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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
2章
35/78

鳥田での戦い

「お願いリョカ、急いでッ!」


 ボクは創ちゃんをあの場に残して一人逃げる。

 リョカのスキルを使って影へと潜り、あらゆる障害を無視してひたすらに鳥田へと急いだ。


 ボク一人逃げる? そんなのイヤでイヤで仕方がなかったけど、それでも創ちゃんが生き残る可能性が最も高いのは、優斗くん達を連れて戻ること。創ちゃんの言う通り魔王の相手は勇者が一番だと思うから。


 後から現れたあの男、どうにも得体が知れないんだよ。

 あの男から感じたものは、圧倒的なパワーと揺らぐことのない魔を斬るという信念だった。それと、あの身のこなし方から、相当な鍛錬を積んで来たんだと分かるんだよ。つまり、ボクたち同様にシステムが無くてもある程度の強さを持っているんだよ。

 創ちゃんとボクの二人掛かりで挑まないと勝てない、それ程に彼は強いと感じ取れた。

 なら、やっぱり魔王の相手は勇者に任せ、ボクと創ちゃんの二人で相手取りたい。

 創ちゃんは無茶をしてないと良いんだけど、……きっと無茶してるんだよ。

 だから、早く、一刻も早く鳥田へ!


 ……でも、それでもやっぱりボクは残りたかった、創ちゃんと一緒に戦いたかった、肩を並べて戦いたかったんだよ創ちゃん。

 今も不安で胸が張り裂けんばかり、ちゃんと間に合うのかな? 間に合っても勝てるのかな?

 ううん、ボクが弱気になったらいけい、絶対に間に合う、間に合わせる! 間に合えば勝てる、絶対に勝つんだッ!

 相手が誰だか知らないけど、最後に勝つのはボクたちなんだよッ!


 よし、ダンジョンを抜けたんだよ。数多くの魔物が徘徊してたけど、リョカのスキルのお陰で戦闘せずに済んだ。


「さ、もう少しだよリョカ!」


 リョカは勢いよく影から飛び出して疾走する。

 リョカの脚はどんな馬よりも速く、瞬く間に鳥田防衛基地が視界に入った。


「創ちゃんの言う通りだ、盗賊が攻めてきてるんだよ。魔物も居るけど結界に阻まれて侵入できないみたい」


 鳥田防衛基地には盗賊と魔物が押し寄せていた。

 魔物の全てを結界で押し退けている。問題は結界が通用しない人間である盗賊達なんだよ。 

 鳥田は正門を閉じ、防壁の崩れている三か所で防衛ラインを築いて応戦してる。


「うぉおおおぉぉぉー、テメェ等、やっちまえぇーッ!」

「「「おぉおおおぉぉぉーッ!」」」

「よえぇー癖して特攻してくんなよ! 同じ人間だからって容赦はしねぇぞッ!」


 一ヶ所目は優斗くんと隆成くん、それと鳥田の戦闘員が数人。


「おおお、女だー、テメェ等ぁ、あの女を捕まえろぉー!」

「ボスに渡す前に喰っちまおうぜっ! ボスは生きていりゃ寛大だからなぁ」

「私を捕らえる? やれるもんならやってみなさいよッ!」


 二か所目には蓮池恋鞠(はすいけこまり)ことこまりんと白崎賢人(しらさきけんと)くん。


「んだよアイツはヤケに堅ぇーなぁ」

「どうすんだよ、崩せねぇぞッ!」

「俺より後には誰も通さん! 通りたければ俺を倒すしかないぞ盗賊共がッ!」


 三か所目は一番大きく崩れた防壁部分を護る、大守龍護(おおもりりゅうご)くんと知地理茉子(ちちりまこ)こと茉子ちん。


 姿の見えない美織ちゃんは多分、中央部辺りで結界の維持に専念していると思う。そこにマーシャル・ディオンくんが護衛してるんだと思う。

 マーシャルくんが美織ちゃんの気配を消してくれてるんだよ。ボクの【広域気配探知】でも分かり辛く、端的な気配を多少感じ取れるだけなんだよ。


「リョカ、ボクたちは内部に侵入している盗賊を相手しよう。何人か気配を消して侵入してるみたい。突入ついでに防壁の大穴を護ってる龍護くんの敵の数を減らしてくんだよ」


 防衛ラインに意識を集め、その隙に気配を消して侵入した人物が居る。

 数は四人、その内三人がそれなりに気配を消しており、最後の一人は見事に気配を消している。前者三人も隠れ蓑で、本命が最後の一人なのかな?

