3人目
俺と涼葉の二人は、反町燦翔と遭遇したという西側のダンジョンへと来ていた。
目的は魔王の存在確認、それと荒野の黒蜥蜴の潜伏状況の確認だ。
全員で攻め込めばいい? いや、それでは反対側のダンジョンに反町が居た場合、無防備となった鳥田に攻め込まれてしまう。
勇者二人を一か八かでどちらかに潜入させるのもリスクが大きい。勇者不在の間に、鳥田を魔王直々に襲われれば一巻の終わりだ。
防衛に守護者大守龍護と聖女伊志嶺美織が居たとしても、白崎賢人とマーシャル・ディオン、知地理茉子が加わっているとしても同じことだろう。
同じ【魔王】の天一翔奏は俺達が纏めて掛かっても倒しきれなかった。
反町も天一同様の強さを持っていると考えて行動した方が良いだろう。
それに、勇者を欠いた勇者パーティーでは魔王を止められないと俺は思っている。
魔王は勇者でなくとも倒すことは可能ではあるが、勇者でなくては難しくもあるんだ。
天一のように進化したてで力を出し切れないのならば可能性はあるが、楽観視するには危険すぎる。
確実に人を防ぐ結界があれば話は変わってくるんだけどな。
「さ、創ちゃん行こうよ。出来ればコアを破壊したいんだよ」
コアを失ったダンジョンは魔物の排出が止まる。であれば少なくとも魔物による被害は減るだろう。
「そうだな、だが、あまり無茶はしてくれるなよ」
涼葉は何かと無茶をする娘だ。注意深く見ておかないと危なっかしい。
「大丈夫なんだよ。ボクだってもう子供じゃないんだから。誰も居ないならボクの仲間達も呼べるしね」
涼葉の仲間達とは従魔のことだ。彼女は従魔のことを仲間と呼ぶ。
今、一見従魔を連れてはいないように見えるが、その実頭の上にスライムのスラティンが帽子に擬態して乗っかっている。頼もしい涼葉のボディーガードだ。
「よし、じゃあ行こうか」
一歩踏み入れただけで異変に気付く。ダンジョン内全域を粘着く不快な気配が覆っている。
身体に重くのしかかる、歩を進めるごとに、奥に行くほどに重さが増していく、そんな淀んだ空気だ。
だが、俺達にとってこの程度の事は無きに等しい。何故なら、師匠や燿子さん達の放つ殺気の方が余程たちが悪いからだ。
それに、鬼と対峙した時に、これ以上を俺は体験している。
「大丈夫だな涼葉? これだけの瘴気だ、体調に異変はないな?」
「うん、大丈夫なんだよ。これだけ淀んでるならこっちに魔王が居る可能性が高いんだよ。でも、ただの残り香の可能性も否定できないと思う」
この淀みの原因は瘴気だ。瘴気とはある種の魔物なんかが放つ毒気だ、それがこのダンジョンには満ちている。魔王とは魔を統べる者、可能性は高い。
「ここのダンジョンは、広い空間が広がってるだけなんだよ。これじゃ身を隠せる場所もないんだよ」
「ああ、魔物が出たらすぐに分かるが、相手も俺達の侵入には容易に気づくだろうな」
「うん、でももう少し進もうよ。このままじゃ確証が取れないんだよ」
「そうだな」
俺達はズンズンと奥へと進んでいく。
暫くすると階下へと続く階段があった。今までは魔物の気配は一切無かったが、この階段には気配がする。
「創ちゃん――」
「分かってる!」
階段を降る途中で二体の骨の魔物と遭遇した。その事は事前に察知していたので慌てることなく対処できる。
「よし、俺が右を、涼葉は左を頼む」
俺は滑るように階段を下りスケルトンへと接近し、そのまま抜刀して両断する。横を向けば涼葉も既に両断し終わっていた。
階下には既にわんさかと魔物の気配が集まっているのを感じる。かと言って引き返すつもりは毛頭ない!
