表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続々)生き物係ですが、船が難破して辿り着いたこの星を守り抜く覚悟です。  作者: 培尾舛雄
【ワタル編】 第一章 はぐれ魔族
9/71

その6 再構築療法

俺のオヤジは、この星の生まれではない。

この星に落ちてきて、そこで待っていたオヤジの元へ、ようやく仲間たちが戻ってきたのは、俺がまだ小さかった頃のことだ。


その後、仲間たちは自分たちの星に帰って行ったけれど、オヤジはこの星に残った。だって、お袋も含めて三人の奥さんがいて、俺たち子供も沢山いたからさ。


俺には、クレア母さんのほかにも、二人の母親がいる。イケメンでもなく、パッとしない温和なオヤジだけど、何故か昔はモテたらしい。そうそうオヤジは、生き物係と言う特殊技能の持ち主だ。


そして、魔素量は魔族のクレア母さんに及ばない人族のくせして、信じられないことだが賢者としてはお袋より先に開眼していたらしい。両親が賢者の域にいたもので、俺も学校を終える頃には賢者として覚醒していたさ。


そのオヤジの仲間が、母船から予備の搭載艇を一隻置いて行ってくれた。それを今、俺が使わせてもらっている。 この船には、AIと呼ばれる意思が宿っている。オヤジの兄貴分で、名はタローだ。


タローは、サホロにある船にも俺が借り受けた船にも、そして全てのボットにも宿っている頼もしい存在だ。俺は生き物係としてオヤジからの指導を受け、タローの膨大な知識を借りながら、この里で治療院を開いたわけなのだ。


魔法の師匠は、俺の生みの親クレア母さん。薬学の先生はサナエ母さんで、剣術はカレン母さんから叩き込まれた。オヤジも含めてこの四人は共に厳しかったけれど、まあ俺は恵まれた環境だったと思っているんだ。


 ◇ ◇ ◇


魔力の源となる「魔素」の量は、母系遺伝する。

周囲から魔素を汲み上げる細胞小器官(オルガネラ)は、卵子の細胞質を起源とするからだ。だから、母さんと俺、そしてクレア母さんが産んだ兄弟姉妹は、皆して魔力が大きい。人族との混血(ミックス)の俺だけど、そんじょそこらの魔族に、魔力で負けたことはない。


クレア母さんと母系で繋がっているマーコット姉さんも、そしてマイカも、だから魔素量が大きいのは俺には想像できたし、すぐに感知できた。だけど、魔力は別さ。魔力は訓練で伸ばすしかないからだ。


マーコット姉さんは、あの性分だ。多分、末の娘で我儘で、勉強嫌いだったんだろうな。せっかくの魔素量を生かせていない、そして制御されていない魔力を自分では知らぬままに周囲にまき散らしている。


配下の男たちが姉御と慕うのは、姉さんが無意識に振り撒いている「魅了の魔力」の仕業(しわざ)なのだ。賢者の域にある俺には、通用しないけどね。姉さんとすれば、あの逆ハー状態を楽しんでいる様子だけど。多夫多妻の魔族には、珍しくはないことなんだけど。


マイカもそうだ。無意識のうちに魔力を使って、未来予知だとか読心術をやっている。幽体離脱なんて、あの異能は魔人スルビウトから聞いた超感覚者(テレパス)ってやつだよな。


マーコット姉さんは大人だから兎も角として、マイカには魔力の使い方を教えてやらなければいけない。そして魂をちゃんと肉体に宿らせて、自分の肉体を駆使する感覚を身につけさせなければならないと、俺は考えていた。


そこで、俺の妹サホの出番だ。年頃の女の子マイカの再教育は、女性がいい。サホは十八歳だから、お姉さんとして適任だ。その夜は、サホロの両親とのボット会議にサホも入れて、今後の相談をした。


そして、翌日の精密検査の結果が出た。

俺が予想した通り、マイカの現状は厳しかったのだ。体が年齢に応じて育っておらず、これでは心臓動脈を治療したところで健康体には程遠い事が判明した。


「搭載艇の治療ポッドを使おう。」最終的にオヤジは、そう判断した。マイカ自身の遺伝子を使って、体の増幅再構築(クローニング)療法を行おうと言うのだ。骨格も筋肉も、そして臓器も、彼女自身の遺伝情報による年相応の理想的な状態に持っていく。これには、ポッドの中で一ヶ月を過ごす必要があった。


 ◇ ◇ ◇


ポッドの中で、マイカが全身を緩衝液に(ひた)されていた。この中で、眼には見えないナノマシンが、一ヶ月かけて彼女の体を作り替えてきたのだ。今日はいよいよ、マイカがポッドから出てくる日だ。


「お兄様は、(はず)してちょうだい。彼女は裸なんだから、私が服を着せてから船から出すわ。」サホにそう言われて、俺は搭載艇の外で待っている。


やがて、マーコット姉さんとサホに両側から支えられて、少女がエアロックから出てきた。

これはマイカなのか? もともと母親似の綺麗な顔立ちだったが、背も大きくなって若い乙女の溌溂とした体躯となり、整った表情には(ほの)かな色香も漂って、これは正真正銘の美少女だった。


銀色の長い髪が、風になびく。一ヶ月の間に、髪の毛も伸びたのだ。

「賢者のお兄様、私とっても元気になったみたい。これで私、お兄様のお嫁さんになれるかな?」


そう言われた俺は、こんな美少女ならそれも悪くないな。」と考えてしまっていた。そして、次の瞬間に(ほぞ)()む。マイカは、人の心が読めたのだ。


そんな俺を見て、彼女はニッコリと微笑んだ。

やられた! こいつの魅了の魔力は母親譲りだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