 ボクには【広域気配探知】【感知】【第六感】といった索敵に適したスキルを持っている。そのお陰で逸早く侵入者を発見する事が出来たんだよ。

 彼等の狙いは間違いなく結界を壊すこと、美織ちゃんを狙ってる!


 ボクは美織ちゃんの元へ行こうと思う。その為に入る入口は龍護くんの護る大きく崩れた防壁部分から。

 そこが一番盗賊が多いんだよ、ザッと見て50人位は居るのかな?

  

 結界の外で群がる魔物達をリョカが踏み潰し、無理なら無視して前進。結界内に入るなり頭に乗っかるスラティンが水の魔術を放って盗賊の数を減らしてくれた。

 スラティンの放った魔術は『アクア・エッジ』、数枚の回転する水刃を生み出し飛ばすものなんだよ。

 今のは三枚の水刃を飛ばし、それぞれが曲線を描きながら盗賊を斬り裂いていくんだよ。

 この魔術一つで十数名の盗賊を倒せた。ボクはこのまま基地内に入らせてもらうんだよ。


「柏葉か、援護感謝する。が、剣南はどうしたんだ!?」

「龍護くん、西側に魔王が居たよ! 創ちゃんは今足止めをしてるんだよ。早く終わらせて優斗くんとこまりんを貸してッ! あと、ボクは侵入者の対応に向かうよ」

「ええ! 侵入されてたのッ!?」

「お、おい、柏葉ッ、って、行っちまったか」

「侵入者は彼女に任せよ。龍護、早くケリをつけないと剣南さんが危ないよ!」

「ああ、そうだな」


 背後で交わされる会話を無視して内部へと進む。リョカの臭覚やボクのスキルを使って相手の位置を割り出す。


「リョカ、あっちだよ! 早く終わらせて創ちゃんの元へ戻ろう!」


 リョカに乗り中央部を目指していると、瓦礫の陰から手斧が回転しながら飛んできた。

 それをリョカの上で綺麗にキャッチして投げ返す。

 手斧は飛んできた時よりも回転を増し、速い速度で弧を描き持ち主の元へと届けられた。


「がぁあっ!」


 どうやら手斧は持ち主の元へと返す事ができたんだよ。

 残りは三人、その内二人は既に中央部深くまで侵入を許してる。

 この二人は盗賊と言うよりも寧ろ暗殺者なんだよ。気配を消すのが上手い。

 それでも、ボクたちから隠れおおせることは出来ない。

 また一人視認したんだよ。

 この人はバカなのかな? 瓦礫にへばり付いて瓦礫と同じような色をした大きな布で身を隠してるんだよ。か、隠れ身の術?

 でもこれ索敵スキルを持つ相手には、見つけてくださいって言ってるようなものなんだよ。寧ろ罠を警戒しちゃうよ。


「リョカ、やっちゃって!」


 リョカが嘶き一つ上げ、瓦礫の影を利用して【影触手】を生み出す。

 触手は瓦礫ごと盗賊を締め上げ、瓦礫が締め潰される頃には盗賊も事切れていた。


「ふぅ、何だったんだろうねあの人。でも、あと二人なんだよ。この二人は結構気配を消すのが上手いから、気を付けて行こうねリョカ」


 盗賊達は、正直に言ってボクたちの敵ではないんだよ。

 それなのに何で攻めて来たんだろう?

 魔王は聖女が加勢していると気付いていながら、どうして無謀な特攻をさせたのかな?

 もしかして聖女を排する事ができると思っているのかな? 無理だよね盗賊じゃ。

 でも、そうでなければこの特攻に意味はない。

 もしかしてボクにも索敵できない敵が紛れ込んでる? まさかね。


「う~ん、考えていても答えが出ないや。よしリョカ、一気に美織ちゃんの元まで【影移動】なんだよ!」


 ボクはリョカの影移動を再び使用して嘗て学校だった建物の屋上へと高速移動を試みる。

 影移動はそれなりにマナを消費しちゃうから温存しておきたいけど、そうも言ってられない状況なんだよ。

 元学校の屋上には既に二人の盗賊が居る。一人は今もまだ身を潜めて、もう一人が美織ちゃんとマーシャルくんの前でナイフを握り締めてるんだよ。


「ヒ、ヒー、た、助けてくれッ! 俺はまだ死にたくない、死にたくないんだよッ!」


 この人は何を言っているのかな?

