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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
1章
21/78

鬼人フィカス

 クソ、俺は何をやっているんだッ!


 俺の産れた惑星はクルアバンバと呼ばれている小さな星だ。

 クルアバンバには国という概念はなく、種族間で部族単位に纏まり至る所に点在するだけだ。国ではなく縄張りだな。

 多種多様な種属は絶えず争い合い、生存を懸けての命の奪い合いを続ける。

 国の無い世界だが王は存在していた。

 己が部族の全てを力でねじ伏せる絶対的強者、それこそが王と呼ばれるに至る事ができる。

 鬼人の王は、俺の母の兄であるゲルセミウムという男だ。つまり、俺は王の甥っ子ってことだな。

 父は嘗てゲルセミウムの側近を務めており、そこで母と出会い愛し合った。その結果が俺だ。

 俺が王になれるかは世襲ではないため不明だ。勿論、男として産れたからには王になる、その努力を惜しまない。


 種族によっては王は種として確立され多数存在する場合もある。

 例えばゴブリンキングやオークキングといった感じだ。奴等は一つの上位種として確立されている。

 だが、鬼人にはそんな事は無く王とは唯一無二の存在だ。

 王になるのは鬼人ならば誰でも夢見る事だろう。王になる、それはつまり鬼人の頂点に立つ実力を持つってことだ。

 しかし、この様ではまだまだ遠いな。


 俺の部族は、部族の中でも上位に位置する強豪だ。

 部族最強を父に、王の妹を母に持ち、素質と才能を持って産れた。

 それなのに人間風情に後れを取った。悔しいが、こんな様では王になるのは夢のまた夢だろう。


 クルアバンバでは順調だった、順風満帆といってもいいだろう。逆らう者は力で押さえ付け、従う者には甘い蜜を与えてやった。

 何時しか俺に逆らう者は居なくなり、鬼人の部族の中でも両親に次ぐ実力を身に着けた。

 だが輝かしい人生に翳りが生じた切っ掛けは、故郷であるクルアバンバに突如として現れた門だろう。

 戦闘部族である鬼人は挙って門を潜った。


 門の先には故郷では考えられない程に文明が発展した世界が存在していた。

 そこは、クルアバンバでは希少種である人間が支配する世界だった。

 人間は喰うと美味い、だから皆で奪い合う様に狩りを始めた。

 快調だった、溢れかえった人間を面白いぐらいに狩れた。

 奴等は小賢しくはあったが、戦力面ではとても脆弱でお世辞にも強いとはいえない種族だった。

 奴等は俺達を魔物と呼び怖れ恐怖した。しかし、奴等は弱者故に神が力を貸しやがった。

 急激に数を減らしていった人類は、神に祈りを捧げ力を借りる事に成功する。俺達魔物を別世界に強制排除したんだ。


 気付けば暗い洞窟の中だった。

 そこはダンジョンと呼ばれる地下に広がる牢獄だった。力の強い者はダンジョンコアなるモノを護る守護者として閉じ込めやがった。

 外へ出る事を禁じられ、どうやっても、ある一定の上層から上へは行けなかった。どうやら俺達鬼人種は守護者として選ばれてしまったようだ。

 魔物の種族が別々の洞窟にバラバラに転送されたようだった。俺達の部族でも全員がこのダンジョンに排除させられた訳ではないようだ。

 お袋や俺の側近の幾人かは何処を探しても見当たらなかった。おそらく別のダンジョンへ排除されたのだろう。

 早く見つけ出してやらないと、母の実力は王の妹だけあり申し分ないが、アレで結構寂しがり屋だからな。

 せめて父が母の傍にいたら良かったんだが、父と側近であるサフィニアとミルトニアは同じダンジョン内で再開した。


 俺は母を探す為にダンジョンの外へと出ようと思う。だが、俺達は守護者だ、外へは出れない。

 どうすればいいのか?


 最下層最深部にあるダンジョンコアから知識を得ることができた。

 この場がダンジョンであり、コアは魔物を呼び出し自身を護るんだと知ったのはこの時だ。

 外へと出る為にはダンジョンを成長させ、鬼人よりも強力な種属を召還させ守護者にするしかないらしい。暫くは待ちだ。


 外に出られないが、このダンジョン内では常にエネルギーが供給され食事や睡眠を必要としない。

 コアを破壊して外へと出ようかとも考えた。しかし、どうしてかコアへの破壊行動が取れなかった。コアに対して攻撃姿勢を取ると、別の場所へと強制転送しやがる。

 何時しかコア破壊は諦めた。代わりの守護者が現れれば俺達も外へと出られるだろう、それまでの辛抱だ。母よ、少しの間待たせるが、必ず迎えに行く。待っていてくれ!


