荒野の黒蜥蜴
「なあ、俺達お互いの事何も知らないだろ? そこで親交を深めるって意味も含めてさ、今の内にスキルを教えあわないか?」
揺れる幌虎車の中で里山が唐突に言った言葉だ。
スキルを教えるということは対策を取られてしまうということ。
果たして将来的に敵になり得る勇者に教えても良いものかどうか?
少し考えてると河合が続く。
「あぁ、そういや鳥田には【裏切り者】が居るんだっけ? ダンジョンに逃げ込んでるんだろ、ダンジョン内での連携は命綱になるからな、いいんじゃないか」
更に伊志嶺も賛成する。
「うん、その【裏切り者】がどんな奴か知らないけど、後顧の憂いは断っときたいよね。ダンジョンコアも破壊しておかないと移住にせよ復興にせよ後が大変だし。スキルが分かってれば連携し易いもんね、私も賛成」
暢気すぎないか?
いつまでも仲良くやっていけるなら問題ないが、涼葉の運命を左右する決断だ簡単には答えられない。
そんなことを考えてると、当の本人があっけらかんと不安を暴露してしまう。
「ええ、でもさボクってさ【ダンジョンコア】だから、ボクにその気はないけど、いつかみんなと敵対関係になっちゃてもおかしくないんだよ。そんな相手にスキルを公開するのは良くないんだよ?」
あっけらかんと言っている涼葉だがその実、心の中では不安で一杯なはずだ。
彼女の心は決して弱くない、既に敵対した時のための覚悟はしてると思う。
だが、彼女の本当の心は共に過ごした里山達を敵だとは思いたくないんだろう。感情が表情に出てしまっている。
三人は呆けたように涼葉を見て言った。
「はぁ、今更んな事言われてもな、知ってたしな」
「おう、今更だな。俺も優斗もそんなこと気にしてないし」
「そうだよ、私達もう友達でしょ? ううん、違うか、戦友なんだよ。私達は戦友、少なくとも私はそう思ってるよ。戦友って共に命を預ける間柄だよ、たとえ魔物を産みだすダンジョンコアって言っても敵になんかにならないよ」
お、お前達!
「それにあんたのダンジョン、自然に出来たダンジョンと違い魔物が敵対してこないし、問題ないんじゃねぇのか?」
「どっちかっていうと人懐っこいよな。こないだデッカイ蜘蛛の魔物に懐かれたんだけど……。ちょっと怖かったけど、今はペットみたいでカワイイしな」
「あ、その子なら今も河合くんの頭の上に乗ってるんだよ」
「ハハハッ、出発するころからずっと乗ってたよ隆成君」
「え、うそッ!」なんて驚きながら手を頭の上を探る河合だが、蜘蛛は素早く身をかわし続ける。皆からワハハッと笑い声が上がる。
「みんな、……みんな本当にありがと! これからもよろしくなんだよ」
少し涙目の涼葉が礼を言う。
「俺からも礼を言うよ。有難う里山、河合、伊志嶺」
今までどこか緊張感をもって一歩引いて接してきたが、もうその必要もなさそうだ。皆の優しさに心が温まる思いだ。
「取り敢えずさ、俺達苗字で呼び合うの辞めないか? なんかこう、壁を感じるって言うかよ、よそよそしいだろ。名前で呼び合おうぜ、創可に涼葉」
「え? ふふっ、そうだね優斗くん。これからもよろしくね隆成くんに美織ちゃん」
「そうだな、よろしく優斗、隆成、美織」
「おう」「うん」と嬉しそうに返事を返してくれる皆には本当に感謝だ。