 この場に侵入して武器を持って助けてくれって、どうかしてるんだよ。


「美織ちゃん、無事かな?」

「あ、涼葉ちゃん。うん、まだ何もされてないんだけど……。あれが何をしたいのか分かんないんだよね」


 ただナイフを振りかざしながら怖がるだけの盗賊。

 ん? 彼の持つナイフが異常なんだよ。

 ナイフには血管の様な赤い線が張り巡らされていて脈動している。柄頭には目玉の様なモノがくっついてギョロギョロと動いているんだよ。


「ああ、柏葉さんか。何その馬?」


 マーシャルくんが美織ちゃんの前でナイフを構えて盗賊を警戒しているんだよ。


「リョカさんなんだよ。一番頼りにしているボクの友達、因みに創ちゃんは特別枠」

「あ、ああそう?」


 マーシャルくんの質問に丁寧に答えてあげる。


「涼葉ちゃんの初めての従魔なんだって。一番よく召喚して助けて貰ってるみたいよ。因みに創可君は恋人で特別なんだって」


 何故か説明し直されたんだよ?


「ああ、そう言えば【魔物操者(モンスターテイマー)】って言ってたか。普段連れてないからビックリしたよ。あと恋人の話は聞いた」


 むむ、創ちゃんの事をおまけみたいにぃ。


「それより創可君はどうしたの?」

「話は後なんだよ。今はそれよりもアレともう一人潜んでるんだよ」


 もう一人は一番上手に気配を消している人物で、今は物影に隠れているんだよ。


「チッ、バレてやがる。おい、早くソイツを使いやがれ! この役立たずがよッ!」

「な、なあ、頼むよ助けてくれよッ!」

「うるせぇ、俺だって死にたかねぇんだよ。だから早くソイツを使えって言ってんだろうがッ!」

「や、やめろー、いやだぁ――――ッ!!!」

「「「!!!」」」


 眼前の盗賊、ナイフを持っている人物が嫌だと叫びながら、同時に不気味なナイフを自らの胸に突き刺したッ!

