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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
1章
3/78

厄災 二日目

 既に時刻は深夜と言っていい時間帯。

 壁は砕け外が露出し、星々の放つ僅かな光だけが室内を照らしている。


 俺達は半壊した家の中で必要な物を瓦礫から掘り起こし終え、開けたスペースを作り互いに寄り添って座っていた。

 俺はゴブリンとの戦いで疲労した身体を休ませながら、不思議な文字を調べている。

 この文字は不思議な事に暗闇の中でさえハッキリと読み取る事が出来た。

 突如視界の端に現われたアイコン、それを意識した途端に目の前に浮遊するように現れた文字。

 俺を主人公だとか騎士だとか書いてある例の文字のことだ。

 更にそれらの単語に直接指で触れた時、更なる文字が浮かび上がった。


唯一の役割(オンリーロール)【主人公】、不幸に対し必ず一つは回避する道が用意されている役。全ての者を幸福な結末に導ける力を持つ者。

 職業(ジョブ)【騎士】、特定の人物を護る際に、剣、槍、盾に補正が掛かる。

 ガチャ一回無料権、ガチャを一回無料で回す事が出来る』


極希少な役割(URロール)【ダンジョンコア】、無限のエネルギーを保有し、ダンジョン創作時のエネルギー源となる者。ダンジョンを自在に作り出し成長させることが出来る。

 職業(ジョブ)魔物操者(モンスター・テイマー)】、魔物に好かれる者、魔物の調教師。魔物をテイム出来る。

 ガチャ一回無料権、ガチャを一回無料で回す事が出来る』


 と、こんな感じだ。だが、これ以上のことは、いくらやっても分からなかった。

 正直俺の主人公もどうかと思うが、涼葉のダンジョンコアの方が気になって仕方がない。

 ダンジョン創作時のエネルギー源と書かれると、無限とは言え、エネルギーとやらが減った時に涼葉はどうなるのか不安になる。

 更にダンジョンは魔物を輩出する場所だと彼女は言う。ならば、この事は誰にも知られる訳にはいかない。要らぬ誤解を生みかねないからな。もし、赤の他人にバレたら、おそらくソイツは涼葉を襲ってくる。そうでなくとも非難するに違いない。

 化け物が現れたのは、涼葉の所為ではない。だが、彼女を知りもしない奴等は、彼女の仕業だと考えるだろう。隠し通さないといけない。

 全ての悪意から彼女を護ると心に誓い、涼葉には決して口外しないように言い含めておく。


「さて、いつまでも分からない事を調べても時間の無駄か。いったいこれを誰が仕組んだのか? 何の目的でやったのか? いずれ分かる時が来るかも知れないが、今は知れべてもこれ以上の情報は出てこないな」

「うん、でも、これからどうするの? 創ちゃん、身体は大丈夫なのかな?」

「ああ、何だか凄い速さで痛みが引いていくんだよ。これもロールやジョブのおかげなのかもな。これなら長時間歩いても問題なさそうだ。今日は此処で一晩明かすにしろ、魔物が集まってくる前に早めにここを出よう」