正直、勇者が敵となるのは避けたかったし、その勇者が優斗だと思うと心が苦しくはあったんだ。
「と、それよりこの蜘蛛取ってくれよ」
「随分懐かれてるね。その子には未だ名前がないんだよ。隆成くん、良かったらその子に名前を付けてあげて」
「ええ! 俺が付けても良いのか!? えっと、どうしよう」
「因みにその子はメスなんだよ」
「隆成は蜘蛛にモテるんだな」
なんて事があり、この蜘蛛の魔物の名前はアラネアと名付けられた。
アラネアは掌サイズの大きな蜘蛛の魔物で、ある程度体の大きさを小さくすることが出来るらしい。
アラネアが鳥田の人間に見られると騒ぎになるので、身体を小さくして隆成の髪の毛の中に隠れることになった。
「さて、そろそろスキルの話をしようぜ」
という訳でここからはスキルの纏めだ。
先ずは俺、剣南創可。
唯一の役割:【主人公】
職:【騎士】
スキル:【武芸十八般】【等価交換】【不屈】【カリスマ】【真眼】【集中】【身体強化】【肉体強化】【瞬発力強化】【運命誘導】【空間機動】【空間認識】【空間適正補正】【空間魔術の知識】【衝撃軽減】【恐怖耐性】【治癒力向上】
魔術:『空間魔術』
所持品: 燭台切光忠 革の軽鎧 覚醒の実×1 聖騎士勲章
流派: 冥閬院流
俺は以上だ、随分とスキルも増えたな。続いて涼葉だ。
極々希少な役割:【ダンジョンコア】
職:【魔物操者】
スキル:【武芸十八般】【広域気配探知】【感知】【第六感】【獣魔召喚】【獣魔送還】【獣魔強化】【従魔共振】【天駆】【魅了】【身体強化】【肉体強化】【毒耐性】【闇耐性】【恐怖耐性】
魔術:なし
従魔:リョカ ホワィ アルヒコ ホーネット スラティン アスプロ アルネア etc.
所持品: 銀の剣 革の軽鎧 覚醒の実×1 人形式×100
流派: 冥閬院流
里山優斗。
極々希少な役割:【英雄】
職:【勇者】
スキル:【剣術】【槍術】【蹴撃】【会心】【強心】【跳躍】【遠視】【危機察知】【カリスマ】【身体能力向上】【身体強化】【肉体能力向上】【肉体強化】【思考加速】【魔力上昇】【魔力操作】【魔盾】【斬撃耐性】【打撃耐性】【毒耐性】【即死耐性】【呪耐性】【生命維持】【治癒力向上】【ヒートソードアタック】【アイスソードアタック】
魔術:『四大魔術』(火、水、風、地)
所持品: 竜殺しの聖剣 聖剣クラウ・ソラス 聖凱イジョス・ブリンジャ
保有スキルが多いのは流石だな。続いて河合隆成。
希少な役割:【英雄の従者】
職:【戦士】
スキル:【剣術】【斧術】【盾術】【身体強化】【肉体強化】【城塞】【強靭】【剛腕】【魔盾】【魔力障壁】【斬撃耐性】【打撃耐性】【貫通耐性】【衝撃吸収】【毒耐性】【麻痺耐性】【生命維持】【再生】【道具箱】
魔術: 『特殊魔術』
所持品: 双斧 鋼の剣 鉄の軽鎧 カイトシールド ポーション×12
隆成は戦士というよりも壁役に思えるな。続いて美織だ。
唯一の役割:【ヒロイン】
職:【聖女】
スキル:【杖術】【聖域】【聖痕】【慈愛】【魅了】【身体能力向上】【肉体能力向上】【魔力増幅】【魔力吸収】【魔力操作】【魔力障壁】【回復魔術大補正】【状態異常耐性】【再生】
魔術: 『光魔術』『回復魔術』『結界魔術』『性魔術』『特殊魔術』