 あのナイフ、どこかさっきまで居たダンジョンを思い起こさせる。何か関係があるのかも知れないんだよ。


「あ、あ˝あ˝あ˝あ˝ぁぁ――――ッ」


 ナイフを胸から生やしたまま苦しみだす盗賊。徐々に苦しみ方が変わっていく。


「うっ、ぐっ、ごごぉおぉぉ、ぎがぁあああぁぁぁ」

「な、何が始まるってんだよッ!」

「分かんないわよ!」

「少し離れた方がいいんだよ」


 ボクたちが見守る中、男の胸に刺さるナイフが次第に奥深くにズブズブと沈んでいく。それと同時に男の姿が変形していくんだよ。

 ボコボコと肉が盛り上がり、かと思いきやペタンと凹んだり、伸びたり縮んだりと忙しいんだよ。最後には黒い水溜まりの様に地面に広がっちゃったんだよ。


「何が何やら分からないんだよ」

「自殺? そんな訳ないよな?」

「待って、見てッ! 何かが出て来るみたいッ!」


 美織ちゃんの言う様に、黒い水溜まりから何かが出て来た。

 それは尖った何か? ううん、違う。アレは手だ、少しずつ水溜まりから人の様な手が出てきてるんだよ。


「アハハハハハハッ、これでテメェ等も終わりだ」


 最後の盗賊が喜んでる。何がやりたいのかイマイチ分からないんだけど、彼等にとってこれは切り札なんだと思う。


 何か出てくるってことは、水溜まりは何かのゲートなのかも知れないんだよ。

 水溜まりから出てきた手は、順に腕、肩、頭と姿を現したんだよ。それは人では有り得ない姿形をしてるんだよ。


 そこでボクを乗せていたリョカが急に怯えだした。ヒィンヒィンと弱々しく嘶き、ガクガクと震え出したんだよ。


「どうしたのリョカ?」


 ダメなんだよ何も答えてくれない。ただ恐怖だけを伝えてくる。

 そんなリョカを見ていると少し可哀想になってくるんだよ。だから、ボクはリョカの背から降りて力を解放する。


「リョカ、後はボク達に任せてキミは帰って良いよ。一段落したらまた呼ぶからね」


 怯えるリョカを優しく撫でてからボクのダンジョンへと送還した。送還を確認した後、這い出してきた存在を確認する。


「ウフフフッ、わたくしを召還するには少々、いえ、かなり餌が少なくわね。しかも貧相、まぁ仕方がありませんわねぇ」


 それは悪魔を連想させる姿をした()なんだよ。ん? あれ? それはルシファーさんに失礼なのかな? まあいいや。

 でも、それは正に小説なんかで描かれる悪魔そのモノだったんだよ。

 ヤギのような角にハート形の先端を持つ尻尾、蝙蝠の様な膜の張った翼、巨大フォークのような得物。ね、悪魔そのものでしょ?


「ウソッ、魔物が結界内に入り込んだのッ!?」

「結界内部で魔物の召喚を行ったのか!?」

「フフフッ、わたくしを魔物と同列に見て貰っては困りるわん、お嬢さん。わたくしこれでも正真正銘の悪魔ですのよ。えぇえぇ、驚くのはよく分かるわ、だって悪魔を見るのは初めてでしょうから」


 やっぱり悪魔なんだ。ってことはルシファーさんの仲間なのかな?


「あ、悪魔だと!」

「悪魔って、それって魔物と何が違うのよ!」

「ですからぁ、魔物なんかと同列に考えないでったら! 物わかりの悪い娘ね。悪魔ってのはね、嘗て天使であり、墜ちて堕天した存在、堕天使に付き従う者達のこと、またそのもの。その身に神聖なる力を宿し、同時に邪悪なる力を扱う恐怖の象徴。肉体を持たない概念生命体のことよ。この体は元となった人間のイメージから造り出されたに過ぎないわぁ」


 うわぁ、オネェぽい悪魔だよ。腰をクネクネしながら説明してくれたんだよ。

 でも、悪魔かぁ、厄介なのが出てきたんだよ。一刻も早く創ちゃんの元に戻りたいのにッ!


「フフッ、可愛らしいお嬢さん方、あら? 男の子も混じってるじゃない! ウフフフッ、嬉いわん、わたくしの好みよん!」


 う、マーシャルくんを見て腰をより一層激しく振りだしたよ。


「お、おい悪魔! お前、俺達が召還してやったことを忘れるなよっ!」


 最後の盗賊が悪魔に向かって怒鳴り出したんだよ。

 命知らずなのはここに特攻してきたことで証明されてるんだけど、これはあんまりにも愚かな行動なんだよ!


「フフッ、威勢のいいオジサマね。良いわ、貴方の魂から美味しく頂きますわん」


 そう言った瞬間に悪魔は盗賊の背後に移動し、頭部を鷲掴みにして持ち上げたんだよ。

 全く見えなかったんだよッ! 空間を転移したのか、それとも普通に移動したのか? どちらにせよボクたちの手には余る相手だってことは分かってしまったんだよ。


「がッ! な、なな何をぉッ! お、俺はけ、契約者な…ギャー!!!」


 呆気なく頭を握り潰されたんだよ。

 ……どうしよう。勝てる気がしないんだよ。

 現時点での魔王よりも確実に強い、この場の三人じゃどう頑張っても太刀打ちできないんだよ。

 どうしてこう次から次へと強敵が現れるのかな? どうしよう、どうすれば良いのかなッ! 早く何とかしないとッ!