 戦闘音を聴いて集まってくるモノも居るかも知れない。が、外は暗く俺達人間には行動しずらい。

 街灯はおろか、家の明かりすらない状態で、化け物が跋扈しているだろう暗闇を歩きたくはない。


 もしこれが神や悪魔の仕業なら、最早現実とは言えない状況だな。まるで小説やゲームの中の話になっている。そもそも役割が当てがわれてる時点で物語だ。


「先ずは師匠に会いに行こう。この状況下で頼れる人は師匠以外に居ないだろう?」

「うん、賛成。でも、ここから道場まで四~五㎞あるよ? 多分ゴブリンやそれ以外の化け物達がうろちょろしてるんじゃないかな? 大丈夫?」


 まさかさっきのゴブリンで打ち止めってことはないだろう。なら、必ず他にも居ると見て行動した方が身のためだ。


「あっ、そうかッ! 魔物と出くわしたら、ボクがテイムしちゃえばいいのかッ! 戦闘を避けられるし戦力になるし、いいことづくめだよ!」

「いやいや、そう簡単に出来るものなのか? それにロールだのジョブだの良く分からないモノに頼るのは正直ゾッとするぞ」

「う~ん、確かに、やり方もよく分んないや」


 ってなことで化け物をテイムするのは無しな方向で話を進めよう。


 現実的に考えて、夜に動くのは得策ではない。朝まで待って頼りになる人物の元まで移動する。それが師匠の住居である道場だ。

 道場までは歩いて一時間以上は掛かる。道も悪く、化け物を警戒して行かなくてはならない。相当な時間が掛かるだろう、警戒は怠れない。

 道場が無事である保証も、師匠が道場に居るかも分からないが行くしかない。


「正直言って大丈夫じゃないが、行くしかない。仮にこの場に残ったとしても化け物共の餌食になるのが関の山だ。最低限の荷物は持ったし、明るくなり次第さっさと出発しよう。涼葉は他に必要な物があるか?」

「ううん、ないけど……。ボクが気になってるのはガチャなんだよ。コレ、何が出るのかな? どうやって回すのかな? ガチャってことは回せば何かが出てくるんだよ? もし、凄いお宝が出たらこの先少しは楽になるんじゃないかな?」


 初めて魔物を討伐した特典らしいガチャ。確かにコレを回して伝説級の道具でも出たらこの先少しは楽になるだろう。

 しかし、そう簡単に出るとも思えないんだけどなぁ。

 それにこれは魔物を倒した者全員に与えられる特典だ。この先、周りの人々が涼葉の敵に回るかも知れない状況下では不安でしかない。


「ボクとしては、アイテムボックスが欲しいかな。こんな大荷物持って化け物と戦うのはゴメンなんだよ」

「確かにな。でもそう簡単に欲しい物が出る訳ないだろ。けど、回してみるのも良いかもな」

「うん、ちょっと調べてみようよ。ヒントはこのアイコンだよね? ちょっともう一回文字を見てみるよ」


 涼葉が再び文字を読み出し彼方此方と弄り始める。

 他人の俺には涼葉の文字は見えないが、俺も調べた方が良いのだろうか?


「わわっ、で、出来たよッ!」


 どうしたんだ? 涼葉は嬉しそうな表情をしたまま目の前を凝視している。


「どうした? 何かあったのか?」

「あれ? 創ちゃん見えてないの? 今、ボクの目の前に大きなガチャ機があるんだよッ!」


 なんだと。どうやら当人以外には文字同様にガチャ機は見えないようだ。


「マジかっ、どうやったんだ?」

「ガチャの文字を引っ張っただけだよ。そしたら引っこ抜けるみたいに出てきたんだよッ!」


 成る程、触るだけじゃダメらしい。俺も習ってやってみよう。


「お、おおお、なんじゃこりゃ……」

「あ、創ちゃんもやったんだ。ねぇねぇ、ボクから回して良いかな? いいよね? うん、ドキドキするんだよ」


 涼葉は言うが早いか、返事を待たずしてガチャに手を伸ばす。

 何かをグルリと回す仕草をして、俺から見たら虚空から一つの真っ黒なカプセルを取り出してみせた。

 カプセルは涼葉の小さな手に収まる位の大きさ。黒くて中身は覗けない、その大きさに何が入ってるのやら。


「う~ん、開けるのが勿体ない気がするよ。創ちゃんも回してみて。一緒に開けようよ」


 開けるのを勿体ぶる涼葉に進められて俺もガチャを回してみる。

 涼葉同様の大きさのカプセルが排出されてきた。俺はそれを手に取り涼葉に見せる。


「わ~、やっぱり黒色なんだね。同じモノって訳じゃないよね?」

「どうかな? じゃあ、せ~ので開けるか」

「うん、じゃぁ、せ~のッ!」


 涼葉の掛け声に合わせて二人のカプセルが二つに割れる。

 涼葉のカプセルからは金の光が、俺のカプセルからは虹色の光が、目も眩む程の光量で放たれた。

 眩しく目を閉じていると、やがて光は鳴りを潜め、瞼を上げる。


 否応なく視界に入るものは、涼葉の眼前に立つ黒い毛並みの大きな馬。地面から頭の天辺までの長さは3メートルはあろうかという大きさだ。大の大人が2~3人は優に乗れそうな体格をし、黒く長い(たてがみ)を持った立派な馬だ。

