俺の彼女はダンジョンコア!
俺の名は剣南創可と言う。海と山に囲まれた田舎で生まれ育ち、今もそこで暮らしている。
歳は18で、花火師をしている。と言ってもまだ未熟者だが、高校を中退し直ぐに見習いとなった。その為に火薬の扱いには慣れている。
俺には両親が居ない。何故なら高校1年の春に飛行機事故により亡くなったからだ。
両親が亡くなり少なくない金が俺に舞い込んできた。が、嬉しくはなかった。金なんかよりも二人に傍に居て欲しかった。
だが、起きてしまった過去は変えられない。
俺は暫くの間塞ぎこんだが、隣に住む幼馴染である柏葉涼葉の協力もあり立ち直る事が出来た。
俺は直ぐに高校を中退し就職した。知り合いに花火師がいた為に弟子入りを願い出たんだ。
彼は快く迎えてくれた。それから約三年間打ち上げ花火を造っている。
さて、幼馴染の話をしよう。彼女、柏葉涼葉は俺よりも二つ年下の16歳の女の子。ピチピチの女子高生ってことだ。
涼葉は幼い頃から男の俺と一緒にいたせいか、ボーイッシュな性格になってしまった。その所為か自らをボクと称する。まったく、自分の事をボクと呼ぶ女性を俺は他に知らない。
彼女は艶のある黒髪のショートカット、動きやすい服装を好み、実際によく動く。
そのくせ背は153㎝と低く、俺よりも17㎝も低い。俺も背は高くないが彼女と並ぶと長身になったような錯覚を起こすことがある。
細身だが確りと筋肉は付いており、女子の間では力持ちだと自慢していた。但し、ある一部分にコンプレックスを持っているらしく、よく自らの胸部を抱きしめながら此方を睨んでくる姿を目撃する。可愛らしい眼で睨むのは止めて欲しく思う。
両親を喪った時、根気強く傍で支えてくれた彼女には感謝している。俺にとっても掛け替えのない女性だ。彼女が居たからこそ俺はこうして生きていられている。彼女にとっても俺がそうであれば嬉しいと思っている。
彼女は近所のコンビニでバイトをしている。歩いて数分のご近所さんだ。とても便利である。
俺は花火師、事故った場合の事を考え工場は山奥に存在している。だが、忙しくない限り毎日自宅に帰るし、その際に涼葉のバイト時間に合わせてコンビニにも寄っている。
そんなある日の帰り道、涼葉のバイト先のコンビニに寄ろうと駐車したところ、彼女が三人のチンピラに絡まれているのを目撃した。
コンビニの駐車場の片隅でチンピラは執拗に涼葉に迫りナンパしているようだ。
俺は直ぐに助けに入る為に車から降りた。
「おいお前達、何をしているッ、今直ぐ彼女から離れろッ!」
「あっ、創ちゃん!」
涼葉は直ぐに俺に気づき嬉しそうな顔をする。
逆にチンピラ達は皆邪魔されたと怒りの表情だ。
「あぁあん?何だテメェはッ! 邪魔すんじゃねぇよ、今良いところなんだからよッ!」
「ハハッ、兄ちゃん、女の前で格好付けたいのは分かるけどよぉ、俺達の邪魔すると返って恥をかくことになるぞぉ」
「女の前で恥はかきたくないだろ? さっさと消えなッ!」
何だコイツ等は阿呆なのか? そんな事言われて「はいそうですか」っていくと思ってんのか!?
「恥ずかしいのはお前達だ、大の大人が阿呆なことしてんじゃねぇよッ!」
この馬鹿達を少しでも早く涼葉から引き離したくチンピラに足早に近付いていく。
両親が生きていた頃に俺は古武術を習っていた時期があった。
両親が亡くなり止めてしまったが、稽古は今でも続けている。だから喧嘩には自信がある。
相手が複数だろうが相手取るのに何も問題ない。
「何だテメェ、やろうってんのかッ!」
「おうおう、勇ましい兄ちゃんだな。俺達これでも強いんよ? マジでやる気?」
「おい、構わねぇからやっちまえッ!」
リーダー格だろうか? 一人のチンピラが二人に指示を出した。
二人のチンピラが俺に向かって拳を固めて殴り掛かって来た。
「粋がってんじゃねぇぞッ! コラァーッ!」
「オラァーッ!」
迫る拳を楽に躱したが、チンピラ達のこの行動にキレたのは俺ではなく、涼葉だった。
「ちょっと、いきなり何するんだよッ!」
涼葉が近くにいたリーダー格のチンピラに蹴りを放つ。
速いッ! 俺よりも蹴りの速度が速い。涼葉の奴、今でも師匠に師事してんな!
そう、涼葉も俺と同じ人物から古武術を習っているんだ。
俺は止めてしまったが、涼葉は今も続けているみたいだな。
「ガハッ!」
涼葉の蹴りは見事チンピラの鳩尾にめり込んでいる。アレは痛い、そして苦しい!
