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俺の彼女はダンジョンコアッ!  作者: やまと
1章
10/78

厄災 七九五日 PM

「バカなッ! サフィニアに続いてミルトニアまでもが敗れただとッ!」


 フィカスの声がここまで聞こえてくる。

 鬼人族たる強者が弱者たる人間如きにしてやられた、と怒りを顕にしている。


 サフィニアは俺とホワィが、ミルトニアは涼葉が冥閬流(めいろういんりゅう)の奥義で仕留めた。

 まさか涼葉が雷霆神(インドラ)を扱えるようになっているとは思わなかったが、そのおかげで女鬼人を倒すことが出来た。


 現在、フィカスは(つむぎ)(あざな)の双子の姉妹と死闘を繰り広げている。

 俺から見たら互角に見えるのだが……。


「ぎゃぎゃ、流石あの化け物の娘達だぎゃ、鬼人が赤子扱いだぎゃよ」


 いつの間にか涼葉の影から出ていたホワィが俺の横でそんなことを言う。


「そうなのか? 俺には二人掛で互角って感じに見えるんだが?」

「ぎゃ、それは娘達が相手に合わせた力しか出してないからだぎゃよ」


 ホワィの言が正しいなら、あの双子は人類最強だと言うことじゃなかろうか?

 相手は人の上位種だ。上位種ってことは人より優れた種族であり、人が超えられる存在ではない筈だ。

 しかし、その鬼人を赤子扱いしてるとなると、あの娘達は上位種よりも優れた存在だと証明している。


「ねぇねぇ創ちゃん、あの三人徐々に速度が増してきてないかな?」

「ぎゃぎゃ、確かにだがゃ」


 三人の動きは、ここからでは認識するに難しくなってきた。

 正直に言って、俺にはもう剣同士がぶつかり生じる火花しか見てとれない。

 それはもう、マシンガンの如く火花が散っている!

 可笑しな実により覚醒中の涼葉には視認出来ているらしい。


「俺には三人の動きが見て取れない。火花が散ってるぐらいしか分からん」

「創ちゃんも覚醒の実を食べておいた方がいいんだよ。いざって時に動けなかったら大変なんだよ」


 確かに涼葉の言っていることは正しいが、残り二粒の種を俺が使ってしまっていいのだろうか?

 この二粒は紡と糾に使った方が確実だと思う。

 今現在フィカスと互角なら、この実を食した二人ならフィカスに勝てるということだ。


「いや、これは紡と糾に使おう。その方が効果的じゃないか?」

「う~ん、でも創ちゃん酷い怪我してるよね? 見た目は大したことないみたいだけど、内側は酷いことになってる気がするんだよ?」


 う、確かにサフィニアにしてやられた腹の穴は綺麗に塞がったが、今でもズキズキと痛みが走っている。

 更に両手は、自ら放った火之迦具土神(ヒノカグツチ)を掴んだせいで大火傷だ。

 だが耐えれない程ではないんだよな。徐々に癒えてもきてるし……。


「いや、少し様子を見よう。肝心な時にコレが無いと危険だろ?」

「ボクとしては今直ぐ食べて欲しいんだよ。でも、創ちゃんが心配ならそうしようか。創ちゃんは何があってもボクが護ってあげるからね!」


 嬉しいことを言ってくれるが立場が逆じゃなかろうか? 本来なら俺がお前を護るんだぞ。


「フィカスって鬼人は異域之鬼を抜いてるんだよ。それってあの鬼人に余裕がないってこと、だって、アレは鬼人族の切り札って言ってたからね。実際にはミルトニアは、更に奥の手を隠してたけど」


 異域之鬼とは鬼人の個人の属性に合わせた武器を作り出すものだそうだ。

 ミルトニアは地の属性だったのか、巨岩の剣だったそうだ。あの馬鹿デカい剣がそうだったらしい。

 時々動きを止める三者を見て取ると、確かにフィカスの手には真っ赤に染まる長い刀を握っている。何かに触れる度に炎が燃え立っている。

 フィカスの属性は火ってことだろうか? おそらくサフィニアは氷だったんじゃないかな?