 涼葉は嬉しそうな表情をして手元を見ていた。そこには紙片があり何かを読んでいるようだった。

 巨大馬は鼻っ面を涼葉の脳天に押し付け、まるで子供が親に構えと駄々を捏ねているように何度も鼻っ面を押し付けている。


 そして、俺の手元にも一枚の紙きれが現れていた。

 紙にはこう書かれていた。


『等価交換:対象を望む物へと交換するスキル。何かを犠牲にして別の何かを入手できる。対価となる物は欲するモノと同等の価値が有るものに限るが、数で補うことは可能。対価となる物は自身が所有している物に限る』


 と、書かれていた。


「なんじゃこりゃ。お、おい、これなんだよ? 涼葉、分かるか?」

「え? なに? なになにぃ。……これ凄いよ創ちゃん! 凄いスキルだよ、大当たりだよッ! ちょっと試しにやってみてよッ!」


 と少々興奮気味な涼葉だ。

 果たして涼葉の言う様に凄いモノなのだろうか? 結局は同等の価値を犠牲にする必要があるから、それ程使えるものではないのでは?


「試すのは後にして、お前も何か見ていたな。この馬は何なんだ? ちと、デカすぎやしませんかね?」

「この子の種族はシャドウ・グリファトって言う種の魔物みたい。大きいけど普段は影の中に潜むんだって。そして、なんとッ! この子には影収納のスキルがあるんだよッ! 二人共大当たりなんだよッ!」


 興奮冷めやらず、わいわいと楽しそうに語る涼葉。

 これで道場への道のりは容易くなったと考えて良さそうだ。


「でも、この子は戦闘には向かない種属らしくって、魔物との戦闘は避けた方が良いんだって」

「そうなのか? 強そうなのにな。そもそも俺達は戦闘に持ち込まれた時点でジ・エンドだけど……。化け物なんかとまともには戦えんでしょう」

「う~ん。この子はゴブリンぐらいなら問題ないようだけど、同ランク同士の戦闘だと分が悪いみたい」


 涼葉はデカい馬の面を、低身長故に背伸びして撫でている。


「名前を付けてあげないとね。う~ん、……ソウハ、リョウカ、……リョカ、うん、この娘は女の子みたいだし、名前はリョカにしようッ! これから宜しくねリョカ!」


 ヒンヒンと鼻を鳴らし喜びを表現するリョカ、愛おしいとばかりに抱き着く涼葉。

 涼葉は昔からペットを欲しがっていた。両親が世話が出来ないとペットを飼えなかった涼葉は、初めてのペットが嬉しいのだろう。ペットで良いのかどうか分からんが。


「創ちゃん創ちゃん、この娘の鞍を作ってよ! 等価交換が有れば出来るんでしょ?」

「どうだろうな? 対価が必要だって書いてあるし、やり方が分からん」


 う~んと可愛らしく唸りながら考え込む涼葉。すると、


「大抵こういう事は想像力がモノを言うんだよ。念じて、念じまくって創ちゃん。あとは対価となる物だけど、魔石なんかがお約束なんだよ。多分、ゴブリンの体内に魔力が結晶化した石があって、それが魔石なんだよ!……きっと」