リーダー格の男は蹲り嘔吐を繰り返し動かなくなる。
「ちょっとアンタ等、創ちゃんに何してんのよ! 創ちゃんに怪我でもさせたら許さないからねッ!」
「なっ、……え?……あぁ~」「……ハハッ、……アレ?」
チンピラ達も困惑気味だ。そりゃそうだ、ナンパした女が自分達よりも遥かに強いんじゃそうなるよな。
今の一連の動きを見て、コイツ等にも涼葉の実力を感じ取れたのだろう。
「おい涼葉、バイトは終わったのか?」
「うん、今帰るところだったんだ」
「送ってくよ」
「うんッ!」
呆然とするチンピラ達を放っておき、涼葉に話しかける。
嬉しそうに、小動物を彷彿とさせる動きで涼葉が俺に寄り添って来た。その時!
――世界が大きくズレる!
大地がズレ、揺れ、隆起し、陥没していく!
地震などは余り経験がなく震度などは分からないが、家が倒壊する程の揺れで有る事は間違いない。
体幹を鍛えている俺達でも立っていられる筈も無く、口を開けば舌を嚙み千切りそうな激しい振動が世界を襲う。
俺も涼葉も四つん這いになり凌ぐのが、それでも前後左右に持って行かれる。
広いコンビニの駐車場で良かった。狭い場所では倒壊する瓦礫にやられてしまう。コンビニも半ば倒壊しているが瓦礫を撒き散らすことはないようだった。地震対策は万全だったのだろう。
この揺れは何かがおかしい、自然の地震とは何かが違っているふうに思える。
俺と涼葉には怪我らしい怪我はなく、チンピラ達は転げ回り至る所に傷を負っている。
その差は地震発生の瞬間に防御態勢が取れたかどうかだと思う。
極短時間、その揺れは極めて短い間の地震だった。短時間であったのは救いだったが、その短い間の揺れで世界は変わってしまっていた。
建物はほぼ倒壊、眼前のコンビニも半分ほど崩れている。
大地は所々上下にズレ、裂けた地割れに瓦礫が落下していく。
彼方此方で火の手が上がり、生き延びた人々が大声を上げて助けを求めている。声を出せるならまだマシな方だろう。耳を澄ませば掠れた呻き声も聞こえてくる。
可哀想だが、正直言って俺達に人助けをしている余裕はない。
揺れが収まり、お互い血の気の引いた青い顔を見る。
「な、なに? い、今話題の巨大地震かな!?」
この国では近々、幾つもの県を跨ぐ超大型の巨大地震が予想されていた。その大きさ故に、人口の何割かを削ると危惧されている。
今のがその地震だったのだろう。
「た、多分な、海岸近くは巨大津波がくるだろうな。近づかない様にしないと。それに直ぐに余震が来るかも知れないぞ。兎に角、涼葉のおじさんとおばさんが無事なのか急いで確認しに戻ろう」
家族思いの涼葉のことだ、両親の安否が知りたいだろう。一刻も早く無事を確かめに戻りたい。
車はダメだな、亀裂にスッポリとハマってしまっている。
仮に動かせたとしても真直ぐに走れる道路もなく、車移動は諦めるしかないだろう。
涼葉の家に向かうには歩いていく他にはい。家が近くで良かった。
此処からでも見て取れる距離だ。どうやら倒壊は免れたようだった。
「う、うん。……お父さん達、大丈夫かな? 電話しても繋がらないんだよ」
涼葉はスマホを取り出して連絡を入れているようだが繋がらないとボヤいている。
「きっと大丈夫だ。お前の両親はそれ程やわじゃないだろ?」
涼葉の父親はマッチョな体格をして、趣味は筋トレだとか。
母親の方も格闘オタクだと聞いている。母親の伝手で俺達は古武術を習うことになったんだ。
「そ、そうだけど……。あっ、そうだ店長大丈夫かな?」
「今は他人のことより自分の心配をしろ。店長さんはあそこで丸まってるぞ」
コンビニの店長は慌てて外へ出たらしく、駐車場の隅っこで丸くなっている。
涼葉は店長の偉ぶる性格の事を良くは思っていない。だが、無事な店長を見た涼葉がほっと一息つくのが分かった。
俺達は店長とチンピラ達のことは放っておいて自宅へと急ごうと足を向ける。
すると、
「うわぁぁぁぁ、ば、化け物だッ!」
「な、何なんだよぉコイツはよぉ!」