所持品: アスクレピオスの杖 聖衣
美織は聖女に相応しいスキルが揃っているな。
気になる事が幾つかあると思う。
先ずは【強化】と【向上】の違いだ。
強化は一時的なもので、向上は常時発動型のスキルだということが分かった。
次に【魔盾】と【魔力障壁】の違い。
魔盾は直径30㎝程度の魔力の盾を生み出すもので、魔力壁は全面を完全に覆う魔力の壁を作り出すそうだ。強度的には壁の方が堅いが、盾の方は動かす事ができ使い勝手がいいらしい。
あと【聖域】と【聖痕】だ。
聖域は俺も経験があるが、敵対する魔物のステータスを低下、味方を強化する。更に回復能力まで備わった優れものだ。
聖痕は身体の何処かに文字が浮かび上がり、書かれていることが実現するといった能力だそうだ。
俺と涼葉の持つ冥閬院流の【武芸十八般】とは、
一、刀剣術 二、小具足術(短刀、脇差)
三、槍術 四、薙刀術 五、棒術 六、杖術 七、居合・抜刀術
八、弓術 九、馬術 十、柔術 十一、捕縛術 十二、投擲術
十三、十手術 十四、鎖鎌術 十五、水術 十六、砲術
十七、もじり術(長柄の先端が二股に別れ、棘が上下についた捕具)
十八、隠術(忍術)
の十八の武芸のことだ。
後は分かり難いのは涼葉の【獣魔共鳴】だろうか。
これは従魔の力の一部を涼葉が疑似的に扱えるというスキルらしい。
「おいおい、お前等ちょっとズルくねぇ?」
「なんだよ【武芸十八般】って、そりゃないよ」
「ええ、でも頼もしくない?」
と驚かれた。
武芸十八般は、スキルと言うよりもシステムの影響を受けない地の力だ。
謂わば冥閬院流で培った副産物とでも言うべきか、習う上で自然と身についたものだ。
ぶぅぶぅと文句を垂れている二人の男に、美織が呆れたように諌める。
「もお、もういいでしょ優斗。愚痴ったって身につくモノじゃないし、努力した結果なんだから文句いう筋合いじゃないよ。そんなに羨ましいなら二人も入門したらいいじゃない」
「だってよぉ」
「いやいや、俺からしたらお前達も十分凄いと思うぞ。優斗は流石に勇者と言うべきか充実したスキル群だし、隆成は防御の面では絶対の信頼が持てる。美織に関しては何だよ状態異常耐性って、全状態異常に対して耐性があるってことだろ。羨ましすぎるぞ」
「うん、そうだよね。回復魔術も凄いと思うんだよ。このパーティーの生命線なんだよ」
一方的に褒め殺しは恥ずかしいので反撃しておく。
皆して照れながら褒め合いっこをしていると、虎車が不意にガタッンと揺れ速度が落ちた。
「なんだ? 何かあったのか?」
「なになに、魔物でも出たのか?」
【遠視】を持つ優斗が答えた。
「いや、人が襲われてるッ! 大人の男と子供だな、旅人か? 大きな荷物を背負ってるが……。急がないと間に合わないぞ」
前方を見ても俺には何も見て取れない。
しかし、優斗が言うには二十人程の男達が、大人と子供を襲っているのが見えるそうだ。
まだ遠い場所の集団をよく見ようと前のめりになり凝視する。
俺にはやはり見えない。だが、人が襲われているのなら助けないとな。
「虎は戦闘には参加しないと言っていた。俺達で助けないといけない」
涼葉が「どうして襲われてるのかな?」と疑問を口にするが、「荷物を狙う盗賊か?」と答える。