「契約? わたくし、契約なんてしたかしら? フフッ、ただ呼ばれただけなのよん」


 まさか本物の悪魔が現れるなんて想定外にも程があるんだよ! 早くケリを着けて創ちゃんの元へ戻りたいのに。


「さてと、先ずは小憎らしい聖女さまからかしらん? さあ、結界を解除してくれれば楽に死なせてあげるわよ」

「なっ、だ、誰が解くものですかッ! 解いたらどうなると思ってるのよッ!」


 今結界が解かれちゃうと、結界の外側で群がっている魔物達が一斉に鳥田へと襲い掛かって来る。

 それは何としても防がないといけない。優斗くんとこまりんが居るとしても分が悪いんだよ。


「勿論、貴女達の全滅ねん。フフッ、随分と頑張ってるみたいだけど、結界が崩れれば雪崩れ込む魔物の数に押されてお終いね。ウフフ、さあ行きますよッ!」


 ――ッ!!!


 マズい! 美織ちゃんの背後に既に転移されちゃってるんだよ。

 間に合え――ッ!


 美織ちゃんの前で構えていたマーシャルくんが、逸早く反応して回り込むけど、悪魔に軽く払い退けられちゃった。

 吹っ飛んでくマーシャルくんを見て慌てて振り向く美織ちゃん。

 ボクは美織ちゃんと悪魔との間に水歩(流水の歩法)を使って滑り込み銀の剣を盾にして構える。と、同時に襲い来る激しい衝撃。

 ボクは後方へ美織ちゃんごと吹き飛ばされちゃったんだよ。

 そこへボクたちを庇う様にマーシャルくんが駈け込んで来た。


「こんな化け物どうやって倒すんだよッ!」

「美織ちゃん、大丈夫ッ!?」

「うう、……うん大丈夫だよ。有難う、助かったよ涼葉ちゃん」


 美織ちゃんの無事を確認し、ボクは立ち上がり剣を構える。


 ――ッ!


 そこで初めて気付いた、剣が半ばで折れているんだよ。

 創ちゃんの等価交換で貰った大切な剣だったのにッ! 許せないんだよッ!


「フフフッ、往生際の悪い子達ね。いいわ、纏めて相手してあ・げ・る♡」

「上等なんだよ! スラティン、同時に行くんだよッ! 【獣魔共振】『アクア・エッジ』ッ!」


 スラティンが生み出す三枚の水刃と、【獣魔共振】によって従魔の力を一時的に宿して生み出した三枚の水刃。合計六枚の回転する水刃が悪魔に襲い掛かるんだよ。

 でも――、


「フフッ、可愛らしい攻撃ね。でもね、この程度の魔術じゃわたくしには届かないわよ。それっ、フゥー」


 蝋燭の火を消す様に息を吐く悪魔、その息吹一つで六枚の水刃が掻き消されちゃった。


「そんなッ!」

「ちっ、これならどうだよ【散石弾】ッ!」


 今度はマーシャルくんがスキルを使って生み出した無数の石の礫を悪魔目掛けて飛ばすんだよ。


「無駄ね無駄無駄。そんなの何もないのと変わらないわよん」

「じゃあこれはっ、【聖域】ッ!」


 美織ちゃんの聖域が展開される、けど、悪魔に届いた石は触れると同時に消滅してしまったんだよ。


「くそっ、どうなってやがるんだよッ!」

「余りにも稚拙な攻撃ですもの、躱すまでもないのよね。それに【聖域】? 言わなかったかしら? わたくし達悪魔は神聖な力をも身に宿すって。余り意味ないわよ、それ」


 そんな、何も手が出ないなんて。こうしてる間にも創ちゃんが危ないって言うのにぃッ!