悲鳴を聴き振り返ると、そこにはチンピラ達の姿があった。しかし、可笑しな光景に疑問符が頭上に浮かぶ。彼等に襲い掛かる緑色の肌をした子供程の背丈の化け物がいたからだ。明らかに人間ではない何かだ。
見たこともない生き物、図鑑ですらこんな生き物は乗っていないだろう。
化け物は一匹だけのようだが、手には棍棒を持ちチンピラ達を襲い掛かろうと振り上げている。
リーダー格の男は未だに涼葉の蹴りのダメージが抜けないのか未だに踞り、彼を護る様に残りの二人が化け物の前に立ちふさがっている。
ほう、仲間を護る気概はあったようだ。なら、助けるのも吝かではないか。
「涼葉、少しまってろ」
「あれ、ゴブリンじゃないのかな? 創ちゃん、助ける気なの?」
俺達は冷静だ。ゴブリンらしき特徴を持つ化け物を目視しながら混乱することはなく思考が働いている。
それは俺達の師匠の影響が大きい。俺達の師匠は見た目は兎も角、実力的には十分化け物だと言えるからだ。今更、本物の化け物が現れようと大して驚きはしない。
「見殺しには出来ないだろ? あの体格なら大した力もないだろうさ」
「う~ん、どうかな? だってアレ多分ゴブリンだと思うんだよ。それって、要は鬼とか悪い妖精じゃなかったかな? そもそも大した力じゃないんならほっといても問題ないんじゃない?」
「? ゴブリンってなんだ? そんなの伝承の中での創作物だろ? そんなのが居る訳ないだろが?」
実は俺もそうかなぁとは思っているが、それは口にはしない。
「現に不気味に近寄って来るんだよ? いいから創ちゃんはボクん家に行くのッ!」
涼葉が俺の手を取り強引に引っ張っていく。何気に力が強いな。
彼女は早く両親の無事を確認したいってよりも、俺の心配をしてくれているのが嬉しい。
たとえこの場でチンピラや店長を見殺しにしたとしても後悔はない。俺の護りたい者は今、俺の真横にいる涼葉なんだから。
大の大人が何人も居るんだ、なんとかなるだろうさ。
「わ、分かったから引っ張るなって」
「う、うん。でも、なにが起きてるのかな? ゴブリンが現れるなんてまるで小説の中みたいだよ」
アレが本物のゴブリンかは兎も角として、急いでこの場から離れる為に二人で走り出す。
地面が悪く速度はそれ程出ないが、急ぐに越した事はない。
振り向くと二人のチンピラがゴブリンと組合い硬直していた。
大の大人、それも男の二人の力と拮抗しているゴブリンの力は、見た目に反して強いらしい。
「そうだな。アレは力も強い様だし油断出来ない。くそっ、職場から星か割火薬を持って来れば良かったか」
「打ち上げ花火に使う火薬?」
「ああ、アレの威力は馬鹿にならないだぞ」
「知ってる、火薬だからね。それより急ごっ、お父さん達が心配なんだよ」
「ああ、そうだな」
暫く荒い地面を迂回し、跳び移りながら涼葉の実家に辿り着いた。
涼葉は散らかった家の中をスタスタと渡りながら両親を呼び続ける。
涼葉の家の隣に立っている筈の俺の家は、半壊と言っていい状態だった。
くそっ、親父の家だったのに、一つ大きな思い出を壊された様な気分だ。
「お父さん、お母さんッ!戻ったよ、二人とも返事をしてよッ!」
「おじさん、おばさん、大丈夫ですか、返事をして下さいッ!」
倒れた家具などを退けながら二人を探す事暫し、不意に家の二階で、か細い声が聴こえてきた。
「――お父さんお母さんッ!」
涼葉の父親は、母親を抱きしめながら、……大きなタンスの下敷きになっていた。
「い、今助けるんだよッ! 創ちゃん、力を貸してッ!」「あ、ああッ!」
急いで涼葉と二人でタンスを退けると、おじさんとおばさんが抱き合いながら横たわっていた。
二人は地震で不安になり二人でいたところに巨大タンスが倒れてきたのだろう。
「お、俺達のことはい、良いから、…は、早く…避難しなさいッ!」
「やだよぉッ、避難するならお父さん達も一緒に――」
「涼葉ッ! き、気持ちは嬉しいが、は、早く避難して欲しい。俺達はも、もう手遅れだ。母さんは既に……、俺も母さんと一緒に行くことにするよ。だ、…だから、お前は創可くんと伴に行きなさい。…そ…創可くん……、む、娘のことを、た、頼んだ…よ……」