虎車は歩く程の速度まで遅くなっているので走った方が速い。
「盗賊か? だったら荷物が狙われてるんだろう。どちらにせよ速度が落ちた以上走った方が速いぞ。俺と創可、それと涼葉で助けに行く。二人はこのまま虎車で護りを固めてくれ」
「「分かった!」」
優斗が指示を出し、俺達三人は虎車から飛び降り全速力で走りだす。
ちょいと距離が在ったが、程無くして集団の傍まで辿り着くことができた。
優斗が集団に向かって叫ぶ。
「テメェ等、何をやってやがるッ!」
「あぁあん、何だテメェ等わぁ」
「ヒャッハーッ、獲物の方からやって来やがったぜぇ。当分喰うに困らねぇなぁこりゃ」
二人の人物をいたぶっていた手を止め、振り返る男ども。どいつもこいつも中年を過ぎたおっさんズだ。
随分とガラの悪い反応を示す。盗賊ってのは当たってるらしい。
「んだよ、邪魔する気ならテメェ等から始末付けるぜ」
「こいつ等、俺達が“荒野の黒蜥蜴”だってこと知らねぇんじゃねぇですかい」
知らんな。
だが、優斗の出で立ちを見ても強気の態度を示すということは、それなりに場数を踏み俺達をどうにかできると自信を持っているのだろう。
今の優斗は金の鎧を身に纏い、大きな剣を携えている。見るからに歴戦の戦士だと分かる姿だ。
「たった三人で俺達を相手どろうってのかよ。俺達を舐めてっと痛い目みるぜぇ」
「もう遅えぇけどなぁッ!」
「ガハハハッ、お気の毒さまだな。俺たちゃ泣く子も黙る“荒野の黒蜥蜴”盗賊団の一員よぉ」
ビンゴだった。こいつ等名の知れた盗賊団らしい。自称じゃあなければだが。
にしても、反応が子供っぽいな。こいつ等はあの有名な中二病ってヤツなのか? いい歳して何やってんだ!
俺達は初見で相手の力量を大まかに看破する事が出来るが、相手はそうではないらしい。
俺から見て奴等の実力は中の下と言ったところだろう。俺達の敵ではない。
「ああぁ、テメェ等が“荒野の黒蜥蜴”かよ、どうりでむさくて品がねぇ奴等だと思ったぜ。小規模な拠点を襲っちゃあ強奪を繰り返してるチンケな連中じゃねぇか!」
「ああぁん、んだとテメェー、誰がむさくて品がねぇだぁゴラァー! 金ピカのイタイ野郎がッ、ナマ言ってんじゃねぇよ! テメェ等の身ぐるみも剥いでやんから覚悟しやがれッ!」
優斗の鎧は金色一色のど派手な鎧だ。他所に売るなり自身で使用するなり使い道はあるだろう。
奪い取れればの話だがな。
「ああ、んだとテメェ!」
「ああ、あんちゃん達の装備、上等だなぁ? 俺達で有効活用してやるから置いてけや。尤も、強制的に剥ぐけどな。ヒヒッ」
「おいおい、そっちの嬢ちゃんはえらく上玉じゃねぇか! いい思いさせてやるからこっちこいよ」
あ、こいつ等は殺そう!
俺の涼葉に下卑た視線を向けるのは俺が許さんッ!
「いやだよ、気持ち悪い。それにキミたちちょっと臭いよ。ちゃんと身体洗ってるの? まるで肥溜だよ」
「あ、ああぁんッ! 俺達がクソだって言いてえのかよッ!」
「ちょっと優しくしてやりゃつけ上がりやがって。優しく楽しませてやろうと思ったが、止めだッ!」
「気が狂うまで俺達の慰み者になってもらおうじゃねぇのッ! 飼い殺しだコラァ」
――プッチンッ!
こいつ等に手加減は要らんだろう。ちょいと本気で相手してやるッ!
