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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
2章
39/78

創可参戦!

 俺は囚われの女性達をカプセルに収容し、部屋を出た。

 部屋を出ると通路は左右へと別れている。

 右から来たが左側に進むべきだろうか? いや、それは有り得ない。

 何故なら出口がなければ意味がないからだ。左を進んで外に出れる保障はない。

 しかも、この階層は罠が設置されている。左通路の罠は健在で、逆に右の罠は既に作動済みか解除済みだ、罠に掛かる可能性は低いと言える。

 右の通路を渡るにあたって最大の問題は、途中で戦闘中であろう勇者と魔王の存在だ。

 巻き込まれれば収容カプセルが無事だとは保障できない。

 だが、そちらしか出口がないのなら行くしかない。

 幸いあの階層には肉の壁が在り、身を隠せる場所が多い。気配を消して出口を目指すことは可能かも知れない。


「よし、行こう。見つからなければなんてことはない」


 行きと違い帰りは早かった。

 罠も無ければ道に迷う事も無いからだ。

 単純に出口を目指すだけなら、今の俺なら行きの半分の時間もかけずに6階層へと辿り着く。


 だが、いざ辿り着いてみると景色が一変していた。

 階段からひょっこり覗き込むと、頼みの綱であった肉の壁が綺麗さっぱり消えて無くなっていたからだ。

 これでは身を隠しながら上層へと向かうのは不可能だ。


 遠くから戦闘音であろう激しい打ち合いの音が響いてくる。

 コッソリと上層へ行く案は却下せざるを得ない。どんなに気配を消しても上層への階段は戦闘現場のすぐ傍だ、必ず見つかる。

 それでも師匠に叩き込まれた気配消しの技術を用いて、階段から跳びだし上層へと繋がる階段を目指す。つまり、戦闘現場に近付いていく。

 大丈夫だ、今のところ誰にも見つかっていない。が、見つかるのは時間の問題だろう。


 ――んんっ?

 気配が一人分増えている?

 それもこの気配は巧妙に擬装し自らを下降方向へ偽っている。これ程上手く気配を偽造できる相手はそうは居ないだろう。この気配の持ち主は相当にヤバイ奴だ。

 出来ればお近づきにはなりたくない。


 …………


 ちっ、そうも言ってられないようだ。

 勇者こと藤瀬誠(ふじせまこと)が今にも殺されそうだからだ。


≪主人公シナリオ発生『魔王討伐』が開幕します。

 皆さま、お楽しみください!≫


 ああん、シナリオ? またか、魔王討伐って勇者の仕事だろがッ!

 その魔王も遠くで光る龍と戦闘中だ! あれはどうでもいい、勇者に任せよう!


 でだ、増えた気配は女性のものだった。 

 それも可成りの美女だと言えるだろう。

 彼女は明らかに人間ではく、角に翼に尻尾まである。

 流れるような艶のある長い黒髪が、上昇気流に巻かれて激しく舞っている。彼女の頭上に存在する巨大な炎の球体がその原因だろう。


 しかもあれは、フィカスの使っていた火炎魔術『ファイアボール』と同じもの!

 あんなものの直撃を受ければいくら勇者といえど只では済まないだろう。下手をするとそのままお陀仏だ!


 助けるか? だが、その時点で戦闘に巻き込まれるのは自明の理。今の俺は多くの女性の命を預かっている立場だ、迂闊に戦闘に参加できない。

 そもそも勇者は涼葉を狙う潜在的な敵だ、助ける必要があるか?

 ……いやしかし、彼は女性達を助ける為に俺を行かせてくれた。それに、勇者と魔王なら勇者を助けるのは人として当たり前だよな? あの勇者はセカンドアースの人々を救いにわざわざ来てくれた云わば恩人でもあるんだし。


 くそっ、グダグダと考えている時間はないぞッ!

 涼葉なら、グダグダと考えてないで即座に助けに入っただろう。が、俺はそれ程お人好しではない。

 だが、今回ばかりは見て見ぬふりは出来ないのも事実。


「ちっ、井氷鹿(イヒカ)――ッ!」


 速度に乗った火炎球が藤瀬に迫る。

 四の五の考えている暇はなく、俺は藤瀬を護る様に氷のドームを創り出した。

 俺はフィカス戦を経験し知っている。イヒカでならファイアボールを完封できるのは実証済みだ。

 実際に火炎球は氷のドームに触れた瞬間にバシュと音を立て、いとも簡単に消滅した。

 しかし、今日だけで何度となく使った奥義の反動か? 身体から力が削ぎ落されたような脱力感を感じる。


「ハァハァハァ――」


 息が切れる、奥義の乱発は避けなければならなかったか。

 最悪、入手したばかりの覚醒の実を使わざるを得なくなるかも。できれば温存したい、なるべく体力を使わない戦い方を心掛けなければ!