 涼葉ゴブリンの死体を指差して言う。隅に除けられガラクタと変わりなく転がっている化け物の死体。


「……え? やっぱりアレを解体しないといけないの? お前、簡単に言ってくれるよな!」

「だって、やるのは創ちゃんだしさ。ほら、早く早くッ!」

「うへぇ、アレを解体するのか~」


 魔石を得るにはアレを解体して、体内から魔石とやらを取り出さないといけないらしい。

 確証のないことに体力を使いたくはないが、解体することで化け物の弱点が分かるかもしれない。

 仕方なく涼葉の家から持ってきた包丁を取り出し、ゴブリンの死体へと近づく。

 どっからどう見ても化け物だ。地球にこんな生物は存在しない。突然変異とも考えられるが、こんなにポンポンとは出て来ないだろう。


 俺達はよくもまぁこんな化け物を退治出来たものだ、と、自分でも関心してしまう。


「はぁ~」


 ため息をつきつつ、化け物の死体に包丁の刃を立てる。先ずは強ゴブリンからだ。

 戦闘中に思ったことだが、コイツ等の血は青い。鉄分ではなく銅分を必要としているのだろうか? それとも未知の成分? 地球に無い未知の成分の場合、時間経過で化け物共は栄養失調でお亡くなりになる可能性が出て来るな。そうなれば楽なんだけど……。


 それにしても硬いな、斬れなくはないが硬い。分厚いタイヤに刃を立てている感じがする。

 それでも四苦八苦しながら腹を裂き、あばら骨らしきものを砕いて取り除き、内部を一つ一つ調べていく。

 どうも内臓の類は俺達人間の物とはかけ離れた形状をしているモノが多く、弱点らしき場所はよく分からなかった。しかし、ちゃんと似通った場所も存在する。

 強ゴブリンはオスのようで、ちゃんと生殖器が付いている。更に、形状こそ異なるが心臓部分を見つけた。この情報は貴重だろう。


 内蔵をかき分けてようやく見つけたのは小さな黒い小石。小指の先程の小さな黒い石だった。

 所々が蒼く光を反射する光沢はラメが入っているようだ。小さな見た目に反して重量のある、まさか本当に有るとは思わなかった。


「これが魔石なのか?」

「多分そうだと思う。何だか少し不思議な気の様なものを感じるんだよ」


 涼葉の言う通り、師匠がよく使っている闘気に似て非なる力を感じる。

 他に使い道も分からないし、この石を対価としリョカの鞍を作れってことか。


「よし、じゃあコイツと鞍を交換してくれッ!」


 …………


「うん、なにも起きないな」


 恥ずかしい。


「あれれ?」


 対価が足りないんだろうか? それともやり方が違うのか?