「もういい、その人達を放す気がないなら、此処で死ね!」
俺はそう言い放つと、瞬時に先頭の男の懐へと跳び込み抜刀する。
無音の鞘走り、遅れてやって来る手応え。その後に“ズチャリ”と男の身体が斜めにずり落ち地に転がった。
…………
余談だが、時代劇なんかでよく“チャキーン”などの音を付け加えているが、刀で音を出すのは恥であり、あってはならない危険信号でもある。
もし鞘鳴りがしたら、それは鞘と刀身があっていない証拠。
もし刀を返した時に“カチャッ”と音がなればそれは鍔鳴りであり、これも鍔が緩んでいる証拠。
即刻調整、修理を薦める。
「――なぁあ、やりやがったぞこの小僧がぁ――ッ!」
「げ、創可に先越されたッ!」
「テメェ等ぁ、殺ッちまえッ!」
一気に乱戦に突入する。
正直なところ俺一人先走ってしまったが、あのまま悠長に話し込んでる時間は無かったんだよ。
盗賊共に囲まれてた大人の男性が大量の血を流して倒れている。早く美織の元まで連れて行かなければ命に関わる程の大怪我だ。
なので、火蓋を切るのは誰でも良かったが、一刻も早くケリを付ける必要があったんだ。
盗賊共に最も近くに居るのは俺だ。その俺に向かって数人が剣や斧を振り上げ迫ってくる。
俺は誰が一番最初に間合いに入るかを見定める、左前方から迫り来る剣を持つ男だ。
男は俺目掛けて剣を振り下ろすが、俺は素早く奴の柄を握る手に手を添えて捻り武器を奪い取る。
奪い取った剣を、次に早く近付いてきた斧を持つ男の喉元へと投げ、突き刺し息の根を止める。
驚き呆けた剣の男の首に腕を回し、そのまま捻り上げ頸椎を破壊。
勢いのまま接近してしまった三人目は驚きの表情を浮かべたまま光忠の餌食となった。
その頃には涼葉や優斗も盗賊を血祭りにあげていた。
俺も涼葉も、勿論優斗もそうだが人を斬り殺すには抵抗があった筈だ、が今は全く抵抗がない。
これ程の事をしでかした盗賊共には相応の報いを受けてもらう。
思いの他盗賊共の動きは悪くはなかった。
俺達から見たら一人一人の動きは大したことないが、皆が皆仲間の動きをカバーし合っていた。
単体で攻める事は無く、チームを意識して戦っている。戦い慣れてるんだこいつ等は。それだけ拠点を襲い続けていたってことか!
ま、それでも俺達の敵ではないんだが、程なくして盗賊全員を見事に斬り捨てた。
「けっ、何が“荒野の黒蜥蜴”だ。大したことなかったな」
「ああ、そうだな。だが、連携は取れていた、戦い慣れてるようだったな」
優斗と俺が声を掛け合っていると、涼葉が盗賊に襲われていた子供の方に話かけていた。
「ボク大丈夫? 大きな怪我は無いようだけど、小さな打撲や擦り傷が一杯なんだよ」
「あ、ああ、ありがとよ、助かったぜ。あんた等強いんだな」
見た目は小学生中学年ぐらいの男の子だ。
そんな子供が涙も見せずに気丈にも自らの足で立ち盗賊団の遺体を凝視していた。
「その子は大丈夫みたいだな。残るはそっちのおっちゃんか」
自分で言っときながら何だが、本当に大丈夫なんだろうか?