床に広がるおじさんの首筋から流れ出る赤い血。それは時間と共に広がっていく。
「お父さんッお父さんッ!お母さん? お母さんッ!…………ああ、ああぁぁぁぁぁッ――――!」
「……涼葉」
俺には両親を喪う悲しみ、苦しみが痛い程良く分かる。
こんな時、どんな言葉を掛けるよりも傍に寄りそう事が何よりも励みになることも知っている。
涼葉が、彼女が俺にしてくれたこと、それを今度は俺がしなければならない。出来ればこんな事にはなって欲しくなかった……。
「ウソだよッ! 目を覚ましてよッ! お父さんッ、お母さんッ! ボクを騙そうったってそうはいかないんだよッ!」
おじさんの頼み事の返事をする間もなく息を引き取ったしまった。
俺は心の中で「涼葉は俺が必ず護り抜きます」と天へと誓った。
どうか、この心の声が天へと昇ったおじさんとおばさんに届きますように。
涙を堪えられず溢れ出す涼葉。
ゴブリンなんかを見ても冷静だった彼女が取り乱している。
「ねぇ、お父さん、いつもみたいに笑ってよッ! お母さん、お腹すいちゃったよ、温かいご飯を作ってよッ! ねぇ、ねぇってばぁッ!」
涼葉の家は、俺が思わず妬いてしまう程のとても仲睦まじい家族だった。
絶え間なく笑顔が溢れ、時に奔放な涼葉を叱り、それでも直ぐに笑顔で笑い合う家族。
俺の両親が逝ってしまった時は、まるで自分の兄妹が亡くなったかのように悲しんでくれた。
その涼葉の両親が今度は俺の目の前で亡くなってしまった。
涼葉は気丈な娘だ、その彼女が長い時間涙に暮れていた。
俺達は暫くの間動くことが出来なかった。
やらなければならない事が山ほどある。だが、あまりの喪失感に動くに動けなかったんだ。
暫し呆けた後、漸く動けるようになった俺達は先ず、最初に涼葉のご両親の遺体をキチンと寝かせられる様に部屋の一部を片付けることから始めた。
涼葉の瞳からは相変わらず涙が流れているが、動かす手を止める事は無かった。
片付けを行う際に涼葉が変な声を上げた。
「うぇえぇ」
何事かと思えば、
「何か潰しちゃったよ創ちゃん。ネバネバだよ、ぺったんこになってベトベトのネバネバになっちゃってるんだよ?」
だった。
「なんだそれは?」
見てみると、涼葉が運び出した段ボールの下敷きになった見た事もない大きな虫が、綺麗に潰されて体液塗れになっていた。その体液は半透明な緑色をしたスライム状の粘液で、段ボールの底にへばり付いて糸を伸ばしている。
「あ、あれ?」
「どうした?」
「何か違和感があったんだけど、なんだったのか分からないや」
「なんじゃそりゃ。それよりもその虫は何の虫なんだ? 見た事もない虫だよな? こんなにデカい虫がこの国に生息してたなんて知らなかったよ」
この虫、長さが30㎝位あるんだよ。
「う~ん。これもゴブリンのように化け物の一種かもしれないんだよ。だって、虫の体液ってこんなんじゃないんだよ?」
言われてみたら確かにそうかも知れない。見た事ない虫だし、体液も変だ。これも化け物だとするなら、おじさんやおばさんが亡くなった直接的な原因はこの虫の可能性もあるってことだ。
あのおじさんが、たとえおばさんを庇ったとはいえタンスの下敷きになって息絶えるなんておかしいんだよ。
大きなタンスだとは言え、押し倒された程度であの人は死なない。打ち所が悪ければだが、そうでないのなら違和感を感じる。
打ち所が悪ければ直ぐに意識を失うんじゃないだろうか?
おじさんは短い間だが涼葉と普通に会話していたんだ、打ち所が悪いとは考えにくい。
俺は医者でもなければ、こんな事は初めてだ。更に俺は高校を中退しているから知識の面で他に劣るだろうから確かな事は言えない。が、それでも可笑しいと思えるだよ。
涼葉の傍に寄り、虫を観察してみる。
ああ、こいつはゴブリン同様の化け物で間違いはなさそうだ。
コイツの口には肉食動物の様な牙が生え、ケツからは槍の様な針が、三対の足の先には人間の手の様に五本の指が備わっている。
続いて横たわるおじさんの身体を観察する。
…………あったッ!