 女性が驚愕の表情を此方に向けた。

 どうやら彼女の標的は、藤瀬から俺へと移行したようだ。コンチキショーがッ!


「私の魔術をこうも容易く防がれるなど、あってはなりません!」


 彼女が上空へと舞い上がり、両手を俺へと向けてくる。マズいッ、何らかの魔術を放つつもりだ!

 今の体力でイヒカを使えば体力が底をつく。ならッ!


「来い、雷上動(らいしょうどう)ッ!」


 その場から動かずにも攻撃できる遠距離武器である弓矢を取り出す。

 女性達を救出した際に得たミッションクリア報酬の一つ、雷上動の弓。

 伝承では(ぬえ)と呼ばれる妖怪を射落としたとされる弓。


 ミッション報酬が支払われると一時的にどこか別の空間に保管される。

 欲しい時に取り出す事ができるが、一度取り出すと再び仕舞うことができない。その為に取り出さずにいたのだが、この際使える物は使ってしまおう。


 雷上動は大きな和弓で、セットになっている矢筒を素早く腰に括り付ける。

 山鳥の尾で作られた二本の矢を抜き取り、一本をつがえて狙いを定め、もう一本はたれ下げる様にし追射に備える。

 上と下の差はあるが、俺と彼女が見つめ合う。あれ程の美女と面と向かって見つめ合うと、普段の俺なら照れてしまい目を逸らしてしまうが、今はそうも言っていられない。

 相手に狙いを悟られない様に相手の瞳を見据え逸らさない。この時点で視線を逸らせば潜在的な負けが確定する。気圧される訳にはいかないッ!


 ギギギと弦が音を立て引かれ、矢は今か今かと解き放たれるのを待っているようだ。

 狙うは胸の中心、最も的が大きく外し難い場所だ。


 彼女が術式を完成させ、突き出す両手の前で大きな雷球が生まれた。

 奇しくも矢を放つのも、雷球が放たれるのも同時だった。


 ヒュンッと風を切る音を立て女性へと向かって飛んで行く矢。

 バリバリと放電を繰り返し此方に迫る雷球。

 お互いの標的を射貫かんと殺意を宿し突き進む。


 お互い正面からぶつかり合い、一瞬のスパーク。

 打ち勝ったのは、雷球だった。矢は砕かれ、雷球は何事も無かったかのように突き進む。

 だが、これは予想済みだ!

 先程のスパークの一瞬、俺はもう一本の矢を素早く射っていた。

 雷球を避け弧を描く様に、曲線をなぞり飛翔する矢を放ち終えている!


 だが、問題はここから。

 飛来する雷球をどうにかしないと一撃で戦闘不能に陥ってしまう。

 だがしかし、俺の右手は既に燭台切光忠の柄を掴んでいる!


 刀の伝承の中には雷を斬り、雷切と名付けられた刀がある。

 光忠、お前は師匠が昔に使い続け鍛えた凄い刀なんだろう!?

 他の刀に出来てお前に出来ない道理はないッ!


「うぉおおおぉぉッ! 斬ってみせろ、雷切ぃ――――ッ!」


 雷球を目の前に、抜刀術で迎え撃つ。

 光に覆われる視界の中で、光忠を抜刀し上段から振り下ろす。


 ――光忠は見事雷球を両断するに成功した!


 雷球は左右に別れ俺を通り抜け、消えていった。


≪スキル【雷切】を獲得しました≫


 おう、スキルになったぞ。


「なッ!」


 女性の死角から、追の矢が飛来し慌てて躱している。が、微かに綺麗な肌に傷を付けている。


「く、いいでしょう。貴方を勇者と同格の存在としてお相手致しましょう」


 どうやら彼女は雷球を斬られたことと、不意の追の矢で負った傷とで俺に対する侮りを捨てたようだ。

 中空で体勢を崩している内に第三の矢を射ったが、彼女は俺への侮りなど既に無い。距離を置いた矢の攻撃は通用しなかった。

 先の第二の矢は俺を侮ったが故に虚を衝けた。馬鹿正直に矢を構えて射ったところで、もう当たる事はないだろう。


「ち、その勇者を死なせる訳にはいかないんでね。悪いが、ソイツは俺が貰っていくぞ」

「勇者の仲間ですか。ですが、此方もはいどうぞとはいきませんよッ!」


 今度は俺が驚く番だった。


「なッ!」


 ちぃー、気付けば間合いに入られていた。

 彼女から視線は一度たりとも逸らしてはいない。が、突如姿を消した彼女が、次の瞬間には目の前にいた。そのまま拳が打ち込まれる。

 しかし、俺はその攻撃を防いでいた。


「うをッ!」


 咄嗟に雷上動で受け止めた。


「驚愕ですね、この速度にすらついてきますかッ!」


 彼女の連撃が始まる。

 壊れる! と思った雷上動が、意外にも攻撃を受けてめてくれていた。

 ほぼ同時に繰り出される拳と蹴りを、雷上動と光忠で防いでいく。 


 我ながら彼女の速度についていけているのが凄いと思う。

 修行前では考えられないことだ。

 あの崖登り修行の何処に速度の要素があったのか疑問だが? ああそうか、危機感だ!