 でも、手を休める訳にはいかないんだよ。


「スラティン、霧をお願いッ!」


 スラティンは嘗て地底湖だったダンジョンコアなんだよ。だから、水気を操る術に長けている。

 その能力で霧を創り出して貰い視界を奪う。恐らくこの悪魔には意味はないけど、後ろの二人には意味があるんだよ。


冥閬院流(めいろういんりゅう)体術、奥義・慈悲深き地母神(キシャール)ッ!」


 悪魔の足元へと滑り込み、そのまま真上へと蹴り上げる。

 システムの影響下にある今なら、大抵のものなら一撃で打ち上げられるんだけど、悪魔を一蹴りで空へと打ち上げるには至らなかった。けど、キシャールはこれからなんだよ。

 打ち上げられなかったなら空へ舞うまで蹴り続けるだけ、十四発の連続蹴りでどうにか悪魔を空中へと打ち上げれたんだよ。

 数十mは打ち上げたかな? でも、これで終わりの訳ないんだよ。地母神の名を冠する技が空へと打ち上げるだけの訳ないよね。

 ボクは【天駆】を使い空へと駆け上り悪魔の頭上を取る。そして、殴る蹴る。


「やぁあああぁぁぁぁ――――ッ!」


 頭上を取ってるボクは、重力を味方にひたすらに悪魔を殴り蹴りつける。

 奥義は魔法の効果を宿してるから、どんな魔術防御もスキルの護りも無視してダメージを与えられるんだよ。

 そして地面へ辿り着くまで攻撃し続ける。

 残り1mで地面(ここは屋上だから床だけど)から、何本もの先端の尖った太い杭が出現し悪魔を襲う。

 ボクは最後に悪魔を踏み台にして美織ちゃんの傍に着地したんだよ。


「きゃ、なに、何が起きたのよ!? 涼葉ちゃん大丈夫?」

「霧で何も見えないぞッ! 柏葉さんは無事かッ!」


 心配してくれる二人に「大丈夫なんだよ」と応え、スラティンの霧を霧散させる。


「あぁ、良かった、無事だったのね涼葉ちゃん」

「余り驚かせないでくれよ」


 ボク的には見せても良かったんだけど、余り流派の奥義を他人には見させられないんだよ。だから、ごめんね。


「ウフフフッ、凄いのもってるわね貴女。感心しちゃった」


 え、ウソでしょ。渾身の奥義だったんだけど、無傷なんだよ!


「今のは良かったわよん。技に魔法の効果が含まれていてちょっぴり痛かったもの。でも残念ね、わたくしには効かなかったわね」


 ああ、奥義でダメなら勝ち目は皆無なんだよ。


「何故無事かって? いいわ、教えてあげる。わたくしは、そうわたくしこそが黒い天使が一柱、」


 黒い天使って、ルシファーさんが創り出した悪魔のことだよね?


「忠実なる悪魔王が配下、その名も――、」

「何をしている、****よ」

「ハッ」


 あれ? ルシファーさんが空に浮かんでる。何やってるのかな?

 それともショック過ぎて幻覚でも見てる? いやいや、あれ本物だよ。

 ルシファーさんの姿は崖の飛び降り修行、間違えた、崖登り修行の時によく見た12枚の翼を広げた、どこか神々しい姿。

 悪魔もルシファーさんを凝視してピクリとも動かない。でも、なんかもう片付いた気がしてきたんだよ。緊張感が一気に霧散しちゃった。


「な、な、なななっ! どどど、どうしてこのようなへ、へへ辺境のスフィア内にあああ貴方様がッ!」


 逆に悪魔の方が緊張しちゃってるんだよ。

 スフィア内って言ってたけど? コスモスフェアのことかな?


「そんなことはどうでも良い。何故貴様は私の主である蔦絵お嬢様のご友人に牙を剥いているのかが問題なのだ」

「へ? あ、主? え? い、いえ、この娘はわたくしの――」

「貴様の何だと言うんだ。貴様の使命は契約者の魂を地獄へと連れて行くこと。まさか、我が主のご友人を地獄へ連れて行こうとでも言うつもりかッ!」

「め、滅相も御座いませんッ! わ、わたくしの勘違いでございました。どうか、どうか平に平にご容赦下さいッ!」


 いやルシファーさんや、あんたの主は師匠であって蔦絵お姉さまじゃないんだよ。


「よかろう、今回は目を瞑る。だが、次は無いと思え。用が済んだのなら速やかに去ぬがよい」

「ハ、ハハー」


 返事を残して悪魔は消えて行ったんだよ。

 正直に言ってルシファーさんが来なかったら危なかったんだよ。今回も助けられちゃったんだよ。


 美織ちゃんもマーシャルくんもポカンとしちゃってるよ。正気に戻ったら何やら色々と問い詰められると思うんだよ。


「娘、今回は私の眷属が迷惑を掛けた故に助けましたが、これはあくまでも修行の一環ですのでこれ以上の手助けはしません。ですが、一つだけお教えしておきましょう。創可殿は予想以上に頑張っているようです。まだ猶予は在りますので焦らないことですね」


 良かった、創ちゃんはまだ無事なんだ。

 だったら早くこの場を治めて助けに行かないとなんだよッ!






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