 サフィニアは俺を見下していたから使わなかったが、もし使われていたらと思うとゾッとする。

 ミルトニアは【狂鬼化】なる更なる奥の手を使っていた、フィカスにも奥の手が有ると考えた方が良いだろう。


「チッ、人間のくせにやりやがる。だが、勝つのは俺だ! お前らは負け俺に跪くことになる。だが、もう慈悲など無いッ! 両手両足を切り落とし犯すッ! 俺の子を産んだ後は、男達の慰み者にしてやる」


 フィカスの言動に嫌気がさしたのかしかめっ面をしている双子の姉妹。


「うわぁ、またキモイこと言ってるよ紡ぃ、怖い怖いぃ」

「身の程を知らぬ鬼になど、この身に触れる事など許す筈がないでしょうに」


 相当に嫌だったのか、紡も糾も距離を置いてフィカスを気持ち悪がっている。


「黙れよ人間風情がっ、図に乗り過ぎなんだよッ! サフィニアとミルトニアを倒したからといい気になるんじゃねぇよッ! 俺は鬼人族が将の息子、最も優れ尊い鬼人の血を引いてるんだよ。あの二人と同じに考えるんじゃねぇッ!」


 フィカスから凄まじい闘気が立ち昇る。

 下位種族の人間にいい様に言われ、鬼人族としての誇りが傷つけられたのかお怒りのようだ。


 隣で涼葉が息を呑むのが分かる。それもその筈、奴の闘気はミルトニアが最後に見せたモノよりも力強く大きなものだからだ。

 最も優れた鬼人の血とやらは、どうやらハッタリではなさそうだ。

 先の女鬼人と比べ格の違いを見せつけられる。


 双子は大丈夫なのか? そんな鬼人を怒らせるのは得策ではないと思うんだが?


「あぁあ、終に血のことまで言い始めたよ。血で言うなら私達の方がよっぽど優れてると思うんだけどな?」

「ええ、鬼人の将だかなんだか知りませんが、私達の両親より尊いとはとても思えません」


 双子には余裕がある。終始鬼人を小馬鹿にする態度を貫いている。

 その態度を見て益々闘志を燃やすフィカス。


「テメェ等ぁー! ……っふん、良いだろう、そうまで言うなら見せてやる。俺の本当の力をな! 見て後悔しろ――ッ、甦れ、我が従者たちよ【牽強傅会(オレニシタガエ)】ッ!」


 奴が叫ぶと同時に、俺達の背後から不穏な気配が伝わってきた。


「「あァあアァぁあアあァァ――」」


 うえ、鬼人のゾンビだ。


「嘘だろッ! 身体が再生してるぞッ!」


 さっき倒したばかりのサフィニアとミルトニアが立ち上がってきた。

 二人共大きく損傷していた筈の肉体は綺麗に再生しており、切り取られた首は勿論のこと、消し炭となったミルトニアの肉体も健在だッ!

 だが、所々にゾンビたる特徴が見て取れる。腐っているのだ、この短時間で腐るのは考え難いので、フィカスのやった事だろう。


「う、うん。でも、理性は無いみたいだけど?」

「ぎゃぎゃ、気持ち悪いだぎゃ」

「「あァあアァぁあアあァァ――」」


 死者の冒涜にも程があるッ! 死闘を繰り広げた相手があのような姿にさせられるのは、些か不愉快だな。

 だが、再びアレとやり合わねばならんとは、胃が痛くなる思いだ。

 更に、鬼人二人とは別に三体のオーガのゾンビまで出てきている。

 おそらく、先の冒険者っぽい奴等が倒したオーガだと思われる。


「くそっ、やるしかないのかッ!」

「創ちゃんはその実を使ってッ! 覚醒状態ならあんな魂の籠らないゾンビなんか目じゃないんだよッ!」


 涼葉に従い覚醒の実を口に放り込もうとした時、


「はぁ、まさか私達の前で死者を冒涜するなんて、何て愚かなんでしょう」

「あぁあ、ホントバカな鬼人だったなぁ」


 と、余裕の態度の双子。糾に関しては鬼人を過去形で語っている。

 そんな双子を見て鬼人が、


「ああん、恐怖の余りとち狂ったか? 理解できんか? 俺の前で仲間を殺しても意味がねぇってことが。どれだけ頑張っても無意味だってことだ。ハッハッハッ、テメェ等もいずれはああなる、死んでからもこき使ってやるよッ! ハハハハッ」