「創ちゃん、諦めたらそこで終わりなんだよ! さぁ、力を込めて念じるんだッ!」


 ぐっ、好き勝手言ってくれる。

 同じやり方では同じ結果が出るだろう。なら、何かを付け足してみるか。

 俺は手元にあった瓦礫をどけ、何か対価になりそうな物を探す。

 探し物は直ぐに見つかった。それは倒れたハンガーラックにかけていた俺の革ジャンだ。初任給で購入した思い出の品だ。

 この思い出の品と魔石でもう一度やってみるか。


 ………………


 ぐっ、力が吸い取られていくのが分かる。ハッハッ、何だこれ、急激な疲労感から意識が飛びそうになる。

 吸い取られる力と引き換えに、革ジャンと魔石が光を放ち存在が薄れていく。光は強さを増し、次第に形を変えていった。


「やったぁよ~、成功なんだよッ! ……創ちゃん?」

「はぁはぁ…はぁ……はぁ………」


 涼葉に言われた通りに念じていたら【等価交換】とやらが成功したようだ。


「ふっ、はぁはぁ……」

「創ちゃん大丈夫? 凄い汗なんだよ!?」


 疲労感から動けずにいた俺に手を添えて心配してくれる涼葉。ハンカチを取り出し汗を拭ってくれる。


「あ、ああ、大丈夫だ。それよりは折角作った鞍だ、リョカに着けてやってくれ」

「う、うん。ちょっと待っててね」


 涼葉は交換したばかりの鞍を持ちリョカの背に乗せた。

 鞍をリョカに取り付けている間に、俺は意識を失った。


 ………………


 不意に意識が浮上する。砕けた壁や割れた窓から朝日が差し込んで来ていた。

 どうやら朝まで眠ってしまったようだ。隣を見ると涼葉が寄り添うように寝ていて、その彼女の枕にリョカがなっていた。


「いつの間にか寝ちまったか。今何時なんだ?」


 時計を確認すると、時刻は午前6時だった。なんだ、まだ早い時間帯だったのか。


「ん、うぅ~ん」

「あっ、わりぃ、起こしたか?」

「ううん、そろそろ起きないとっ、遅くなると後が大変なんだよ」


 涼葉はそのまま起き上がり、「取り敢えず顔を洗いたい」と言って目を擦りながら洗面所のあった方へと向かった。

 暫くして帰ってきた涼葉は、「水が出た」と喜んでいた。今は濡れタオルで身体を拭いている。

 いくら幼馴染とはいえ、男の俺の前で堂々と肌を露出させるのはどうかと思う。

 涼葉は「気にしない」と言いながら顔を赤らめていた。彼女からしたら風呂に入りたいんだろうな。


 それにしても、水は出るのか。しかし、電波が届いていない。それ以外はまだ使えるようだが、電波が届いていないため、スマホが使えないのが派手に痛い。


「創ちゃん、朝ごはんどうする? キッチンはぐちゃぐちゃで使い物にならないんだよ? 私ん家に戻れば使えると思うけど?」


 家のキッチンは地震に加えゴブリンに荒らされて使い物にならない。涼葉の家のキッチンはわりと綺麗な状態を保っていたから、朝ご飯くらい作れるかもしれない。

 しかし、あの家には涼葉のご両親が眠っている。あまり彼女に見せたくは無かった。


「いや、簡単なもので済ましてしまおう。携帯食持ってきてたよな」

「うん、でも貴重な食料をここで食べて勿体なくないかな?」

「だったらコンビニに寄ってくか? 隣はドラックストアだし寄ってこう」


 そうと決まれば早速荷物の中から携帯食を二人分取り出す。と、リョカの分も出さないとな。

 水は洗面所から汲む方がいいだろう。

 そこでふと思った。どうして水道管が無事なのか? たまたま? いや、あの超地震に耐えれる水道管が有るとは思えない。いくら地震対策された水道管といえども、あの地震に耐えたなど奇跡だろう。

 しかし、現に水道からは飲める程綺麗な水が流れ出ている。少しの砂すら混じってはいない。

 考えていても仕方がないか、これは天の恵みだと無理矢理に納得して朝食をとってしまおう。


「は~い、リョカ、あ~んしてっ!」


 隣からはリョカに携帯食を与えている涼葉の声。だけど、リョカはそれらを口にはしなかった。

 心配そうに覗き込む涼葉だが、馬は固形栄養調整食品なんて食べないと思うぞ。


「ドラッグストアでリョカが食べれる物をさがそう。今は水だけで我慢してもらうしかないな」

「う~ん、お腹減ってないかなぁ?」


 心配そうな涼葉に、心配ないと鼻面を擦り付けてくるリョカ。

 俺達は味気ない携帯食を口に放り込んで、外へと出た。

 リョカは目立つので、取り敢えず涼葉の影へと潜って貰った。これで姿は誰にも見えない。


 外に出れば未だ鎮火していない家もあったが、人の姿は見えない。

 災厄が起きているというのに、あまりにも静かだ。

 よくよく観察してみると、無事な家の中には人の姿があった。彼等はじっと身を潜め助けを待つのだろう。この田舎の隣には自衛隊の基地がある。自衛隊の助けを待つ、それも一つの手なのかもしれない。が、何処も同じ状態なら助けの手は届かないかも知れない。彼等は僅な望みに賭けたのだろう。


