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その3 女神の役割

突然 船内に現れた女神は、カズラ、カミラ、ワタル、そしてマイカをぐるりと見渡した。金色の髪を短くまとめ、着ている服は旧ゾラック艦のクルーに支給された機能的な制服だ。もっとも、それをこの四人は知らないのだが。


キュベレは事情を理解したようだ。皆の記憶を読み取ったのだろう。

「じゃあこの太陽フレアは、あいつの仕業だったのか。やってくれたわね。」

「貴女は、女神キュベレ様ですね。」カズラが代表して声をかけた。


「初めまして、ジローの子供たち。そして貴女は、魔人の忘れ形見(がたみ)か。大きな力を持っているのね。」マイカに向かって微笑んだ。

「すぐ近くにいたの、そうしたら思考波が爆発したから来てみたわ。よくリムゾーンを倒せたわね。」


「リムゾーン、あの超種族の名前ですか? あいつは何者なのですか?」

「変動する未来を許さない原理主義者たちね、いつぞやジローを襲った奴の子分みたいな感じかしら。」


「父を襲った敵は倒されたと聞きました、子分はまだいるのですか?」

「もう一人いたわね、群竜討伐に紛れてジローを絞め殺そうとした者が。でも私たちで捕まえて評議会で裁きを受け、この星系には近づけないようにされたわ。」

「じゃあ、リムゾーンがいなくなれば、、、」

「そうね、もうジローに、地球に、悪さをする奴らはいないわね。」


「すぐ近くにいたと、言いましたか?」

「そうよ、大きな太陽嵐が迫っているの。それに対処するために、来たわけ。でも、まさかそれが、リムゾーンの仕業だったなんて分からなかった。巧妙に進めていたみたいね。」


「そうだ、その太陽嵐です。地球に危険が迫っているはず。」

「あら、もう終わったわよ。対処済み。」キュベレはそう言って、スクリーンに目をやった。

「ああ、そうか。この画像は実時間(リアタイ)更新(アプデ)されないのね。」女神がスイと手を動かすと、画面が変わった。地球に迫る雲は、今はまるで地球を避けるように、その形を変えつつあった。


「女神が、船の機器を勝手に操作するのだ。」昔 オヤジから聞かされたことを、カズラは今思い出していた。そして、女神がこの船のコーヒーを喜ぶことも、

壁に収納された椅子を勝手に引き出して、そこに座る女神。なるほど、この船のことはよく分かっているらしい。カズラは操縦席から立ち上がり、壁のレーション機械からコーヒーを注ぐと、女神の前に置いた。「お口に合いますかどうか。」


「あら、有難う。」キュベレは、コーヒーを啜る。コクリと飲み込んで笑顔を見せた。

「地球のタローと、この船を結んであげましょう。これで、この画像はタローにも届きます。安心させてあげないと、」

「えっ、一億五千万km離れているんですけど、」と思ったカミラは、どうにかこの質問を飲み込んだ。


替わりに尋ねる。「あの荷電粒子の雲を動かしたのは、貴女ですか?」

「もちろん、そうよ。自力で惑星に迫る脅威を排除できない人類文明には、私たちが手を貸すことになっているの。」そして女神は、何やらを(そら)んじ始めた。

「評議会規則、第五条三項の八『惑星に迫る脅威とは、次のものを差す』

1.惑星大気に影響を及ぼす近傍の超新星爆発によるガンマ線バースト

2.地表に届いて被害を及ぼす小惑星

3.惑星大気圏に影響を及ぼす偶発的な太陽フレア

まだまだあるわ、そしてそれぞれに規模の定義があるけど、まだ聞きたい?」


「いえ、結構です。」カズラは、慌ててお断りした。

実は、カミラはもっと聞きたかったのだが、それを抑え込んでとりあえず次の質問をしてみた。

「では、今回の太陽フレアがリムゾーンの手によるものであろうとなかろうと、ある程度の大きさなら貴女が防いで下さったと?」


「あら、もちろんそうよ。私はこの宙域の安全管理担当者なの。」

「それを、リムゾーンは知らなかった?」

「そうね。勉強不足な小物だったわね、あいつ。」

「しかし、小惑星の時はオヤジたちが対処したのですよね?」カズラがそう質問を重ねると、女神が悔しそうな表情をして見せた。

「あの時は、親玉のウルト・ゴールが私を隔離していたの。不覚を取ったわ。」


キュベレは、コーヒーカップをテーブルに置くと、立ち上がる。

「じゃあ、行くわね。コーヒーご馳走様。ジローによろしくね。」ふいに姿を消した。


 ◇ ◇ ◇


ウィルが治める魔族の南の里。ホムンクルスのハルの世話を受けながら、木陰で日光浴を楽しむ老いたスルビウトがいる。

と、閉じていた眼を開き、片手を掲げて太陽を見透かした。

「ようやった、マイカ。お手柄じゃ。」と呟いた。


 ◇ ◇ ◇


太陽表面から発せられて、減衰してなお地球に届いた思考波を受け取った者が、もう一人。

ハルウシの漁村の海岸で、地引網を引く漁師たち。若い者に交じって一緒に体を動かしているのは、網元のルメナイだった。


突然 体を硬直させると、太陽を仰いだ。

「そこで何をしていた? 早まりおって!」立ち尽くす網元の眼からは、涙が流れて落ちる。

周りの若い漁師たちが、不思議なものを見るように、その姿を見つめていた。

(リムゾーン編 了)

なんとか年内に終わらせることができそうだ。

も一つ、エピローグ。間に合うか!

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