「行くぞッ!」
「うん」
一気に階段を駆け下り、出会い頭に魔物を斬り裂く。
そのまま【空間認識】と【空間機動】を併用して魔物の攻撃範囲に含まれない、つまり攻撃を受けない道筋を見極め駆け抜ける。魔物に囲まれる形になるが、何も問題ない。何故なら――、
「冥閬院流刀術・賂王爽籟ッ!」
全方位攻撃が有るからだ。
嘗ては扱うことの出来なかった高難度の技。燿子さんとルシファーの修行で得たスキルをフル活用しての行使だ。
俺は光忠を握り締め身体ごと回転する。身体をくねらせ、回転させながら不規則に太刀筋を変え駒の様に回り続ける。
ヒュッヒュッと刀が風を切る音が静かに響き、その度に魔物を斬り裂く音が重なる、魔物の肉が斬り裂かれ、両断されていく音が。
傍から見たら滑稽な技なのかも知れないが、回転するほど威力を増す破壊力と殲滅力に長けた使い勝手のいい力技だ。
本来は頑強さと重量を持った直剣などで行うものだが刀でも使用可能なんだ。
スケルトン程度の魔物の群れならこの技一つで事足りる。
涼葉の心配もすることもない。何故って、そりゃ涼葉は強いからだ。
「冥閬院流剣術・賂王爽籟剣ッ!」
あ、真似された!
砕け散る骨、飛び散る血肉、元の種族が何だったのか既に分からない程に分断されていく。
「ふぅ、取り敢えず終わったんだよ」
「お疲れさん、怪我は無いか?」
「大丈夫だよ。創ちゃんも怪我がないようで何よりだよ」
「おうよ。さて、もうバレバレだろうから一気に駆け抜けるぞ!」
これだけ派手に戦闘音を鳴らしたんだ、反町が居るのならもうバレてるだろう。
時間も惜しいし二人で走り出す。魔物達が行く手を阻むが問題にもならなかった。立ちはだかる敵は容赦なく斬り伏せる。
斬った魔物の数が百を超えた辺りで地下6階へとたどり着いた。
「な、これは!」
「な、なにかな、これ?」
そこは今までの階層とは明らかに違う様相をしていた。
生物の血肉で出来たような壁や天井、床までもが肉の様に赤く弾力がある。
おまけにドクンッドクンッと脈動し、時折血液らしきモノを至る所から噴出させている。
床へと降り注いだ血液は、吸収されているのか瞬く間に乾いていった。
通路は狭く、先を見れば人が辛うじて通れる位の穴の様なモノがあった。その穴も脈度し、それ毎に穴が閉じたり空いたりしている。先程までは一つの大きな空間だったが、この階層は迷路となっているのだろう。
「――そ、創ちゃん上ッ!」
「ちっ!」
天井を突き破る様に大きな物体が降って来た。
涼葉の警告を訊き逸早く反応し、ソレを二人で後方へ飛び退くことで避けた。
ソレは血液に塗れた何か、半透明な幕の様なモノに包まれた不気味な巨大な魔物だった。地に落ち蠢くソレは、幕を破ろうと藻掻いているように見える。
【真眼】を使い注意深く観察すると、やはりソレは魔物の一種のようだった。巨大な魔物が丸まり膜に覆われているんだ。
「き、きもっ」
ソレを見た涼葉は、生理的嫌悪感を抱いている様で、口元に手をやり視線を逸らした。
次の瞬間、ソレから触手の様なモノが幕を突き破り涼葉に向かい飛び出してきた。
視線を逸らし油断していた涼葉へと迫る触手、俺は速やかに抜刀し触手を両断することが出来た。
鈍い手応え、硬くもなく柔らかい訳でもない。ただ単純に食肉を斬ったような感触、生きている肉とは思えなかった。
生きている肉体と、死んでいる肉とでは手応えが全く違うものだ。この触手を斬った感触は、死肉の手応え、動いているゾンビですらこんな手応えはしない。
切り落とした触手の先端は……、床に吸収されるかのように同化してしまった。……気にはなるが、今はそれより!
「大丈夫か涼葉ッ!」
「う、うん、ありがとうなんだよ創ちゃん!」
「ああ、気を抜くなよ、ここから先はさっきとは別次元だと思った方が良い。気持ち悪いのも分からるが、気を緩めると命取りになりかねないぞ」
「うん、ごめんね創ちゃん。でも、もう大丈夫、今ので【精神耐性】を覚えたんだよ」
マジかっ、それ程イヤだったのか!
まったく、心配させやがって。だが、今はその事は置いておこう。
蠢く物体がその全貌を見せようとしている。幕が大きく裂け、中の黒く紫がかった肉が見えてくる。
「そ、創ちゃん、アレ、何て魔物なのかな?」
「分からない、アレは初めて見る魔物だ」
巨体で人の姿はとってはいなかった。ソレは巨大な毛虫の様な物体だった。
身体中から体毛の様な触手を生やし、忙しなく動く口はハサミの様にカチカチと音を鳴らせている。
全長は4~5m程だろうか? そのデカさで突進されればたまったもんじゃない!