 俺達鬼人は鍛錬を怠ることなく励んだが、実戦を経験しない事にはどうしても身体が鈍ってしまう。その為にも召喚された魔物共を相手に実戦を行う日々が流れた。

 年月が流れたある日、俺はサフィニアとミルトニアを連れて到達限界地点である五階層へと足を運んだ。

 敵を求めてのことだが、この時には俺達とまともに渡り合える魔物は稀であった。

 だがこの日、そこには驚くべく事に何人もの人間達が占拠してやがった。この世界に渡って初の人間との遭遇になる。

 それなりの数が居る。このダンジョンに現われる魔物は喰っても美味くはない。

 ダンジョン内では喰わなくても生きていけるが、娯楽として魔物を喰ってきた。

 魔物にとって人間は美味いが故に狩りの対象となる。本来魔物とて喰わねば生きていけないからな、できれば美味い飯がいい。

 だがら人間を見つけては襲い掛かる。だが、人間も身を護る為に抗うのは当たり前だ。

 人間は戦い負けたならば餌に、勝利したら魔物の素材を剥がして自らを強化する武具を造り出す。

 正に弱肉強食の世ってことだな。したがって、この場でやる事は一つしかない、人間を狩る!


 ……


 やはり人間は弱かった。

 あっという間に数を減らした人間勢は既に四人しか生き残っていない。

 しかし、人間を殺したことで妙なことが起きた。

 神によるシステムの付与だ。

 俺に極々希少な役割(URロール)【ダンジョンマスター】が、(ジョブ)【魔剣士】なるものが与えられた。

 戸惑うが直ぐに理解する。ロールのダンジョンマスターはダンジョン内での能力上昇とコアへのアクセス権を有し、ジョブの魔剣士は魔術と剣への能力上昇だ。


 正直に言って面白くない。

 人間相手には能力を上げる必要性がないし、己の力で戦ってこそ戦闘は面白い。

 余計な事をしてくれた神には一言言ってやりたいが、この場に居ないものに文句も言えない。

 既に与えられてしまってはどうしょうもない。システムとは折り合いをつけながら付き合っていくしかないな。

 生き残りの人間を始末し食事にでもしようと思っていた時だった。

 現れやがった、神にも等しいとさえ思える強者が。

 一見して只の人、だが、一度戦えば分かるだろう、あれは人間の器に収まる生物ではない!


 化け物めッ!

 サフィニアとミルトニアは既に人間に殺されてしまった。

 幼少の時から共に過ごした俺の幼馴染をッ、オノレヨクモッ!

 助けてやりたかったが、俺の相手が半端じゃねぇ。このままでは俺も人間なんぞに狩られてしまう。

 俺の相手は同じ顔をした二人の娘だった。

 正直勝てる気がしねぇ、死を覚悟したのはこの時が初めてだった。


 地に伏せた俺を助けたのは親父だった。

 その親父すらも手傷を負わされ何とかの撤退だ。クソッ、俺にもっと力が有ればッ!


 俺達が挙って敗れたせいか? ダンジョンコアは新たな守護者を漸く召還しやがった。

 一目で分かる、次元の違う生物だと。アレは正真正銘の鬼だ!

 怨念の固まりの様な、呪われた様な存在、それが鬼だ。

 鬼人の進化先の一つとして存在することは知ってはいたが、あんなモノに進化する気はない。

 隔絶した力を持っているようだが、一見して見て取れる程度の実力ではあの双子の姉妹には遠く及ばない。

 進化先の鬼ですら勝てないのなら、今の俺では話にならない。最低でも一つは進化を進めないと勝てないだろう。

 双子は一見して只の人間に見え、戦闘中ですらその実力が分からなかった。

 俺には次元が違い過ぎて理解の範疇を超えていたのだろう、底が見えなかった。


 ところで、このダンジョンでは魔物同士の戦闘を禁じられていない。

 つまり、俺達とて鬼の餌食にされ兼ねないってことだ。

 警戒してはいたが、奴等は俺達に興味がないのか出くわしても見て見ぬふりだ。

 ……気に入らねぇ。

 上位者であると当たり前のように振舞っている、我慢がならねぇ。

 が、今の俺には鬼に対抗できる力はない。なら、ダンジョンの外へと出て好敵手と呼べる者と戦闘を繰り返して進化する必要がある、武者修行だ。

 親父とてあの鬼には勝てない。そんな鬼を俺が倒し、そして、いつかきっとあの双子の姉妹に勝ってみせるッ!

