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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
1章
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厄災 七九五日目 PM

 俺達がダンジョンから帰ったその日の夕方に、時勇館から連絡がきた。お礼が言いたいので明日代表者がやって来ると。

 礼などいらないと告げたが、それでは気が済まないと言って聞かなかった。


 翌日、時勇館から九名の人物がやって来た。

 四人は昨日助けた人、他の五人には見覚えない人物だった。

 全員それなりの武装をしており、鎧や盾を装備し帯剣もしている。

 武器は剣、斧、弓、杖と多種多様だが、どう見てもゲームの中のキャラクターとしか見れない。

 ここまでの道のりも魔物に襲われる可能性がある為、それは当たり前の事だろう。自らの身を護る為なのだから見栄えなど気にしてはいられない。

 しかし、俺達は皆敏捷性を武器としている。よって重い鎧や盾はかえって不利に働くので装備することはない。まぁ、多少の革鎧なんかは着けるけどな。


 見知らぬ五人の内一人が勇者だと言う。

 正直に言って余り好ましくない人格の持ち主だった。

 確かに実力はあるようだが、少々天狗になり傲慢な心の持ち主に見えたからだ。

 勇者という職であり時勇館の住人を護る立場にある人物だ、それ位が丁度いいのかもしれない。

 だが、勇者は事も有ろうに自身の実力が知りたいと双子の姉妹に勝負を挑んだ。


 勝負を受けたのは(あざな)だった。結果は言うまでもなく勝者は糾だ。

 いくら勇者であり実力に自身があるとはいえ、(つむぎ)や糾は別格の実力者、その双子に挑む勇気は買ってもいいと思えた。


 勝負開始の合図と共に、勇者は糾の殺気に呑み込まれ動く事すら出来なくなり、呆気なく勝負はついた。

 彼の要望通りに実力が知りたいと言うのなら、糾ではなく俺か涼葉が試合した方が良かっただろう。彼は己の実力を知るよりも、自らの傲慢さを知る事になったのだから。

 俺の見立てでは、彼の実力は俺よりも下だと思う。だが、それ程の差が有る訳ではない。

 これから鍛えれば強くなるんじゃないだろうか? と、思わせるだけの潜在能力はありそうだった。


 試合が終わり皆が帰る頃には打ち解けることが出来た。と思いたい。

 彼等は師匠の家で昼飯を取り帰って行った。

 終始女性陣が師匠のペット達と戯れていたので、「暇な時にでも遊びに来い」と師匠達が言っていたのを思い出す。

 譲ってほしいと頼まれたらしいが、「家畜なら兎も角、家族のペットは譲れない」と断っていた。

 何でもこんな世の中なのでペットを飼うのも大変なんだと言っていた。

 残念そうに項垂れていた女性陣、美咲、美織、陽菜、葵の四名を見ていた涼葉が、こっそりとダンジョンから二匹の黒い子犬を連れて来た。


「この子達なんだけど、飼い主さんと親を魔物に殺されちゃったんだよ。うちで引き取ったんだけど、馴染めないみたいで見てて可哀想なんだよ。だから良かったら引き取ってくれないかな?」


 と子犬を渡していた。

 ペットを譲渡するなら譲渡先の環境を考えないといけない。

 今の世で餌を十分に確保できるのか? ストレスを感じる事無く過ごせる環境にあるか? 死ぬまで面倒を見続ける覚悟はあるのか?

 ペットを飼うにはそれ相応の責任が伴う。


「その辺は確認済みなんだよ」


 どうやら問題無いらしい。


「子犬をダンジョンで飼うのは少し可哀想だし、これ以上師匠のペットを増やすのは賛成できないんだよ」


 うん、それは理解できる。この家、いつの間にかヘラジカまで居るんだよな!

 最初に見た時は腰を抜かしそうになった。ヘラジカってデカいんだな。

 気付けば足元には穿山甲まで居るし、ここは動物園だったか本気で悩むことがある。


 それはさて置き、子犬を受け取った女性陣達は大喜びし、男性陣は微妙な顔をしていた。

 男性陣にとってはペットに構っている余裕はないのだろう。

 魔物がいる以上絶対に安全な場所というのは存在しない。

 だが、ここや時勇館といった堅牢な場所なら少しは安心して飼えなくもない。それに、ガラリと変わってしまった生活の中で、あの子犬達が皆の不安を少しでも解消する一助になれば良いと思っている。


 勇者一行が帰る際に、「礼代わりに魔物の素材を置いていく」と言っていたが、それは丁重にお断りした。

 魔物の素材には困ってないし、何より加工のできる技師がいない。

 加工出来ないなら、持っていても宝の持ち腐れだからな。

 魔石はマナの魔力タンクとして使えるようだが、俺達に魔術を扱える人材もいない。

 俺の等価交換なら使い道があるが、素材や魔石には事欠かさないだけの量が集まっている。

 この辺りは師匠や弟子たちで魔物を駆除しているから、魔石の量はかなりの備蓄があったりするんだ。


「ふぅ、やっと帰ったか」


 と師匠が言った。迷惑だっただろうか?