太さは1.5と言ったところか?
観察しているとソレに動きがあった。
体毛の触手が一斉に蠢き出したんだ。正直見ていて気分の良いものではないが、見てない事には対応できない。
「イヤな予感がするんだよッ!」
「退け――ッ!」
蠢いていた触手が一斉に俺達に向かい延びてきたッ!
あの数の触手を全て斬り落とすのは不可能だッ!
「オォオオオオォォォ――ッ!」
俺は涼葉の前へと飛び出し、刀を正眼に構え、【集中】する。
「創ちゃんッ!」
「奥義・井氷鹿ッ!」
俺の扱える最大防御力のイヒカ。
瞬時に展開される氷のドーム。俺と涼葉を囲うそれは、以前とは比べ物にならない程の強度を誇り、以前に倍する冷気を放っていた。
触れるもの全てを凍てつかせる氷のドーム、触れた触手の全てが動きを止め氷の彫像へと変わっていく。
その変化は止まらず、触手は先端から急速に本体へと向かって凍りついていく。
「創ちゃんイヒカも使えるようになってたんだね。凄い威力なんだよッ!」
「ああ、なんとかコツを掴めたよ。尤も、スキルの補佐が有ったからなんだけどな」
「う~、ボクも負けてられないんだよッ! 奥義・北西守護風神、パヴァナ・プラーナッ!」
パヴァナ・プラーナは、俺が天一戦で使った刀術の奥義級長戸辺の剣術バージョンだ。
しかし、その制度は段違いだ。涼葉は氷のドームの内側から剣を振るうが、発生する真空刃はドームの外で発生していた。しかも、自由自在に操っている。
真空刃は氷と化した触手を楽々と砕き、未だ凍りついていない本体をも斬り裂いていく。
Yyyyaaaaaaaa!
不気味な悲鳴を上げる毛虫、見境なく暴れまわり体液を壁、床、天井へとと撒き散らす。
俺達は氷のドームのお陰で動かずとも身を護る事ができた。
「何だったのかな、これ?」
「さぁな、取り敢えず魔石でもほじってみるか?」
「や、止めとこうよ、これを解剖するのは抵抗があるんだよ」
女性にはちょっと無理があるか。これの見た目はエグいからな。
毛虫ってだけじゃない、肌は浅黒くボツボツとしたイボの様なものがあちこちに。更に体毛は何かの粘液を滴らせている。
よし、これは無視して進もう。
「じゃあ先に進むか」「うん」と、涼葉に確認を取り先へと進む。
壁にも俺や涼葉の奥義の影響が出ており、隣の通路へと渡るに苦労はなかった。
暫く進むと階下へと続く階段を発見した。が、直ぐには降りない。
何故か? それは下から何者かが上がってくる気配を感じとったからだ。
その気配は禍々しく、これまでの相手とは比べようもない。
「キィヒヒッ、やあ、初めましてかな? 僕は反町燦翔、【魔王】だよ」
「「!!!」」
現れたのは探し人である反町燦翔だった。魔王だ。
この男、恐らく未だ人間のまま、天一の様に進化せずに魔王になっている。つまり、一時的な弱体がない。
見た目は平凡な青年といった感じで、特に変わった感じは見当たらない。
ただ、目は窪み隈ができ、頬がコケているので不健康そうに見えるぐらいだ。
しかし、奴から感じられる邪気は桁違いのもので、嘗て出会った鬼を思わせるに十分な瘴気を放っていた。
「キィヒッ、そう緊張しないでよ。ちょっと話そうじゃないか」
「……話? 何を話そうというんだ」
「キィヒヒヒッ、君、そうそっちの君だよ君。ダンジョンコアなんでしょ? 分かるよ僕には、だってほら、僕にはコイツがいるからッ!」
奴は不意に後ろを振り返りシャツを捲り背中を見せる。
――ッ!!!
奴の背には人間の赤子の様なモノが張り付いていた。
まるで同化するかのように一体化したその赤子は、ギョロリとした目を此方に向けモゴモゴと動いたていた。
「なっ、なんだそれは」
「キィヒヒッ、コイツはこのダンジョンのコアなんだよ。僕が吸収したんだけどね、その所為かな? コイツの力に制限が掛かっちゃってさ。魔物を召喚するのに生贄が必要になっちゃったんだよね。君もコアなら僕に力を貸してくれないかな? ほら、君がダンジョンコアなら僕と同じように人間共に迫害されてきたんでしょ?」
何だこいつは、何なんだこのダンジョンは! 異色すぎるだろッ!