おじさんの首筋に二つの小さな穿ち痕、虫に咬まれた痕だろう。そしてもう一つ、おばさんの首筋にもおじさんの傷よりも大きく深い刺し傷が一つ、こちらは周りが赤黒く変色している。おそらくケツ針からの毒だろう。
「どうしたの、創ちゃん?」
「ああ、大丈夫か涼葉?」
「ボクは大丈夫じゃないけど大丈夫なんだよ。それよりも何かあったのかな?」
「ああ、見てくれ、おじさんとおばさんの首筋に穿ったような痕があるんだよ。その虫に刺されたんじゃないのか?」
俺の脇から涼葉が顔を出して来る。
涼葉は両親をマジマジと診て確りと頷く。
「うん、そうだよ。この痕は虫に刺された痕なんだよッ! あの虫に刺されたことがお父さんとお母さんの死因だったんだよッ!」
悔しそうに言う涼葉にいたたまれない。
「うん、だったらボクは仇を取る事が出来たんだと思うよ」
涼葉は強い、それは肉体だけの話ではなく、精神的にも強い女の子なんだ。
だが、そう、女の子なんだ。涼葉どれだけ強くても、まだ16歳の女の子なんだよ。
俺は涼葉の細い身体を後ろからそっと抱きしめる。
「無理をする必要はないんだ。まだ泣き足りないなら泣けば良い。俺が傍にいる、お前の安全は俺が保証してやるから、だから、お前は何も考えずに今は泣いていれば良い」
ただ寄り添うだけの積もりだったのに、こうして行動にでてしまった。
これが彼女のタメになるなら良いが、そうでないのなら直ぐに止めなければならない。
しかし、彼女は俺の腕に両手を重ね「うん」と呟き再び涙を流し始める。
わんわんと大声を出して涼葉が泣いている。
俺はそれをただじっと抱きしめる。そんな時間が随分と流れて行った。
「……うん、創ちゃん有難う、もう大丈夫なんだよ。ボク達はこれからどうしたら良いか考えないと」
「ああ、無理してないか? ……そうか、だったら先ずは非常食の確保をしておきたいな。それから安全な住居を見つけなきゃぁならんか。ああ、それと何か武器になるものを持ってないとな」
空想上の化け物達が現実に出現してきたんだ、身を護る為にも武器が必要になるだろう。
「そうだね。災害用のリュックが押し入れに入っている筈だよ。あと木刀が居間にあるよ。修練で使うヤツだから、修学旅行でのお土産とは訳が違うんだよ。それとも包丁の方がいいかな?」
「俺は木刀で良いかな。包丁も必要になるかも知れないから持って行こうか」
「ボクも木刀かな。道場まで行けば真剣があるんだけど…、ちょっと遠いかな」
うむ、道場か、師匠が無事なら心強い。もっとも、師匠が死ぬなんて想像出来ないけどな。なら、訪ねてみるのも良いかも知れない。
「じゃ、取り敢えずは道場を目指すか」
俺と涼葉は木刀を一本ずつ持ち、包丁を台所から二本ほど取り出し布に包んで災害リュックへとしまう。
災害リュックの中には、保存食やライトは勿論、携帯トイレやサバイバル用品まで入っていた。
「何だかこのリュック、見た目よりも多く入ってないか?」
「それ、師匠がくれた災害用のリュックなんだよ。特殊な作りで多く物が入るから便利だって師匠がいってたかな。本当に不思議だよね? どんな作りしたらこんなに物が入るのかな?」
便利な事は良い事だ! 今は疑問を脇へと追いやり、必要な物を片っ端からリュックに詰め込んでいく。その後警察へと連絡を図った。だが、無駄に終わった。
電気は通っているのに電波が通っていない。テレビもつかないし、電話も通じない。
電柱は無事だったか。おそらく電気も通ってない地域もあるのだろう、ここはまだ運が良かったと言えるな。
電話はスマホからではなく家電、つまり有線で駄目だった、ラジオすら聴くことは出来い。
公衆電話なら災害時でも非常通信が可能になっているが、そもそも公衆電話を見かけない。
「それじゃあ、そろそろ行くか? それとももう少し居るか?」
「ううん、虫が入り込んでいた以上、ここは危険な場所なんだよ。出来るだけ早くこの場を離れた方が良いと思う」
それはつまり、涼葉の両親をこの場に置いていくということ。
彼女がそれを辛く思わない筈がないが、そのことには触れる事無く先を急ぐ事にした。
「よし、出発しよう。その前に少し俺ん家に寄っても良いか? 出来れば幾つか持って行きたい物があるんだよ。最低限の衣服とかも必要だしな」
「うん、勿論良いよ。直ぐ隣だしね」
隣の俺の家は半壊してしまっているが、掘り起こして必要な物を確保しておきたい。
幸いにして火災は起きていなかった。火薬を扱う仕事柄、火災対策は割と確りとしていた結果だろうか?
俺は素早く建物の立っていた場所へと急ぎ、壊れかけた扉を強引に引き抜いた。
涼葉はぴったりと俺にくっついて来ている。多少の危険があったとしても、俺より身体能力が高そうだし問題ないだろう。
そして、目当ての部屋へと辿り着いた矢先に奴が居たッ!
緑色した小鬼、ゴブリンだ。
ゴブリンが二匹俺の家の中をブラついている。そして更に奥には、二匹よりも立派な体格をした化け物が居た。
奴は、ゴブリンの緑色を濃くしたような肌の色、子供程度の身長だったゴブリンと違い俺とほぼ同じ背丈。
弱そうな見た目のゴブリンに対し、こいつは強者のオーラを纏っている。
よし、コイツのことは強ゴブリンと呼ぼう。
なんて事を考えていると、隣の涼葉が気楽にポンと言ってくる。
「どうする? 一人一殺、後に二人でボスってことで殺っちゃう?」
この娘は何を言っているのか?割と本気でゴブリンを見詰めている。
殺るってたってどうやる? 木刀で対抗できるのか? 涼葉を危険な目に合わせてまで必要な物など無い。ならここは引き返すか?