 危機的状況下で身体能力が向上することは普通にあることだ。だが、それを意図的に出来るようになったのは、あの危険極まりない崖登り修行があったからだろう。【瞬発力強化】のスキルも有るしな。

 今思えば燿子さんやルシファーには感謝だ。そう言えば二人はこの鳥田救援も修行の一環だとか言っていたな。

 この状況を修行だとは思えないが、何より実戦は修行になるって話はよく聞く。


「よそ事を考える余裕があるとは驚きです。私も侮られたものですね、『ウィンドカッター』ッ!」


 マズい、物理攻撃に加えて魔術の追加だと!

 これ程の連撃を繰り出しながら魔術を併用して使えるってのかッ!

 彼女が生み出した風の刃は全部で八枚。咄嗟に振るった光忠が偶然にも一枚目の刃を掠め取った。


 俺には冥閬院流(めいろういんりゅう)の奥義、級長戸辺(シナトベ)を扱った経験がある。

 その経験が多いに役立った。無意識だがシナトベの要領で風を操り、風の刃の軌道を変え二枚目の刃とぶつけ合わせ打ち消したんだ。

 思わぬ幸運、偶然の産物に救われた。


「な、『ウィンドカッター』までッ! ですがまだッ!」


 驚きながらも拳と蹴りを変わらず打ち込んでくる。

 風の刃は全部で八枚、残り六枚だ。全てを打ち消さないと防御に劣る俺では一溜まりもない。


 三枚目、鋭い蹴りを雷上動で受けた瞬間を狙われた。やむなく紙一重で躱す。頬をザックリと斬られてしまった。

 四、五枚目、拳を掻い潜り光忠を振るい軌道を変えた、二つは消滅。

 六枚目、これは背後に回り込まれていた。が丁度良い、ギリギリまで引き付けて躱す。術者に返るが良い。

 だがやはり、そう巧くはいかないか。自らの術で倒れれば楽だったが、彼女の身体に触れる前に消失した。

 七枚目は余裕を持って八枚目にぶつける。これで全て消えたことになる。


「チッ、いったい貴方は何者なのですか!? 勇者でもないのに、【主人公】とは何なのですかッ!」


 この女性も藤瀬同様に相手のロールが分かるのかッ!

 ロールが分れば対策されやすい。俺のロールは曖昧なモノで対策のしようが無いと思うが、それでも知られるのは気分が悪い。

 恐らく【鑑定】スキルかそれに類するものだと思うが。【偽造】スキルが欲しくなるな。


 それは兎も角、女性の攻撃は今も止むことなく続いている。

 ウィンドカッターは防げたが、次がないとも限らない。

 一瞬でも気を緩めれば魔術を使われてしまう。常に牽制が必要だ。

 が、ここで思わぬ事態が起きる。

 恐らく躱した筈の三枚目の風の刃が回旋して戻ってきていたのだ。

 俺の左下から打ち上がるように迫る風刃に、思わず振るってしまった雷上動が弾き飛ばされてしまったんだ。


「しま――ッ!」

「遅いッ!」


 体勢を崩した俺に、鋭く重い拳がめり込む。

 ぐっ、し、しまった。一発でも貰えば次を防ぐ余力を失うッ!

 案の定、電光石火の足刀が胸部を貫く!


「かはっ!!!」


 く、い、息が出来ない!

 吹き飛ぶのを両の足で堪えたが、それでもその場に膝をつく。直ぐに動けッ! 更なる追撃がやって来るぞ。


 ――動けない!


 身体は一瞬にして鉛と化し躱す事すら難しい。

 呼吸ができない! 意識を保つのがやっとだ!

 くそっ、ここまでなのかッ!


「随分と派手にやってくれたなティリイス。キッチリと借りは返させてもらうぞ」


 そんな声が聞こえたと思ったら、膝をつく俺の頭上を大剣が通り抜けていった!


「このタイミングで復活しますか、【真の勇者】」

「おぅ、勇者様復活だ、さっきの様にはいかんぞ【炎翔刃】ッ!」


 九死に一生を得たか。さっきの貸しが早速返ってきたようだ。






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