「みんな、怖いんだね。ネットも繋がらないから情報が一切入らないし、魔物まで跋扈してるんだもん、仕方ないんだよ」

「ああ、だが、それでも動かないと化け物の餌になりかねない。力を合わせて撃退できればいいが……。さて、コンビニとドラッグストアに早く行こうぜ」


 直ぐ其処にある二店だ、サクッと行ってしまおう。化け物に見つからないように気を付けなくては。


 先ずはコンビニに来た。っても直ぐ隣がドラッグストアだが。

 コンビニは半分崩れているが、もう半分は無事だ。とっとと食料をゲットしよう。

 中に入れば商品が散乱していた。足元の菓子を拾い上げ涼葉の影へと放り込む。

 涼葉の影にはリョカが潜んでおり、中から影収納を使い物を収納してくれている。いくらなんでも便利すぎるだろ。俺達のリュックも突っ込んであるしな。


「飲料水は多めに持って行こう。食料も必要だが、水は貴重だ。全部持ってく訳にはいかないから必要な分だけ持って行こう」

「うん、近所の人たちも来るだろうからね。でも、魔物も来ちゃうかもだよ」

「そん時はそん時だ。俺達は他人の心配をしている余裕はないぞ。それとも誰か助けたい友達でもいるのか?」

「ううん、近くには居ないんだよ。でも、道場の近くには居るんだよ。よってもいいかな?」


 心配そうにする涼葉に、俺は笑顔でYESと答えてやる。おじさんとおばさんのような思いはもうさせたくないからな。


「よし、次は隣のドラッグストアだ」


 次にやって来たのはドラッグストア。この店はわりと形を保っていた。

 中は当然の様に雑念としているが、見た目は無事だ。


「そ、創ちゃん。ゴブリンが居るんだよッ!」


 涼葉の指し示す先に二匹のゴブリン。だがこれは、弱ゴブリンだ。

 俺達は商品棚の陰に隠れ様子を窺う。


「よし、奴等二匹なら倒せる。やれるか涼葉! それとも俺独りでやっても良いんだぞ!?」

「ボクもやるよ。少しは強くなるために経験値を稼がないとね」

「経験値?」

「ゲームなんかであるでしょ? レベルアップッ!」

「おい、これはゲームなんかじゃない。甘く見れば殺されるのは俺達だ! 甘い考えは捨てろ、レベルなんてない。地道に強くなるしかないんだッ!」

「うん、言ってみただけ。どの道強くなるには実戦あるのみでしょ?」

「分かってればいい。気を抜くなよ。じゃ、俺は右を殺る、涼葉は左を頼む」

「りょッ!」


 何処か緊張感に欠ける涼葉の返事を聴き、物陰から飛び出し一気に距離を詰め、そのままの勢いで木刀を振るう。

 昨日は滅多打ちにして倒したゴブリンを今度は一撃で昇天させることが出来た。打ち所が良かったのか?


「あれれ? 昨日より手応えがないんだよ」


 涼葉も訝がっている。こうも容易く倒せてしまうと、涼葉じゃないがレベルアップを疑ってしまう。

 もしレベルアップなんてものが有れば、これから先は楽できるのか、はたまた敵もレベルアップして困難になるのか分かったもんじゃない。これも師匠に相談してみよう。


「さぁ、薬とリョカの食料を――ッ!」


 俺が涼葉に話しかけた時、奥の方から新たな敵が現れた。まだ距離はあるが、見つかってしまった。


 その化け物はゴブリンよりも遥かに体格がよく、筋肉隆々な姿をしている。

 手には例の棍棒を持ち、ゴブリン同様に緑の肌をして、意地汚い表情をするのも同じ。違うのは体格だけだ。しかし、このデカゴブリンからは昨夜倒した強ゴブリンと同等の強烈な気配を感じる。

 おそらく強ゴブリンと同等かそれよりもちょいと強い程度だろう。

 逃げるにしても、既にロックオンされている。


「涼葉、デカブツが出てきたぞ。どうする? 逃げるか? 殺るには得物に不安が残るが」

「大丈夫だよ。そんなことより創ちゃん、アレ、多分ホブゴブなんだよ、ホブゴブ!」


 ホブゴブ? 何だそれ?