涙を見せないのは感情を自ら殺しているから。泣きたい時に泣かない、泣けないのは心に相当の負担を掛けることになる。少し心配だ。
「うん、話は後にしてこの人を美織ちゃんの元まで運ぼうよ。ちょっとヤバめなんだよこの人!」
少年を身を挺して護っていたのだろう。身体はボロボロになっており、流血が止まらない。
涼葉がハンカチで傷口を強く押し付け圧迫止血を試みるが、傷は深くそれでは足りないようだ。
「この状態で動かすのは危険だ。止血帯法で強制的に血を止めよう。直ぐに美織もやって来るからその間保てば問題ない」
「な、なあ、このおっさん助かるのか? 俺、おっさんに守って貰ったんだ、何とか助けてやってくれよ。頼むよ」
涙を見せないのに泣きそうな顔を見せる少年。必死に泣く事を堪えている姿が痛々しく映る。
そんな少年に優斗が優しく希望を灯す。
「問題ねぇよ坊主、俺達には聖女様がついてっからな。心配するな、どんな傷だろうとあっという間に治しちまうような女なんだよアイツは」
その言葉を聞いて「ありがとう」と、少しは安心したように頷く。
「それより何があったんだよ?」
怪我人を背負うのは危険だったので、虎車が追い付くのを待ちつつ止血を試みる。その間に詳しい話を少年から訊くことにした。
この子の名前は如月昴。
昴はこの付近で小ぢんまりとした拠点で暮らしていた。
拠点の周りにはダンジョンもなく、生きていくに苦労する程困窮することもなかったそうだ。
ところが、唐突に“荒野の黒蜥蜴”を名乗る盗賊集団が現れ襲われた。
拠点には碌な防壁もなく、あっさりと侵入を許してしまう。
拠点の男達は容赦なく殺され、女達は犯され拐われていった。
昴は恐怖と絶望に動けずにいたそうだ。それも当然だ昴はまだ8歳、魔物を狩ることもなくシステムの補助がない。
システムは魔物を倒して初めてインストールされるもの、8歳にはまだ無理だ。そんな昴を救ったのは両親だった。
両親は自らの命を賭して勇者が居るという拠点を目指し脱出した。
その時に両親は殺され、彼等の友人に昴は託された。それが彼、今瀕死の重傷を負って倒れている加藤正雄、40代の男だった。
しかし必死に逃げる二人を、笑いながら追ってきた盗賊団が捕らえ嬲る。
死を覚悟した、そんな時に俺達が現れたんだ。
「奴ら最悪じゃねぇか! 俺達が通りかからなけりゃ確実に殺されてたぞ」
「ああ、放っておくことは出来ないな」
「うん、“荒野の黒蜥蜴”だっけ、許せないんだよ! このまま放っておくなんて出来ない、関わった以上、見過ごせないんだよ!」
憤りを見せる俺達に、昴が言う。
「けどよ、奴等の拠点なんて何処にあるかしらないし、奴等の頭目は強いって親父が言っていた」
「心配すんじゃねぇよ昴。俺はこれでも勇者だからな、困ってる人には手を差し伸べるのが俺の役目なんだよ」
「ゆ、勇者! じゃああんたが鳥田防衛基地の勇者なのか!?」
「ちげぇよ、俺は時勇館の勇者、里山優斗だ、よろしくな!」
その言葉を聞いた昴は、緊張の糸が切れたのか大声をだし泣き始めた。
「う、うぅううっ、うわぁああああぁぁぁぁ――ん。あ、会えた、会えたぞ親父、お袋ぉーッ!」
涙が堰を切ったように流れ出す。
ハンカチで涙を拭ってやるが、拭いても拭いても頬を流れる涙は止まらない。
視界の端には大きな虎に引かれる虎車が見えてきた。
どうやら間に合いそうだ。
俺は昴の頭に手をやりわしゃわしゃと撫でまわす。
「もう大丈夫だ。泣きたい時は泣けば良い、我慢する必要なんてないんだ。涙を我慢するのはここに悪い」
昴の胸をコンコンとノックしながら言う。
「う、あぁあああん、あぁ――――んッ!」
泣きじゃくる昴を見つつ美織が虎車から降りて来るのを待つ。
やがて美織がやって来て、正雄さんの姿を確認し回復魔術を掛けてくれた。
正雄さんの傷は瞬く間に塞がり一命を取り留める事ができた。
意識は戻っていはいないが、命を落とす心配はなくなった。
美織は昴にも回復魔術かけてくれた。
しつこいぐらいに礼を言ってくる昴と意識の無い正雄さんを虎車に乗せ、意識の戻らない正雄さんには念の為に回復薬であり栄養価も高いポーションを口から流し込んでおく。
昴には涼葉が温かい手料理を作り振舞った。美味そうに、まだ涙を流しながら黙々と料理を口に運ぶ。
昴は食事をしながらボツボツと盗賊共の詳しい話を訊かせてくれた。
盗賊団“荒野の黒蜥蜴”は一年ぐらい前から名を聞くようになった荒くれ者どもの集団。
小さな拠点を襲い物資を奪っては立ち去って行く小悪党の集団だったそうだ。
殺しも誘拐もしない、それも当たり前で奪う先がなければ盗賊稼業も出来ないからだ。
しかし、最近は様子が変わった。襲う拠点は全て潰している。
物資は根こそぎ奪い、男は殺し女は攫う。よりも過激に、また残酷に行動するようになった。
それは最近になりトップに代替わりがあったせいだという。
嘗て頭目と呼ばれた者が、反町燦翔と名乗る者に殺され“荒野の黒蜥蜴”は乗っ取られた。
「なっ、反町燦翔だとッ!」
「はん、行先は同じってか」
鳥田へと行く理由が一つ増えた。
反町燦翔は盗賊の頭領となり盗賊を従え悪事を繰り返している。
俺達は二人を伴い鳥田へと急ぐことにした。
【裏切り者】反町燦翔を討つ為にッ!