 よしっ、外へ出よう!

 生き残っている鬼人全員を連れてダンジョンの外を目指す。今は良くても、いつ鬼の野郎共が俺達に牙を剥くか分からないからな。

 勿論親父も連れて外へと出る。

 外へ出る、そうなると取り敢えずの拠点が必要になってくる。食料も必要になってくるだろう、ここはダンジョン内ではないからな。そして、父を母の元へ誘おう。

 そう思った時だった。


『ダンジョンマスターミッション発生。

 時勇館で暮らす【聖女】伊志嶺美織を攫いダンジョンコアの元へ。

 報酬・黄金鬼紋』


 ミッションが生えた。

 ご丁寧に標的の位置を示す地図まで添付されていやがった。

 報酬の黄金鬼紋とはなんぞ?

 縊鬼紋や天邪鬼紋などは、進化後に身体の何処かに表れる紋章だが、黄金鬼など聞いたことがない。

 だが、おそらく黄金鬼紋も黄金鬼とやらになると浮かび上がる紋章なのだろう。

 それを報酬にするってのは、俺を強制的に進化させるってことだ。ホントにこの世界の神は好き勝手やってくれる。

 進化とは苦難を乗り越え、それ相応の実力をつけた者にのみ辿り着ける領域なんだがな。気軽になっても意味がねぇっての!


 だが、冷静に考えればチャンスでもある。進化など一生かかっても出来ないのが普通だ。本来何代にも渡って成し遂げる快挙なんだ。

 それを人間一人を攫うだけで成せる。少々引っ掛かるが贅沢を言っていられる状況では無くなっている。

 黄金鬼がどれ程のモノなのか分からないが、コイツに賭けてみるしかねぇな。

 双子を倒す為には力が必要だ、人攫いなどその苦労に比べれば些細なものだ。


 この時の俺は単純にそう考えていた。

 だが、攫う事は簡単だったが、その後がいけなかった。


 剣南創可、奴の扱う技はシステムの影響を受けちゃいねぇ。確かに、奴自身はシステムの影響下にあるが、技は影響を受けてねぇ。アレはスキルじゃねぇんだ。

 技のキレ、速度、即座の判断、どれを取っても文句も出ねぇ程の熟練度だ。おそらく血反吐を吐いて身につけたのだろう。惜しむらくは力が足りない事と、防御力の低さだろう。


 俺からしたらまだまだ格下だが、剣南創可は【勇者】なんぞよりよほどマシだ。

 驚くべきことに奴の繰り出す奥義は、技そのものに魔法が掛かっている。いや、技が魔法を生じさせているのか?

 奴自身は魔法を扱えない、何故なら奴は神を敬っていないからだ。だが、奥義による疑似的魔法を行使できる。余程の修練を積んだんだろう。

 魔法とは神から力を借り奇跡を起こす現象を言う。それ故に神への敬意が必要不可欠だ。扱えれば何よりも強力で応用も利く切り札になる。


 システムが悪い訳でもない。ってか良し悪しだ。スキルを所持さえしていればガキにでも扱えるんだからな。突然に強くなる訳だ。

 剣を握った事もない者でもスキルが有れば一端に剣を振るえるようになる。その代わりに型に嵌まり応用に乏しく、熟練度に関係なく一定の練度となる。つまり、怠けても劣化しない代りに、いくら修練を積んでも上達する事もないってことだ。

 そこを補うのがジョブだ。例えば、【剣士】のジョブの者は剣術の経験を既に積んでいるかのように、当たり前のように経験として備わっている。まるで過去の剣術家が憑依しているかのようにだ。

 だが、剣以外の事は今までと変わらない。寧ろ剣術に意識が向き他が疎かになる、剣士として引っ張られるんだ。

 剣士のジョブに就き、スキル【槍術】を持っていても宝の持ち腐れってことだ。

 システムに頼った戦いをするなら、百芸よりも一芸だろうよ。


 しかし、剣南創可は違う。

 奴のジョブが【槍士】だとしても、今までと同じに剣を扱える筈だ。それは奴が今までスキルに頼ることなく剣の腕を磨いてきたからだ。血反吐を吐いてまで身につけたものが、そう簡単に無意味になる事など有り得ん。