「あっ、あのゴブリンの持つ棍棒に何か付いてる。アレ、血かな?」
涼葉の言う通り、ゴブリンの持つ棍棒は赤黒い液体に汚れていた。
「アイツ、人を殺したのか? それとも動物とかだろうか?」
「創ちゃん、人間だって動物だよ。ならアレは人類の敵ってことでここで始末を付けないといけないんだよッ!」
涼葉は殺る気だ。両親を化け物に殺されたからか、可成り積極的だ。それならば俺が涼葉を護らねばならない。それが、亡きおじさんとの約束だ。
だが弱ゴブリンは兎も角、あの強ゴブリンは二人で倒せるのだろうか?
「いや、あの強そうな強ゴブリンは二人掛でも倒せない気がする。わざわざ危険を冒す必要もないだろう。気付かれないように戻ろう」
ゴブリンから目を外し涼葉を見て言う。
「ダメッ! 気づかれちゃったみたいッ!」
目を離した一瞬の間に捕捉されたッ!
二匹の弱ゴブリンがゆっくりと近づいてくる。幸運な事に強ゴブリンの方は観戦を決め込む積もりらしく仁王立ちだ。
「ちッ!仕方ない、が、無理はするなよ。俺達に武術の心得があるとは言え、相手は未知数の化け物だ。駄目だと思ったら隙を見て逃げるぞ。分かったな」
「うん、分かったよ。それじゃ、行くよッ!」
言うが早いか駆け出して行く涼葉、直ぐに接敵し木刀を振りかざす。
俺も負けじともう一匹のゴブリンへと近づき脳天目掛けて木刀を振り下ろす。
「ギャア˝ァー」とだみ声を発し数歩後退するゴブリン。チラリと横を見ると同じように頭を押さえて顔を歪めるゴブリンの姿が目に入る。
しかし硬いッ! お互い一刀では倒せなかった。人間相手なら今ので終わっていたんだが、ゴブリンは痛がる素振りをしているが、致命傷にはなっていなようだ。
しかし、一刀で倒せなかったのなら二刀三刀と続けるまでだ。
「おおぉぉぉッ!」
気合を入れてもう一度木刀を振り上げる俺。流石に二打目は簡単に入れさせてはくれなかった。
ゴブリンは俺の木刀を棍棒で受け止め払い退けた。あのチッコイ身体の何処にこれだけの力があるのか?
一瞬の反撃で態勢を崩してしまう。そこへ透かさず棍棒をねじ込んでくるゴブリン。
俺は後方へジャンプして躱し、間を置かずして間合いを詰める。
そのまま、最初の一撃を入れた脳天に、寸分違わず同じ場所へと木刀を叩き込む。
「ゴギャァ」
無様な悲鳴を上げてゴブリンはたたらを踏み数歩下がる。
だが、まだ息はある。止めを刺すために再度木刀を振るう。何度も何度も!
恰好悪いのは承知しているが、滅多打ちしなければ木刀では殺せないようだ。
何度打ち込んでも動きを止めない弱ゴブリンに、僅かながらの恐怖を感じてしまっていた。
だが、遂に弱ゴブリンが息絶えた。漸く倒せたと額に浮かんだ汗を袖で拭う。
隣の涼葉を見て声を掛ける。
「大丈夫か涼葉。怪我なんかしてないだろうな」
「勿論だよ。この程度なら問題ないよ。創ちゃんは?」
正直精神的に大丈夫ではないが、俺よりも容易に弱ゴブリンを倒してしまった涼葉に見栄を張って「大丈夫だ」と答えてしまう。
やはり、戦闘能力で俺は涼葉に負けている。
確かに自主練は欠かさなかった俺だが、直接師匠に師事していた涼葉とは明らかな差が出来てしまっている。
俺は弱ゴブリンを倒すのに何度も何度も木刀を打ち込んだが、涼葉は実質二振りで倒していた。一振り目を脳天へ、二振り目を喉に突き刺していた。喉は涼葉の突きの威力に耐えきれなかったようで、貫通し血をバラまいていた。
涼葉に至っては返り血の一つも浴びていなかった。これが現時点での俺と涼葉の実力の差か。
「参ったな、涼葉とは随分と差を付けられたな。これでも自主練はしてたんだが」
「仕方ないよ。ボクはずっと師匠の相手をしてたんだから。でも、ボクは創ちゃんみたいな力押しはできないから、その点は創ちゃんの勝ちなんだよ」
あの滅多打ちを視られていたようだ、恥ずかしい。
むむ、今は確かに涼葉の方が実力がある、だが直ぐに追い抜いてやる! 護るべき好いた女よりも弱いなんて格好付かないからな。
「って、アレ? もう一匹は?」
しまったッ! 弱ゴブリンを倒した安心感と、弱ゴブリンですらあれだけのタフネスを見せた焦りから思考を鈍らせたッ! 強ゴブリンのことが頭から抜け落ちてしまっていた。
「――!!!」
涼葉が疑問を口にした瞬間、俺の横の既にひび割れた壁が勢い良く爆ぜたッ!
勢いに吹き飛ぶ俺に近付く涼葉。あ、危ないッ!