「ホブゴブリンなんだよ!」

「ああ、ホブゴブリンね。伝承じゃ気立てがよく親切で、でも機嫌を損ねると危険な妖精だったな」


 アレが親切な生命体には見えないけどな。


「……」

「どうした? 違うのか?」

「全然違うんだよ。ゴブリンの上位種で危険でおっかない奴なんだよッ!」

「……伝承っていったい何なんだろうな? 伝承の中じゃあ、人の命を奪うゴブリンってのは、レッドキャップだった筈なんだけど」

「…創ちゃん、余計なこと言うと出てくるんだよ」


 涼葉が少し呆れた顔をして此方を見ている。そんな顔して此方を見るなって。ってか、敵から眼を離すんじゃありません。いや、涼葉の場合「気配で分かる」とか言いそうだな。

 そのホブゴブさんはゆっくりと近づいてくる。急ぐ様子もなくゆっくりと、まるで俺達を自分に釘付けにでもしたいかのように。


「「「ギャギャア――ッ!」」」


 そう考えた瞬間、棚の陰から赤い三匹の化け物が奇襲を仕掛けてきた。

 奴等は、赤黒い帽子を頭に乗せ、片手に手斧を持ったゴブリンだった。

 うげ、呼び水になったか? 話題に出した途端に現れるとは思わなかった。


「ほらぁ、言わんこっちゃない! 創ちゃんは主人公なんだから、余計な事を言うとフラグが立つんだよ」

「何だよそれ! と、兎に角迎撃しろッ!」


 呑気に文句を言う涼葉がレッドキャップを迎え撃つ。

 俺はデカブツが勢いをつけ此方に向かうのを見て其方に向かう。


「創ちゃんはそっちのホブゴブをお願いするんだよッ! コッチはボクが引き付けておくからッ!」

「了解ッ!」


 レッドキャップは今までのゴブリンとは違い棍棒ではなく斧を使っている。棍棒は厄介ではあるが木刀でもいなすことの出来る武器だ。しかし、刃物である斧は、木を伐ったり薪を割ったりする為の道具、涼葉の木刀では相性が悪い。

 急いでこのホブゴブとやらを倒して加勢に行かなくてはならない。

 しっかし、デカい図体のコイツを如何に素早く倒すか?


「うおおおぉぉぉ――――ッ! どいてろデカブツッ!」


 俺は進行方向の棚を利用して、ホブゴブの背よりも高く飛び跳ねる。


 一方涼葉は一番速いレッドキャップの斧を紙一重で躱し、その斧を巻き取るようにして身体を回転させて奪い取る。そして、その斧を二番目に近い斧を振り上げているレッドキャップに叩き付けていた。


 俺は空中で木刀を振り上げ、ホブゴブは防ぐ為に棍棒を翳す。

 慣性に従い落下、木刀を振り抜くフリをして振り抜かずにそのまま地面に着地する。

 これで棍棒は俺から一番遠い位置にあり、俺の木刀はホブゴブの急所に近い位置にきた。

 振り上げた状態の木刀を、身体を捻り後方から円を描く様に振り回して、ホブゴブの、ってか、男の急所に思いっきり振り上げた。


「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!」


 ホブゴブは声にならない叫び声を発し、泡を吹いてうつ伏せに倒れた。気を失ったのかピクリとも動かない。


「創ちゃん、これ使ってッ!」


 振り向けば三匹のレッドキャップは脳天から青い血を流して倒れており、涼葉は敵から頂いた斧の一つを此方に滑らせ寄越してくる。

 デカブツが気を失っている間に、止めを刺す必要がある。真面に戦えば俺に勝ち目は無いだろうからな。

 俺は斧を拾い上げ、ゴブリンのうなじ目掛け何度も振り下ろし、漸く止めを刺せた。

 最初の一撃目がクリーンヒットだったのか、暴れさせる事無く殺れた。


「ふぅ、何とかなったね創ちゃん」

「ああ、そうだなって、なんだそれッ!」


 涼葉が俺に近づいてくる。彼女の足元、正確には彼女の影から、人の腕程の太さの黒い触手が無数に伸びていた。それは辺りから物を引っ掴んでは影の中へと引きずり込んでいく。

 正直言って気色悪いな。


「ああ、これ? これはリョカの能力の一つだよ。影から触手を伸ばして影収納してるんだよ。便利でしょ? 敵の動きも止めてくれるんだよ、凄いでしょッ!」

「凄いし、便利だが、見た目が異様だな。あからさまに異能だ」


 今までのゴブリン達は魔法だの、魔術だの、スキルと言ったこの世界に存在しない力を使ってはこなかった。咆哮は、まぁ、例外として、彼等は常に己の身一つで直接向かって来ていた。故に勝てたと言える。しかし、このリョカの使う能力は異能としか言えない。