 勝ち誇った様に笑うフィカスだが、双子は余裕の態度を崩さない。


「ふぅ、教えてあげます。最初に見せた冥府魔道の太刀とは、私達と()()とを繋ぐ道を作り出す神技」

「冥界と繋がってる以上、私達の前で死者を蘇らせることなんて無意味なんだよ」

「本来はエネルギーだけ受け取りますが」

「実は、こんな事も出来るんだよね」


 なに? どういう事だ?

 疑問に思う俺だが、次の瞬間には彼女達の言っている意味が理解できた。

 今いる空間は広く、その空間を埋め尽くす程の大群の亡霊が現れたからだ。


「バ、バカなッ、なんだコイツ等はッ!」


 驚愕する鬼人。そして、


「うひゃひゃぁ~~~」


 変な奇声を上げ俺に抱き着く涼葉、幽霊の類が苦手だったか?

 おいおいと思うが、それも無理はない。

 遊園地のお化け屋敷とは訳が違う、本物のお化けだ。

 敵ではないようだが、これだけの数の亡霊に囲まれると背筋が寒くなる思いだ。

 その亡霊達だが、一斉に動き出しゾンビ共に纏わりつく。

 ゾンビ達は、ひしめき合う亡霊に邪魔をされて身動きが出来ず、拘束される。

 そこから、地中に引きずり込むよに、実に呆気なく姿を消していったんだ、ゾンビと共に!


「あ、有り得ないだろ、こんなこと……」


 放心するフィカス。完全に自分のお株を奪われた形になるからな。


 残った亡霊達も次々に地面へと沈み消えていった。

 だが、残り少なくなった亡霊の中に、俺達に語り掛けてくる者がいた。


『涼葉、見違えたわよ。強く育ってくれてお母さんは嬉しいわ。創ちゃんと力を合わせて仲良く生きてね』

「お、お母さんッ!?」

『あぁ、再び娘の姿を見れたことを神に感謝するよ。立派に育ってくれて嬉しく思うぞ涼葉』

「お父さんッ!」


 涼葉の両親だ。二人は神災の所為で此方側へとやって来た魔蟲に襲われ命を落とした。

 再び家族が揃い、涼葉も涙を流して喜んでいる。

 そして、


『創可、済まなかったな。俺達が早くに亡くなり、お前には苦労をかけた。この先も困難が付き纏うだろうが、迷わず進め、何があろうとも挫けずに己を信じて前へと進め。出来るな息子よ』

『私達の息子だもん、出来るわよね? 涼葉ちゃんと喧嘩しちゃダメよ。ちゃんと仲良くやるのよ』

「え? 父さん、母さん……」

『ゆっくりと話をしたいところだが、時間がないから手短に言うぞ。俺達が死んだ原因である飛行機事故は事故なんかじゃない』

『そうそう、竜よ、竜に飛行機が落とされちゃったのッ! 邪悪がどうのこうの、神がどうのこうの言ってたわね』


 な、なにぃ、竜だとッ!

 どうのこうのって、曖昧過ぎるだろっ!


『分かるか? それはつまり、随分と昔から魔物はこの世界に居た事を意味する』

『気をつけてね。ダメだと思ったら、師匠に丸投げしちゃえば良いからね』

「か、母さん、流石にそれは……」


 ひどい!


『無念があったが、お前を見てそれも無くなったよ』

『ええ、逞しく育ってくれて、やっぱり貴方の息子ね』


 イチャつきだす両親。

 って、幽霊になってまでイチャつかないでくれッ!