「きゃぁぁぁぁッ!」
「涼葉ッ!」
壁を吹き飛ばし現れた強ゴブリンは、勢いをそのままに涼葉に体当たりを仕掛ける。
木刀を盾にして防いだ涼葉だが、勢いは殺せず吹き飛ばされる。ダメージが大きいのか涼葉はぐったりと動かない。
無防備になった涼葉を救おうと直ぐに立ち上がり駆け寄ろうとしたその時!
――――――!!!
強ゴブリンが強烈な咆哮をあげた。
奴が猛って吠えたその叫び声は落雷を思わせる程の大きな音だった。余りにも大きな音の波は、周りの瓦礫を片っ端から弾き飛ばしていく。
俺達は両耳を塞ぐも、余りにも無意味だった。
俺達の様に恐怖に対する鍛錬をしていない者では、あの咆哮を浴びた瞬間に恐怖に竦み上がったことだろう。
だが、俺達には多少なりとも耐性があったようだ。動けるッ!
「おおぉぉぉ――!」
俺は奴に負けまいと咆哮の真似事をし、気合を入れ木刀を握り直す。
俺と奴は互いに向かい合い、互いの武器を振り回す。
日頃の鍛錬のおかげか、奴の動きを俺の眼は確りと捕捉でき、身体は思うように動いてくれる。
紙一重の攻防、木刀と棍棒とのぶつかり合い。打っては防がれ、打たれては防ぐ。
あの馬鹿力に対抗出来ている。だが、一つでもミスれば致命的だ。
一撃でも喰らえばその時点で即死もあり得る程の打撃を必死で相殺していく。
一つ一つの細胞を活性化させる、意識する。
人は意識によってある程度の潜在能力を引き出せるもんだ。
そして徐々に、ギリギリの攻防戦が思い出させてくれる。あの化け物じみた強さを誇る師匠との修行の数々を。そう、あれは確かこうだったか。
俺の動きが急変する。
強ゴブリンの攻撃を相殺していた俺だが、師匠の動きを再現するように、流れる動きで全てを躱していく。
「あっ、流水の動き。水歩だッ!」
涼葉の呟きが聞こえてくる。
そう、涼葉の言う通りこの動きは流水の動きを模倣したもの。
力に逆らうことなく流れる水の如く、相手の動きによる僅かな気流の流れを感じ取り、動きに倣って移動する我が流派の歩法術の一つだ。言うなれば柔の動作。
だが、いくら水歩が出来ても、それだけでは強ゴブリンには勝てない。
よって次を思い出す。師匠の攻めはどうだっただろうか?
そう、俺は師匠から教わった筈だ。俺の力を凌駕する敵に対する戦術をッ!
水歩で攻撃を躱しながら攻撃に転じる。
受け止めるのではなく、躱すのでもなく、受け流す。
あくまでイメージは“水”だ。力に逆らってはいけない。
振り下ろされた棍棒を木刀の腹を添わして軌道を変える。
更に棍棒のゴツイ肌を滑らせるように木刀が流れる。
武器同士が離れる瞬間、反動を利用して柔から剛へと切り替わる。
剣速も込められた力も増して強ゴブリンの脳天へと吸い込まれていく。
――躱された!
だが、奴の左肩を強打した。鎖骨が折れる音を確りと耳にした!
俺は跳び退き距離を取る。そして、気が緩んでしまった。
距離を取った事、相手にダメージを与えた事で僅か、若干の気の緩みが生じてしまったんだ。
「かはッ!はっ、はッ!」
気が緩んだ瞬間に、無理な運動の反動が押し寄せてきた。
立っていられずしゃがみ込む。
心臓が早鐘の如く鳴り響き、全身からは滝の様に汗が流れていく。
まるで体中の血液がマグマと化した様に熱い。
無茶だった、俺如きが師匠の真似事など出来る筈がなかったんだ。
失敗した、失敗した、失敗した。図に乗ってしまったッ!
涼葉の回復を待って二人で攻めるべきだったんだ。
これでは動けない。たとえこの場を凌げたとしても、暫くは全身筋肉痛で満足には動けない。
「創ちゃんッ!」
涼葉が俺と強ゴブリンの間に入った。
馬鹿ッ! 逃げろッ! と、言ってやりたいが上手く呼吸が出来ずに声が出せない。
「創ちゃんはボクが護るんだよッ!」
コイツは何を言ってんだッ! 俺に構わず逃げろよバカヤロウー!
「行くよッ!」
行くなってッ!
……だが、涼葉の動きは見事だった。俺の水歩よりも遥かに洗礼された動きだ。
強ゴブリンは咆哮を放つことすら出来ていない。
涼葉の水歩は疲れを一切感じさせる事無く敵を翻弄していた。
そうだ、そもそもが間違っていたんだ。流水の動きでこれ程の疲労は本来なら有り得ない。
剛の動作とは違い、柔の動作はそれ程の負担が掛からない筈だ。
じゃあ俺は何を間違えた?