 これから先、この様な異能と呼べる力を使う化け物に出くわしたら、生き抜くのは困難になるだろう。味方に居れば心強いが、敵に回れば恐怖でしかない。涼葉が敵になることは無いけどな。常に俺が涼葉の味方だから。


「それよりも、ゴブ達の武器も貰ったし、薬も食料も飲み物も収納したんだよ。後はゴブ達の魔石だけなんだよ。昨日、創ちゃん寝ちゃったから、残りのゴブ二匹はボクが解体したんだよ。って訳で、創ちゃん解体宜しくなんだよッ!」

「お、おお、分かった俺がやる。昨日は悪かったよ」


 正直、解体などグロイもんを涼葉にやらせたくはないから、俺がやるのに文句はない。文句はないんだけど、好き好んでやりたいとも思わないんだよな。


「いいんだよ。リョカのためにやってくれたことだからね」


 ニカッと笑う涼葉に、内心ドキッとしたことは内緒だ。


 さて、先ずは目の前のデカブツから始めよう。


「それにしても、結構楽に倒せたね? こうなるとやっぱりレベルアップを疑いたくなるんだよ? こういう場合、大抵の小説ではステータスって声に出すと詳細を記した画面が出てくるんだけど、……出てこないね」

「楽な方に考えるなって。レベルがあるなら敵だってレベルアップしちゃうんだぞ」

「そうだけど……。残念なんだよ」


 涼葉は散乱する商品の物色に勤しみながら話している。手にしては捨て、必要だと思ったものは自らの影へと放り込んでいく。

 対して俺はひたすらに硬い肉を切り裂いている。デカいだけあって内臓もデカく、そして硬い。四苦八苦しながらも解体を続け、漸く一つの魔石を取り出せた。

 昨日みた強ゴブリンの魔石よりも大きく親指の先程、蒼く輝く部分が多く綺麗な石だった。その魔石は取り敢えず涼葉の影へ押し込み、続いてレッドキャップの解体に移る。


「創ちゃん、砥石なんてあったけど、いる?」

「おう、それは助かる、貰っとこう。それよりもリョカの食べれそうな物はあったのか?」


 リョカは朝飯を食べていない。腹も減っているだろうに、触手だの影収納だので大活躍だ。


「それが、どれを見せてもイヤイヤするんだよ。どれも食べてくれないんだよぉ」

「それは困ったな。いったい何を食べさせれば良いかまるで判らん」


 すると涼葉の影から触手が伸び、解体済みのゴブ達を絡め捕り、溶かすかのようにして消滅させていく。


「おお、リョカの食事は魔物なんだよッ! そう言えば、創ちゃん家のゴブの死体もいつの間にか無くなってた気がするんだよ」

「それはつまり、毎日欠かさずに化け物を狩る必要があるってことか?」

「二人で頑張ろうッ!」

「コイツ、気軽に言ってくれる!」


 思わぬリョカの食事風景にドン引きした俺だが、手を止めることなく延々と解体を続ける。

 当然ドン引き風景も続くわけで、勢い良く飛び散った内蔵すら触手の餌食となった。

 暫くして解体が終わり、青い血で汚れた身体を拭けと商品のタオルを手渡してくる涼葉。

 タオルを受け取り「あんがと」と応え血を拭き取る。


 魔石は全部で六つだ。

 一つは大きめなホブゴブの石に、小さいが蒼い部分の多いレッドキャップの魔石が三つ、残りの二つは強ゴブリンのと同等の大きさで蒼い部分が少ない魔石だ。

 これらの魔石は一つの袋に入れられ手渡された。今のところこれらの使い道が【等価交換】しか分かっていないからだ。

 これから先、何かに使えるかもしれないが、取り敢えず俺が預かる事になった。


「さて、用事は済んだし、道場へ急ぐか」

「うん!」


 こうして店を出た俺達の前に、三人の人物が現れ道を塞いだのだった。



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