 スキルは先にも言ったが劣化がなく、ずぶの素人でも戦えるようになる。

 低い威力のスキルを幾ら鍛えたところで上達など微々たるものだが、使い続ける事で新たな上位スキルの発生がしやすくなる。人によっては簡単に、より強力なスキルを使えるようになるんだ。

 普通は新たな技を閃いても直ぐに使いこなす事はできない。反復に反復を重ねて身に染みつけていくものだからだ。

 だが、それはスキルには当て嵌まらない。得た瞬間から普通に使いこなせるからだ。

 必要なのは闘センスだということだ。どうスキルを組み立てるか、どう戦闘中にスキルを連動させねじ込めるかが問題となる。


 何故俺がそんな事を知っているかって? それはコアにアクセスして調べたからだ。

 俺にはアクセス権があり、コアはシステムを創り上げた神が創造したものだ、システムの情報は簡単に手に入る。


 ここからは感だが、勇者のジョブは全ての武器の扱いに適正が有るんだろう。剣と槍を扱っていた。

 システムを与えられる前から多少は剣を習っていたのかも知れないが、システムを得てからはスキルを鍛えていたに違いない、スキルの連携をこなしていた。


 俺は剣南創可のように自身の力を磨いた奴の方が好ましい。

 システムは所詮他者から貰った力に過ぎないからな。

 勇者も練度は高いが、それでも俺にとっては脅威になり得ない。


 そう思っていた。


 だが、突如達成された全人類クエストの報酬とやらで、俺を含め全ての魔物は弱体化させられた。

 急劇に力を抑えられた俺に致命傷を与えたのは勇者だった。

 屈辱的にも程があるが、事実は事実だ受け入れよう。


 確かに全人類クエストは達成され、全魔物クエストは失敗に終わった。だが、【希望と絶望】の報酬は魔物側にも支払われている。

 報酬は、――自爆!


 早速使うことになるとはな。


 ――ざまぁみろ人間共ッ!


 これから先、全ての魔物は死に際に自爆するだろう。


 自爆には時間が掛かる、全エネルギーを臨界を超えて高めなきゃならないからだ。

 その間無防備となる、奴等を足止めしないといけない。

 その間の時間稼ぎは鬼の遺骸がやってくれるようだ。

 奴等を殺ったのは、間違いなくあの双子の姉妹だろうな。純粋な鬼を殺せる奴は他に居ねぇ。

 死した鬼共を蘇らせたのは俺だが、俺の制御からは離れている。余りに強い力を持つ者は俺の能力じゃ制御できないんだ、俺の命令なんざ聞きゃしねぇ。

 自爆を急がなければ……。


 だが、俺の自爆を止めたのは、親父だった。高めたエネルギーが霧散していくッ!


 親父は制御もされていない鬼の足止めをするとか言いやがる。

 いくらゾンビとはいえ元を正せば純粋な鬼だ、弱い筈がない。今の弱体化した親父では生き残る事は難しい。

 命を懸けての足止め、その際に親父は俺の事を人間に託した。

 自爆はキャンセルされたが、ダンジョンの崩壊は既に止まらないところまできている。

 今の傷ついた俺では自力での脱出は不可能だと考え人間に託した。親父が連れ出すにしても鬼ゾンビが邪魔をするだろう。


 俺に肩を貸し立ち上がらせる人間、外へと向かって駆けだす。

 やめろ、やめてくれ! 俺を置いて行けッ! 親父を見捨てる訳にはいかねぇんだよ。お袋になんて言えば良いんだよッ!

 親父はな、これから先、鬼人族を纏め上げなきゃならねぇんだよ。

 こんな地下の誰も居ない場所で死なせていい訳がねぇんだよッ!


 声は既に出ない、力も入らない。もはや人間に運ばれるだけの荷物に過ぎない。

 弱体化の上に自爆、更に強引に自爆キャンセルをした代償か、極端な疲労感だ。

 意識が薄れる。

 待ってくれ、頼むから手を放してくれ、親父を……親父を死なせたくないんだ。


 親父……。


 おやじぃ――――ッ!




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