「いや、彼等の中に一人、涼葉がダンジョンコアだと気付いた奴が居たからな。おそらくお前の主人公にも気付いているだろうな」


 ………………


「……え? って、はぁあ、バレたんですか!? 何でッ!」


 一瞬思考が止まってしまった。

 俺は兎も角、涼葉のダンジョンコアは絶対に隠し通さなければならない事実だ。それは、ダンジョンコアが人類にとって存亡が危ぶまれる危険な存在だから。

 ダンジョンは魔物をパラレルワールドから此方へと呼び込む施設で、コアはそのエネルギー源である。

 コアは破壊の対象であり、バレれば涼葉は人類の敵だと認定されても可笑しくはない。


「おそらくな、仲間内にも喋ってないようだが、時間の問題だろう。涼葉が子犬を渡したのは良かったかもしれん、少しは気を許してくれると良いんだが」


 プルプルと震えていた年長者の伊志嶺暁識(いしみねさとる)さんが気付いていたらしい。

 話をする中で震えは止まり、年長者らしい落ち着いた態度になったが、緊張していた訳ではなかったのか。


「ですがこのままじゃあ涼葉は人類の敵だと思われますよッ!」

「必ずともそうとは限らんが、……創可、少し頼みたい事がある、頼まれてくれんか?」

「何ですか? 俺は構いませんが、出来ない事は出来ませんよ?」

「お前なら簡単なことだよ。いざって時の為に備えておきたい」


 そう言った師匠に、俺は面倒な事を頼まれる事になった。涼葉のためだ、どれだけ面倒でも頑張るしかない。


 頼まれ事の後、師匠が疑問を口にした。


「涼葉のダンジョンって変だよな? なんで魔物の召喚じゃなくて生み出してるんだ?」


 何言ってんだ?


「ほれ、ダンジョンって他世界から魔物を呼び寄せているって言ったろ? だが涼葉のダンジョンは呼び寄せてるってよりも産み落としてるって感じだ」


 確かに涼葉のダンジョンは魔物の赤ん坊が産み落とされている。アルヒコがいい例だ。

 彼女のダンジョンでは、魔物は宙に浮かぶ岩が砕けそこから産れる。

 産れた魔物は例外なく、涼葉のことを母親だと思っているようだ。


「もしかしたら涼葉の創るダンジョンは、他世界へと繋がっている他のダンジョンとは全くの別物なのかもしれんな。自然のダンジョンは他世界との繋がりがあるから呼び寄せる事が出来る。が、涼葉のは繋がりがなく、呼び出せない。だから僅かな魔物の因子のみを召還し取り込み産み出すのかも知れない」

「確かにアイツのダンジョンからは成体の魔物は現れてきませんね。そこに何か深い意味があるのでしょうか?」

「どうかな? 只、涼葉のダンジョンからは人々を襲うような魔物は現れないのは確かだな」


 涼葉のダンジョン内の魔物は一切人を襲わない。どころか、じゃれつく事はあっても喧嘩をしているところは見た事が無かった。

 今のところ、産れた魔物の種類は西洋の竜や東洋の龍、それと粘液生命体のスライムだ。

 あとは何処ぞからテイムしてきた魔物が棲みついている。


「え、なになに? ボクのダンジョンのはなし?」


 師匠と涼葉の話をしていたら、本人が割って入って来た。

 涼葉の腕の中には、いつの間にか産まれていた燿子さんの息子さんが抱かれていた。

 彼はまだ人型になれないようで、白狐の姿だ。

 燿子さんが産んだ子供は二匹で、兄の眩耀(げんよう)と妹の美耀(みよう)と名付けられた。

 師匠が名付けた割にはまともな名前でホッとした記憶がある。


「大分住人が増えたんだよ。でも、まだ成長しきった個体はいないんだよ」

「成長が遅いのはそれだけ潜在能力が高いことを意味している。慌てずゆっくりと見守ってやりな」


 師匠が涼葉に応えているが、スライムは成長するのだろか?