●剣南創可。
唯一の役割:【主人公】
職:【騎士】
スキル:【武芸十八般】【等価交換】【不屈】【カリスマ】【真眼】【集中】【身体強化】【肉体強化】【瞬発力強化】【運命誘導】【空間機動】【空間認識】【空間適正補正】【空間魔術の知識】【衝撃軽減】【恐怖耐性】【治癒力向上】
魔術:『空間魔術』
所持品: 燭台切光忠 革の軽鎧 覚醒の実×1 聖騎士勲章
流派: 冥閬院流
●柏葉涼葉
極々希少な役割:【ダンジョンコア】
職:【魔物操者】
スキル:【武芸十八般】【広域気配探知】【感知】【第六感】【獣魔召喚】【獣魔送還】【獣魔強化】【従魔共振】【天駆】【魅了】【身体強化】【肉体強化】【毒耐性】【闇耐性】【恐怖耐性】
魔術:なし
従魔:リョカ ホワィ アルヒコ ホーネット スラティン アスプロ アルネア etc.
所持品: 銀の剣 革の軽鎧 覚醒の実×1 人形式×100
流派: 冥閬院流
●里山優斗。
極々希少な役割:【英雄】
職:【勇者】
スキル:【剣術】【槍術】【蹴撃】【会心】【強心】【跳躍】【遠視】【危機察知】【カリスマ】【身体能力向上】【身体強化】【肉体能力向上】【肉体強化】【思考加速】【魔力上昇】【魔力操作】【魔盾】【斬撃耐性】【打撃耐性】【毒耐性】【即死耐性】【呪耐性】【生命維持】【治癒力向上】【ヒートソードアタック】【アイスソードアタック】
魔術:『四大魔術』(火、水、風、地)
所持品: 竜殺しの聖剣 聖剣クラウ・ソラス 聖凱イジョス・ブリンジャ
●河合隆成
希少な役割:【英雄の従者】
職:【戦士】
スキル:【剣術】【斧術】【盾術】【身体強化】【肉体強化】【城塞】【強靭】【剛腕】【魔盾】【魔力障壁】【斬撃耐性】【打撃耐性】【貫通耐性】【衝撃吸収】【毒耐性】【麻痺耐性】【生命維持】【再生】【道具箱】
魔術: 『特殊魔術』
所持品: 双斧 鋼の剣 鉄の軽鎧 カイトシールド ポーション×12
●伊志嶺美織
唯一の役割:【ヒロイン】
職:【聖女】
スキル:【杖術】【聖域】【聖痕】【慈愛】【魅了】【身体能力向上】【肉体能力向上】【魔力増幅】【魔力吸収】【魔力操作】【魔力障壁】【回復魔術大補正】【状態異常耐性】【再生】
魔術: 『光魔術』『回復魔術』『結界魔術』『性魔術』『特殊魔術』
所持品: アスクレピオスの杖 聖衣