……そうか、俺は師匠の動きを模倣しようと躍起になっていた。
師匠と俺とでは体格も筋力も、動きの癖まで違うのに、他人であるあの人の動きをトレースしてしまったんだ。
故に無理が生じた。そういう事だろう。
気づけたのなら二度と同じ過ちは繰り返さない。
今は少しでも早く動けるように回復に専念しなければ。このままでは涼葉の足を引っ張ってしまう。
その涼葉は強ゴブリンの攻撃を全て躱し、時々攻撃に転じているがダメージらしいダメージは与えられていない。
涼葉の力では奴に致命傷を与えられないらしい。いや、違うな。
涼葉は、ここぞという時を待ってるんだ。奴が見せる最大の隙を突こうとしている。
小技で態勢を崩させ大技を打ち込むのは何処の流派でも同じだろう。涼葉はその大技を温存している。
ならば、その隙は俺が造らなくてはならない。
涼葉とて、何時までもあの動きを維持できるとは限らない。
急げ、腕一本分動かせればそれでいい。俺には投擲術もあるんだから。
狙うは頭、ではなく、碌に動かせない左側、でもなく良く動く右側だ。
頭は的が小さく躱される。左の鎖骨は先程の一打で折れ、警戒されているだろう。
右側を攻められれば右腕を使い防ぐ、だが右腕で右側を護るのは左側を護るよりかは難しい。
標準は定まった。あとはまともに木刀を投げれるだけ回復すればいい。
俺は利き腕たる右腕に意識を集中させる。
未だ呼吸は乱れ、激しい痛みが全身を襲っているが、それでも右腕だけは動かせるようになった。
涼葉も疲労が溜まってきたのか動きが鈍ってきている。急がなくてはッ!
俺は今出せる渾身の力を込めて強ゴブリンの右胸を狙って木刀を投擲する。
シュッっと音を立てて飛来する木刀に感づき、慌てて棍棒で撃ち落とす強ゴブリン。
そして生じた最大の隙。
涼葉がその隙を見逃す筈も無く、気づいた時には涼葉の木刀が強ゴブリンの喉元を貫いていた。
ドサリと音を立てて倒れ伏す強ゴブリン。
「や、やったー! ありがとう創ちゃん。って、大丈夫創ちゃんッ!?」
力尽き、倒れた俺に駆け寄る涼葉。
俺は大丈夫だと答えてやりたいが声が出ない。動く右腕を使いジェスチャーで答える。
「もぅ~、無茶しちゃダメなんだよッ!」
力なく倒れた俺の横に座り、ブツブツと文句を言ってくるがちゃんと心配もしてくれている。
俺の体は筋肉痛だろうから大丈夫な筈だ。多分。
いや、筋肉痛にしては異常だったか。しかし、それを口にする事はない。
暫く休めば大丈夫だと何とか伝える。
実際に、暫く休んでいたら大分楽になった。不思議な事に普通に立ち上がる事が出来た。
「大丈夫なの?」
「ああ、もう大丈夫だ。心配かけて済まなかったな。あと、役にも立てなかった」
「そんなことないよ。最後の投擲がなかったらヤバかったんだよッ!」
「そ、そうか。そう言ってもらえると俺としては助かるよ」
少々休憩をしながら雑談して時間を潰す。碌に動けないまま外へは出たくなかったからだ。
よく倒せたものだと二人で笑い合い、互いを褒めちぎり合う。
あの死体はどうするか? 焼くか? 埋めるか? 放置か? 急所を探るために解剖するか? なんて話もした。暇が有れば解剖と話は付いた。
そして不意に気付く。
視界の端っこに極々小さなアイコンの様なモノが映っていることに。
俺はそれが何なのか確かめる為に意識を集中する。すると、摩訶不思議な事が起こった。眼前に浮かび上がってきたんだよ、文字がッ!
空中に浮かび、視界に入り込んだその文字には、
『唯一の役割【主人公】が覚醒しました。
職業【騎士】を獲得しました。
初回魔物討伐特典としてガチャ一回無料権を獲得しました』
と書かれていた。
「なッ、なんじゃこりゃあ――ッ!」
「わわわッ、ど、どうしたの創ちゃん。急に大きな声だしてッ!」
俺の様子を窺っていた涼葉が驚きながら声を掛けてくる。
涼葉にはこの文字が見えていないのだろうか?
「あ、ああ、俺にも良く分からんのだが、変なモンが見えるんだよ。こう、視界の端っこに小さなアイコンの様なモノが映っててな、それを意識したら文字が浮かび上がってきて、俺は主人公だとか何とか……」
「んん? これのことかな? って、わわわっ、ボクにも文字が浮かんで見えるよッ!」
「で、何て書いてあるんだ?」
「ええっと……、
『極々希少な役割【ダンジョンコア】が覚醒しました。
職業【魔物操者】を獲得しました。
初回魔物討伐特典としてガチャ一回無料権を獲得しました』
だって」
成る程、俺の彼女はダンジョンコアだったらしい。