「時間がなかったんじゃないのかよ!」

『おうそうだ。竜は何ぞ理由があって飛行機を落としたんだろう。その理由は知らんが、調べてみるのも良いかも知れん。今の事態を解決するヒントになるかも知れん』

『ええぇ、創ちゃんがそこまでする必要あるのかな? 好きに生きてくれれば良いんだよ? 勇者も要るんだから、勇者に全部任しちゃいなよ』


 え? 勇者がいるのか!

 師匠に任せろって言ってなかったか!?


『おっと、時間だ。それじゃ元気でな』

『バイバイ、創ちゃん! 涼葉ちゃんと仲良くね』

「って、ちょっと待て、勇者ってなんだよッ!」


 二人は勇者のことには答えず地面へと沈み消えていった。ちゅ、中途半端なぁ~ッ!

 隣には少しションボリと寂しそうな涼葉がいる。


「お別れはできたか?」

「うん、お陰様で未練は無くなったんだよ」


 それでも、ちょっと嬉しそうに笑顔を向けてくる涼葉はやっぱり可愛いと思う。

 俺達はもう会う事もないと思っていた互いの両親と会えたことで幸せな気持ちに浸っていた。少々モヤッとするところもあるが、それでも嬉しかったんだ。


 しかし、この場で一人真逆の感情を抱いた人物が一人、フィカスだ。


「……おのれぇ、人間風情がこの俺を、鬼人であるこの俺を何処までもコケにするとはッ」


 下位種族である人間に良い様にやられてフィカスのプライドはズタズタになっていることだろう。


「さて、そろそろ終わりにしましょう」

「だね、創可お兄ちゃん達も終わってるし、ここらで終わらせよう」


 双子が刀を構える。同時にフィカスもゆっくりと構えを取った。


「認めてやるよ、テメェ等は強い。だがな、上には上が居るって事を知っておいた方が良い」

「知ってますよ? 私達でも勝てない強者などゴロゴロしています」

「お父さんなんか未だに一本も取れないし、蔦絵お姉ちゃんにも手も足も出ないもんね」


 蔦絵さんとは手合わせしたことが無く、実力は分からない。が、常識外れの強者だと聞かされている。

 何せ、俺より遥かに強い双子の姉妹でも、勝った試しが無いと言っていたからな。

 もうこの際、師匠達親子がダンジョン攻略してくれればいいのにな。


「ケッ、ホントッに可愛くねぇヤツ等だな。まぁいい、連れて帰る積もりだったが、止めだ。この場で殺しておかんと、テメェ等は危険なんで恨むなよッ!」


 フィカスは赤く染まる刀の切先で地面をなでる。と、撫でた床部分から細く火の線が出来上がる。

 あの刀自体、かなりの熱量を保っているのだろう。


「大きなお世話です。どの道貴方では私達を殺せませんよ」

「そうそう、結局は私達が勝つことになるんだから、無駄な足掻きは止めた方が良いよ」

「言ってろ――ッ!」


 フィカスは一歩踏み出る。それに対して双子はその場で迎え撃つ。


「『フレイム・オブ・ダークネス』ッ!」


 ここに来てフィカスが、黒い炎の波を作り出す魔術を放った。

 超々高温の黒い炎が姉妹を襲う――。


「天漢無閃の太刀」


 紡が刀を振るう。いや、振るったんだと思う。技名が聞こえそう思っただけだ。

 何故なら俺には何も見えなかった。が、結果的に波の様に広がった炎が一瞬で斬り刻まれ消えていったんだ。実に呆気なく黒い炎は掻き消されていった。

 続け様に糾の声が聞こえた。


「星落一閃の太刀ッ!」


 こちらは辛うじて見えた。おそらく本気を出した訳ではないんだろう。俺でも見て取れたんだから。しかし、その一閃で勝負は決した。

 その場に倒れたのは鬼人。


 赤熱の刀で糾の一刀を受け止めたフィカスだが、星落一閃とやらは受け止めた刀を物ともせずに両断、そのままフィカスを斬り倒した。

 フィカスはその場に倒れ、床に真っ赤な血の海を作り出している。


「グッ、グゥ、ガハッ! ハッハァ──、テ、テメェ等ぁ──ッ!」


 何とか身体を起こすが、その後が続かない。立ち上がる事も出来ず、折れた刀を振り上げる事も出来ないようだ。


「そのまま寝ていれば良いものを。気は引けますが、トドメを刺させてもらいます」


 紡が刀を振り上げ、そして振り下ろす。


 ――キィーンッ!