コイツの気持ち悪さがダンジョンに反映されているのか? それともこいつが影響を受けているのか?
どちらにせよ、コイツのもとに涼葉を渡す訳にはいかないッ!
「ふざけるなッ! 何故涼葉が貴様の手伝いをしなくちゃならんッ!」
「え? だって、人間嫌いだろ? 迫害され嫌な思いをしてきたんだろ? 復讐したいだろ?」
「え、ヤなんだよ。なんでボクがそんなことしないといけないのかな? 僕は人間が大好きだし、創ちゃんの敵はボクの敵でもあるんだよ」
「涼葉」
涼葉が当たり前のように、極自然とそんな事を言った。ちょっと嬉しく感じてしまうのは場違いだろうか?
「何よりボクは迫害されてなんかいないんだよ、みんな優しくしてくれた、困ってれば力を貸してくれた、生き残れるように鍛えてもくれた。それをどうして裏切れるのかなッ!? ボクはボクの周りの人達に感謝しかない、復讐したい相手なんて一人もいないんだよッ!」
今度は力強く言う涼葉。
それを黙って訊いていた反町は少し驚いたような表情を見せて、こう言った。
「ふぅん、そうなんだ。でも関係ないよ。だって僕が君を欲してるんだから。君の考えはどうでもいいよ」
間違いない、コイツの七大罪は【傲慢之王】だッ!
「関係ないんだよ。従えないって言うんなら、僕は君を強引に自分のものにするだけだよ」
「それこそ嫌なんだよ。おことわりんこ、なんだよ!」
「話は無駄だったな。このまま俺達を退かせてもらえると助かるんだけど、そうはいかないか」
このまま戦闘に突入して、俺達二人で勝てるか? 涼葉の従魔を計算に入れてどうだろうか? 可能性はあると思うが、逃げた方が生き延びる可能性は高いだろう。
俺達は二人してジリジリと少しずつ後退していく。悟られない様に少しずつ少しずつ。
「キィヒッ、まさかっ、このまま帰っちゃうのかい? もう少し話そうよ、僕は人と話をした経験がそんなにないんだよ。だから嬉しくってさ、だってほら、僕の周りの人は無視するか暴力を振るってくる人ばかりだったからね。ヒヒッ、訊いてるんでしょ? 僕のこれまでの扱いを」
こいつは俺達が鳥田から依頼されて来たことを知っている。それもそうか、聖女の結界対策で盗賊を配下にしたのなら俺達が来ることも予想できるはずだ。
「……盗賊共はどうした? あいつ等はお前の子分なんだろ?」
俺達のミッションは盗賊の殲滅だ。だが、それよりも姿が見えない事が不気味でならない。
「ああ、彼等ね、彼等にはちょっとお遣いを頼んでるんだよ。贄を連れてきてくれってね。ヒヒッ、ほら、僕のコアは生贄が無いと魔物の召喚をしてくれないから。それにこいつは若い女しか嫌だって我儘を言うんだよ。困るよね、でもさ、鳥田の勇者なんて若くて強くて期待持てるよね! どんな魔物になるのかな?」
しまった。既に動いていたのかッ!
鳥田は今、盗賊と魔物に襲われていると見ていい。
勇者二人に勇者パーティーが何人もいるんだ、彼方は大丈夫だろうと思うが心配だ。だがそれよりも問題は俺達だ。
「くそっ、退くぞ涼葉ッ!」
「うん」
二人同時に踵を返す。
「「!!!」」
駆け出そうと振り向いた瞬間、前方から殺気を感じ二人で跳び退いた。
「なんだッ!」
先程居た場所に銀の輝きが通り抜けていく。
「おぅおぅ、俺を無視して逃げ出すなよ。寂しいだろうが」
誰だこいつは?
青を基調とした鎧を身に纏い、大剣を片手で楽々と振り回している男。
眼光は鋭く殺気に満ちており、体格は大守龍護よりもガッチリとしている。
そのくせ動きは素早く、先程の剣筋は突然とはいえ完全には見切れなかった。
「キィヒヒッ、何だい君は? どうして僕のパートナーになる女性を斬ろうとしてるんだい?」
「おぅ、魔王さんよ。俺が誰を斬ろうと構やぁしねぇだろ? それとも何か、まず先に魔王を斬れってか?」
「キィヒヒヒッ、なんだいこいつは? 常識を知らないのかな?」
「あの女は【ダンジョンコア】だ。魔物は殺す、魔物を産みだす奴も殺す。当たり前のことだろ?」
なッ! こいつまで涼葉の事をダンジョンコアだと知っている!
