は、八火爆砕陣による火球を反町へと飛ばした。
その内の一つが反町へと直撃しけたたましい爆発音を奏でて魔王の姿を覆い隠す。
見た感じ、火球一つで通常の大岩なら粉々に砕かれそうな威力だな。
一つでこれ程の威力を発揮するなら、全てを同時に爆発させれば魔王とて無事ではすまんだろう。
残りの火球は反町の周囲を回転しながら飛翔している。そして、一つづつ反町へと向かっていく。
この火球は優斗の意志で自在に動かせるんだろう。
「あぁ、くそ痛いなもぅ、【魔力障壁】ッ! ウザいんだよ!『シャドウカーテン』ッ!」
反町の周りにマナの障壁が精製され、それを包み込むように薄い影のカーテンが覆う。
そのカーテンに一つの火球が包まれた。
火球は爆発することなく大人しく捕まっている。動かす事も出来ないようで只々浮かんでいるだけだ。
「ヒヒッ、こうなったら只の光りの塊だね」
次々に火球はカーテンに包まれてゆき、最後の一つも包まれてしまった。
身動きができない火球は大人しく反町の周囲で包まれ何の反応も示さない。
「はん、ソイツを封じた程度で勝った気でいるのかよ」
「負け惜しみかい? 現実はこの通り、君の技は完全に封じたよ」
「考えが甘ちゃんなんだよ。見てろよ、爆ぜろ八火爆砕陣ッ!」
優斗の命に、影に包まれていた火球が光を増してゆく。
「な、シャドウカーテンに包まれたモノは力を失う筈なのにッ!」
「それが甘いって言ってんだよ。いいのかよ、そんなチャチな障壁で、その程度じゃあ俺の八火爆砕陣は防げないぜッ!」
火球が一際輝きを増し、臨界点を超え一斉に爆発を起こす。
火球による爆発で、影のカーテンはまるで包み紙を裂くように易々と引き千切れていった。
先程とは比べ物にならない規模での大爆発、凄まじい爆風が熱波となって押し寄せてくる。
先程砕いた岩椀の欠片が、爆心地から凄い勢いで遠ざかっていく。
それ程に爆風は強く、地面を掴んでないと吹き飛ばされそうな程だ。
熱は苛烈で肌が焼け爛れるのではと訝しく思う程。
爆発の中心部に立つ反町は、魔力障壁を展開しているとはモロに爆発を受けている。
障壁にはヒビが幾つも生じ、終にはパリィーンと甲高い音を立てて砕け散った。
その崩れた障壁の中心部で、膝を突き肩で息をする反町の姿が見える。
「はっ、言わんこっちゃねぇ。トドメだ【ヒートソードアタック】ッ!」
優斗は一気に間合いを詰めてトドメを差そうとアスカロンを振り被る。
それと同時に隆成と蓮池も駆け出し優斗の攻撃に合わせて挟撃に出る。
どうやらこちらはカタが付きそうだ。
俺と涼葉はもう一人の魔王、ティリイスの相手に向かおう。
勇者と言えど、藤瀬が未だに喰らいついているのが不思議なぐらいにあの女は強い。
「涼葉、こっちは終わりそうだ。あっちの魔王を――、」
「そ、創ちゃんッ! あれは何かな!?」
驚愕の表情とともに指差す先には、今までに見た事もないドス黒く巨大な一つの岩の腕が生えていた。
その腕は何かを握り潰す様に握り締められている。
そう、あの腕は勇者達を鷲掴みにしていたんだ!
腕は今まで見たどの腕よりも大きく邪悪なオーラを纏っていた。
ドス黒く見えるのは、腕全体に黒い血管の様なモノが張り巡らされ脈動しているから。
邪悪に感じるのは、その腕自体から反町の波動が放たれているから。
いったいアレは何なんだッ!?
マズい! あの三人にはダンジョン産の鉱物を破壊する術がない。
かと言って藤瀬の方も既に限界に達しているのかやられる一方だ。
助けに入れるのは片方だけ。
どうするッ! どうするのが最善か!?
「くそっ、どうしたらいいんだッ!」
●剣南創可。
唯一の役割:【主人公】
職:【騎士】
スキル:【武芸十八般】【等価交換】【不屈】【カリスマ】【真眼】【集中】【身体強化】【肉体強化】【瞬発力強化】【運命誘導】【空間機動】【空間認識】【空間適正補正】【空間魔術の知識】【衝撃軽減】【恐怖耐性】【治癒力向上】【天駆】
固有スキル:【ロムルスの神樹】
魔術:『空間魔術』
所持品: 燭台切光忠 雷上動 浅葱の上着 革の軽鎧 覚醒の実×1 聖騎士勲章
流派: 冥閬院流
●柏葉涼葉
極々希少な役割:【ダンジョンコア】
職:【魔物操者】
スキル:【武芸十八般】【広域気配探知】【感知】【第六感】【獣魔召喚】【獣魔送還】【獣魔強化】【従魔共振】【天駆】【魅了】【身体強化】【肉体強化】【毒耐性】【闇耐性】【恐怖耐性】【精神耐性】
魔術:なし
従魔:リョカ ホワィ アルヒコ ホーネット スラティン アスプロ アルネア etc.
所持品: 銀の剣 革の軽鎧 覚醒の実×1 人形式×100
流派: 冥閬院流
●里山優斗。
極々希少な役割:【英雄】
職:【勇者】
スキル:【剣術】【槍術】【蹴撃】【会心】【強心】【跳躍】【遠視】【危機察知】【カリスマ】【身体能力向上】【身体強化】【肉体能力向上】【肉体強化】【思考加速】【魔力上昇】【魔力操作】【魔盾】【斬撃耐性】【打撃耐性】【毒耐性】【即死耐性】【呪耐性】【生命維持】【治癒力向上】【ヒートソードアタック】【アイスソードアタック】
【八火爆砕陣】new
魔術:『四大魔術』(火、水、風、地)
所持品: 竜殺しの聖剣 聖剣クラウ・ソラス 聖凱イジョス・ブリンジャ
●河合隆成
希少な役割:【英雄の従者】
職:【戦士】
スキル:【剣術】【斧術】【盾術】【身体強化】【肉体強化】【城塞】【強靭】【剛腕】【魔盾】【魔力障壁】【斬撃耐性】【打撃耐性】【貫通耐性】【衝撃吸収】【毒耐性】【麻痺耐性】【生命維持】【再生】【道具箱】
【誘導】new
魔術: 『特殊魔術』
所持品: 双斧 鋼の剣 鉄の軽鎧 カイトシールド ポーション×12