 と、甲高い音を奏で紡の刀が止められた。

 何故なら新たに現れた鬼人の伸ばした剣により受け止められたからだ。


「……貴方は?」

「私はコイツの父親だ。すまんが、コイツを死なせる訳にはいかん。邪魔をさせてもらうぞ」


 この親父、親子だけありどことなく面影の有る顔立ちをした鬼人だ。フィカスが歳をとったらこんな感じになるんじゃないか?って感じのおっさんだ。


「お、親父ッ、な、何しに出てきやがったッ!」

「貴様は黙っていろッ! この嬢ちゃん達は貴様の勝てる相手ではないッ!」


 息子に対して一喝する親父。ここに来て新手とは勘弁願いたい。

 紡の一刀を止めたのも、また灼熱色をした刀だった。

 この刀がこの親父の異域之鬼なのだろう。親子そろって同じ属性持ちだと分かる。


「嬢ちゃん達には悪いが、ここは退かせてもらうよ」

「そうはさせないよッ!」


 糾が飛び出し親父の首筋に一閃。

 しかし、これも防がれてしまった。


「流石と言うべきか。我が愚息を此処まで追い込んだだけの――――、なにッ!」


 親父は余裕で言葉を紡ぐが、その途中で驚愕し言葉が途切れる。

 突如、親父の首から一筋の血の痕が出来上がっていたからだ。

 タラタラと血液が垂れる首に指を這わせ、呆然と立ち尽くす親父。


「ふっ、愚息が勝てぬ訳だな。尚の事、ここは退かせてもらうぞッ!『ファントム・フレイム』ッ!」


 親父を中心にして広範囲に炎が舞い上がる。


「いずれ、この借りは必ず返すからなッ!」


 フィカスの遠吠えが聞こえるが、炎で見ることは出来ない。

 炎は時間と共に勢いを増してゆき、近くにいた双子に迫る。

 二人は大きく後方へと跳び退き、これを回避する。


「ちっ、逃がしましたかッ!」


 炎が自然鎮火したころには二人の鬼人は消えていた。


「うん、でも、仕方ないよ。爆発系の魔術がセットしてあったから、あのまま攻めればこの辺一帯大惨事になってたよ」

「ええ、幻の炎をトリガーにして、触れれば起爆する爆発魔術を残していったみたいね」


 どうやら罠を仕掛けて逃げたらしい。フィカスのフレイム・オブ・ダークネスの様に斬っていれば爆発してた訳か!


 それにしても、鬼人族が人間相手に逃走するとは考えて無かったな。

 だが、これで取り敢えずの危機は脱したことになる。


「ふぅ、今日はここまでにして引き揚げるか。師匠にも鬼人のことを報告しとかなきゃだしな」

「賛成ー、ボクの広域気配探知にも引っ掛からない程遠くに逃げてるんだよ。もしかしたら、気配を消すのが上手いだけかもだけど」


 この短時間で広域の気配探知から逃れる程遠くへ逃れるのは現実的じゃないな。

 いや、魔法や魔術があるなら可能なのか? 転移系の秘術とか?

 ま、どの道もう手遅れだろう。ここは帰るの一択だ。


「それに、さっきの人達が出口で待ってるみたいだよ? 二人だけだけど」


 さっきの人達って、冒険者風のさっきの人達だろうか?

 鬼人相手に勝てるとも思っていないだろうに、わざわざ俺達が出てくるのを待ってるのか?

 四人居たが、二人は帰ったのだろうか? それとも応援を呼びにでもいったか?

