荒野の黒蜥蜴2
世界は大地震により変貌を遂げた。
魔物が当たり前のように跋扈し人を襲うようになった、今から二年と少し前の事だ。
無論のこと人間は抗う為に考えを巡らせる。
最も簡単な方法、それは徒党を組むこと。人々は自然と強者の下へと集まっていった。
それはたった四人の集まりから始まった。
街のチンピラだった四人はいつも行動を共にしていた。その日もそうだった。
魔物に襲われた仲良し四人組は、力を合わせ一体の魔物を倒すことに成功する。その直後にロールとジョブを手にする事になる。
四人はそれぞれ【支配者】【簒奪者】【略奪者】【強奪者】といった役割を宛がわれ、ジョブは三人揃って【盗賊】であった。
【支配者】の者は残りの三人を説き伏せ、自らを頭目と名乗るようになる。
頭目は真っ先に、同じ【盗賊】のジョブを持ち、ジョブの影響で集団から弾かれた者達を探した。
ロールやジョブの影響でハブられる人物は多く、【盗賊】以外の者も大勢仲間になっていった。
結果、盗賊の集まりは急激に規模を増やしてゆき盗賊団となり荒野の黒蜥蜴を名乗る様になる。
盗賊であるが故か、彼等は小規模な集まりである拠点を襲い物資を奪ってゆく。
特に必要なのは食料だ、拠点には必ずと言って良い程食料の備蓄がなされている。食料を奪い、自らの糧とする日々が始まった。
だが、そんな悪事を働く彼等の中には【殺戮者】は居なかった。
極めて迷惑な存在でありながら、決して殺しだけはやらなかったのだ。
それは始まりの四人の矜持であり、何より人であり続ける為の最低限の誓いでもあった。
ある日欲に駆られた頭目が物資が有り余っている裕福な拠点に目を付けた、時勇館だ。
少々距離はあるが、奪った馬に乗り常足で行っても二日もあれば辿り着ける。
頭目は荒野の黒蜥蜴の全メンバーを引き連れて行動を開始する。
現れる魔物は数の暴力で叩き伏せた。順調に歩を進め、半分程進んだ所で邪魔が入った。
彼等の順調だった日々はこの日唐突に終わることとなる。不意に現れた男によって全てが一変したのだ。
「キィヒヒッ、やあ、こんな所で何してるのかな? ヒヒッ、どうでもいいや、君達のボスは誰なのかな?」
などと気軽な様子で、それもたった一人で近づいてきた男は反町燦翔と名乗り彼等を襲い始めた。
瞬く間に数を減らしていく荒野の黒蜥蜴、頭目の男は堪らずに頭を垂れ許しを乞う。
が、次の瞬間に頭目の首が宙を舞うこととなった。
静まり返る中、反町燦翔はまたも口を開く。
「ヒヒッ、盗賊って言ってもただのこそ泥まがい、強盗ですらないのに盗賊なんて名乗ってちゃダメだよね? キィヒヒヒッ、今日からは僕が頭目になってあげるよ。ちゃんとした盗賊団にしてあげる。不殺なんて生温いよね。ハブられるのは辛かったでしょ? 無視されるのは怒れたよね? 食料は満足に貰えたの? キィヒヒヒヒッ、復讐したくはないかい? 僕について来れば復讐し放題だよッ!」
逆らえば殺されるという恐怖が最も大きな理由だが、復讐の言葉に魅力を感じたのも確か。
彼等は、最初の四人を除いて全員が集まりから弾かれた存在だ、恨みは骨髄に徹する。
彼等は全員が反町燦翔の配下となった。
恨みを晴らすために荒野の黒蜥蜴は進路を反転させる。
「キィヒッ、先ずはそうだな、君の故郷でも襲おうかな」
一番近くに居た始まりの一人【略奪者】の肩に反町燦翔の手がボンと置かれる。
青い顔をした【略奪者】は頷き場所を教え、示した場所へと荒野の黒蜥蜴が進路を向けた。
瞬く間に幾つもの拠点が襲われた。
徐々に彼等の忌避感は薄れてゆき、略奪や凌辱はおろか殺害にすら躊躇いを抱く事はなくなっていった。
真の意味で“荒野の黒蜥蜴盗賊団”の誕生となったのだった。
滅びる未来の小さな拠点で、少年は一人の男性と共に逃亡する。
その少年は数時間後には救われる事となる。【主人公】や【勇者】によって。