何故だ、何故バレた!
反町はコアと一体化しているから分からなくもないんだが、まさかこいつまで気付いているなんて!
―――― キィ――ンッ!
一瞬の内に反町は、認識すらさせずに俺と涼葉を追い抜き男へと攻撃を仕掛けていた。
ただ単純に殴り掛かっただけのこと、だが、男はその拳を脅威と感じたのか、腰を落とし大剣で迎え撃った。
大剣と拳がぶつかり合う、それは幾度も幾度も繰り返される。撃ち合う毎に空間は弾け衝撃波を生む。余波を受け肉の様な壁が辺りに飛び散った。
びちゃびちゃと肉が散らばる音と、キィンキィンとぶつかり合う音がダンジョン内に木霊する。
……なんでだ? 拳と剣がぶつかるとあんな音が出るのか?
って、それはどうでも良いッ!
「涼葉、今の内に逃げるぞ!」
俺は涼葉の腕も掴み強引に引っ張る。
「そ、創ちゃん!」
「いいか涼葉、階段まで行ったらリョカを呼んで【影移動】で一気に脱出するんだ。俺は奴等の足止めをする。その間に優斗と蓮池にこのことを知らせてくれ」
走る、脇目も振らずに階段を目指して駆け抜ける。
「そんなこと出来ないよ。ボクが創ちゃんを置いて行くなんて出来ると思ってるの?」
「いくらリョカの【影移動】でも、あの二人相手に、二人も連れては逃げ延びるのは難しい。ならば足止めは必要だ」
戦闘音が遠ざかる。が、安心できるほど距離は離れてはいない。
「だったらボクが――」
「あいつ等の狙いは【ダンジョンコア】である涼葉だ。その涼葉が残るなんて出来ないだろう? 鳥田は今盗賊共に襲われている、ちゃっちゃと盗賊共を殲滅して俺を助けに来てくれ。大丈夫だ、護りに徹してやり過ごすから」
「ヤ、ヤなんだよ! ボクは創ちゃんとここに残るんだよッ! 仲間の力を借りてどうにか二人で逃げようよ」
「分かってくれ涼葉、あの男が何者なのかは知らないが、魔王とあの男を二人で相手取るのは無理だ。勇者が魔王を、俺達があの男の相手を、それが理想だろ?」
階段の目の前まで来た。傍にはでかい毛虫型魔物の遺体が転がっている。
「そんなことないよ。ボクと創ちゃんなら二人を倒せるんだよ、きっと」
「時間がない、リョカを呼ぶんだ。さあ、行くんだ涼葉。ここで問答している時間はないぞ」
そこで毛虫の遺体が爆散する。
「おおぅ、俺を置いて何処へ行くつもりだよ」
「キィヒッ、全くですね。つれないんじゃないかな?」
くそっ、追い付くのが早すぎるだろッ!
俺は二人が一歩踏み出した瞬間を狙って奥義を繰り出す。
「ちぃー、井氷鹿――ッ! 長くは保たない、 行け涼葉ッ!」
イヒカの氷ドームで階段の入口を塞ぐ。
「……分かった。必ず勇者を連れて来るんだよ。だから、それまで無事でいてね創ちゃん」
背後でリョカの気配が生まれ、そして遠ざかっていく。これで一つ不安が取り除かれたな。
「チッ、この氷はヤベーな。触れれば只では済まん」
「ヒヒッ、これは毛虫の魔物の攻撃を防いだ技だね」
覗き見てたか!
「が、長くは持たんだろうな」
「ヒヒッ、当然だね。これは永続する類のものじゃない」
奴等の会話からイヒカなら奴等にもダメージを負わせることが可能だと分かる。現に奴等は攻めてこない。
イヒカが通用するなら冥閬院流の奥義なら希望があるということ。
嘗てフィカス相手に改良版イヒカを短時間で破られたが、恐らく改良が完全ではなかったのだろう。
奥義を改良して有効打をあてたい。
奴等は当時のフィカスよりも強いのだろうか?