 

「ええ、帰りましょう」

「うん、お腹減ったしね。早く帰ろ」


 満場一致により帰ることとなった。


 帰りは行きと違い魔物と出会うことはなかった。

 おそらくだが、アレだけの闘気のぶつかり合いに、上層に住み着くような弱小な魔物は怖れから隠れ潜んでいるんだろう。

 こんな階層で鬼人のような強者に出会すのが異常なんだ。

 本来なら強い魔物程、ダンジョンコアから距離を取れなくなるらしいからな。

 それはダンジョンコアが自らを護るために、より強い魔物を近くに配置するためだからだそうだ。

 涼葉がいるからその手の情報は入りやすいんだ。

 来る時に懸念していた横道のゴブリンソルジャーは、今更脅威とも思えないが、わざわざ討伐する必要性もなくそのまま帰還する。


 出入口には、涼葉の言ったように二人の冒険者?がいた。

 彼等は鬼人の流出を見張る役目だと言う。残りの二人は助けを呼びに行ったそうだ。

 仲間達が集まるまでの時間、鬼人を外に出さないように出口を封鎖していたらしい。


 これまでの経緯を話し、鬼人の脅威は取り敢えず去った事を伝えると酷く驚いていた。

 勝てるとは思っていなかったと、彼の仲間が助けに来たとしても勝てるかは五分五分だと考えていたそうだ。

 そこで一人が気付いた、俺達の中に学園の天才児が紛れていることに。

 双子の姉妹、紡と糾のことだ。彼等は全員が時勇館の学生だったらしく、双子が学園で無双していたことは有名だと語った。

 二人に気づいた彼等は納得した様子で頷いていた。


 時勇館とは紡と糾が通っていた高校だ。

 今その学校は一つの集落となり、人々が暮らしているらしい。

 集落と言うよりは城塞と化しているらしく、学園に住む人々は老人と幼子を抜かして、戦闘訓練を受けているそうだ。

 そして、その城塞のトップに立ちリーダーとして動いている人物がいるらしい。

 その人物こそが勇者だと言う。

 元々は時勇館の学生だったそうだが、今では皆を導くリーダーとして活躍しているとか。


 実は、時勇館の様に集落として人々が集まり生活を支え合っている施設は数多く出来ている。

 逆に、そうしないと生きていけない、力を合わせて魔物の脅威を退けている。

 師匠の道場がいい例だろう。

 道場には、規模は小さいが一つの集落として自立できるだけのシステムが成り立っている。

 ある程度なら自給自足ができ、足りないものは何処からか師匠が運んでくる。

 また、自衛隊の皆様が巡回し、実用品の配布をしてくれている。随分と助かっている。

 自衛隊の力は重火器に頼るものが多く、消費武器の節約としてダンジョン攻略は成されていない。

 何故なら、弾薬などといった消耗品を生産する事が難しく、また、輸入すらも困難だからだ。

 今現在の在庫で遣り繰りしているとのことだ。

 役割(ロール)(ジョブ)が育っていれば、話は変わってくるのかも知れない。


 俺達はここまで話をして一息つき、お互い帰るべき場所へと帰った。

 そこで気づいたんだが、またしても視界の端の文字。


『【主人公】シナリオ『死地からの生還』が終幕しました。

 強力な味方の存在により、観客からの評価はイマイチとされました。

 報酬はありません』


 なんじゃそりゃッ!

 今更驚きはしないが、気分の良いものでもない。

 観客とやらを楽しませるように演じろと言っているのだから。

 俺は演者じゃないが、評価がイマイチだろうが、労働した以上報酬を寄越せと言いたい。

 勝手に覗き見しているくせに図々しい奴等だ。尤も、観客とやらが誰なのか知らないけどな。


 このことを涼葉に話したら、「ボクには無かった」と言っていた。

 詳しく聞けば、救済処置とやらも無かったらしい。

 あれは俺だけの処置なのだろうか?

 それとも、俺だけが死にかけていて、俺だけが処置が必要とされたのだろうか?

 謎は謎のまま回答の出ないままに帰宅する。

 

 全ての謎は、あの物知り師匠に聞けば良いかな?

 母さんの言う通りに師匠に丸投げするのが一番いい気がしてきたよ!



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