 訊いてみたら、スライムは成長し進化を繰り返すことでかなりの強者になると答えてくれた。

 スライムには、液状タイプと固体タイプの二種類が存在していた。


「師匠、ボクの魔物達は戦闘してないんだけど、強くなれるのかな?」


 言われてみればダンジョンの外に出してないから、実戦を経験したのはリョカとホワィ、それとアルヒコとクィーンビーのホーネットだけだろう。

 ホーネットは帰宅した涼葉が付けた名前だ。


「ああ、ダンジョン内で戦闘訓練っぽいことしてたぞ。そもそも、お前の魔物達はどれも強力な者ばかりだから、あまり実践投入するとお前が成長しないぞ」

「ええ、そうなの? ボクもあの子達をあまり戦わせたくはないんだよ」


 そう言いながら涼葉は、腕の中の眩耀を撫でている。妹の美耀は母親にべったりだ。


 ここいらで皆は解散となりそれぞれの仕事に戻っていった。

 俺の仕事は土いじりがメインだったが、今日からは別の仕事が与えられた。

 先程師匠に頼まれたこと、それは火薬の製造だった。

 俺は元々の職が花火師だから火薬の精製は可能だ。

 俺が精製するのは黒色火薬と呼ばれるものだ。

 黒色火薬は木炭、硫黄、酸化剤を混ぜて作り出すんだが、とても危険で繊細な作業になる。

 本来なら誤爆しても被害を抑えれる山中で精製するものだが、今の山は危険でとても集中できない。

 その為に師匠が与えてくれた作業場は――、


「嘘だろ……」


 涼葉のダンジョンだった!


 涼葉のダンジョンの一階層分を丸々貸し切っての作業となった。

 ダンジョンは一階層毎に空間が区切られており、どんな強力な誤爆が起きたとしても被害は俺だけだと言う。ひどいなッ!

 俺の借りた階層は見渡す限りの草原が広がるフィールドだ。

 空にはサンサンと輝く太陽、爽やかな風が吹き、傍には川まで流れている。

 時間が経てば夜になり、太陽は沈み月が昇る。だが、雨だけは降らない様に調整してもらってある。

 必要な材料は師匠が何処からともなく調達してきて、不足している物はないようだ。

 環境は万全、材料も不足なし、後は俺の腕次第だな。


 それから暫くの間火薬造りに没頭していたら、気付けば夕飯時になっていた。

 火薬の精製には時間が掛かる、何度も乾燥させる必要があるからだ。

 師匠ものんびりやればいいと言ってくれているので、お言葉に甘えよう。


「そろそろ夕飯の時間だな。道場に行こうか」


 外へと出れば、庭でメイドさん達が炊き出しの様に料理を作っていた。

 これは必見で、何故だかこの家には美人のメイドさんがかなりの数いるんだ。

 メイドさんの動きは鮮麗され無駄がなく、見ているだけで勉強になる動きをする。

 何故メイドが大勢居て、何故メイドにそんな動きが出来るのか?

 不思議ではあるが、この家の事を深く考えると頭痛がするので考えない様にしている。


 基本俺達は道場で食事をとる。道場には避難して来た人達が大勢いるからだ。

 昔、隣の土地に建つ家を壊して仮設住宅を造る話も出たが、避難民達が女神(おみながみ)家の敷地から出るのが不安だと言い張り立ち消えた。

 正直増えすぎた避難民を受け入れるだけの容量が既に無くなっている。これ以上の受け入れは出来ないだろう。

 それを解消する為に、師匠は時勇館に行きたい者はそちらに送ると言いだした。

 行きたがる者が居るのだろうか?そう思っていたら、師匠が勇者の名を出した。

 すると、チラホラと移住を決める家族が出だし、最後には一家族を除く全ての家族が移住を決めた。

 彼等も何時までも人様の家庭にお邪魔するのは忍びないと思っていたようで、勇気を出して移住を決めてくれたようだ。

 残るは涼葉の同級生の娘を持つ一家族だ。

 今更友達と離れ離れになるのは嫌だと言い残る事にしたそうだ。

 尤も、時勇館側が受け入れてくれればの話になるのだが、既に決まった事のように話が進んでいるのは良いのだろうか?


 良いそうだ。

 既に話は通っているようで、大量の食糧と家畜を別ける事でOKを貰っているそうだ。

 まだ先の話だが、通学用のバスを此方に向かわしてくれるそうだ。

 此方からも数台の軍用車を出すと――、って軍用車ッ!

 何で一介の道場に軍用車が有るんだよッ! それも複数台って何ッ!

 敷地内でそんなの見た事ないんだけどッ! え? 隣の敷地に有る!?

 駄目だ、頭が痛くなってきた。


 やはりここの家の事を深く考えてはいけなかった。


 でも、これで良かったのかも知れない。もし、まかり間違って涼葉が人類の敵認定を受けてしまえば、彼等を巻き込んでしまうからな。


 出来るだけ早く鬼人を倒し、ダンジョンコアを破壊して涼葉の安全を確保しなくてはいけないな。

 ある程度平和になれば、涼葉が脅かされる事も無くなるだろうから。







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