もし強いのなら同じ轍は踏めない。だが、フィカスよりも弱かった場合、同じ手が通じる可能性が出て来る。
効果の程が落ちてようと、奥義は魔法に類するものだ。本来ならどんな魔術すらも防ぎきる。魔法は魔術を凌駕するからだ。
機を見て試そうと思うが、あの二人にそう簡単には当てられそうにない。
ドームが薄れていく。
「おぅ、そこでジッとしてても仕方ないだろ。とっとと出てこいよ。遊んでやるからよ」
「そうだよ。このままじゃ埒が明かない。僕も暇じゃないんだから、早く彼女を追いかけに行きたいんだよ」
氷のドームが綺麗に消え去る。奴等の言う様に持続するもんじゃないからな。いや、魔法だと考えるとそれも可能なのかも知れない。試す価値はあるか?
考えるのは後だ、燭台切光忠を抜き二人を目指して駆け出す。
「漸くのお出ましかッ!」
男が大剣を振り上げる。この大剣、優斗の持つアスカロンよりも遥かにデカい。ガタイのいいこいつ自身よりデカいな!
「いきなり斬りかかってくるのか」
魔王が片手を掲げる。魔術を放つつもりだろう。
「くそ、いつの間に二人で仲良くなりやがった。輅王爽籟ッ!」
この二人には、奥義以外のものは通用する気がしないが、そう簡単に奥義を受けてくれる筈もない。
技と技を連携させ、奥義に繋げなければ!
涼葉には護りに徹すると言ったが、この場で二人共仕留めるつもりだ。
涼葉への脅威は速やかに排除する!
「チ、なんなんだよコイツはよぉおぉー!【一刀両断】ッ!」
「まったくだよ、ね!『エア・バレット』」
回転しながら接近する俺に対し、男は大上段から力任せの振り下ろし大気を斬り裂く飛刃を飛ばす。
反町は突き出した掌から視認できない無数のエア圧縮弾を放ってくる。
迫る不可視の弾丸を回転する刃で残らず弾き、大剣から放たれた飛刃を紙一重で躱す。
そのまま勢いを利用し男の首筋に刃を向ける。
「おおおぉぉ、残光ぉーッ!」
男は攻撃を躱された挙げ句に反撃に出られ慌てて後退する。
「チィッ!」
「キィヒヒッ、隙を見せたね『アドバンスド・ハンドブレイク』!」
その隙に反町が大きく後退し、大地魔術を放ってきた。
地面から生み出された腕は全部で6本、その全てが俺達二人を纏めて標的とし殴りかかってくる。
バルサムが使った『アドバンスド・ハンドブレイク』は岩の腕が生えてきたが、こいつの腕はぶよぶよとした肉の塊だった。
「おぅおぅ、キメェもん出しやがったな。それじゃ俺も一つ良いものを見せてやるよ!刮目しなぁ【皇龍飛天】ッ!」
男が大剣を天へと掲げる。同時に剣が輝き出し、光は龍の姿となって飛び出した。
光の龍は肉の腕へと絡みつき、喰らいつき、引き千切る。
生きているかの様に動き回る光の龍は、一つの肉腕を破壊すると次の標的へと移っていった。
「おぅ、あのきめぇのは皇龍に任せて、俺達は続きと行こうぜ」
「いったいあんたは何者なんだッ!」
「おぅ、俺か? 俺は勇者だ、俺こそが【真の勇者】なんだよッ!」
ここに来て三人目の勇者が現れやがったッ!
●剣南創可。
唯一の役割:【主人公】
職:【騎士】
スキル:【武芸十八般】【等価交換】【不屈】【カリスマ】【真眼】【集中】【身体強化】【肉体強化】【瞬発力強化】【運命誘導】【空間機動】【空間認識】【空間適正補正】【空間魔術の知識】【衝撃軽減】【恐怖耐性】【治癒力向上】
魔術:『空間魔術』
所持品: 燭台切光忠 革の軽鎧 覚醒の実×1 聖騎士勲章
流派: 冥閬院流
●柏葉涼葉
極々希少な役割:【ダンジョンコア】
職:【魔物操者】
スキル:【武芸十八般】【広域気配探知】【感知】【第六感】【獣魔召喚】【獣魔送還】【獣魔強化】【従魔共振】【天駆】【魅了】【身体強化】【肉体強化】【毒耐性】【闇耐性】【恐怖耐性】
new【精神耐性】
魔術:なし
従魔:リョカ ホワィ アルヒコ ホーネット スラティン アスプロ アルネア etc.
所持品: 銀の剣 革の軽鎧 覚醒の実×1 人形式×100
流派: 冥閬院流